六月


六月一日(火) 学校をやめる?

 単刀直入に書くと、朝、母に、学校やめたら?って言われた。答えは(答えられないけど)、やめたくない。ちょっとよく分からなくて、Y先生に相談した。チャットでたくさん話した。明日から通常授業だ。熱は下がるのか。そして行けるのか。


六月二日(水) 行けない

 熱はあった。もう六日も続いている。だから内科に行った。レントゲンからPCR検査までしてくれた。陰性だった。ただの風邪かあ。いっそ陽性が良かった。


六月三日(木) 行けない二

 やっぱり熱が下がらない。ずっと寝ていた。弟が帰ってきて、去年の担任の先生(今は弟の担任)が体調不良で一か月休むニュースを運んできた。今の自分と同じ状況なのかなと思ったら、とてつもなく心配になった。話したい。今ならたくさん話せるんじゃないかな。今の先生は忙しすぎる。将来先生になったら、そんな制度は変えてみせる。

 明日、Y先生と話すことになった。本当は研究室で話す予定だけど、meetでもいいそうだ。どっちでもいい。助けてもらおう。


六月四日(金) 行けない三

 日に日に熱が上がっている気がする。薬は効いてないのかな。まあ、それでもいいか。

 放課後(と言っても私には関係ない)、昨日の予定通り三十分ぐらいmeetでY先生と話した。たわいのない話だったけど、黙っている時間の方が多かった気がする。文鳥の銀ちゃんがキーボードに乗ってきて話しにくかった。先生に、土日に何かして、話題を作ってきてねと言われた。月曜日もまた話をする。学校で…だといいんだけど。


六月七日(月) 行けない四

 この題名、あと何回続くんだろう。「行けない」じゃなくて、「行かない」なような気がする。何日外に行っていないのかも分からない。ずっと家にいる。朝、先生から学校に誘われたけど、熱で断念した。だからまたmeetで先生と話した。今度はちゃんとたくさん話せたと思う。


六月八日(火) ついに行く

 今日の日記は長くなりそうだ。朝、Y先生の研究室に行くことにした。電車では本をずっと読んでいた。ゆっくり、と言っても九時に家を出たけど、いつもよりゆっくり行った。目的は、こんにちはって言うこと。久しぶりに先生と会えた。一時間ぐらい筆談して、そのあとこんにちはを言おうとしたけど出てこなかった。あーあ。そこで泣いてしまったのが悪かった。どうして声が出ないんだろう。永遠の謎だ。昼も食べずに、五時間目が始まるまで研究室にいた。それから帰れなかった。階段を下りられなかった。下りられなくて、怖くなって、家族に助けを求めた。先生が授業に行った途端に、大きい学校で一人になった気がした。たくさん泣いて、学年の先生に来てもらうように父に頼んでもらった。

 まあ、久しぶりに学校に行けて…よかったのかな。


六月九日(水) 電話

 昨日の夜に、先生に電話することを思いついた。それから、普通にメールして、今日の十時ぐらいからいいよということだった。でも、なかなか電話できなくて十一時になってしまった。まあ、そこでメールして勇気が出たので電話できた。三十分も電話していた。こんにちはもさようならも練習できたからよかった。

 午後からはmeetで話した。吃音の子の本の話だ。吃音だったら、つっかえても声が出るだけいいのに、って本音を書いたら、練習しようねって返された。かわされた気がする。これだけ練習してもできないから言ってるのに、と思った。


六月十日(木) 中間テスト一日目

 昨日から憂鬱だった。テストなんてやりたくない。授業を受けていないことが本当に表に出てくる。じゃあ授業に出ればいいのに。もう嫌だ。学校に本当に置いて行かれている。心がぐちゃぐちゃだ。家出したい。スモールステップなんて嫌だ。


六月十一日(金) 中間テスト二日目

 先生に欠席のメールをするのも大変だった。けど、「テストのことは忘れよう」と返事が来たので、何かあるのかなと思ってそれからは落ち着いた。放課後に話すことも決めた。

 放課後、ケーキを食べたとか、普通の話をしていたら、いきなり先生が話し出した。テストのことは忘れて、そのあとの授業の日に来ることを目標にしようということだった。月曜日も火曜日も休むことになる。でも、その分の支援は用意してもらえているらしい。優しい学校だな。


六月十四日(月) 中間テスト三日目

 今日は朝から穏やかに過ごした。九時から一時まで昼寝もした。放課後に話す時間も、土日のことを先生と楽しく話した。これも明日で最後になるはず。


六月十五日(火) 中間テスト四日目

 何をしたか思い出せない。きっと、何もしていなかったんだろう。理不尽にいきなり母に怒られた。先生にも友達にも、明日行くって宣言してしまったのに、これじゃあ行けそうにない。


六月十六日(水) 家出

 家出したい。近くの交番まででもいい。とりあえず、家族に、追い詰められていることを示したい。そんな勇気はないと思うけど。明日は学校に行けるはず。


六月十七日(木) さようなら

 ついに…!さようならって言える日が来た。いや、「聞いてもらえる日が」来た。昨日のみずがめ座の運勢が星五つだったからだ。あ、学校には一日行けた。授業は一つも出てないけど。それでいい。目標は道に迷わないことと、教室を間違えないことだったから。教室でごはんも食べたし、今日はまあ上出来だったと思う。なぜか、教室は怖くない気がする。これも、スモールステップの影響かな。


六月十八日(金) 休み

 昨日の疲れがまだ残っている。朝起きられなかった。検尿も、また次の機会になったのかな。


六月二十一日(月) 外国人の先生

 今日は三時間目から行けた。今日の出来事は、Y先生の研究室の前で立ち尽くしていたら、隣の外国人の先生に助けてもらったこと。けん玉を一緒にした。英語で筆談もした。これでまた居場所が増えたと思う。でも帰るのはすごく遅くなってしまった(けどいい)。


六月二十二日(火) 放課後登校

 これは初めてのことで、放課後に登校した。朝から行ける自信がなかった。そして午後はY先生に授業がある。だから少しだけ、放課後に登校した。昨日の外国人の先生にけん玉を見せに行った。まあ、休んではいない。


六月二十三日(水) 久しぶりの授業

 今日の目標は体育の見学に行くこと。一回か二回ぐらい、達成できないかと思われたときがあったけど、最終的には行くことができた。学校まで遠いから、元気をためておいてもどんどん逃げてしまう。三時間目から行ったけど、五時間目の体育まで元気が持たなかった。

 三日連続、一日中行けたら、次のステップに行くってY先生は言っていた。明日からも、続けていきたい。


六月二十四日(木) 実験

 朝起きることが今日の目標だった。でも、それ以上にできたことがある。実験は見学の予定だったけど、自分の席まで行ってきた。疲れたー。これを書いている途中に寝てしまった。なので今日はこれぐらいにしておこう。


六月二十五日(金) 頑張った一週間

 一週間、と題名にはあるけど、今日は欠席した。朝から行くことが目標だったけど、無理だった。久しぶりにいろんなことに挑戦した一週間だった。


六月二十八日(月) 自然科学部ミーティング

 今日は朝から行けた。歴史の授業にも出た。お昼を挟んで、講習会も聞けた。でも、本当に楽しかったのはここからだ。

 自然科学部のミーティングに行って来た。行く前から、同じクラスの同じ部活で集まって雑談していた。そこで新しく友達ができて嬉しい。やっぱり高専だから、みんなすごく個性的で面白い。自分もだけど。もう分かっている通り、自己紹介は黒板に書いてした。黒板に書けるから、クイズが出せた。先輩も考えてくれた。二か月間、何もしていなかったけど、ようやく正式に入部した。これから楽しくなりそうだ。


六月二十九日(火) M先生

 朝から走って電車に乗った。遅れていたから。それからいろんな先生のところを回った。昼休みに、昨日と同じミーティングのつもりで階段教室に行ったけど、誰もいなかった。先生に緊急会議ができたらしい。普段外であまり携帯を見ないから、気づかなかった。それが悪かった。パニックになって、そのあとも動けないまま、突っ立って、助けを待っていた。背中を押してもらったけど、授業には行けなかった。歴史の先生の研究室に行って、隣の先生とクイズを解いてもらった。それがM先生だ。そして次の時間はM先生と哲学した。楽しかった。倫理の先生だから、哲学で盛り上がった。いい時間だったと思う。


六月三十日(水) 体育

 体育のバドミントンが終わった。みんなと一緒にしたかった。だってすごく楽しそうにしてるから。悔しかった。泣いてしまった。いや、みんなと一緒にしたいことを分かってもらうために泣いたんだと思う。次の水泳から参加できたらおいでって、体育の先生に言ってもらった。そしてY先生に会いに行ったらいなかった。最近よくパニックになる。疲れているんだろう。

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