贈り物

「ほう、知らんうちに村が大きくなっているんだなぁ……把握しきれん」

 主様は渋い顔をしていた。やはり自分の世界に別の存在が複数存在するのは慣れないらしい。ここは私のわがままを聞いてもらっている。おかげで、死んでしまう迷い人の数は激減したし、交流も楽しい。

 今日持っていった鹿肉大喜びされてましたよ、と少し大袈裟に伝える。調子に乗りやすい主様のことだから、これで機嫌が戻るかと思ったが、案外と興味はなさそうだ。

「ああそうだ、これ、サヤカに似合うと思って」

 作ったんだ、と主様が私の手首を取った。

 なんだろうと思ったら、それは木目が見える数珠だった。

「わぁ、ありがとうございます」

 喜ぶふりをして服の袖の中に隠した。デザインが気に入らない。なんか古めかしい。申し訳ないけど。

 主様は満足そうに微笑んでいる。

 主様が私の腰に手を伸ばした。私は抵抗せずに抱かれに行く。主様が私を撫でる。こういうボディタッチにも慣れてきた。でも、いまだにドキドキする。慣れてきたというのはあれだ、驚かなくなってきたという話だ。

 主様は愉悦を顔に浮かべている。長い爪がついた手は角張っている。その手が私に触れる手つきは、優しい。というか、性的なものを感じる。

 いつからだろう。初めからだっただろうか。主様は私に性の匂いを隠さなくなった。

 おもむろに唇を奪われる。まるで噛みつかれるみたいで、私の心臓は張り裂けそうだ。そんなこともわからないのか、主様は舌で割り入り、歯列をなぞる。お互いの吐息が混ざる。熱い息を感じる。

 彼の手が私の腰のラインを撫でる。激しく、強い力で背中と腰に手を回され、抱きしめられた。

「サヤカ」

 私は真っ赤になっていることだろう。主様は酷く優しく、慈しむかのように私の名前を呼ぶ。私の名前が何よりも尊いのだというように、大切に。

 強く、優しく、緩急をつけて主様が私に触れる。

 心の一部が、怖いと叫ぶ。これ以上はいけないと。しかし、主様はそんな私も一緒にかき抱いてめちゃくちゃにしてしまう。

「主様……コクトミ」

「ふふ、なんだ?」

 名前を呼ぶだけでこんなに甘い。

 熱い吐息が混ざり合う。何度もキスをする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る