第13話 神との語らい

「そろそろ出て来てはどうだ?」


そんな神の台詞に姿を現す渉。


「やっぱり気が付いてました?」


に気が付かねば、神失格で在ろう?」


 ふふっと笑いかける男神に、それもそうですね、などと軽々しく言ってくる渉。お気楽である。


「それにしても、其方は人か神か判断がつかん。なんだその身体は、内包する力はお主自身の力だけでは在るまい」


「あぁ~、簡単な話です。俺達の世界って平和なんですよねぇ。

 魔物も居なければ、魔法とか超能力と言った特殊な能力を持つ者は滅多に居ません。召喚され、強制的に植え付けられた能力って、一般人から見れば、畏怖された上迫害の対象になるんです。

 特殊な能力を持ってる俺すげぇ~なんて、元の世界で増長されても困ります。一度生まれた能力は消えないですから。周りの人達だって、いつ爆発するか分からない人物の傍で過ごすのは不安です。なので元の世界に帰る前に消した方がいいでしょ?

 俺が召喚者を連れ帰る際に、あ、俺の仕事って召喚者の帰還補助なんですが、連れ帰る際、丁度良いから黙ってする事になってるんですよ。もっとも帰還者達は元の世界に戻る際、勝手に消えるって思ってるみたいでがね」


「しかしな…すでにその力は上位神に近いぞ、変調を来たす事は無いのか?」


「そうなんですか?前回23人分回収しましたが、意外と平気ですよ。

 自慢にはなりませんがこの身体、神の手が加えられた特別製なんです。

 俺が自力で元の世界に帰った時、呼び出された先で神々の手によりされました。ですが、感覚的には現在いまも以前と変わり無いですよ。しいて言うならバランスが悪いですね。顔は十代、身体は二十代全盛期ってちょっとどうなの?ってくらいです。

 どれだけ力を得ようとも、死なず、歳も取らない。そんな身ではありますが、今のところ問題は在りません。

 与えられた能力や身体。結果『人であり神で在る存在』に成り変りましたが、根本は人のままですからねぇ、我々の世界では”現人神”という言葉がもっとも近いんじゃないでしょうか」


「なるほど、現人神か。それは神々の福であるな」


「いいえ、だと俺は思いますよ」


 渉は普段元の世界でも口にしない事を言っていた。

 ”ネ”に兄で祝、”ロ”に兄で呪、岩田とやり取りしていたことだ。問題は無いが文句はある。渉なりの神々への皮肉を込めた言い方だ。

 祝福と言えば神は怒らない、呪いと言えば怒る、そんな考えから渉が思いついた言い方でもあった。


「それより彼はどうでした?」


 話を変えるべく、渉が男神へ問い掛ける。その傍らには俊三が前のめりで倒れていた。

 

 その命は尽きている。


 そんな彼の亡骸を見つめる渉、そのまま放置しているのは男神の前だからである。   

本当ならすぐにでもその亡骸を抱えていてもおかしく無い。数日前夜通し話し合い、笑い合ったのだ辛くないわけがない。

 別れ際、渉が俊三に言った台詞は、おそらく彼が取るであろう行動に対しての言葉である。渉には俊三がどんな行動にでるか予測がついていたのだ。

 

 人の身で神に挑む無謀。助かることは無い。


 結果、俊三はの生命に終わりを告げる事となる。だが、ある意味最後を看取ったのは男神だ、彼の出方を見ていた。そんな男神は考え込む様な顔をしながら答える。


「やはり、人族とは解らんな、理解できぬ」


「でしょうね、どの世界の神様でもそうみたいです。

 こう在れと創造しても、最終的に人族は男神様が思う人の形に成っていきます。なんででしょうね、神々でも理解できない不思議の一つですよ。

 神の愛し子の一つ、そんな存在ではありますが、もっとも神に理解できない存在ですね。だと、考えるのが一番早いですね、理解する必要は無いってことです。

 人族が争うの事は止められない、放っておけば勝手に増えて、勝手に争う。そんな理不尽な存在です。その上、自分が信じる神以外は邪悪だとか言い始めますから、勝手なものです。己が意に反する神は邪神、邪神は滅ぶべし、なんて団結して討伐しようとしますから手に負えません。

 あ、信託なんてやめて下さいよ、我こそが神の使い、正義で在る。何て言い出しますから、放置が本来なら一番いいんじゃないですか?その程度で考える事をお勧めします」


 一般的な人族の思考を早口で捲し立てる渉。人って理不尽なんですよと言ってくる。


「その程度で良いのか?」


「その程度が丁度いいのです」


 再び考え込む男神に対し、渉は答えのない答えだと言ってくる。前任の神もほとほと手を焼いていただろう。

 神々が考え、行き着く先にある今回の仕組みについて、さらっと説明してくる。


「だからって訳でも無いでしょうが、新任の神様程良く悩むんですよ。『争いを少しでも減らす為にどうするべきか?』前任の神さまも考え抜いたでしょうね。ゆえに魔王魔王軍の仕組みを実行しようとしたんでしょう。

 人族は自分と違う存在や理解出来ないことを恐れます、共通の敵が存在する事で団結もします。人族から争いを一時的に無くす手段としては、最善策でもあり、苦肉の策でもありますが、増えすぎた人族を抑制する。そんな事も考えられたある意味良くできた仕組みです。

 ただ、魔王だったり魔族だったり、そんな命をぞんざいに扱う仕組みではあるので、俺はあまり共感できません。

 この世界の場合は、どこかの世界を参考にでもしたんでしょう。行き着く先に神々が辿り着く考えではありますが、良くも悪くもある仕組みです。

 ただ、身勝手な人族ではありますが、彼のような存在もまた在る。別方向から見れば、それもまた身勝手行動ではありますがね」


「であるか…」


「で、あります」


 人族を是正するために、魔族を生みだし争いをさせる。渉の言う通り、どちらの命も粗末にしている。

 神として創り出した存在を大事にしていないのである。人族や魔族から見れば、確かに邪悪な存在なのかもしれない。

 だが、俊三のように他者を思いやる気持ちの結果、今回の行動についてはどうだろう?神から見ればそれもまた身勝手ではあるが…。

 

 男神は一考する。


 ふと気が付けば少し暗い雰囲気、重い空気であった。そんな空気を換えるべく男神は雰囲気を変えて渉に話し掛ける。


「で、お主はここに何用で来たのだ?此奴は死んでしまったぞ」


「ああ、まだ言ってませんでしたね。ここに来たのは彼の魂を日本へ連れて帰り、輪廻の輪に戻す為に来ました。彼の行動は予測出来ましたから」


「それで魂のみを連れて帰るのか、それは異界の神の意向か?」


「私の意向ですが神々の了承は得ています。立場は違えど世界を救った勇者…苦労した分報われてもいいのではないかと。元の世界で転生して幸せになって貰う予定です」


「しかしな、英雄の魂を持つものは、再び英雄として招かれるぞ。大丈夫なのか?」


 そう、集団で召喚される人達より、単独で召喚される者はそのきが違っているのだ。


「それに、元の世界に戻るということは、此奴の愛したという人物とは一緒に成れまいて」


 俊三が愛した人物、聖女とは違う世界で転生してしまうのではないか?そんな心配をしてくれる男神。


「あ、そこは大丈夫です。元々彼女は私たちの世界からの転生者でしたから、前任の神様に交渉してその魂は確保してもらってます。幸いというべきか彼女も聖女、英雄の器でしたので転生してませんでした。なので、元の世界に戻る時、一緒に連れていけるよう手配済みです、安心して下さい。縁が有れば再び出会うでしょう」


 もともと魂の波長が合う、というべきなのか二人が惹かれあったのは当然で、必然だったという渉。

 用意周到な渉と、いつの間に手を貸したのか、自分の姉に対し困り顔になる男神。まあ、女神は人族の愛に弱いから仕方ない、とも考えていた。


「それに今回に限り、出来るだけ早く転生してもらう予定です。英雄の早期転生は、英雄足る力の根源が不足しますから、普通の人生を歩めるんじゃないでしょうか?」


「なるほどのぉ」


「輪廻を管理する強面で髭面のおっさ…管理者とは知り合いなので、彼が気に入ってる酒でも持って交渉します。最終的にはうちの神々に脅s、お願いしてもらいますから大丈夫でしょう」


 管理者に対し、非常に失礼な発言である。が、そろそろシリアス展開はご遠慮いただきたい。

 

 そんな話の合間、渉はどこかに手を入れる仕草をすると、透明な球体を取り出す。球体の中には弱々しいが、それでもうっすらと光る粒子が舞う。渉は男神にそれを掲げて見せた。


(本当に無茶をする。霞となって消える前に回収出来て良かった。次の人生では幸せを)


 幸せを願いながら、渉はその手の平の上で輝く粒子を見つめる。

 俊三のが生命活動を終える。ふわりと抜け出した灯は光を失い砕ける。砕けたそれが霞となり消滅してしまう刹那、渉はそれを回収した。

 バラバラにはなった。が、弱々しくともまだうっすらと輝きが残っていた。


 魂の残滓。

 

 その輝きは砕けた瞬間より、ほんの少しだが光を取り戻している。

 砕けた魂を包み込むそれは、異世界で亡くなった者の魂を運ぶ力、砕けた魂を一つの灯に戻す力。渉の能力の一つであった。

 

 しばし光を見つめた後、渉は話を切り替えるように男神に問いかける。


「あ、亡骸はこちらで弔いましょうか?」


「いいや、此奴の亡骸は我が


「ふむ」


 少し意味深な言い方に渉が考えていると、にやりと悪い顔をしながら男神は己が考えを告げてくる。


「魂と此奴が持っていたアイテムを持って行くが良い。此奴の魔力残滓がもうすぐ消える。本人の魔力跡が無くなれば収納からアイテムが出てくるであろう、が邪魔だ。回収して行け」


 さて、どれ程のアイテムが出てくるのか。そんな事を考えながらも、目の前で急にニヤニヤしだした男神に対し、すこしムカついてきた渉。

 さっさと続きを言え、とばかりに渉の顔は物語っていたが、一向に話し出さない男神にイラつきながら尋ねる。


「で、その亡骸どうすんですか?」


「そうだな、此奴の亡骸で次の魔王でも造ってみるのも一興かと思ってな、しばし研究する事になるな。

 そうなると、次に魔王軍を送る事になるのはを超えるやもしれぬなぁ、もしかすると人族が平和な期間は完成出来ぬかもしれぬ。

 なぁーに、神である我に取っては瞬きの如き時間だ、ゆっくりと研究しようではないか」


「随分粋な計らいですね」


「粋であろう?」


 俊三とのやり取りできっぱり断った手前、これは悪まで悪巧みである。と言わんばかりの悪い顔だ。

 だが、知っている人は知っている。素直に言えない男神、ただのツンデレである。(もっとも男神の照れ顔やツン口調など要らない。そして、さようならシリアス君)

 願いを聞き入れる、と非常に遠回しな言い方で渉に言っているである。


 俊三の願いの通り、最低でも300年は手出ししないと。


 だが、そんな男神に少しイラついた渉は、『粋』という嫌味を使った返事をしたところ、男神様『粋』については余り理解していないのかそのまま返してくる。


 男神、自分の中ではナイスな回答である。


 どちらともなく笑い出す一柱と1人。

 ふと思い出したように男神が、渉に告げる。「暫し待て」と、言い残し姿を消すと、再び現れたその手には瓶を持っていた。それを渉に手渡す。しっかりと栓がしてある、その瓶を見つめながら渉が男神に聞く。


「これは?」


「それは我が気に入っているこの世界の酒だ。神である我が気に入った酒である。きっとその管理者とやらも気に入るであろう。だ、文句は言うまいて」


 要は、神である我の頼みでもあるから言う事聞いてくれるよな?聴いてくれるな!?、という脅しである。いくら他世界と云えど神の願いである。


 管理者ご愁傷様。


 互いにとてもいい顔(悪い顔ともいう)をしながら、にやりと笑いあう。


「わかりました、よ~~~~~~く言って聞かせますのでお任せあれ!」


 男神に別れを告げ、去って行く渉。帰り際、女神のところに顔を出し、彼女を連れ帰ることも忘れない。

 だがその顔は非常に悪い笑顔を浮かべている。







 お覚悟はよろしくて?























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