インプロビゼーション

鏑木レイジ

第1話孤独のピアノ

 朝起きた。

 そして、窓を開けた。

 サイケデリックな夢を見ていた。

 星斗は、すぐにめもった。それはユング的な、超越性の高い文学。

 面白くもなんともない日常。解放。

 イマジネーション。

 星斗は二階から降りて、居間に行き、パンを食べた。ひとかけらのパン。

 救い。

 ひとかけらのパンでも、命をつなげる。

 テレビから、ニュースが流れた。

「ひとかけらのパンも食べることのできない、苦しんでいる子供がいる」

 星斗は、特に気にすることもなく、ニュースを聞き流して、パンを食べ終わると、自室に戻り、制服に着替えて、家を出た。

 そのまま、電車に乗り込んで、ツアラトゥストラを文庫で読んでいた。

 外に目をやる。景色が流れる。滑っていく心の情景。

 そして、重なる恋人の面影。

 星斗はソニーのウォークマンで、ショパンを聞いていた。子犬のワルツ。

 踊る心、恋人の面影は消えて、現実に帰ってきた。

 そこにもう、ショパンはいない。中毒性の高い芸術。

 星斗は、究極のものを欲する。

 ふと、向かいに座る少女を見た。

 少女は、聖書を読んでいた。

 髪をアップにして、すまし顔で、聖書を明らかに星斗を意識して読んでいる。

 微笑。

 星斗は、ヘッドホンを取り、首にかけた。

 向かいに座る少女は、目線を上げた。

 目が合った。

 惹きつけられた。

 少女は、風の音でも聴いているかのように、視線をそらし、流れゆく景色を追った。

 電車が駅に着いた。

 降りた。

 そしてヘッドホンをまたして、学校へ向かった。少女のことが頭でループしていた。

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インプロビゼーション 鏑木レイジ @rage80

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