昨日見た夢の話 「脱出ゲームと殺人鬼」


ここはどこだ?起きたばかりで頭が痛くなる。

僕は確か、仕事帰り道に後ろから誰かに襲われ気を失った。


僕は誰で、何者なのか。

それさえ忘れてしまった。頭が痛いせいだ。


周りを見渡してみる。

一番最初に目に入ってきたのは、小さめのキッチン。そして、小さなローテーブル。

本がぎっしりと詰まった本棚に、ごく普通の閉じられたクローゼット。そしてドアが2つ。

どこにでもある普通の一人暮らしに適してる家だ。見知らぬ家なのにどこか懐かしいような部屋は、居心地が悪かった。

整理整頓されているため、音ひとつ聞こえないその部屋に、僕は不気味な雰囲気を感じ、すぐさま玄関らしき扉のドアノブに手をかけた。

しかし、ドアは開かなかった。どうやっても。


ローテーブルに手紙とコピー用紙、そしてペンが置いてあった。

手紙には「悪魔へ」と書かれていた。

僕は僕の名前を思い出せないし僕は悪魔じゃないが、今はその手紙を見る他することがなかった。

恐怖と混乱と不気味さを感じながらその手紙を開いた。

すると、真っ白な紙の真ん中にこう書かれていた。






脱出ゲームへようこそ

謎を解いて脱出せよ







書いてある言葉の意味を咀嚼するには時間がかかった。

脱出ゲーム?脱出ゲームってあの脱出ゲームか?部屋に閉じ込められて、いろんな仕掛けや謎を解きながら、閉じ込められた部屋から脱出するみたいな、そう言う脱出ゲーム?

どうやらとんでもなく狂った状況に巻き込まれているかもしれない。

人違い、では無さそうだ。

僕が拉致されてこの部屋に来るまで、緻密に計画されていることが手に取るようにわかる。そんなやつが人違いをするわけがない。


脱出ゲームは得意だった。

僕の趣味はリアル脱出ゲームに行くこと。

状況が状況だからいつも通りとはいかないが、やってみるしかない。脱出成功した暁にはどうなってしまうのか。この状況を生み出した犯人は何が目的なのか、そして誰なのか。

全く検討もつかないまま脱出ゲームをすることになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



脱出成功するには、手順がある。まず、探索。

基本は隅から隅まで隈無く探索をして、アイテムを集める。

まず部屋の探索がてら、色々なところを触り、その様子をメモ用紙に記入し、整理する。


玄関らしきドアを含め3つのドアは開かなかった。

ドアの先は恐らく、寝室かお風呂かトイレ、そう予想しよう。

では、メモ用紙にはこう書こう。


○ 3つのドア


キッチンにはコンロにお鍋が置いてある。中にはシチューらしきものが1人前、入っていた。


○ キッチンのシチュー


キッチンの隣にある小さな窓は、完全に締め切られており、開けることは出来ない。

耳を澄ますと、ピアノの音がかすかに聞こえる。これは、ピアノソナタ「月光」?


○ 窓からピアノソナタ月光


クローゼットを開けると、そこには、服が何着かかかっていた。

そのうちの何着かが、ビリビリに敗れていた。


○ ビリビリに敗れた服


本棚をよく見ると、表紙に「ゆりかアルバム」と書かれたアルバムがあった。

アルバムの他には、上段に少女漫画がずらりと並べられていて、下段には暗いタイトルの小説ばかりが並べられていた。

そして、本棚の上には折り紙で出来た折り鶴と額縁に飾られている平仮名の「う」。

折り鶴にされている紙には、小さい文字で何かが書かれていた。やけに本格的だな。


○ 本棚にはアルバム、少女漫画、小説、折り鶴(なにか書かれている?) 平仮名の「う」


さて、探索は一通り終わった。探索が終わったらこれから謎を解く段階に入る。


僕は少女漫画のラベルや小説のラベルを一通り見た。

特に変なところは何も無かったので、アルバムに手を伸ばす。


1ページ目を開くとそこには幼稚園くらいの女の子の写真。

楽しそうに公園の滑り台を滑っている。微笑ましい。

写真の下には「ゆりか初めての滑り台」と書かれていた。この子がゆりかちゃんということか?


2ページ目には、お父さんらしき人とお母さんらしき人に挟まれた女の子の写真。

写っている看板には中学校卒業と書かれている。女の子は笑顔である。

1ページ目の女の子と顔がよく似ているため、この子もゆりかちゃんと推理した。

このアルバムはゆりかちゃんの成長過程を写真にしたアルバムだろうか?


3ページ目にも4ページ目にもゆりかちゃんらしき女の子の楽しそうな写真が並んでいた。

3ページ目には運動会、4ページ目には高校卒業、5ページ目には成人式。


そして、6ページ目にはゆりかちゃんを含む、これまた楽しそうな女の人が6人映っていた。

真ん中には赤いドレスをまとった女の人、それを囲むように小綺麗なドレスをまとった女の人が5人。

結婚式の集合写真だろうか?

無意識に、ゆりかちゃんはどこにいるかと探してしまう。

どうやら、結婚式の主人公では無さそうだ。ゆりかちゃんは右から二番目にいた。

ピンクのスカートに白のトップス、手にはパールのブレスレット、おっとよく見るとピアスも指輪もパールだった。

「友達の結婚式に参加した写真」かあ。楽しそうだ。

このアルバムを見ていると、自分の置かれている状況を忘れて笑顔になってしまう。


そして、次のページをめくるとそこにあったのは写真ではなかった。

何も無いページかと一瞬思ったが、よく見ると人型の形に凹んでいた。

不思議に思い触ってみたが、他のページと同じような紙質で他に変わったことは無かった。

不思議に思いながらも次のページをめくると、次は本のページが蓋になっているような箱だった。

アルバム自体を振ってみるとガサガサと音がした。

ページをめくるようにしてその箱を開けてみると、

様々な服や足や手や人間の顔がパズルのピースようにバラバラに置いてあった。

そのピースの一つ一つの大きさを見ると、前のページの人型の凹みに嵌めることが出来そうだ。なるほど、これが第1の謎か。


ピースを箱の中から全て出し、床に広げた。ピースは様々なものがあった。


青、白、ピンクのスカート

黒、緑、赤のトップス

指輪とブレスレットをつけている手、両方つけていない手、指輪だけつけている手

笑顔の女の子の顔、真顔の女の子の顔、悲しい女の子の顔


ここでふと閃いた。これは、ゆりかちゃんが結婚式に着ていた服をはめれば謎が解けるのではないかと。

確か、スカートはピンクだったのでピンクをはめてみる。ぴったりはまった。

トップスは白なので白トップスのピース、それと指輪とブレスレットをつけている手をはめる。

最後、女の子の表情だ。写真に写っているゆりかちゃんは、笑っていた。なので、笑顔の女の子の顔をはめてみる。

…何も起こらない


間違っているのか?もう一度、結婚式の写真を見ると、ゆりかちゃんはちゃんと笑っていた。おかしい。

顔以外正解している自信があるので、顔を順番にはめることにした。まずは真顔。

…何も起こらない


最後残った悲しい顔をはめてみる。

はめた瞬間、女の子の身体から赤いものが滲んできた。血、、か?

あまりの唐突さに僕は小さな悲鳴をあげアルバムを放り投げた。すると、キッチンからコンロに火がつく音がした。

ちっちっと音が何回かしたあと、キッチンのコンロから火が見えた。火が、着いた…?


どうやら、第1の謎は解けたらしい。悲しい顔が正解だったみたいだ。悲しい顔をはめた瞬間、アルバムは血に染まりコンロに火がついた。まだ俺の心臓はドキドキしている。


整理できない状況に僕は数分動けないでいた。

やっと落ち着いた僕は、キッチンに行き火がついたところを見る。さっきシチュー入りの鍋が置いてあった下に火がつき、シチューが温められていた。

よく見ると、キッチンの鍋の横にはスプーンまで置いてあった。食べろってことか?


正直、ずっと混乱しっぱなしでお腹がすいていた。空腹には我慢できず、毒など入ってないか匂いを確認しながら、シチューをスプーンで掬って食べてみた。

うん、とても美味しい。少しの安心感に涙が出そうになりながら、シチューにがっつく。

ガギッ シチューを食べていたら何かを噛んだみたいだ。シチューの中になにか入ってたのか?固いものを口から出してみる。

口に入っていたのは小さな鍵のようなものだった。危ない。

飲み込んだら永遠に脱出できなくなる所だった。


なんの鍵かは分からないが、その鍵を3つのドアに順番にはめていく。

するとひとつのドアがカチャと音を鳴らし開いた。ゆっくりとドアの中に入っていく。

そのドアの中はお風呂とトイレ両方あるタイプの部屋だった。

ピンクのマットが敷いてある何の変哲もないトイレ。その横にはカーテンで仕切られた湯船があった。

便座の上に長細い箱がある。その箱を裏返してみると、バービードールのような女の子の人形が鍵付きの箱に入ってた。

可愛らしいワンピースを来たその人形はどこか不気味だった。

隅から隅まで調べたが、他に役に立ちそうなアイテムは特になく、次にとく謎はどうやらこの人形入りの箱のようだ。

箱を開けるための鍵は、特定の4文字の平仮名だった。

まてよ?ひらがな?

ひらがなと言えば、さっき、額縁に入ったひらがなの「う」を見つけたな。

もしかしたら見つけてないだけで、他にもこの部屋にひらがなが隠されているのかもしれない。

俺はもう1回探索をやり直すことにした。今度は入念に。

すると、キッチンの棚の扉の裏に「ぜ」、天井に「ぼ」、ローテーブルの裏に「つ」を見つけることが出来た。

「ぜ」「ぼ」「つ」「う」

何を指しているのか分からないが、とりあえず見つけた順番で箱に打ち込んでいく。…開かない。

まてよ。これは。


「ぜ」「つ」「ぼ」「う」と箱に打ち込むと、その箱はカチと小さな音を立てて、開いた。


その中の人形を取り出すと、人形の裏に「あの日と同じ状態にしろ」と書かれていた。


その時僕の頭の中に、映画のワンショットのような断片的な映像が流れてきた。

それは、まるで僕が、女の子をレイプしているような映像だった。

その女の子は、アルバムで見た白いトップスにピンクのスカートを着ていて、顔は「絶望」の顔をしていた。


記憶が戻ってきているのだろうか?

僕はぼんやりとした記憶を頼りに、メモに使っていたペンで人形に穴を開けていく。

確か、あの子は目に怪我をしていたな。

そして、心にも怪我を負ったはずだ。

目と心臓に小さな穴を開けた瞬間、どこからか鍵が開く音がした。


鍵がかかっているドアはあと2つ。脱出ゲームにおいて、玄関は最後の扉だ。

ということは、消去法でもう一つのドアが開いているはず。

俺はそっともうひとつのドアのドアノブを回し、開いたのを確認すると部屋に入る。


部屋の中はベットがひとつと間接照明がひとつとピアノが1台置かれていた。

とても質素な部屋だった。

そっとピアノに手を伸ばす。

ピアノカバーの下にはこう、書かれていた。


「あの日を全て思い出せ」



僕は無意識にピアノソナタ「月光」を弾いていた。

あの時のゆりかちゃんの肌の感触、

服が破れる音、ゆりかちゃんの叫び声、


何もかも思い出した。そうだ俺は、犯罪者だった。

レイプしたあの時、ピアノソナタ月光を流していたことも、友達の結婚式帰りのゆりかちゃんを待ち伏せして襲ったことも、

俺がゆりかちゃんのこと好きだったことも。



ああ…最高だ。



最後の音を奏でると、ガチャと大きな音がした。

僕はゆっくりと玄関に向かう。

ドアの先には、僕がレイプをしてから殺した女の子が片目でじっとこちらを見て待っていた。


死んだはずの君がここにいる理由はただ一つ。

俺も死んだのだな。

この脱出ゲームは僕の「罪」そのものだったのか。


なるほど、ここは地獄か。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

昨日見た夢の話 夜に書くアルファベット @yokiyomi81

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ