第11話 広まっていた噂

 次の日、いつも通り学校に登校する。


 特に外の空気は変わりなく、満天な空が広がっている中、教室に入ると、少しだけ雰囲気がピリついていた。


「なんだ、この空気…」

「あっ!奏馬くん!!」


 教室に入るとすぐに杏奈が手を振って話しかける。


「ちょっと聞いてほしんだけど…」

「聞いてほしいこと?」

「そう、なんかへんな噂が流れてるんだけど、知ってる?」

「噂?」


 こんな大変な時にまた事件か。


「そう、その噂っていうのがね………っていう噂なの…」


「それて、噂なのか?」


「だよね。そういう反応すると思った。でも確かに聞いたんだよ」


「誰に聞いたんだ?噂って言うほどだから、偶然か?」


「うん。偶然、小耳に挟んだんだ。でもその時はただの「デタラメだよね」って流したんだけど、今日学校に来たら…」


 なるほど、だからこんなにピリついているのか。


 周りの生徒はどこか落ち着きがなく、ソワソワしている様子が窺える。

 それにしても、さすがに雰囲気に出過ぎじゃないか?


「ありがとう。教えてくれて…」


「うん。一様、クラスメイトだからね、伝えられてよかった」



 実に嘘くさいな。



「じゃあ…」

「うん!!」


 俺はそのまま自分の席に座る。


 そしていつも通り、授業が行われた。


 一號がいないこと以外は特に変わったこともなく、授業が進み、特に何事もなく平和に時間が過ぎていった。


 杏奈から知らされた噂は思ったよりも早く広がり、1学年には一瞬で知れ渡ったBクラスにとっては嬉しい話だろう。


 今回の噂がなぜBクラスにとって嬉しい話なのか、それはこの噂の信憑性に関係してくる。こちらにとっては嬉しい噂ではあるのだが、所詮は噂。さらにこの学校は頭がキレる者も多いから、噂という信憑性に欠けるものを信じないのだ。


 けど、この噂の発生源は一体どこなのか、調べる価値はあるかもしれない。もし、噂が本当なら、一気にこちらが有利になる可能性があるわけだし、とはいえ、北条がこの噂に可能性を見出すとは考えにくい。


 そして俺はさりげなく、北条に噂の話を持ちかける。


「聞いたか?例の噂…」


 俺は北条の表情や反応を観察しながら、様子を見た。


「ええ、聞いたわ。虫唾が走るほどにね」


 まぁ、あれだけ広まっていたんだ。

 いやでも耳には入る…。


「で、北条はどう思うんだ?」


 ほんの少しの間、北条は考える様子を見せ、すぐに口を開く。


「信憑性はないわ。どこから出た噂かもわからない以上、耳を傾ける必要性すら感じない…」


「まぁ、そうだよね」


 やっぱり、北条も同じ考えか…。

 やはり、自分で調べないといけないようだ。

 

「…ねぇ、赤木くん」


「なに?」


「たとえ信憑性のない噂でも、それが事実であることってあると思う?」


「そうだな。まぁあくまで噂は噂。信憑性以前に、その噂が一体どこから流れてきたのか、その事実を確認しない限り、信憑性なんてそもそもないと俺は考えるけど…」


「そう、ありがとう。喜びなさい赤木くん、今日やるべきことが決まったわ」


「今日もコンビニ調査か?」


「いいえ、違うわ」


 どうやら、前とは違う調査をするようだ。

 何をするのか、知らないが早めに終わればいいのだが……。


「噂の出どこよ」

「え…」


 俺と北条は授業後の放課後、噂の調査をすることになった。



 噂の調査のために、俺たちは噂のことを生徒たちに聞き回ることにする。


 CクラスからAクラス、手あたり次第に聞いて回ったが、みんな小耳に挟んだとしか返答しなかった。調査は苦難を強いられ、息詰まってしまった。

 

「全然ダメね…」


「ここまでみんなが同じ返答だと、気が狂いそうだ…」


 まだ調査して1時間しか経っていないのに、かなり精神的に辛い状況だ。さらには、全く進展がないときた、実に辛い。


 しかし、妙なのがみんな、同じ返答をしていることだ。


 「小耳に挟んだ」、さてそんなに小耳に挟むだろうか?


 確かに噂を聞いた際、このような発言をする人は多いが、さすがにここまで多いと違和感を覚えざるおえない。なら、みんなは一体、どこで小耳に挟んだのだろうか。


 必ずあるはずなんだ、聞いた場所が…。


 でも人間の記憶力は忘れやすく、そんな噂の聞いた場所なんて覚えているはずがない。

 

「とにかく、もう少し聞いてみましょう」

「そ、そうだな」


 果たしてこれでいいのか、疑問に思うところだが、今は北条の指示に従おう。それに今、何をしたところでCクラスの危機的状況には変わりはないだろうし。


 しかしそんな時、杏奈がこちら側に走りながら、近づいてきた。


「二人とも〜〜!!」

「木兎さん、どうしたの?」

「実は噂の出どこがわかったの」

「え…」

「これをみてほしいの」


 見せられたのはとあるサイトのスマホ画面だった。そこにはコメントが連なっていて、その画面に映っていたのは、学校専用のSNSだった。


「何かしらこれ…」


「知らないの?最近、学校で流行ってるSNSだよ。で、これをみてほしいの…」


 そこにはSNSで上がっている一文だった。

 

『なんか、昨日、二人が喧嘩してるところを見ちゃったんだ。本当に怖くて怖くて、一枚だけ写真を撮って逃げちゃった。明日からなるべく人気のないところには行かないようにしないと…』


「これがどうかしたの?」


「このアカウントなんだけどね、これうちの生徒なの…」


「え?それってつまり…」


「そう、誰かはわからないけど、間違いなく、誰かが見たんだよ。あの暴動事件の現場を…そして多分これが…」


「この発言から見るに、写真に写している。これが噂のもと…」


「うん。多分…」


「ありがとう、木兎さん。あなたのおかげで少し希望が見えたわ」


「そんな全然だよ。けど役に立ててよかった!!」


 純粋無垢な笑顔を向ける杏奈。とても眩しく、俺は自然と目を閉じた。


「じゃあ、二人とも頑張ってね」


 そう言って杏奈は潔く去っていった。


「一様やることは決まったな」


「ええ、そのアカウントの持ち主を探すわよ」


「ああ…」


 ここに来ての新たな情報。


 ありがたい話ではあるが、このSNAで上がった文章による情報が果たして噂になるのだろうか、なるとすれば、それを流した人物がいるはずだ。

 

「とりあえず、発信したこのアカウントの履歴を遡ってみよう。もしかしたら、そこに特定する手がかりがあるかも」


「ええ…」


 SNSで例のアカウントを遡っていくと、いろいろヒントになりそうな文章が出てくる。

 

「特に変わった文はないわね」


「確かに、わかるとすれば…この子は一年生ということぐらいだな」


「……なんで、そんなことがわかったの?」


「この文章を見てみろ」


 俺は少しだけスライドし、その子が一年生であるとする文章を見せる。

 


『今日から新しい生活が始まるよ。緊張しちゃうけど、たくさん友達が作れるよに頑張るよ、みんな応援してね』



「なるほどね、確かに、それっぽい発言だけど、これだけで1年生だと判断するには些か不十分だと思うのだけど…」


「北条、少し考え見てほしい。俺たち2ヶ月間の高校生活を…」


「高校生活……それがなに?」


「この文章を見る限り、「新しい生活」という言葉を使うと言うことは、1年生のことを示している。だって2年生や3年生で「新しい生活」なんて表現、使わないだろう?」


「確かに…」


「その時点で、1年生だと絞っていいと思う。そしてもう一つ、ここには重要な情報が隠れ潜んでいる」


「重要な情報?………あっ、なるほど。そう言うことね」



 北条は何かに気づき、ハッと驚く顔を見せる。



「この子はおそらく、友達が少ないんだわ。だから…」


「そう言うこと、この「友達が作れるように」と言う発言から、人と話すのが苦手な人物に絞ることができる…」


「……じゃあ、早速探しましょう」


「今から?」


「今からよ」


「でも、もう部活をしている生徒以外、みんな寮に戻っているはずだし、探しても意味はないと思うけど…」


「いいえ、探すのはこのアカウントの持ち主じゃないわよ」


「おいおい、話が違うじゃないか。じゃあ、一体誰を探すんだ?」


「監視カメラの管理人よ」


「……なるほどそう言うことか」


 俺は北条の考えていることを理解した。


 そして俺と北条はそのままコンビニへ向う。そこで俺たちはある人物が出てくるの待った。


 数時間後、管理人のバッチをつけた人物がコンビニ店内から出てきた瞬間、俺たちは近づいた。


「ちょっといいかしら?」


「うん?なんだ君たちは…」


「少し、お話がありまして…」


 管理人は鋭い目つきでこちらを伺う。まるで何かを警戒しているようだった。だが、今ここは公共な場だ、下手に動けないはず。



「いいだろう。要件はなんだ?」


「少しばかり、監視カメラのデータを見させてはいただけませんでしょうか?」


「それはできない。あのデータは完全な個人情報として登録されている。学校側の許可がでなければ、見せることはできん」



 やっぱり、断られたか。けど、これは予想できたことだ。


 この学校は、とにかく情報に厳しい。監視カメラのデータ一つでも、明確な理由や用途、学園長などの許可がなければ、見せてもらうことすらできない。


「そうですか。学園長の許可があれば、見せてもらえるんですね」


「ああ、許可があればな、話はこれで終わりか?」


「ええ、ありがとうございます」


「ふん…」


 不機嫌な顔をしながら、その場を去っていった。明らかに敵視しているような様子だったけど、あの態度でいいのかよ。

 

「で、どうするよ。学園長に許可をもらいに行くのか?」


「そうね。行きたのはやまやまなのだけど、正直に答えて、赤城くん。貰えると思う?」


「………」


 これはまた難しい質問だな。貰えるか貰えないかは半々だが、そもそも学園長が話を聞いてくれるかの方が心配だ。あの人、結構気分屋だから。


 けど、監視カメラのデータは間違いなく、俺たちにとって重要な情報になる。それに、ここで引けば、勝ち筋はほぼないも当然。


 なら、答えは一つだ。


「無理とは言わない。ただ、次の学級裁判には間に合わない。なら、やることは一つだ」


「……そうね。やることは一つだわ」


 どうやら、北条は俺と同じ考えのようだ。そう、俺たちがやることは一つしかない。

 

『監視カメラのデータの奪取』



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ーーーーーーーーーー


『公開情報』

特になし

 





 

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