第56話 VS宇宙艦隊2

(サイド イヤイラ帝国)


「一体どうなっている!?」


「状況確認が出来ません、ですが第21惑星から第6惑星迄の軍事施設はすべて崩壊したとの事、本星も攻撃を受けるのは時間の問題かと」


 イヤイラ帝国皇帝はその報告を受け、怒りを顕わにしていた。報告を告げる部下も冷汗を滝の様に流しながらである。


「すでに宇宙艦隊の9割の消滅を確認、軍事基地のある惑星も残り3です」


「これでは奴らとまともに戦えない処か、植民惑星の住人共迄離れてしまうぞ!何とかならないのか!?」


「犯人の目星はついております、只……それが事実だとは考えにくい次第です」


 部下は皇帝に犯人についてどの様に報告すべきか悩んでいた。相手が複数人や団体、敵対組織、メイガス帝国軍であれば素直に報告出来た。


 ところがいくら調査を進めても、犯人らしき団体や組織は見当たらない。


 それどころか確認が出来たのはたった1人の人物のみである。


 一人の人間にここ迄大規模な事は出来ない。常識に囚われればそうなるのだ。


 ならばありのままを報告するしかないのだ。


「艦隊通信より送られた映像には1人の人物が映し出されておりました」


「ふん!それがどうした?」


「その他襲撃を受けた現場でも同じ人物らしき者が確認が取れております。つまり容疑者は1人です」


「はっ!笑わせてくれる、たった1人で何が出来るというのだ」


「そうですね、たった1人で大規模艦隊を殲滅させております、たった1人で 軍事施設を破壊してまわっております」


 検証の結果辿り着いた答え、それしか考えられないのであった。


「…それは何の冗談だ?」


「冗談ではございません、事実です」


「……」


 ハンカチで汗を拭き、一呼吸入れてから部下は答える。


「その人物、単独で宇宙空間に存在し、艦隊を相手どっております。我が方の艦隊が何万といようと関係ありません。一瞬で崩壊しております。また、軍事施設についても同様であり、現れた瞬間に崩壊しております」


「馬鹿な事をいうな、我が軍の消滅が確認されてから一月程しかたっておらん、犯行から犯行への移動時間が速すぎる」


「おっしゃる通りです、我が方の最新艦でもここまで早く移動はできません。ですが、映像に映し出された人物を照合した結果、同一人物であると判断いたしました」


 そう、当初は何が起こっているのか皆目見当もつかなかった。ところがある日を境にその人物の映像が送られてくるようになったのだ。


 襲撃を受けた場所より毎回送られてくる映像には、カメラ目線を向けて来る若い男が映し出されている。


 まるで犯人は私だと言わんばかりである。


 報告を受け、画像を初めて目にした時は、目を疑ったほどだ。


「疑われるのは承知の上です、ですが事実です。我々はたった1人の人物に崩壊の危機まで追い込まれております。いえ、我々だけでは有りません、メイガス帝国も同様の被害を受けているのです」


「なんだそれは…」


「メイガスも同じ道を辿っております。宇宙軍が崩壊するのは時間の問題かと」


「本当に相手は1人なのか!?原因は?理由はなんだ!」


 椅子から立ち上がり、鍔を飛ばしながら怒りを顕わにする皇帝。原因、考えられる事は1つしかなかった。


 この一連の事件が始まる前に行った事。


 そう、地球と呼ばれる星へと兵士をよこせと言った事だ。


 約束の日、前日に突然起こったシステム障害。


 事件はそこが始まりであったのだ。


「これは私の感であり、裏付けなどは取れておりません。ですが理由があるとすれば、地球という惑星に対しての兵徴収が発端ではないか、と愚考いたします」


「馬鹿な…たったそれだけの事で我々はすべてを失うというのか……」


「我々にとっては、『たった』ですが、彼らにとっては違っていたのでしょう」


 部下はそう答えた。


 種族が違えば考え方が違う、そんな事は沢山あった。当然そんな連中は武力で黙らせてきたのだ。


 自分たちがしてきた事、それが今度は自分達に返って来た。それだけの事ではないのか。


 項垂れた皇帝を見つめ、部下はそう考え居ていた。






●〇●〇●〇●〇●〇●






「かっ!回避!!緊急回避しろ!」


「無理です!間に合いません。相手が巨大すぎます!」


 突如、メインモニターに映し出された巨大な塊。


 氷の様に見えるが大きさが尋常ではなかった。


「何故だ!何故突然あんな物が現れた!?」


「わかりません、分かる事といえば直径が3万キロを超えている事、回避が不可能である事、我々は5分後に宇宙の藻屑となることです」


「3万キロだと…、それは我が艦隊すべて範囲に含まれている、そういうことか…」


「はい、覚悟を決めてください」


「ははは、あっけない最後だな」


 映像に映し出されたそれは、グングン距離を縮めていた。一体どれ程のスピードでこちらに向かっているのだろう。


「我々が一体何をしたというのだ」


「お言葉ですが、我々は多くの命を奪ってまいりました」


「天罰とでもいえばいいのか?」


「かもしれませんね」


 衝突の瞬間、艦隊責任者である彼は、それもそうだな、などと考え居ていた。









「ん…ここはどこだ?」


 自分たちの艦隊は、今しがた巨大な衛星と衝突し崩壊した。


 ならばここは死後の国であろうか。


「おや?新人さんかい?」


「え~っと、ここは何処で、貴方はだれですか?」


 見すぼらしい服装であった、服というより下着に近い服装。武器らしい武器も持っていない。


「ここかい?俺にも解らないんだ。ちなみに俺は元メイガスに所属していた軍人さ」


「メイガスだと!?」


 男の言葉を聞いた瞬間、腰に手を伸ばし銃を抜こうとする。だが伸ばしたその手は空を切る事となる。


「銃が無い?どういう事だ、貴様が私かた奪ったのか!」


「お~どいつもこいつも同じ反応をするんだな。ちなみに俺は奪っていない、たまたまここを通りがかっただけだ」


 睨みつけて来る男に、呆れながらそう答える。


「ここが何処か?それは俺が聞きたいくらいだな。で、お前さんのような人物は沢山いる。どんどん増えているんだよ」


「言っている意味がまるでわからん」


「分かっていることが有るとすれば、この星に文明は無い事。人も住んでいない事。そしてこの星に来た者は、皆武器をもっていない事」


「ま、まてまてまてまて!俺はつい先ほどまで戦艦の指令室にいたのだぞ!?」


「あ~やっぱりそうなのか、そうなると話し合った仮説は正しいのだろうな」


 うんうんと首を傾げながら、元メイガス兵と名乗った原住民らしき男は考え込む。


「もう少し分かり易く頼む」


「そうだな、実は俺も宇宙艦隊にいたんだ。俺だけじゃない、この星にいる全員が何かしら軍に関係している者達ばかりだ。そして決まってこう言うんだ。戦場で死んだと」


「な!?」


「それならここは死後の世界ではないか、そう考えた者もいたが、俺達は生きている。そこで導き出された答えが、消滅する前にここに運ばれたってことだな」


「……」


「あ、メイガス軍もいるしイヤイラ軍の者もいるけど争ってくれるなよ?ここから出られない以上、争ってもいられない。野生動物が沢山いて、結構な頻度で襲われるんだ。強力しないと生き残れないぞ」


「どんな生活だ…」


「言葉通り、原始生活だよ。武器は石ときの槍だな。あ、火起こしとか得意かい?」


 イヤイラ兵は膝から崩れ落ちそうになりながらも、なんとか堪える。


 これは一体どんな天罰なのだろうかと。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る