51. 開拓地への帰還

 ゴブリンたちを壊滅させた僕たちは、その周辺で夜を明かした。


 そして、次の日。


 改めて見た遺跡はすっかりと様子が変わっていた。大嵐の杖がもたらした暴風はゴブリンに限らず、周囲にあった建物さえもなぎ払った。かろうじて残っていた石の建物は、完全に倒壊して瓦礫へと姿を変えている。


 おそらく、ゴブリンの戦闘員はほぼ全滅だろう。ブランが吸い込んだゴブリンの死体の総数は1200余り。その中には、英雄種と思しきゴブリンもいた。非戦闘員の数も考慮すると逃亡者の数もそれなりにいそうだけど、ある程度は仕方がない。


 ほとんどの亡骸は損傷が激しく、ユニット生産の素体としては使えなさそうだったので、単純に「資源」として吸収してもらった。得られたのは主にマナポイント。装飾品なんかも一緒に吸収したから、金属ポイントなんかも獲得できた。


 敵対種族とはいえ、その亡骸を資源扱いするのは、自分でもわりと闇が深いことしているなと思うけどね。だからといって、この数の亡骸をそのままにしておく方がまずい。まあ、今までもユニットの素体にしているわけだから、今更だ。


「せっかくだから、瓦礫も吸収しておこうか。石材としては使えるでしょ?」

『そうですね』


 遺跡調査はできなくなったけど、資源としては十分に活用できる。ブランに吸収してもらったところ、結構な量の石材ポイントを確保できた。それは良かったんだけど、ね。報告を受けている途中に、ブランがびくりと体を震わせたんだ。


「……どうしたの?」

『今、何か聞こえませんでしたか? 地の底から響くような不気味な声が……』

「僕には聞こえなかったけど……」

『そうですか。では、私の気のせいかもしれません』


 気になるけど……しばらく待ってみても、やっぱり何も聞こえない。結局、気のせいだという結論にして、報告の続きを聞く。


『石材だけじゃなくて、旧神ポイントも増えましたね。20ポイントほど』

「そっか。じゃあ、この古代都市は旧神と関係していたのかもしれないね」


 そう思うと、ますます調査できなかったことが惜しまれる。とはいえ、ゴブリンたちの戦力は決して油断できるものではなかったからね。確実に殲滅しておかないと、後々に火種を残すことになる。予想外の規模ではあったけど、大嵐の杖を使ったことが間違いだったとは思わない。


 まあ、樹海の探索は今後も続くんだ。他の手がかりだって、きっとある。この遺跡も森の奥に続いているみたいだし、きっと倒壊していない建物だってあるよね。


 とはいえ、今回はここらで探索は打ち切りかな。きっと、みんなも心配しているし。早く危険が去ったことを教えてあげたい。


 帰ろう!

 みんなが待っている、僕の開拓地――ジーレマクサへ!




「レイジさん、お帰りなさい!」

「兄様、良かった! 兄様!」


 開拓地に戻るなり、ミアとルドが抱きついてきた。その目には涙が浮かんでいる。僕には強力なユニットたちがついているから、大丈夫だとは言っておいたんだけどね。


「二人とも心配かけてごめんね。でも、もう大丈夫だから」


 頭を撫でると、二人ははにかみながらも笑顔を浮かべた。

 心配かけてしまって悪いと思うけど、それでも二人が僕を大切に想ってくれてるのは、すごく嬉しい。ここが僕の居場所なんだなって思えるんだ。


「おう、お疲れ! ゴブリンどもは蹴散らしてきたのか?」


 ニヤリと笑みを浮かべてタックが話し掛けてくる。心配なんてしてなかったような素振りだ。でも、見張り台の上で僕の戻ってくる姿を見つけて大喜びしていたのを知ってるんだよね。偶然、単眼鏡で見ちゃったんだ。まあ、あえて指摘はしないけどね。


「うん。拠点ごと破壊しちゃったから、ほぼ全滅させたと思うよ」


 端的に結果を伝えると、タックの笑顔が凍り付いた。一緒にいたシリルたちもだ。


「全滅……? 1000近い数がいたよな?」


 シリルが恐る恐るといった感じで尋ねてくるので、素直に頷いておく。


「非戦闘員も含めて1200は倒したよ。多少は逃げたと思うけど」


 簡単に奇襲戦の様子を説明すると、シリルとタックは放心して「マジか」を繰り返すだけの状態になってしまった。


「魔本使いって、やっぱり凄いんだね」

「大規模な嵐の魔法、ね。見てみたかったけれど、実際に見たら自信を無くしそうね」


 女性陣は意外とすんなりと受け止めてくれたんだけどね。


 英雄種を討伐したという話をするとラグダンさんは喜んでいた。当初の話だと支部設立の目的の一つはゴブリンの拠点探しだったけれど、そんなこと関係なく話は進めてくれるみたい。宿屋やギルドの建物が無駄にならずにすんで良かったよ。


「いやはや、レイジは想像以上じゃったな。ま、焼きプリンを見たときから、ただ者ではないと思っておったが」


 モルドさんが、かなり調子のいいことを言っている。あいかわらず、焼きプリンの評価が高いんだよね。彼の中ではゴブリン殲滅と焼きプリンは同じくらいの評価なのかもしれない。


 ただ、少しだけ気になることも言っていた。


「じゃが、これほどの力となると……周辺国が知れば、どうなるかのぅ」


 どういう意味だろう。気になるけど……今は開拓地に平和が戻ったことを喜ぼう!

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