第21話 東条綾音が接触してきた話

 デートとは、異性であるもの同士が仲良く、楽しく過ごす時間のことを言うと俺は思っている。例外もあるかもしれないが、基本的なイメージはこれであっているはずだ。


「まさか、俺が「デート」と言うものを経験するチャンスが来るなんて…」


 カフェで学、杏奈に相談した俺は、今週の金曜日、疑似デートというものをすることになった。


「はぁ〜なんだよ、疑似デートって、もうデートじゃん」


 相談を終え、解散した俺は、近くの公園のベンチで頭の中を整理していた。だが、正直、俺は少し嬉しかったりする。


 このところ、高校生らしい生活をしておらず、学級裁判などで忙しかったこともあり、高校生らしいことをできずにいた。だから、このデート、実は楽しみだったりする。


 ほら高校生といえば、やはり、友達と遊びに行ったりと、これこそ醍醐味…いや、これこそが本命と言ってもいいだろう。そしてそれはデートも同じだ。


「そうだ!!俺は今!!充実した高校生活を送れているんだ!!」


 そう、これこそ俺が求めていたもの。気にせず、デートというものを楽しもう。どうせ、俺にはこの3年間という、短い時間しかないのだから。


「どうせなら、私服も拘った方がいいか?いや、逆にシンプルの方が…」


 そう悩んでいると、トントンっと足音が後ろから聞こえる。


「うん?」


 俺は後ろを振り返ると、にっこりと笑うBクラスの東条さんが俺を見つめていた。


「こんなところで何をしているの?」


「………あっ、東条さんか」


「ふふ。そんな警戒しないでよ。悲しくなちゃう」


「別に警戒はしてないけど…なに?何かよう?」


 Bクラスの東条さんの接触、これは意図的と見るべきか。いや、でも表情筋や仕草を見る限りは、意図的ではなさそう。つまり、これは偶然。


「べ、別に用があるわけじゃないんだけどさぁ、見たことあるなぁ〜〜って、だから話しかけたの。ダメだったかな?」


「いや、全然いいよ。ただ、東条さんが話しかけてくるなんて、思いもしなかったから…」


「そう?私、結構いろんな人に話しかけるけど」


「そうなんだ」


「あっ、けど赤城くんは少し話しかけにくいなっては思ってる」


「話しかけにくい?」


 学と逆のことを言われる。けどそれは個人的な感想だ。俺の印象なんて人それぞれで違うし当たり前のことだ。ただ東条さんの言葉はそこら辺の生徒とはまるで違う意味で捉えることもできる。


「うん。なんていうのかな、雰囲気が少し、怖いんだよね。ほら、こうやって気兼ねなく喋っているけど、その笑顔に何か裏がありそうだな〜〜って」


「なるほど、俺ってそんなふうに思われていたのか」


「あっ!べ、別に私が個人的に思ってるだけだから、それにこうやって話してみると案外、普通だなって思ったし…」


 あたふたした様子を見せる東条にも、人情はあるらしい。


「ありがとう……って一つ聞いてもいいか?」


「何かな?」


「いつも隣にいる、真也くんはどうした?」


「あ〜〜、まぁいいか。私、今、大人しくしているようにって言われてるんだ。だから、情報が入ってこないように、今は……」


 なるほど、おそらく学級裁判に実質負けたことへの罰だろう。何かしらあるとは思っていたが、まさか、東条さんを……。頭がキレるリーダーだな。


「そうなんだ。なんか、気分を落とさせてごめん」


「全然いいだ。私が悪いわけだし、本当は私がBクラスを引っ張っていかないといけない立場なのに」


 思った以上にストレスを抱えてそうだが、Bクラスの東条さんも苦労しているんだな。


「そういえば、赤城くんはよく璃ちゃんと一緒にいるよね?どうして、一緒にいるのかな?」


「え?そうだな。特に理由はないし、一緒にいたくているわけじゃないからな〜〜」


「そうなんだ。けど、私から見たら、赤城くんが一緒にいたくているように見えたけどな」


「へぇ〜〜まぁ外から見たらそう見えるかもね。実際に教室では隣同士だし、話すことも多いしね」


「そうなんだ。じゃあ…」


 その言葉に続き、ボソリと呟いた。「知らないのか」っと、聞こえない声で呟いた。口の動きから、前の言葉を連想し、推測すれば、簡単だ。


「そろそろ、俺は帰るけど…」


「あ、じゃあ、私ももう帰るよ」


「そう、じゃあな」


「うん!!」


 そして俺はその場から寮に帰ろうとすると、その隣でついてくる東条さん。


「帰るんじゃないのか?」


「うん!!帰るよ……赤城くんの寮にね」


「………はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 俺の叫びはよく響いたと思う。けどそれぐらい驚いたのだ。


 俺の寮に東条さんが?しかも敵であるBクラスで、油断できない相手だぞ。やめた方がいい、絶対に断るべきだ。でも……。この笑顔、絶対に着いてくる。


「だって、気になるんだもん、いいでしょ?」


「東条さんってそんなキャラだっけ?」


「知ってる?女子には複数の顔があるんだよ。覚えておいて損はないよ!!」


「はぁ〜〜」


「と、いうわけで、行こうか?」


 そのまま俺は結局、東条さんを部屋に招きれることになった。


「へぇ〜〜ここが赤木くんの部屋かぁ〜〜なんか、何もないね」


「うるさいな。文句があるなら、帰ってくれ」


「え〜そんなこと言わないでよ」


 まるで子供のように動き回り、俺の部屋を漁る東条さん。そんな姿を眺める俺は、どうかしていると思った。


「ねぇねぇ、エロ本とかないの?」


「あるわけないだろう」


「え、でも普通の高校生はエロ本の一つや二つは持ってるものって聞いたけど」


「そ、そうなの?」


 普通の高校生ってエロ本の一つや二つは持っているものなのか?いや、でもそんなことは聞いたこともないし、いや、もしかしたら、羞恥心が邪魔して、世の中には広まっていないだけかもしれない。


 あり得る、あり得るぞ。男子高校生だってもう男だ。まさか、俺は、またミスをしたのか。


「けど、本当に何もないんだね」


「あんまり、買い物もしないからな。あっ東条さんは何飲む?」


「う〜ん。何があるの?」


「ココアとか紅茶とか、あとコーヒもあるけど」


「緑茶は?」


「りょ、緑茶!?まぁ、あるけど」


「じゃあ、それで!!」


「あ、わかった」


 緑茶かぁ、初めてだ。緑茶を頼む人。普通はココアとかコーヒーを頼む人が多いんだけど、緑茶かぁ〜〜。確かに、お茶の種類だったら俺も緑茶が好きだけど、女の子が緑茶って、なんか渋い。


「はい、緑茶」


「ありがとう、赤木くん」


 両手でコップを持って、そっと口に当てて飲む。


「ふぅ〜おいしい」


「それならよかった」


「これって、市販で売ってる茶葉じゃないよね?」


「まぁな、飲み物だけに関してはいろいろ種類があるんだよ。まぁ緑茶を頼む人がいるとは思わなかったけど…」


「なぁ!?いま、緑茶好きの人たちに喧嘩をうったな!!」


「うってねぇよ」


 小さな拳で叩かれる俺、別に痛くはないが、こうしてみると普通の女子高生に見える。これまた、高校生活の醍醐味かな。


「ねぇ、赤木くん、私の名前をよんで」


「はぁ、なんで俺が…」


「いいから!!」


 上目遣いで、頬を膨らませ、訴えてくる東条さん。なんか、東条さんらしくないような気がするけど……。


「と、東条さん?」


「うん。やっぱり…」


「やっぱりって何が?」


「璃ちゃんのことは呼び捨てで、私に対してさん付けなのがな、なんか気に食わない!!」


「はぁ〜」


 何を言っているんだ?東条さんは……。ってもしかして、さん付けのことか。


「そ、それがどうしたんだよ」


「うぅ…と、とにかく!!これから私のことをさん付けしないこと!!」


 なんか、こんなことが前にもあったような……気のせいか。でも、みんなさん付けを嫌うのはなんでだろう?


 他人行儀があまりよくないのかな?距離感を感じるとか、なるべくさん付けはしない方がよさそうだな。


「わ、わかったよ。東条……」


 すると、東条はギロっとした瞳で睨みつける。

 

 今度はなんだ。俺、何かしたか?


「苗字呼びってなんか……まぁいいかな」


「どうした?」


「うんうん、なんでもない」


 さっきのような圧は無くなり、一安心する俺。


 しかし、冷静に考えると、どうして東条が俺の部屋にいるんだ?普通に考えるなら何かしら目的があると思うのだけど、正直、接している感じはそんな素振りすら見えない。


 そのまま雑談を続けた。


「じゃあ、私帰るね」


「やっとかぁ」


「何その安心した顔、感じ悪いよ」


「俺は正直なんだ」


「そう、じゃあ、次会ったときは敵同士、お互いに頑張ろうね」


「そうだな」


 俺は玄関の前まで見送った。



 夜の帰り道、東条綾音は静かに夜道を歩く。


「こんなところ、先生に見つかったら、怒られちゃうな〜〜」


 今日は機嫌がよく、笑顔を絶やさない東条の姿。


「やっぱり、油断ならないな〜〜赤木くんは……。恐ろしい男…」


 東条から見た赤木くんは異質という言葉が一番しっくりときていた。だが、それを確認できたのは今日、接触できたおかげだ。


 まさか、あんな所で出会えるなんて思いにもしなかった。正直、緊張で心臓がバクバクだったけど、それをバレないように抑えて接近した。


「一条くんに教えるのには少し惜しいな…」


 きっとCクラスが勝てたのは赤木くんのおかげであるとほぼ確信ていた私。だけどその確信がどこからきていたのか、自分自身がわかっていなかった。けど、それは接触することで解決した。


「絶対に負けないから、璃ちゃん……絶対に」



 こうして日々は過ぎていき、金曜日を迎える。たくさんの人々の喜びの声や笑顔が飛び交う遊園地、俺は今、その遊園地の入り口の前で、心ウキウキにしながら、待っていた。


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