第21話 状況確認

 華美に案内され、車に乗り込んだ渉。早速とばかりに華美が端末でデータを送信して来る。前回岩田からもらったデータに、追加データが上書きされた。


 「真面目な話、現状はあまり芳しくありません」


 真剣な面持ちで、話をしてくる華美。データを見ながら考える渉。読めば読むほど不可解な事が多い。


 事の始まりは4年前、その地域は気候の良い時期、庶民が散歩したり、ピクニックなどが行われる公園の様な開けだ場所であった。


 発見者は3人の学生、たまたま見つけたそれをSNSで上げた。


 緑、というより青に近いくさ、見た事のないグラデーションの花々。そんな見慣れない草花に興味を持った3人は、一緒に写真を撮りSNSに上げたのだった。


 アップ後、程なく拡散していったその画像は、数日後、何後も無かったかのように消えていた。


 写真に興味を持った植物学者が、一部持ち帰り検証した結果、草花は1時間もしないで塵となった。

 ならばと、数人の仲間とテントを張り、そのばで採取しながら過ごしていたのだが、数日もすると体調不良を訴える仲間が増えていく。発案した本人も、数日後には病院にお世話になる事となる。


 解った事と言えば、地球上では存在していない植物で在る事。どうやら人体に有害な物質が含まれている、そんな可能性が在る物だと判明した事だ。


 彼は速やかに上司へと報告、またその上司も政府へと連絡を取る事となり、現場一角を立ち入り禁止区域としたのだ。


 最初は除草剤を撒いて駆除をした。翌日には枯れた草花が、その2日後には元通りになっていた。ならばと燃やして様子も見た。結果、範囲が広がる事となる。

 

 手の施しようがない現状。立ち入り禁止を継続し、警備員を配置したが、防護服着込んでいるにも関わらず、体調不良を訴える人達が後を絶たない。


 警備範囲から、どこまで影響を及ぼすのか割り出したが、どうやら徐々に範囲を広げていることも判明した。だが、何が起こるか解らない為、しばらく様子を見ることとなる。


 もちろん、政府はそのままにもしなかった。


 どうにかして元に戻す方法が無いだろうか。そんな議論を繰り返す政府に対し、学者達が異を唱える。

 有効な活用方法が有るかもしれない、そう考え調査研究を進めるが、どこまで調べても植物であり、何故人体に影響するのかが解らなかった。




 研究者たちは頭を悩ませていた。そんな時にモンスターが現れる。



 夜間警邏中、それは黒い霧の塊から現れた。


 現場を目撃した人物は、最初何かが燃えているのかと思ったそうだ、何か燃えている。そんな考えから辺りを手元のライトで照らすが、火の元は見当たらなかった。


 よく見れば、その存在は宙に浮き少し渦を巻いている様にも見える。そんな確認をしながら、携帯で動画撮影を始めて数分、中心部分から手が生えてきたのだ。


 その状況が受け入れられなかった警備員は、その場で佇み動けなくなっていた。


 渦から身体全体を現した存在に呆然としていた警備員は、突然襲い掛かって来たソレに驚き、命からがら逃げ戻る事となる。




「この動画や写真に写っているの、ゴブリンだね」


「ゴブリンって、良くゲームなんかに出てくる存在ですよね?見境なく女性を襲う存在ですよね」


「いや、女性を襲うは後付けかな、同種にメスも存在しているよ。奴らは人を食いでのある食料と見ているからね」


「十分気持ち悪いです」


 そんな会話をする二人を、バックミラー越しにチラリを確認して来る男性運転手。当然政府の息がかかった人物であろう。

 盗聴器も結構あるな、狭い車内にも関わらず。聞き逃しが無いよう至る所に設置されていた。


「それで、加賀美さんは現状をどう思っていますか?」


「岩田さんにも伝えたけど、現場に行ってみないと最終的な判断は下せないかなぁ」


「じゃあ今思ってることだけでも教えてくれませんか?私もう気になって気になって、これって何なのか大体でいいので教えてくださいよ~」


 そんな甘えたを声を出してくる華美、情報に聞き耳を立てる運転手。情報は命なのに気軽だな、などと呆れる渉。


「いいじゃないですかぁ、どうせ現地で説明してくれるんでしょ。どんな予想なのか教えてくださいよぉ」


「まあ、いっか。予想が正しければ現地でも同じこと言うけど、それでもいい?あくまで予想だから外れてるかもしれないよ?」


「構いません、教えてください」


 まるで子供のような笑顔を浮かべる華美、好奇心旺盛な小学生のようだ。見た目に反し、言動や行動が幼く感じる。


「う~ん、それなら黙ってきいてね。今回は何かが異世界から来た。と、俺は考えているんだよね、土地そのものに影響を及ぼすなにか。それは現地にいって見ないと解らないけど。土地に影響を及ぼす物は他世界でもあるんだ。その中でもっとも有名なのがダンジョンコア、つまりその一角がダンジョンに成っているんじゃないか、と考えているんだよ」


「えぇっ!?ダンジョンですか!?」


「そそ、ダンジョン。で、ダンジョンって平原型もあれば、地下や塔、洞窟とか様々な形が有るんだよ」


「ゲームでよく見ました」


「そうだね、そんなイメージで良いかな。で、今回現れたダンジョンは地表型、に見せかけた地下ダンジョンだと思って居るんだ」


 そんな渉の言葉に驚きが隠せない華美、と運転手。ニヤニヤといつもの顔を浮かべる愉悦部渉。


「どどどどうしてそうなるんですか!」


「まず、さっきの話を思い出してごらん、ゴブリンにもあぁ~なんだっけ?」


「メスが居る」


「そう、その通り。生物である奴らもまた繁殖するんだ、その繁殖力は人の数十倍は早い。年中繁殖するからゴキブリ以上だねぇ。そんな繁殖力は、餌扱いされる人族にとって脅威になる。数が増えれば、それだけ多くの食料が必要になるからね」


「ゴキブリも気持ち悪いですが、餌扱いは嫌です、気持ち悪いです、増えすぎです」


「ははは、でも今回のケースだと当てはまらない。それは渦からモンスターが現れているから、そして時間でリポップしているからなんだ」


「あ、そういえばデータにも時間で復活しているって書いてありましたね」


 そう言いながら、手の元の端末をスワイプし、データを確認し直している華美。そして、何処かと無線で遣り取りしている運転手、聞こえないようにしているつもりなのか、渉にはバレバレであった。


「そもそもが、その地域の一角だけ変異したんだよね。そうなると転移は無いと解る、土地が転移してくる事は今の所ないから。で、そんな環境に変化した場所にモンスターが転移してくる。これも無いね。偶然が重なって、なんてことも考えたけど、死んだ生物は蘇らない。そう考えると、ダンジョンの可能性がもっとも考えられるかな」


「ほへぇ~…勉強になります。あ、それじゃあ何で体調不良者が沢山出ているんですか?」


「それも現地確認だね。その場所に出て来た何かが、この世界にとって有害な物を含んでいると考えられるけど、実際それがどんなものか、ここからじゃ判らないからね。だからまず聞取り調査と現場検証、それに対応できなくなった原因のモンスターについて、かな」


「あ~、この5枚目に出て来たでっかいモンスターですね。私にはどれもこれも似たモンスターにしか見えないんですが、別のモンスターなんですか?これも異世界で見た事あるんですか?」


「あるねぇ~、見たところ4枚目まではゴブリンの進化系、おそらくこの世界の銃火器で倒せる。だけどはいただけない、何せ吹き飛ばした傍から再生していくんだ。倒し方でも知らないと堂々巡りだねぇ」


 そんな画像を見ながらため息をつく渉。その巨体と破壊力も十分脅威ではあるが、その再生能力がもっとも厄介だと思っている。


 これは少しやっかいな仕事になるな。


 そんな渉の気持ちなど、お構いなしに質問を続ける華美。今更ながら帰れば良かったと感じていた。




 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る