頁12:異世界探索初心者事情とは 2

    







「冗談はさておき、集落を探しましょう」

「え、今の冗談なの…??」

出口ゲートの座標、集落から見てどの方角にしました?」


 周囲を見回しても人の痕跡こんせきが見当たらないから少し移動しようと思った。


「集落から見て? えっと、確か分かりやすいようにってに設定したから…」

「真下!? あの出口よりも町があるって事ですか!?」


 まさかそんな…空飛ぶ町…!?


「…キミ、マジでゲームとか分からないんだね…」

「え? えっ??」


 神々廻ししばさんがプッと笑う。

 なんで笑われてるんだろうか? 分からない…悔しい…。


「あー、笑っちゃイカンよね。オレだってさっきzって分からなかったし。ちょっとこれ見て」


 自分の本を開き『たいりく』大陸地図のページを私に見せる。


「オレとかゲームやってる奴なら多分ほとんどがそうだと思うんだけどサ、こういう地図とかミニマップがゲーム画面に表示された時、東西南北を上下左右で言うんだよね。分かりやすさというか…それが普通になっちゃってる感じ?」

「成程、じゃあつまり『真下』という事は『真南』という意味ですね?」

「ピンポ~ン大正解☆ さっすがみさドン、頭の回転が違うね♪」

「みさドンっていうな」


 現在位置が集落の真南に当たるという事はつまりは真北へ向かって進めばいいという事なのだろうが、じゃあその真北はどうやって判断すればいい?

 星の位置…だめだ、まだ全然空が明るいし季節が分からないしそもそもこの平行世界の星の位置が元の地球と同じとは限らない。

 太陽を利用する方法は元の地球の知識では使い物にならない。木の年輪でも分かると言うけれども生憎どこを見ても切り株はひとつも無い。


「なら流石さすが地磁気ちじきは同じはず…。磁石があれば…って、そんな物どこにあるの!」


 自分で自分を叱責しっせきした。


「な~んだ、何を考え込んでるのかと思ったら方位磁針コンパス欲しかったの? あるよそんなの」


 私の痴態ちたい(?)を眺めていた彼があっけらかんと答える。

 そうか、箱ティッシュ(しっとり触感)を出現させた方法で───


「方角表示」


 先程と同じページを開いたまま彼がそう言うと、大陸地図の見開きの左上に赤い針が揺れる方位磁針コンパスの画像が表示される。


「本を持ったままこうやって…くるっと一回転しても、ちゃんと北を指してるでしょ?」

「本当だ……」

「ちなみに地図上にちっちゃく赤い点が見えると思うんだけど、この点がオレ達の現在地ね。この点から矢印がチョロっと伸びてるの見える?」


 彼の本に表示された地図をじっと見つめる。確かに赤い点から伸びる黄色い矢印が。


「この矢印が向いてる方角が『今自分が向いている方角』ね。本を開いたまま一回転してみ? コンパスと同じように連動して動くでしょ?」

「確かに…これは非常に便利ですね…。でもこの星に降下するのは初めてのはずなのにどうしてこんな機能があるって知っていたのですか?」

「アッチの空間で色々試してた。疑似マップ設定してひとり探検ごっことかやって」

「ぅ ゎ ぁ …」

「ドン引き!?」


 シュールな一人遊びですこと…。

 機能についてはどういう仕組みか?とか理屈が…とかがハッキリしなくてちょっとモヤモヤするけど、考えた所で『何でもアリだから』で済まされてしまうのだろう。

 とにかくこれで方角の問題は解決した。


「…そうだ、このままだと不便だから…と」

「何をしてるんです?」

「これで、OK」


 と彼が何かを完了させると同時に私の本が勝手に私の手の内に召喚され、意志を得たかの様に勝手にページをめくる。白紙であったはずのそこに現れたのは彼の本に表示されていたはずの『たいりく』大陸地図だった。それだけじゃない、彼の本で見た他のページも恐らく全て表示されている。


「これは…!」

「いちいち本開いて渡したりするのメンドーでしょ? だから本同士で表示内容を同期させたのヨ。でもミッション1のクラフトに関する操作とかはイジれないけどね」


 試しに空白の名称をタップしてみると、先程の実験でも目にした《 警告:設定を行う権限がありません。》という表示が。

 なるほど、本同士を同期させる事が出来るならば一人だけで地上に降下しても本を介したやり取りは可能かもしれない。例えば私が現地で辞典の【提案】をし、あの空間で神々廻ししばさんが【承諾】をする、みたいな。

 …絶対にそうはさせないけど。


「じゃあ気を取り直して町へ行こ~!」


 着地失敗を無かった事にして彼が歩き始める。


「そう言えば…」

「あん?」

「例の【敵対生物】って───」


 言いかけたその時、我々の頭上から木々のさざめきを切り裂くカン高い鳴き声が響き渡った。






   (次頁/13-1へ続く)






          

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