第46話 星とは

 異世界科に戻った渉は、井上に連絡を取る。

 井上は渉からの依頼を受け、鹿児島支部へと調査依頼を発信、鹿児島支部は素早い対応をしてくれた。


「う~~~ん」


 調査結果を眺め、渉は頭を悩ませる。


「聞いていた通りなんだけど…本当にこんな事があるんだな」


 ツクヨミから話は聞いた。神の言葉だ、疑いようはなかった。

 それでも詩音にどう説明すべきか悩む内容だ。


「まいったな、有りのままを伝えるしかないか。うん、そうしよう」


──あ、戻る前に自衛隊基地に寄って弾薬確保しないと。


 考える事が多いな。いろいろな出来事がかさなり慌ただしい。渉は溜息を付きながら、端末を収納へとしまうと再び異世界へと飛ぶ。





●〇●〇●〇●〇●〇






「あ、加賀美さんお帰りなさい」


 訓練を中断し、輝く笑顔で手を振ってくる結城。爽やかな笑顔はこの世界でもきっとモテるだろう。


「おう、今日も訓練お疲れさま。花沢さんは?」


「僕も四六時中一緒にはいられないので、訓練中は彼女は王妃さまが面倒見てくれていますよ」


「うへ、好待遇、というべきなのか?」


「どうでしょう、僕も王族や貴族の相手はまともにしたこと無いですから。彼女、僕の知り合いってことになってますから悪い事にはならないんじゃないですか」


 機転が良く聞く。渉は結城の何気ない一言、勇者の知り合いであるなら、粗雑な扱いはされない、大事に扱われるだろう。


──もっとも、将来的には弱点になりうるんだけどね~。


 そんな未来は来てほしくない、と考える渉。気持ちを切り替えるように結城へと言葉を続ける。


「それじゃ、俺は彼女に事情説明をしてくるわ。勇者である結城君は訓練を再開するのかい?」


 ニヤニヤと殴りたくなるいつもの表情、結城はそんな渉を見て思い付きを口にする。


「何だか含みのある言い方ですね、僕にも関係ある話なんですか?」


「感も良いな。そうだね、きみも一緒に聞いた方が良い話だ」


「分かりました、同行します」


「頭も回る、感も良い、君は良い勇者になるだろうね~」


 突然の渉の言葉に、キョトンとする結城。言われた言葉を頭で理解すると、苦い顔をして渉へ答える。


「この先どうなるかは分かりませんよ、生き残れるかすら分かりません。今の僕が言える事はまだまだだという事です、僕は勇者として何が出来るのかすら理解していません」


「うん、いい心構えだ」


 二人は並んで歩き、そんな話をしながら、詩音の元へと向かう。





「あ、異世界課の職員さん!」


「加賀美です」


 礼をとり、紳士的な対応をする渉に驚く詩音だが、渉としては当然の行動をしたまで。


 詩音は王宮のテラスに居たのだが、対面にはこの国の王妃、王妃の傍にはこの国の貴族夫人も数人見受けられる。


 失礼が無いよう行動下までである、渉の行動を横で見ていた勇気もそれに倣っていた。


 もっとも、本来であればこの場で一番くらいの高い王妃の言葉を待つのが正解であるのだが、当の王妃は気にした様子が無い。王妃の立場に在りながら心が広い。


「して代理殿、此処には何用で参ったので?」


「はっ!花沢様に関しての報告がございます。彼女に調査結果を伝えるべく、お探ししておりました」


「なるほど、その話は私達が一緒に聞いても構わい事でしょうか?」


「誠に恐縮ではありますが、まずは我らだけで話をしたく存じます」


 頭を下げた渉は王妃にそう告げつ、王妃は渉の言葉にしばし考える。


「まずは、そう言うのであれば、話し合いの後に私達王族にも伝えることが有るのですね」


 流石一国の王妃、渉の言葉に含まれた意味を理解していた。


「仰る通りです、国王様ならびに貴族の方々にも知っておいてもらいたいお話になります」


「分かりました、陛下には私からお伝えしておきます」


「ありがとうございます」


 そんなやり取りを、ポカンと見つめるのは結城と詩音。生粋の日本人である。


「別室を用意させましょう、そこの者、3人を第2応接室へと案内をしなさい」


 王妃の言葉に一歩前に出てお辞儀をする1人の傍仕えメイド。


「僭越ながら私がご案内いたします、後を付いてきて下るようお願い申し上げます」


 結城と詩音の考えはシンクロしていた、「何、この畏まった雰囲気…」と。もっとも王侯貴族を前にした場合、普通の事なのだが、一般家庭で育った2人には到底無理な話である。




 案内された応接室、気を遣ってくれたのか3人以外誰も居ない。

 3人は思い思いの席に着く、詩音は緊張からか表情が強張っている。


「あ、あの加賀美さん、私は日本に帰れるんでしょうか?」


 詩音は待ちきれず、そう渉に問いかける。詩音のその気持ちは良く分かる、渉は表情を引き締め、彼女に告げる。


「結果だけをいうなら、帰れない、だ」


「そんな……」


「待ってください加賀美さん!彼女はまだ14歳、何とかならないんですか!?」


 沈痛な面持ちで俯いてしまう詩音、そんな詩音を見ていられず結城が声を上げる。


「聞いて欲しい、きちんとした理由も、事情も有るんだ」


「理由と…事情?」


「そう、全部話すからしっかり聞いて欲しい。彼女を元の世界に返したいなら結城君、君が頑張らないといけないんだ」


「「え?」」


 単純な話で考えれば、渉が連れ帰ればそれで日本には戻れる。考え方次第ではあるのだが、厳密には詩音は転移者ではなかったのだ。


 それでも連れ帰る事は出来ない。それは?


「花沢さん、君は今も日本で、存在しているからなんだ」


「「ええぇぇぇええ!?」」


 深々と溜息を付く渉、二人の驚きは当然である。


「良いかい?話の流れはこうだ」






〇●〇●〇●〇●〇●






 渉が神の間でツクヨミから聞いた話である。


「渉よ、厳密にいえば戻さないではないのじゃ、戻せないのじゃ」


「と、言いますと?」


「うむ、花沢詩音は今も日本におる。存在しているのじゃ」


「言ってる意味がさっぱりわかりません!」


 思わず口調が砕けてしまう渉、実際は回りくどい言い回しが面倒になっていた。


「順に説明してやろう、まず彼女は生きている。もっともはじゃがの」


「肉体?身体だけ生きているってことですか?」


「うむ、その生命活動は医療によって生かされているが、実状は医療なしでも問題ないのじゃ」


「なんです?その魔訶不思議現象は……」


 ジトリとツクヨミを見つめる渉の目は、何言ってんだこの美魔女は、と訴えかけていた。


「今回の発端は、かの世界、かの星が死の危機に瀕している。それが始まりじゃ」


「それは解ります、放置すれば将来的にあの世界は生きる者が居なくなる、死の星となるでしょう」


「根本が違うぞ渉、世界どころか星が死ぬ、星が消滅するのじゃ」


「ん~?いまいち理解出来かねますね、世界の消滅は星の消滅みたいのものでは?」


 ツクヨミの言葉がいまいち理解できない、渉は腕を組み考え込む。やれやれとツクヨミは出来の悪い息子にかみ砕いて説明する。


「良いか?人が死に、生命が居なくなったとしても星は存在する、何億年かすれば再び命を育むこともある、じゃが星自体が死んでしまうとどうなる?消滅してしまえば?つまりはそうゆう事じゃ」


「なるほど、星自体が無くなってしまえば、確かに世界がなどど言えませんね」


「そうなのじゃ、そして今回は星の消滅が関わってくる、という訳じゃ」


「ほほ~、して、それが彼女が生きている事とどう関わってくるので?」


「うむ、詩音が何故そのような事になったか、それはのう『詩音を呼んだのが星そのもの』じゃからだ」


「はあ!?」


 ツクヨミの言葉に、素っ頓狂な声を上げてしまう渉。


「いやいやいやツクヨミ様、星ですか?星が彼女に何かしたんですか?何の冗談ですか?」


「ん?何もおかしなことは言っておらんぞ、何をそんなに驚いておるのじゃ?」


「いやいやツクヨミ様、星って星ですよね?惑星ですよね?」


「うむ、その通りじゃ。それで何を驚くところが有るのじゃ?」


「いや驚くでしょ!星がよんだって、何ですそれ?星に意識が有るんですか?」


 驚きを体いっぱいで表す渉に、呆れを浮かべ、溜息を付きながらツクヨミは答える。


「何を言っておる?星も生命の一つ、当然意思が有るにきまっておるのじゃ」


「……」


 そんな事も理解できないのか?と、呆れた視線を渉に向けるツクヨミ。渉はパクパクと口だけを動かす、池の鯉になっていた。






──────────────

いつもお読みくださりありがとうございます。

お知らせになります。


以前話にあった新作を、昨日を投稿しました。


タイトルは 


この場所について詳しく教えてくれる人いませんか?いませんかソウデスカ


となります。


本当はもう少し書き溜めてから投稿する予定でしたが、結果書き溜めた話数をあらかた投稿する事に……。(察してください、PCは…)


タイトルで少しでも興味が出た方、ご覧になっていただけると幸いです。


今後とも、よろしくお願い申し上げます。


(尚、リンクの貼り方は……察してre)




 

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