第22話 まあ聞いてください

 長時間のドライブを楽しんだ後、二人は現場に辿り着いてい居た。途中時差の関係で仮眠をとった渉。やっとこ解放された気分で背を伸ばす。華美もまた座りっぱなしの為、腰回りを撫でていた。


「ヘイ、ハナミ」


 そんな二人に、2人の兵士を連れた人物が声を掛ける。


「あ、指令。お疲れさまです」


 そんな二人の遣り取りを横目で見ながらも、渉はすでに立ち入り禁止区域の様子を伺っていた。

 キープアウトと張られたテープの外側には、仮設施設が立ち並んでいる。一部隊交代での監視だ。問題のエリアの規模も大分大きくなっている、ともデータには書いてあった。研究員など含めれば、それなりの人数が居る事が伺える。

 

 危険エリアに指定された場所をじっくりと観察する渉。

 奇麗な草花、所々に大きな木と少し大きめ目な岩、ぱっと見は何処にでもありそうな景色である。ハイキングにはもってこいの場所だ。


 景色は確かに美しい、だが、地球上で在ると考えれば少し異常である。植物の色が濃い、緑と言うより蒼に近い。昼にも関わらず、花自体発光している様子が伺える。


「加賀美さん?加賀美さんてば!話聞いてます!?」


 そんな華美の声で、振り返る渉。確認を優先していたので当然話は聞いていない、困り顔で華美が此方を見ていた。


「あぁ~、ごめん聞いてなかったわ。まだ時差で呆っとしてるのかも。で、何かな?」


「もう、指令に失礼ですよ。こちらこのエリアの特別作戦司令官、オリヴァー・スミス司令官です」


「初めまして、ミスター。私がオリヴァー・スミスだ。よろしく頼む」


「ワタル・カガミです。よろしくお願いします」


 そういって、オリヴァーが手を差し出してきた、その手を握り返し自己紹介をする渉。見た目ダンディーなオリヴァーに嫉妬心を燃やす渉だが、華美は続けて場所の移動を提案してきた。


「まず、場所を変えましょう。仮設ですが指令室が有ります。あ、荷物を置いて来たほうがいいでしょうか?」


「それでは私が案内しよう。君が滞在する仮設も用意してある。邪魔な荷物などはそこへ置いていただき、その後は指令施設でハナミが不在だった期間の状況を説明しよう」


 華美の提案に、指令自ら案内を申し出てくる。一応VIP対応なのだろうか。取り敢えず何泊か覚悟して来たので、邪魔な荷物が置けるのは有難い。


 オリヴァーに案内された仮設に荷物を置き。携帯端末のみを持って出てくると。華美が外で待機していた。それほど待たせた訳では無いが、一応の礼儀として「お待たせ」などと声を掛ける。


「いいえ、そんなに待っていませんよ。指令は先に向かいました」


「それじゃ、急いで向かわないとね」


 そんな事を言いながら、足早に歩きだす二人だが、渉はチラリと例のエリアへと目を向ける。


 テープの外、大きな木の木陰で休んでいる人物が気になった。気にしたのは一瞬。何かあればこの後説明もあるだろうと、華美の後を歩いて行く。





「早速ですまないが、今回の経緯を説明しよう。その前にカガミ、データの確認は済んでいるかね?」


「ええ、すでに全て覚えていますので。今回発生した大型モンスターについてからで結構です」


「わかった、では説明していこう。2週間ほど前の事だ、普段通り巡回していた部隊より、突然救援依頼が来た。当然即座に対応し、応援を送ったのだが…。応援に向かった我々の前に奴が現れたんだ。4mほどの巨体、振るわれるこん棒。その上奴には銃が効かなかった。いや、効かない訳では無いのだが、傷ついた傍から再生していく。我々には理解できないモンスターだったよ、悪夢でしかない」


 その時の光景を思い出したのか、司令官が苦々しい顔をしている。指令の傍にいた二人も同様だ。あまり思い出したくないのかもしれない。


「そこで政府は、日本の異世界課に調査を依頼することにした。我が国だけではすでにどうにもならないのだ、どうか手を貸してくれないだろうか」


「もちろんです、その為に私が来ましたし、加賀美さんも来てくれました。加賀美さんさえ居てくれれば何とでもなりますよ」


 にこやかに指令へと返事をする華美だが、指令の顔はいまいち信用していない様子。それは加賀美がどう見ても成人していない子供に見えていたからだ。


 初対面ではそんな雰囲気すら出さなかった指令ではあるが、そんな若者が役に立つのか。思わず本音で聞いてくる指令。


「失礼だが、カガミは随分若く見えるのだが、本当に大丈夫なのか?」


「問題ありませんよ、彼はこういった事件のエキスパートですから」


 フンフンと鼻息を荒くして答える華美を横目で見ながら「残念美人」そんな事を思わず呟いてしまう渉。


「何か言いましたか加賀美さん?」


 振り返り渉を見る華美。その顔はとても口に出してはいけない表情であった。


「いや、それより話を聞こう。藁科さんが居ない間に何か変化があったのでは?」


「その通り、先程の報告での事だ、奴が他のモンスターを従えたようだ、モンスター同士連携を取るようになった、…さらに厄介差が増したのだ!あのデカいのは一体何なのだ!小さなモンスター共は我々でも倒せる。時間経過で復活するが手に負えないことは無い。だが、そこに奴らの存在が加わるとどうにも出来ない。幸いな事にモンスター達はあのエリアから出てこない、エリア外から攻撃する事で追い払う事はできる。しかしそれは根本的な解決になっていないのだよ」


「そうですね、アレは結構厄介な存在ですから」


「アレというからには知ってい様子だね、カガミ」


「もちろん知ってますよ、アレはトロールと呼ばれる存在です」


「トロール…。それはどんなモンスターなのか聞いても?」


 指令の質問に頷くと、トロールについて説明していく渉。


「モンスターの名前はトロール、トロルと言うこともありますが、身体は巨大、体表も硬く、腕力も強い。その腕から繰り出される攻撃の威力は凄まじい破壊を生みます。また奴らは人を餌として食らいますので、その脅威はかなり高い。その上、傷ついた傍から再生していく自己再生持ちなので、倒し方を知らないと殺られるのはこちらになりますね」


「倒し方…だと?…では倒し方があるのか!」


「そうですね、ありますよ。良くある手段だと、手足などを切り飛ばし、再生する前に切断部分を燃やす。そして身動き出来なくなったところで頭部及び胸部を破壊、。これが一般的な倒し方ではありますが、それは異世界でのこと。硬い皮膚を切り裂ける人物はそうそう居ないでしょう。なのでこの世界で出来る方法は、戦車で奴の頭部及び胸部を砲弾で吹き飛ばします。両方を破壊することで再生しなくなりますし、死亡します。燃焼剤で燃やしながら、砲撃を撃ち込むと効果的かもしれませんね。外しても何処かには当たるでしょう。再生を防ぎつつ倒すには持って来いではないでしょうか?奴の核を破壊できるでしょう」


「異世界?切り飛ばすとはなんだ!サムライでも連れて来いと!?再生できないのであれば、奴ごと燃やしてしまえばいいのではないのか?」


「それは違います、外側だけ焼いても意味はありません。次々再生していくので苦しみはしますが、死にはしません。怒らせるだけですね。戦車の持ち込みが出来ないのであれば、対戦車ライフルなんかでも良いかもしれませんね。とにかにほぼ同時に核を破壊することです」


「……」


 それを聞いて指令は考える、戦車といった車両の出動命令を出せない事も無い、だが戦車は目立つ。

 すでに大事になりつつあるのだ、これ以上市民を不安にさせることは出来ない。


 ならば対戦車ライフルが無難である。そんな考えを巡らせている指令だが、渉の台詞が彼をどん底まで落とす。


「あ、でも何も解決しないですよ?これってモンスターの対処方法であって。このエリアの対処方法ではないですから」


「そんな!?ではどうすればいいのだ!」


「その説明をこれからしますので、あちらで聞いているにもご一緒してもらいましょう。顔合わせは大事ですよ」


 そう言って掌を上に壁の一角を刺す渉。その仕草にぎょっとした指令。

 

 何かが動く雰囲気、足音が聞こえてくると、指令室の扉が開かれる。


「良く気が付いたわね、東方の魔法使い。褒めてあげる」


 不遜な態度で現れた彼女を見た渉だが、第一印象は「足りない…圧倒的に色々足りない…」である。






 現れた彼女、十代中盤に見える少女であった。

(※だが胸部装甲が……渉談)


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