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「ありがとうございます。殿下におかれましも、三属性を賜ったこと誠におめでとうございます。私も空間属性を賜ったことには、驚きを隠せません。私は修練を怠らず、賜った四属性を極め、貴族の義務を果たしていきたい所存であります。」






 下手に殿下のことをほめると、逆に、嫌味と取られてしまう可能性があるから抑えめにした。あとはこの力は、人のために使いますよという風に流した。大丈夫かな?






「アース・サンドール様は、謙虚なのですね。同じ複数属性持ちとして、頑張りましょう。」





「もったいない、お言葉でございます。」







するとこれを皮切りに、他の子供たちからの俺に対するよいしょが始まった。



空間属性とはすばらしい、といった能力をほめる言葉や、ぜひ我が家に遊びに来てほしいという誘いや、お茶にお誘いしてもいいかという誘い、そしてお友達にならせてください、などといった、コネクション作りの誘いが多数であった。


 






 おい、お前ら。ここには殿下がいらっしゃるんだぞ。殿下を無視して、俺をよいしょするな、と言ってやりたい。









すると、



「空間属性なんて、戦闘で使えないじゃないか。」




という大きな声が、聞こえてきた。




 なぜいきなり戦闘の話になる? と、聞き返したいところをぐっと我慢して、声がした方を向くと、そこには双子の片割れ、確か兄の方がいた。







「魔法で強化して、殴った方が早いだろう?」




 




うーん、物騒だな。お前は戦闘狂か? それとも、脳筋か?






すると、弟が間に割って入ってきた。


「やめなよ、兄さん。アース・サンドール様が困ってらっしゃるだろう? 本当に、戦いのことしか考えてないんだから。」




 


あー、戦闘狂ね。あとは、脳筋も含んでいるかもしれない。





「空間属性は戦闘には不向きかもしれないけど、便利な属性だと思うよ。」




ちくりっ。弟の方の言葉に少し違和感を覚えた。確かに、空間属性と聞いて、俺が思い浮かんだのは、アイテムボックスや転移である。確かに、荷物も持たなくていいし、お尻が痛くなる馬車での移動もしなくていい。



でもさ、まるで物扱いみたいだな。「便利」なんて言葉を聞くと……。便利という言葉を使う人に悪意はないかもしれない、けど……。


もし、国や教会、はたまた他の人に囲われたら、まるでタクシーのような扱いを受けるのだろうか。ニックネームが「便利屋」とかになったりして……。



少し憂鬱な気分になってきた。帰りたいな……。










すると、透き通った声が聞こえてきた。








「ヒトやモノの移動の制限をなくすことができるなんて、すごいことだと私は思う。例えば、輸出入の壁を取り払うことができる、医者をすぐに手配できる、災害時の救助や支援を円滑に行うことができる。そして何よりも、家族や友人、恋人といった大切な人のもとへと、すぐに駆け付けることができる。私は、これほどまで、優しい力を他に知らないな。だから、便利などという言葉で簡単に片づけていい力ではない、と思う。私もまだまだ未熟ものだが、自分のこの力で国に貢献したいと思っている。皆も自身の力を、人のために使えるように頑張ろうな」、と。












 ーー
















 人の心が動くことなんてめったにないと思っていた。俺は生まれて初めて、自分の心が動いたような気がした。人は、こういう人についていきたいと思うのかな。あー、やばい涙が出そうだ。子供の涙腺が弱いからな……。





「……第三王子殿下、ありがとうございます。」








 これが今の俺の精一杯の言葉だった。




















 ーー


















 それから、記念パーティーは終了を迎えた。俺たちは、馬車で帰路についている。




 


「今日は楽しかったかしら」と、母上が微笑みながら聞いてきた。


「はい、母上。楽しかったですし、自分の力と向き合う覚悟ができたような気がします。」




「そう、よかったわ。」


「アースが楽しんでくれたなら何よりだ」と、父上は俺の頭をなでてくれた。





俺がそう思えるのは、あの第三王子のおかげなんですよ。





また、話してみたいな。だけど相手は王族だ、そう簡単にはいかないだろうな……。

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