47. ゴブリンの軍勢

 シリルによれば、最初に遭遇したのは10体ほどの集団だったらしい。


「レイジがアーニャたちをつけてくれたからな。それくらいならどうにか対処できていたんだが……」


 数体を倒したところで、別の集団が現れた。遭遇時にゴブリンたちは笛のようなものを鳴らしていたらしい。おそらく、仲間を呼んでいたのだろう。


「さすがに倍近くになると、対処しきれない。だから、俺たちは一度ここに退くことを考えた」


 とはいえ、接敵した状態での撤退は簡単なことではない。特に、非戦闘員のラグダンさんを守りながらだとゴブリンたちを振り切るのはまず不可能だ。近くを哨戒していたイーニャ隊が笛の音を聞いて駆けつけてくれたから良かったけれど、そうでなければゴブリンたちにやられてしまっていたかもしれない。


 イーニャ隊と合流したシリルたちは、猫人たちが殿を務めながら開拓地へと引き返した。その間にもゴブリン側には別の集団が合流して、最終的に30体を超える数で拠点に押し寄せることになったようだ。


「逃げるのに精一杯でしっかりと把握できていないが……おそらく、何体かのゴブリンは合流後に離脱したように思う。もしかしたら、奴らの本拠地に、この場所のことが知られてしまったかもしれない。すまないな……」


 説明を終えたあと、シリルが頭を下げた。

 もちろん、僕としてはそれを咎めようとは思わない。そうしなければシリルたちが危なかったわけだし、そもそも開拓地が樹海にある以上、ゴブリンたちとの衝突は避けられないんだから。


「いや、気にしなくて良いよ。それだけの数のゴブリンが近くをうろついているんなら、時間の問題だったろうから。それよりも明日以降のことを考えないとね。とりあえず、街に向かうのは見送った方がいいかな」

「そうだな」


 ゴブリン側の残存戦力がどの程度なのかはわからないけど、リスクは避けておいた方が良い。街への帰還を遅らせるように提案すると、異論を差し挟まれることなく同意を得られた。


「次に攻めてくれるとしたら昼間かのぅ。夜はこちらの方が有利のようじゃからな」


 モルドさんの言うとおり、ゴブリンたちは夜目が利かない以上、夜間は猫人部隊を擁する僕らが有利だ。ゴブリンたちもそれを理解したのなら、次に攻めてくるのは昼間になるだろう。夜襲を警戒しなくていいのは気が楽ではあるけど、代わりに昼間の活動が制限されてしまうのが問題だ。まあ、植物成長促進剤があるので、食料の増産は難しくない。その気になれば、開拓地に籠もることは可能だ。拠点に留まっていれば、かなり有利に戦えるはず。


「それにしても、ゴブリンの勢力がこれほどまでに大きいとは。もしかしたら、英雄種が誕生したのかもしれませんね」

「英雄種ですか?」


 オウム返しに聞き返すと、ラグダンさんは丁寧に説明してくれた。それによれば、英雄種とは魔人種に時折現れる特殊な個体らしい。見た目の上では他の個体と変わらないけど、その能力は他を圧倒するほど高いのだとか。優れた能力と統率力で種族を繁栄へと導く、まさに英雄。魔人種が急激に力をつけた場合、まず疑われるのが英雄種の出現なんだそうだ。


「だとしたら、まずいだろ。ここのゴブリンどもは、ただでさえ厄介だ。それが英雄種になぞ率いられてみろ。ハズリル王国が蹂躙されかねんぞ」


 状況の悪さにタックが嘆く。

 アーニャたちのおかげでついつい忘れがちになってしまうけど、ディルダーナ大樹海のゴブリンはシリルたちのような中級冒険者でも苦戦するほどに強い。ハズリル王国軍でもゴブリンを容易くあしらえる実力者はほとんどいないだろうって話だ。新兵などでは相手にもならない。ゴブリンたちの数によっては、本当に亡国の危機となり得るそうだ。


 もちろん、そんな状況を座視するつもりはない。開拓地はハズリル王国に属しているわけじゃないけど、だからといって無関係ではないからね。ザッデルにはモルドさんの孫のミサンもいるし、ヒッグス一家の知り合いもいる。


 それに、開拓地が発展していけばハズリル王国との交流は増えていくだろう。友好的な姿勢を見せておくことは、開拓地にとっても悪いことじゃないと思うしね。


 まあ、英雄種の出現に関しては推測にすぎない。まずは、ゴブリン側の戦力をきっちりと計る必要がある。これまでは開拓地周りの探索を優先させていたけど、明日以降はゴブリンたちの動向を最優先で探らせることにしよう。そう結論を下して、今日のところは眠りにつくことにした。




 そして翌日。

 悪い予想とは当たるもので、英雄種のゴブリンが誕生したのはほぼ間違いがなさそうだ。


「おいおい、マジかよ……」

「さすがにこの数は……」


 迫り来るゴブリンたちに、タックやローザでさえも顔を青ざめさせている。それもそのはずで、開拓地に現れたゴブリンたちは軍団と言ってもいい規模だった。少なくとも、100や200ではない。西側を中心に、開拓地はゴブリンたちに包囲されてしまった。


「兄様、あんなにたくさんのゴブリンが!」

「レイジさん……」


 ルドとミアが不安そうに身を寄せてきた。ルドはともかく、ミアがこんな風になるのは珍しい。それほど恐怖を抱いているのだろう。


 無理もないことかもしれない。昨日聞いた話によれば、ハズリル王国の常備軍の数が1000ちょっと。それに匹敵する数のゴブリンが押し寄せてきてるわけだからね。よくもまあ、そんな数のゴブリンが樹海で生活していたものだ。


「大丈夫だよ。あれくらいなら、きっとなんとかなる」


 二人の頭をそっと撫でた。根拠のない言葉だけど、それでも二人の不安を少しくらいは取り除けたみたい。ルドはぎこちないながらも、にこりと笑みを浮かべてうなずいた。ミアは恥ずかしくなったのか、顔を赤らめて離れていったけど、そこに不安は浮かんでいない。


 まあ、さっきの言葉に根拠はないけど、だからといって考えなしに言った言葉じゃないんだ。ゴブリンたちが現れる直前まで開拓進捗を確認していたんだけど、スコアが25を超えたことによって開拓ランクが3になったみたい。ユニット上限も70まで引き上げられたし、今まで以上に強力なユニットも召喚できるようになったはず。


 大群が相手だとしても、きっと勝機はある!


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異世界三十八日目朝


食料pt:742

木材pt:26391.2

金属pt:27.5

土材pt:たくさん

石材pt:1.6

薬効pt:33.9

植物pt:1627.1

動物pt:369

マナpt:386

旧神pt:2


住人:8

ユニット:47

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