第18話 もしもの時の保険を…

 次の日の授業終わり、俺と北条が先にカフェに到着した。


「相葉さんはどうしたの?」


「遅れるってさ」


 明日が、最後の学級裁判……そう一號蓮也の行く末が決まる日だ。


「明日が、最後の学級裁判よ…」


「ああ、そうだな」


 顔を俯く北条。見るだけで自信を無くしていることがわかる。よく見ると目の下にうっすらとクマがあることから、相当悩んだんだな。


「北条はこの学級裁判、負けると思うか?」


「え……そうね。五分五分かしら」


「五分五分か、自信がないのか?」


「それはね、正直、いくら考えても勝てる手段が思いつかなかったんだもの。赤木くんは何か思いついたの?」


「ああ、そうだな。勝てる手段は用意したよ」


「……どういうこと?」


 これ以上、北条に考えさせるのも限界だ。時間もない以上、無駄に考えても時間を浪費するだけ、そろそろ俺の作戦を実行するとしよう。


「実は、一つだけ、いい作戦があるんだ」


「いい作戦?」


「ああ、といっても画期的でそれかつ、Cクラス、Bクラス、お互いにとって損失のない作戦がな」


 俺は自信満々のトーンで語り、北条にこの作戦に自信があることを思わせる。


「そんな都合のいい作戦があるの?とても信じられないわ」


 信じられないのも意味はない。だってこの作戦は北条が尽力を尽くしても学級裁判に勝てないと判断した時用に俺が考えておいた保険の作戦。まぁこうなることはわかっていたがな。


「俺の考えた作戦は、そもそも学級裁判を無かったことにしよう作戦だ」


「なかったことに?」


「今回の学級裁判はそもそも学校に学級裁判を申請したから、起きた事件だ。ならその申請を無かったことにすればいい。そうすれば、そもそも学級裁判はなかったことになる」


「そんなこと可能なの?」


「ああ、可能だよ。申請した本人が学級裁判の申請を取り消せばね」


「だけど学級裁判を申請したのはBクラスの有馬京介よ。彼がそんな簡単に申請を取り消すなんて……考えられないわ」


「大丈夫、それなら、相葉がなんとかしてくれているはずだから」


「赤木くん、まさか、最初っから、これが狙いだったのね…」


「俺だって保険は作っておくさ、それに北条だって保険を作るために、わざわざ有馬京介の人間事情を調べていたんだろ?」


 その言葉に北条は驚きの顔を見せる。


「な、なぜ赤木くんが、それを……」


「俺だって、気になることは調べたくなるたちでね。ちょっと調べただけだよ」


 2回目の学級裁判が始まる前、俺が相葉と接触している時、北条が何をしていたのか、それはもしもの時の保険を作るためだった。


 では、一体北条は何を保険にしようとしたのか、それは有馬京介の人間関係だ。振り返ってみてほしい、俺たちにとって一番不利の状況にる貶められている原因を……。


 それは一號蓮也の人間関係にある。一號蓮也の人間関係は最悪そのものだった。特に部活動内では誰もが、一號蓮也をよく思っていない。だから、今回の事件、証拠が不十分である以上、周りの人間関係から、調べるのが定石じょうせきだ。


 一號蓮也はその人間関係があまりにも酷すぎるがために「彼ならやりかねない」という固定概念が周りの生徒たちの思い込みとして強く出るんだ。それがそのまま事件の証拠として挙げられてしまう。


 だが、それあくまで一號蓮也をBクラス視点から見た場合の話だ。だが、穴はそこにあった。一號蓮也の風評はよくないものばかり、俺たちCクラスも何人かは「やりかねない」と思っているはずだ。


 だからこそ、俺たちは不利なんだ。みんなが共感できてしまうことを一號蓮也は持ってしまっている。だから。北条は調べたんだ、有馬京介の人間関係を……。


「北条、君がやったことは確かに、大きな切り札になりえたかもしれないけど、遅すぎた。そういうのは1回目が始まる前に用意しないといけない」


「それができたから、苦労しないわ」


「まぁ、そうだろうな。で、有馬京介を調べてどうだったんだ?」


「……そうね。あまりいい人間関係を持っていなかったわ。大きな情報といえば、彼は想像以上に一號くんを嫌っていたということだけ…」


「嫌っていたかぁ〜それは確かに大きな情報だな」


「ええ、でも2回目はそっち持っていけなかった。結局、無駄足だったわ…」


 確かにな、2回目の学級裁判で人間関係の問題に持っていけなかったのが大きな痛手だった。そのせいで北条の得た情報はやくに立たなくなってしまったのだから。


「やっぱり、赤木くん。あなたって何者?」


「ただの高校生だよ」


「ただの高校生が、裏で色々暗躍するかしら?私に黙って、相葉さんに頼み事もしたみたいだし…」


「……俺は言ったはずだよ。Cクラスのみんなには退学してほしくないってね」


「それは本心かしら?」


「疑うのか?」


「……そうね。疑わないし信じない」


「それがいい。俺と北条の関係はそんぐらいが一番いい…」


「あ、あの〜〜」


「お、来たな。相葉」


 俺の後ろから現れた相葉。これで全員揃ったし、本題に入るかな。


「はい!!来ました!!」


「それで、全員が揃ったことだし、話してもらうわよ、赤木くん。あなたの作戦をね…」


「ああ、相葉、しっかりとやってくれたか?」


「は、はい!!完璧です!!」


「そうか…」


「赤木くん、相葉さんに何をやらせたの?」


「うん?ああ、ちょっと仕込みをやらせてたんだよ。あと揺さぶりかな…」


「うん?」


「北条、明日の学級裁判が始まる前に有馬京介を現場に呼ぶ、そこで決着をつける」


「…有馬京介を現場に……それでどうするの?」


「そこを今から話すのさぁ、それにこれは北条の演技力にもかかってる。いいか、今から話すことは、他言無用だぞ」


 俺は考えた作戦の全てと、明日何をすべきなのかを北条に話した。


 この作戦がうまくいくかは全て北条にかかっている。俺では説得力がないし、相葉にはまず無理だ。それにBクラスはおそらく、北条を警戒しているはずだ。


 こうして話し合い、北条は全てを理解し、そして呆れた表情を見せる。


「よく、思いつくわね。こんな作戦……」


「はは、褒めるなよ」


「褒めてないわよ。けど、作戦はわかったわ、でもこれってもし相手が折れなかったら、どうするの?」


「その時は素直に負けを認めるしかないよ」


「かなり、いい加減ね」


「それぐらいこの作戦は奥の手なのさ。さぁ明日が勝負どころ、しっかりと今日は休もう!!」


「……そうね」


「あ、あれ?私って来た意味ありますか?」


「そういうことは気にしないの」


 ここで俺たちは解散。明日に備え、準備をすることになった。



ーBクラスー


 教室でただ一人、スマホの画面を見つめる一条隆元は笑う。


「ははははは、これはおもしれぇ。まさか、俺の存在に気づいている奴がいるなんてよぅ。いいぜ、今回は譲ってやるよ」


 スマホから寄せられる一件のメール。その内容にはこう書かれていた。


『お前がBクラスのリーダーだな。裏でコソコソするのは楽しいか?楽しいよな。だって上から見下ろす人間って滑稽で面白いだろうからな。お前の気持ち、よくわかるよ。でも今回の件は手を引け、さもないと、お前をその座から引きずり出してやるからな。賢いお前ならどう選択するかわかるよな?』


 挑発的な文章。俺はこの文を読んで、すぐにわかったね。こいつは俺と同類だって。だから、今回は見逃してやる。これは同類である俺からの慈悲だ。


「へへ、せいぜい楽しませてもらうぜ。名前のない同類さん…」


 悪魔のような笑みを浮かべる隆元。その笑みは喜びからなのか、面白さからなのかはわからないが、その真意を知るものは誰もいない。


「さて、とはいえ、あくまで俺は手を引くだけだ。綾音がどうするかは俺の知ったことじゃねぇ」



ー奏馬の部屋ー


 一件のメールを送り、ひとまず、やるべきことを終えた俺は、コーヒーを注ぐ。


「これで、今回の件からは身を引くだろう。けど、問題は東条だ。彼女も頭が切れるし、人間観察もうまい。もし、3回目の学級裁判が始まった場合、間違いなく負ける」


 だから、なんとしても、とBクラスにバレる前に俺たちの作戦を遂行しなくてはいけない。


「それにしても、相葉の才能には驚かされたな。世の中、いろんな才能があり、それを天才と称するの世の中の当たり前。だけど、あの才能ですら天才という言葉で括るなんて、この学校も狂ってるな。まぁ自分のいえたことではないけど…」


 片手に持つコーヒーをゆっくりと口の中に……。

 すると、スマホから一件の通知音がなる。確認すると、それは学校側からのメールだった。


「なんだ?」


 メール?しかも、学校側からの個人のメールだ。


「これは……」

 

 送られてきたメールの内容に俺は衝撃を受ける。


「一体何が目的だ、菊池先生……」 


 こうして1日は終わり、次の日、ついに最後の学級裁判の日が訪れた。



ーーーーーーーーーー


『公開情報』

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