第9話 ででーん。教都決戦?

 ボニたんが壁の影で待機するのを確認してから門兵の前に姿を現す。

 わかりやすく鞭をピシピシさせてみると、二人の兵は目を丸くした。街中で鞭は使いにくいんやけどな。ほんま面倒くさいわこのスキル。

「なっ……デュラハン? なんでこんな街中に!?」

「おいちゃんら、遊んで~な」

「なっ喋った!?」

 あれ?

 普通のデュラハンて喋らへんの?

「鬼さんこちらっと」

 距離をとって振り返るれば、一人は慌てて兵舎に応援を呼びに行き、もう一人はついてきた。その隙にボニたんが門を潜ぬけ、村長さんのいるほうに走り去るのが見えた。

 おっしゃ、あとは時間稼ぎやな。俺氏最後の肉弾戦や。はりきるで。

 細い路地に駆け込む。鞭は捨ててまおう。正直使えんし身軽なほうが楽や。


「こっちや~で!」

 スピリッツアイをオン。正面に三人。

 剣士と盾持剣士、その後ろに槍士?

 どいつも軽鎧や。いける。

 三人が路地に突入する瞬間に風に乗り、大きく地を蹴りカウンター気味に正面二人の間をすり抜け、一番後ろの槍士の首にフライングラリアットや。

 一撃。よっしゃ綺麗に奇襲決まったん。軽鎧は首空いとるからな。狙い目や。

 素早く倒れた槍士から槍を奪う。

 よし、気ぃは失っとるな。

「なっ! デュラハンが槍を?」

「そんな馬鹿な?」

 まぁデュラハンいうたら鞭ですよね。

 すかさず槍を振りかぶって2人の隙間に投擲。避けられたけど予定通りや。

 二人の頭と頭の間を貫く槍に目を取られる間に槍を追って追走し、剣士のほうを殴り飛ばしてその間を走り抜ける。

 槍も当てるつもりなかったら投げられるんやで? 知らんかったやろ?

 クリーンヒットやから剣士は気絶しとるはずや。一人は残して追いかけてもらわんといかん。


 じわりと10メートルほど距離をとる。細い路地に影が伸びていく。

 あちらも動かずどっしり盾を構えている。

 その間に周りをスピリッツ・アイでサーチ。後方から四人が駆け足で来とるな。

 計五人かぁ。ちょいきっついな。

 振り返ったその先は大通り。

 夜やけどスピリッツ・アイの反応だと人が多いな。なら乱戦がええ。

 五人の合流を待って大通りに飛び込めば、突然の魔物の登場に周囲は怒号に包まれた。人は交々逃げ惑う。都合がいいことに屋台街。障害物が多い。

「どこだ!?」

「どこに行った!?」

 俺を追うて通りに飛び出した五人は俺を探して分散した。

 そんな簡単に妖精さんを見つけられると思うなよ?

 店主の逃げた無人の屋台の陰に身をひそめる。たくさんの棚や樽、籠や商品が路上にあふれている。これだけ隠れるところがあるんなら各個撃破や。一人一人隙をついて、背後から忍び寄って首に手刀を見舞えば音もなく崩れた。

 剣士・剣士・両刀剣士?・剣士、これで四人。

 あとはさっきの盾持剣士。


 首の防御薄すぎんかな?

 ひょっとしたらこの国は徒手拳法って全然ないんやろうか。

 ボニたんにスキルのこと聞いた時、徒手は自分の体やからスキルはない言うてた気がする。そらそうや、ダメやったら襲われたとき抵抗できんもんな。でもスキルレベルが上がらんくても誰でも使えるんやから凄ない? よけい護身術とか流行ってええと思うんやけど。

 ようわからんな。スキルがあるからそっちしか見えんのかもしれん。

 まあ敵が減るんは好都合や。

 俺はわざわざニヤリと笑いながら意味ありげに剣を拾ってゆっくり構える。なるべく俺を印象づけた方がええからな。

「なっ!? デュラハンが剣を? 馬鹿な!?」

 この発言、テンプレでもあるんやろか。

 演劇のつもりなら剣も持てるんよ? 知らんかったやろ。


 大通り沿いに西に走る。スピリッツ・アイ。地味に便利。

 後方からさっきの盾持剣士に二人追加。それから大分離れた左手側から固まった十人の団体様が隊列組んで向かってる。よし、他の部署に連絡が回ったな。

 盾持剣士ら三人は各個撃破で手刀で落とす。

 こいつら学習せんのか?

 次はあちらの十名様か。

 あつらえ向きの屋台街。

 6メートルほどの街路を挟んで二階建て程度の高さの建物が両側にずらりとならび、その建物前に飲食屋台が並んでいる。いいね。

 既に人はおらんけど、麺でも売っとったんかグラグラと湯が煮立った鍋の取っ手に屋台のロープを通して建物の二階に駆け上がり、ロープでゆっくり鍋を引き上げる。

 団体さんは重装兵か。お気の毒様だな。

 路地を抜けると同時に煮えたぎった熱湯を投下すると上がる阿鼻叫喚。

 金属鎧のすき間に熱湯はきちぃな……。

 俺、村に狭間作っちゃったけど、あれこんな凶悪なもんやったんか、ちょい反省。

 そう思っとったら左腕に矢が刺さった。

 振り向くと、大通りの反対側、中央区の方からやってきた団体が見え、複数の弓持ちが弓をつがえていた。


 弓士は……八人か。それ以外の兵士も三十人くらいおるな。

 弓が当たったとこはほんのりじんわりする。磁力でコリをほぐす奴みたいやな。多分聖別されたとかいう矢で、本来のデュラハンに効果があるんやろうな。

 さすがに三十人で面制圧されたら終わりや。

 建物の屋根の上を走って塀の方向に足を急がせる。

 スピリッツ・アイ。

 ん。あれがボニたんと村長か。あと馬。ちゃんと合流できたんやな。よかった。

 ……でも俺がこのままそっちに逃げるわけにはいかんのよね、そっちに追手が行っちゃうからさ。

 背中にプスプスと矢が刺さる。コリがほぐれる。なんかちゃうな。

 カタリと音が聞こえた。建物の屋上に梯子がかけられた。潮時か。

 大きく振りかぶって投擲する。素手で投げるんはなんでもできるんよ。

 けれども俺が最後に見たのは、切り裂かれ、崩れ落ちる俺の体やった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る