155. 全方位ケンカ売りレヴィア

「ちょっ、ちょちょちょちょレヴィア!」


 ネイはものすごく焦り始めた。

 

 相手は王弟。カルドの王族である。レヴィアはまだそれを知らないが、だとしても許される事ではない。事実、ヴィットーリアとイルマが剣呑な雰囲気を醸し出している。

 

「実際キメーだろうが。なよなよしやがってカス共が」

「レ、レヴィア。あのな? 相手はな?」

「あー情けねー。男が泣いていいのは生まれた時と親が死んだ時と犬のクソ踏んだ時だけなんだよ。人前で泣くとか男として価値ゼロじゃねーか。雑魚野郎が」


 さらにフィガロだけでなくカルド全男性をディスりだした。一体何を考えているのだコイツは。ネイには意味不明である。

 

 そしてレヴィアの言葉を受けたフィガロ。ただでさえ涙ぐんでいた彼はうっうっと嗚咽を出し始めた。アリーナにそっぽを向かれた彼である。レヴィアの心無い言葉が相当こたえたらしい。

 

「貴様……ネイの仲間とて許さぬぞ。フィガロ様に対し、その不遜すぎる態度。流石に度が過ぎる」

「ええ。大体フィガロ様の何が悪いのか。控えめな性格に、楚々とした振る舞い……。全女性の理想の男性ではないですか」

「レヴィア・グラン。あまり問題を起こさないでもらいたい。将来アーサー様が困ったらどうするのです」


 怒りを示すヴィットーリアとイルマ。割と勝手なことを言うガウェイン。しかしレヴィアは止まらない。

 

「ハッ、ナベ女共が。いいか、理想の男ってのはな……こういう――!」

「駄目ええええええ!!!!」


 そうしてレヴィアが早着替えをしようとした瞬間、リズが飛び起きた。

 

「ダメ!! 今男装するのは絶っ対にダメ!!」

「リ、リズ? けど……」

「駄目なものは駄目なの!! いい!? 分かった!?」


 鬼気迫る様子でレヴィアに詰め寄り、襟元を掴むリズ。レヴィアはビビりつつも「わ、分かった……」と答えた。

 

 彼女の答えにリズはほっとした顔を見せる。そしてまだ疲弊しているらしく、再び壁際に座り込んだ。


「ま、まあ魔法都市みたいなのが起こったら困るか。とにかく! 男は益荒男ますらお、女は乙女。そういうのが理想かつモテるってのがこの世界のルールなんだよ。このルール違反の変態共が。死ね」


 ビッと親指を下に向けるレヴィア。そのしぐさを見たヴィットーリアとイルマはさらなる怒りを見せ、ネイは焦りを強くする。ついでに何故か純花がそわそわしだした。

 

「待って。理想といえば……」

「ネロ?」


 ふと、今まで黙っていたネロが話を遮る。腕を組み、何かを思い出しているようだった。

 

「いや、学者時代に見たことがあるんだ。古文書に書かれた初代カルド王の言葉。『道迷いし子らよ。我が墓所を訪ねよ。我が理想がそなたを救うであろう』って」

「理想?」

「たぶん彼女の夫……王配様の事だと思う。初代王は常々彼の事を称えてたらしいから。王位を譲られる前も後も」

「ハッ。王様やれなかったタマ無し野郎に何が……むぐっ!?」


 再び悪態をつこうとしたレヴィアの口をふさぐネイ。「分かった。分かったから、な? ちょっと黙ってよう」と言いながら。ついでに純花が残念そうな顔になった。


「初代王配か。良夫賢父りょうふうけんぷとして伝わる人物だな。子や子孫の為に何かしらを残していてもおかしくはない。だが、一体どんな事を?」

「分からない。古文書にある通りなら初代王の墓所にあるんだろうけど、まだ見つかってないしね」


 初代王の墓所。王族の墳墓は一つしかないのだが、何故か初代王のものだけが見つからないのだ。恐らくは隠されているのだと思われる。未だ発見されていないという話であった。


 ネロの答えに腕を組んで考えるヴィットーリアとイルマ。如何に王配が賢かったとて、今回の事態を予測できるとは思えない、という感じだろう。それに、どれだけ素晴らしい教えだとしても今のフィアンマたちに効くかは分からない。お姫様扱いされる喜びを知った彼女らには。


「……りたいです」

「フィガロ様?」

「知りたいです……。王配様の教え……。アリーナ様が元に戻ってくれるのなら、ボク……」


 泣きべそをかいていたフィガロが小声ながらも主張してきた。それほどにアリーナを慕っているらしい。

 

 その純愛っぷりにカルド王国組及びガウェインが悲しげな顔をする。同情と感動が入り混じったような顔であった。なお、レヴィアは「カマ野郎ーファマヒャロー」と口を押さえられながらも未だに喧嘩を売っている。

 

「ていうかさ、墓所って、もしかしなくても王族のお墓の事だよね? だったらむしろ行きたいんだけど」

「スミカ殿? ……ああ、ルディオス様の残したものがそこにあるという話だったか。しかし、今はなぁ……」


 ヴィットーリアが渋い顔をした。

 

 現状、彼女からすればルディオスオーブの優先度は低い。まずはこの事態を解決するのが先決と思っているのだろう。初代王の件についても、どういったものがあるか分からない以上、分が悪い賭けとなってしまう。墓所の前に現状とれる手を模索すべきと判断しているようだった。


「ぷはっ! 純花、こんな変態どもの国に付き合う必要はねーよ。さっさと行こうぜ。ついでにお宝とかも持っていこう。カマ野郎どもには勿体……むぐっ!」

「だからレヴィア! 喧嘩売るんじゃない!」


 一瞬ネイの手から脱出したレヴィアだが、すぐさま口をふさがれる。文句を言うようにむーむーと再び唸りだすレヴィア。ヴィットーリアが「ネイ……仲間は選んだ方がいいぞ」と呆れたように呟く。

 

「宝……そうだ! 宝があれば、姉上も……!」

「フィガロ様? どういう事でしょう」

「姉上は復興に苦慮しておられました。それもこれも、お金がないから。けれど、初代様の宝があれば……!」


 希望を見つけたという感じで声を出すフィガロ。

 

 初代といえば、古代帝国滅亡直後の存在。財宝を超える価値を持った遺物、なんてのもあるかもしれない。そしてそれをお金に替えれば経済的には助かる。フィアンマの心も軽くなる……などという考えだった。

 

「宝、か。先ほどの話を加えると一石二鳥の作戦となりますな」

「ええ! だから……!」

「ですが、金のために祖先の宝を売り払うなど王のやっていい事ではない。だからこそフィアンマ様も手をつけなかったのでしょう。そもそも今更金で何とかなるとは思えませぬ」


 首を振って否定するヴィットーリア。確かに彼女の言うとおりである。もはやフィアンマは金ではなく、男らしさ……カルド国外の男らしさを求めているのだから。

 

「ヴィットーリア様、どうか……」

「フィガロ様。お気持ちは分かりますが、まずは国を何とかせねば。アリーナについてはその後に何とかいたしまする。ここは耐えて頂きたい」

「…………」


 うっうっと再び泣き出すフィガロ。男の涙はつらいとばかりに目を伏せるヴィットーリアとイルマ。メンドクサそうな顔になる純花。相変わらずむーむーと暴言を吐いているらしいレヴィア。

 

「……よし。ならば私が行きましょう」

「!? ガウェイン様!?」


 そこでガウェインが声を出した。

 

 事の成り行きを見守り、黙っていた彼。一体何故とネイが思っていると……。


「皆様方と違い、私は他国の騎士。国同士の関係があるゆえ、表立って動く訳にはいかない。お役に立ちたい気持ちはありますが……あまり役には立てないでしょう。ならば動きが発覚しづらい王墓に行くのも悪くはない」

「ガウェイン様……!」


 嬉しそうな声を出し、顔を上げるフィガロ。彼に対しガウェインは安心させるように笑顔で頷く。その頼りになる姿にネイの心がきゅんきゅんと高鳴った。

 

「よ、よし、ならば私も……」

「ネイ?」

「あっ! い、いや、何でもありません。うん」


 反射的に同行を宣言しようとしたネイ。しかし例の反省を思い出し、途中で言葉を止める。「勿体ない。せっかくのチャンスが。勿体ない勿体ない……」と内心ではかなり葛藤しているが。


「ふむ? まあいい。しかし、男一人だけで王墓へか。いや、ガウェイン殿の腕が立つのは察せられるが……。それに、調査となれば冒険者向きの案件。ならばレヴィア殿かリズ殿のどちらかに同行して頂くべきか。少々不安だが……」


 ヴィットーリアの言葉。確かに、とネイも同意。むしろ遺跡ならレヴィアの方が詳しいのだから。

 

 しかし、今の彼女がついていったとしてもロクな事になる気がしない。行くにしても静止役かつツッコミ役のリズが絶対に必要だろう。ただ、仲間が二人も抜けるとなれば万が一が怖い。ヴィットーリアも厳しい顔をしそうだ。

 

 そんな事を考えていると……。

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