頁04:神とは 2

     








「まずアレを見てちょ☆」

「…ちょ?」


 彼が濃淡のうたんの無い青い空を指差した途端とたん、プロジェクターの様に映し出されたのは……地球? いや、これは…多分違う。陸の形とかが特に。


「まず、オレがこの星を作りました。ホログラムとかじゃなくてガチのです」

「…は?」

「この地球モドキには二足歩行の人類が散らばってて一応なんとか生活してます」

「…え?」

「人類を誕生させたオレは立場的にいわゆるカミサマにあたります」

「…はい?」

「キミはオレの代わりにあの地球モドキのいろいろな設定をしてもらう為にオレがここに引っ張り込みましたので全力で頑張って下さい」

「…ええ…?」

「はい説明終わり」

「待って。ちょっと待って。ざっくりし過ぎです。説明ド下手糞へたくそですか」


 くたくたのTシャツの襟元えりもとを両手で掴んでぐいぐい揺さぶった。


「や、ちょ、やめて! 伸びちゃう! だからさっきから説明苦手って何度も言ってるじゃん! ……うるさいな、だったらお前がしてくれたっていいんだヨ!?」 


 ちょっと涙目で彼が抗議する。そこまで嫌か。というかさっきから誰に何を言っているのだろうか…?


「それにしたって端折はしょりすぎでしょう。読者がどうとかはよく分かりませんけど、今のが商品の説明書とかだったとしたらクレーム殺到さっとうしますよ」

「いい? オレをよく見てよ! 自分で言うのもアレだけどさ、オレみたいな見た目のヤツからそんな細かく丁寧な説明が出てくると本気で思ってる!?」


 期待してません。と反射的に言ってしまいそうになった。口は災いの元。


「はぁ…、じゃあ取り敢えず少し分かった事もあるので私から質問させて下さい」

「おけまる」


 右手左手それぞれでOKサインをする。

 ところで誰の真似だろうそれ。桶丸さん? 知らないけれど。


「まず…改めて確認させて頂きますけれど、今私が見ているこの世界は、本当は夢ではないのですか?」

「夢だって言ったら納得した?」


 私は決別のため息を一つ吐き捨てた。


「願わくば夢であって欲しかったです。それから…私は、その…」

「あぁ死んでるよ~間違いなくね。元の世界じゃ火葬されて納骨まで終わってるから」


 とんでもない事実だというのに全く意にも介さない口調で断言された。

 ハイそうですか、と納得するには理由が足りなさすぎるが、否定するだけの要素も無い。何よりもつい先程体験したばかりの生々しい痛みの記憶が如実にょじつに物語っている。


「キミ、サブカル知識が全くないからテンプレって言っても分からないだろうけどさァ、まず平行世界だとか異世界って分かる?」

「分かります」

「おぉ~~意外! それは分かるんだ?」


 分かるというよりは可能性の一つとして考えた事があるかどうか、だろう。

 自分が生きていた世界が恐ろしく低い確率の積み重ねで出来上がった世界だとしたら?

 目に見えない場所か宇宙の果てか、これだけ広大な空間のどこかで同じような奇跡を経て誕生した世界があってもおかしくは無い。ただそこへアクセスする方法が無いだけだと世界が割り切っているに過ぎない。

 まさかこんな形で訪れるとは思いもしなかったが。


「で、キミの時代になってから急激に異世界に対する認識が高まったワケよ。その理由としてはラノベの世界設定として描かれる機会が増えたのが大きいのかな? それまでは異世界ってのは単体で存在するファンタジーなモノとされてて、そこに外側の世界から誰かが来るって展開は少数派だったんだけどねェ」


 頭が痛くなってきた。

 真面目な話をしているのかそれともまだ理解の範囲外の単語で化かされているだけなのか。


「あーゴメンゴメン! やっぱ分かんないよね。つまり、人は死ぬと天国地獄じゃなくて違う世界に飛ばされるって考え方が若者を中心に広がってんのヨ。なぜか一番信じられてるのがトラックにかれて死ぬ事なんだけどさ。笑っちゃうよねw  結果として死ぬならわざわざ痛そうな選択しなくてもいいのにww」


 ああ。だから最初にトラックがどうのと聞かれたのか。


「そして驚くべき事に『死んだら天国地獄ではなく異世界に飛ばされる』というファンタジーが一部本当になってしまったワケ。オレも初めてこの空間に引っ張り込まれた時はガチでビビったわ。うはwww まじかwwww って具合にね♪」

「どうして違う世界に来たって理解できたんですか」


 さも楽しそうに話しているが、私には正直その感覚が理解出来なかった。


「【枠】から外れたって知ったからヨ」

「枠…?」

「そ。ヒトとしての枠。───ああ、わかった、言う通りにやればいいんだろ」


 彼は再び胡坐かぐらをかいて座る。


「さっきから何を───」


 言いかけた私の前で、彼は胡坐のまま…宙に浮いた。安っぽいCGの様に、私の目線よりもどんどんと高く…。


「ぬふふふ……、あっはっはっはっはっは!!!!!」


 そして高らかに笑いながら恐ろしい速度で遥か上空へ吸い込まれて───


「……嘘…。…え…、何、あれ…!?」


 彼が消えていった空から…が、遠くに───


『『 ベロベロバァ~っ!!!!! 』』


 声?を発した『それ』が何なのかを認識するよりも先に、地表に落下した大質量の物体が巻き起こす壊滅的な衝撃波が私を飲み込んだ。








   (次頁/05-1へ続く)







         

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