第47話 輪廻は廻る
ツクヨミの話を纏めると、こうであった。
遥か昔、それこそ何億年も前の事、この星には姉妹星が存在していたと言う。
生まれて数億年、星としては地球より一回りくらい小さい位の双子星。そんな姉妹星に悲劇が起こったのは、妹星の軌道上に彗星が現れた事であった。
姉星はそんな妹星を守るため、軌道に割り込む。結果、姉星と彗星は衝突し、巨大な爆発共に衝撃波を発生させる。
姉星の消滅、皮肉な事に、それは妹星に様々な変化をもたらす事となった。
破片となり、妹星へと降り注ぐ姉星と彗星。妹星の表面は強大な地殻変動を起こす。
ここで幾つかの奇跡が起きる事となる。
衝突した彗星、構成する物質のほとんどが水、氷の塊であった。降り注いだ破片は、天変地異の影響で氷は溶け水となる。
水は蒸気となり、惑星表面に大気を生み出しオゾン層を作る事となる。
姉の破片もまたしかり、妹星に降り注いだ。本来であれば妹星も消滅していたところであろう。
だが、姉星は妹星を守る。砕けた自身が妹星を消滅に追い込まない様、妹星の力になれるよう、まるで妹を慈しみ包み込むように降り注ぐ。
数億年の時を経て、妹星へと同化した姉星と彗星。その大きさを一回り大きくし、豊かな水を湛えた惑星へと変化する。
最後の軌跡はその軌道であった、衝突によりズレた起動。その軌道は妹星を命溢れる惑星へと変えたのだ。
複数の出来事が重なり、妹星は生まれ変わる事となる。生命を育む惑星となったのだ。
だが……。
今、妹星は命の危機に瀕していた。
人の寿命であれば、まだまだ先の事。しかしそれは人の考えであれば、だ。
妹星にとっては僅か数分前、いや数秒に感じた事であろう。惑星規模で考えれば些細な出来事であった。本当に些細な違和感。
だが、それが今は恐ろしい。
例えるなら、悪性のウィルスに侵された、そんな感じである。
そのウィルスは僅か数か月、あっという間に自身の身体を蝕んでいく、緑豊かな大地が僅かの時間で不毛の大地へと変化して行くのだ。
妹星は焦る、数億年を生きる星にとって、数日は秒にも満たない時間、おそらくこのままでは数百年で死んでしまう。
妹星の消滅。それは姉の生み出してくれた子供達も消滅する事を意味する。
自身の余命を感じ取った妹星は姉に願う。子供達を助けて欲しい、救って欲しいと。
その願いは姉に届く。
こことは違う世界、別の世界で何度も転生を繰り返していた姉。何億年と共に過ごした妹の願いに応えるべく行動を開始する。
今の貧弱な身体では妹を救えない。
肉体と共に世界を渡る頃は出来ない。
ならばどうする?
姉星は妹星の力を利用し、新たな肉体を作り出す。強靭な身体、妹を救える能力を持つ存在を願いながら…。
姉星は現世の肉体をその場に残し、魂のみで異なる世界へと飛ぶ。妹を救うため、願いに応えるために……。
●〇●〇●〇●〇●
「と、ここ迄が事のあらまし」
長々と話した渉は、お茶を飲みのどを潤す。
二人は唖然としたままだ。
「ここまでで何か質問あるかい?」
「アタシって、星の生まれ変わりなんですか?」
「その質問が最初かぁ、そうだねどれくらい前の前世かは知らないけど、星だねぇ」
「突拍子が無さ過ぎて、僕にはちょっと理解が出来ません」
「だろうね」
考え込む二人だが、当初この話を聞いた渉でさえ理解できなかったのだ、当然と言えば当然の反応である。
「あの、それなら何故、というかどうして私はその事を覚えていないのでしょう?」
「あぁ~、そこはイレギュラーだねぇ。魂だけの存在として異世界を渡る。考えとしてはありだけど、無茶な事でもある。何かしら問題が発生してもおかしくない事だね」
「そうなんですか?」
「うん、異世界への移動は本来神の御業。元が星であっても、そこまでの力の行使はきついかな」
「なんとなく分かったような、分からないような…」
「実際、話を直接話を聞いた俺でもすべて理解は出来てないからね」
事実、渉は異世界召喚専門であり、転移や転生は仕事の範囲外なのだ。ましてや今回の出来事はイレギュラー中のイレギュラー。そういう事もある、と認識するだけであった。
「今の君はこの星にとってのワクチン、抗生物質ってところだね」
「……」
「あの!僕はどうなるんですか?勇者として呼ばれた僕は!?彼女が居れば問題ないように聞こえるんですが!」
「いいや、君の存在は重要だよ。君が呼ばれる前提で彼女はこの世界に来たのだから」
「どう、「どういう事ですか?」」
二人はそろって渉に問いただす。
「う~ん、勇者召喚をこの世界の人々が決定したのはおよそ3~4か月前、彼女がこの世界に来たのが3か月くらい前」
「それはこの城の人に聞きました」
結城はこの世界に召喚された理由とともに、現状の説明を受けている。その話の中で勇者召喚についても聞いていた。
「そうだね、例えるなら傷口に入った雑菌を消毒する存在?砂とかゴミを洗い流す、そんな感じかな」
「ちょっと意味が解らないですね」
例えるなら注射器とワクチン?傷薬と包帯?どれも例えは間違いではないだろう、もっともそれを言語化して相手に伝わるかは別の話である。
「まあ、俺も何をいっているのか良く分からない」
結果、困り顔であいまいに答える渉。そんな渉に詩音が聞いて来る。
「あの、私はどうなるのでしょうか?」
「ああ~、恐らく君は問題解決後に元の日本に帰れるよ、ただ…、ごめんね俺が今の君を認識したことで、戻れるのは3か月後の君になるんだ」
「???」
先程迄の結城との会話を聞きながら、複雑な表情をしていた詩音は、もっと解らなくなった。そんな感じで首を傾げる。
「これも説明が難しいな、う~ん…」
それは渉の刻渡りに似た力である。本来であれば問題解決後、彼女は元の世界に帰還していた。
それも2・3日後であっただろう。
だが、渉が今の彼女を認識してしまう。三か月後、病院で寝たきり状態の彼女を。
『刻渡り』とは不思議な力である。頃なる流れの中であれば、ある程度元の時間軸へと戻る事が可能な能力である。が、その存在を過去へは戻せない。
誰かに認識される事で、存在が確定してしまう。それは過去となってしまうのだ。
そう、今回は渉の能力が裏目に出てしまったのだ。
詩音が戻る未来は、3か月後の病院のベットの上、彼女が戻ることが出来る最低ラインが繰り上がってしまった。
──それもこれもこの世界の神が悪い。
渉が相談に行った際、この世界の神から彼女についての説明は無かった。
何故しなかったのか、神であれば当然彼女の存在を認識しているはずだ。
もっとも、神は現世への過度な干渉を好まない。言わなかった理由も何となく理解もできる、だが、納得は出来ない。
渉の説明を聞き、「戻れるのなら」詩音はそう言ったのだが、中学生活の3か月が病院生活確定なのだ。
永劫を生きる神とは違い、人の生涯は短い。
──これだから不死の存在は困る。
心の中で渉が神に対し、憤慨するのも当然であった。
「まあ取り敢えず言える事は、2人で協力し合ってこの世界を正常に戻すって事くらいかな」
「僕は、僕の使命を果たす。それには彼女の協力が不可欠、その認識で合ってますか?」
「そう、その認識でいい」
「私は結城さんに協力する、この星を浄化?ワクチンする認識ですか?」
「ワクチンて…、君の能力については大体想像できるけど、もう少しイメージを固めた方がいいかな」
「それって大事な事なんですか?」
魔法や能力の行使で、最も重要な事の一つを渉は詩音に説明する。
「結果をイメージする事は最も重要な事の一つだね、曖昧なままだとその効果は期待できない、イメージを固めて能力を使う事で結果も変わってくる」
「そうですか…」
「まだ数日は俺もこの世界にいるから、練習しようか?」
「はい!なるべく早く使えるようにして、この世界を元に戻します!日本に帰れるようにします!」
彼女の根幹、日本に帰る事。力強く返事をする詩音を温かく見つめる渉。
この世界で渉に出来る事は少ない、自衛隊の協力も、間も無く終了だ。
そんな詩音を見つめる渉の瞳に、疑問が浮かぶ。
彼女の記憶はどうなるんだろう…3か月後、彼女は中学の勉強についていけるだろうか。と…。
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