短編77‐1話  数ある盤賽友愛! ~はじめましてとこんにちは~

帝王Tsuyamasama

短編77‐1話  数ある盤賽友愛! ~はじめましてとこんにちは~

「わーこれなにー?」

「バックギャモンってやつだぞ!」

「おはじきみたいー」


「あーっ、負けちゃったあ~」

「さっきの二連続ゾロ目が効いたぜ!」


「なんでゆきくんがそんなに泣いちゃってるのー。お手紙書いてね」

「ああっ……ぐしゅっ」

「も~っ……よしよし……」



(バックギャモン、か…………)

「緊張しているのかしら。表情が硬いわ」

「そ、そう見えますか? まぁ、ちょっとは」

「相手もバックギャモンが好きな人たち、というだけよ。リラックスして臨むといいわ」

 電車の中にある、赤いややふかふか長いイスに座り、銀色の窓枠にひじを置きつつ、高速で流れていく外の景色を見ていた俺、桐峰きりみね 雪之進ゆきのしん。田んぼ改めて見るとでっけーなぁ。

 そこへ三年生の久織くおり 睦音むつね先輩が、優しくも気品ある表情で、先月バックギャモン部へ入ったばかりの一年生である俺に、声をかけてくれた。

 右隣にふわっと座り、肩よりも長くまっすぐ下ろされた自分の髪に、手を少し当てるそのお姿は、なんとも優雅。

 俺の入ったこの高校は、この辺りの高校じゃちょっと珍しい、黒の学制服・紺のセーラー&白スカーフ装備の学校だ。

 周りの高校はブレザー装備ばかりで、あそこの高校のブレザーいいね~女子トークを聞かないこともないが、高校でのセーラー装備もレアでかっちょいいよね~女子トークを聞かないこともない、そんな高校。

 簡単にうちの地域の中学生と見分けるポイントとしては、校章や校名が入った学校指定カバン装備者が中学生。リュックや長方形なカバンを装備しているのが高校生であることが、わかりやすいかな。あぁあと名札付けてるのが中学生。

 ここで説明しよう! バックギャモンとは、なんとびっくり三千年以上の歴史があると言われているボードゲームである!

 自分と敵、それぞれに十五個ずつのチェッカーが、ギャモンバックギャモンボードボード内の決められた位置に配置された状態から戦闘開始。

 お互い代わりばんこにダイスサイコロを振っていき、先に自分のすべての駒をゴールさせた方が勝ち! という、マスの命令がない双六すごろくみたいなものだ。

 お互いの駒の進行方向は交差するようにゴールへ向かっていくため、相手が進むのを妨害したり、自分の駒を弾かれないように守ったりしながら、でもダイスの目には(どの駒もルール上進めることができないとき以外は)必ず従わなければならない……そんなボードゲームなのさっ。

 自分の十五個の駒を使って、どういう陣形で戦うのか……ダイスの目のとおりに進めなければいけないけど、自分が好きな戦法で敵と戦える。そこに勝ち方による点数の差や、ダブリングキューブ倍数表示サイコロの存在もあって、奥が深いボードゲームだ!

(世界四大ボードゲームのうちのひとつって聞いたけど、それも納得だなっ)

 ちなみに他のみっつは、トランプ・チェス・ドミノらしい。うちの学校にはボードゲーム部と囲碁・将棋部もあり、交流も盛んで、頭の体操がてらお互いの部へ遊びにいくことも結構ある。

 まだ俺は入部、てかこの高校に入学して一ヶ月くらいだが、すでに交流を体験している。同じサイコロ使う系ボードゲームのモノポリーは、超難しかった。囲碁は五目並べしかできねぇよ……。ドミノって倒さねぇドミノもあんのかよ……。まぁ崩さない将棋もあるわけだし。

「なんだ雪之進、緊張してんのかっ?」

「ちょっとだぞちょっとっ」

 俺の左隣に座っていたのは、谷北たにきた 風次郎ふうじろう。俺と同じ一年。てか同じクラス。

 俺とは別の中学校からやってきたが、入学してから最初の席替えで隣同士になり、当時どの部活部活動に入ろうか考えていた候補の中にも、お互いバックギャモン部が入っていたことからよくしゃべっている。結局こうして一緒に入ったわけだし。

 髪は短く、身長は俺と同じくらいかな。まぁ俺はそんなに目立って高いわけでもないけど。

「今日行く高校って、もともと女子校だったらしいな。ひょっとして女子に緊張してんのかっ?」

「先輩に声かけられて、普通にしゃべってたろ?」

「ああそれもそっか!」

 両手を頭の後ろに回しながら笑う風次郎。それをやはり優雅に見守る睦音先輩。

 この部は下の名前で呼び合う流れになっているらしい。ボードゲームを気軽に楽しみ合える関係でいられるように、とのこと。

(ま、まぁかといって、三年生女子である睦音先輩が隣に座ったら、緊張しないでもないけどさっ)

 それはともかくとして。実は電車に乗って相手の高校へ向かう、今日のこの交流会にちょっと緊張しているのは本当で、理由もある。

 というのも……小学校のときに仲がよかった、星川ほしかわ 佐遊希さゆきがいる高校だからだ。

 家が割と近所で、お互いの家へ遊びに行くこともよくあったほどの仲だった。どっちの名前にも『ゆき』が入っている同士だからってことで、佐遊希からも積極的にしゃべりかけてきていた。

 間違いなく友達の家に行った回数で最も多いのが、この佐遊希の家だろう。

 いろんな遊びをしたり、宿題したり、クッキー作ったり夏祭り一緒に行ったりなんやらかんやらしていたが、小学校卒業のタイミングで、星川家は引っ越してしまった。

 女子の目の前で泣いたのは、あの時一回だけだろうなぁ。(※赤ちゃん~幼稚園時代を除く)

 とはいえ、その後も年賀状や暑中見舞いとかの手紙や、電話でのやり取りは続いていた。封筒で写真も一緒に送ってきてくれたこともあったが……

(三年ぶり、か……)

 そりゃまぁそのっ。また会って遊びたいねとか、同じ部活に入ろうねとか、少女マンガちっくな絵の気合入れた年賀状くれたりとかしてたら……す、好きにならねぇわけねぇでしょうよっ。写真めっちゃ笑顔やしっ。

 高校だけに限らず、いろんな学校と交流会をしているらしい、うちのバックギャモン部だけど……まさかこんな展開が待っていたなんて。ねぇ?!

 ちなみにこのバックギャモン部を選んだ理由のうちのひとつに、佐遊希(やその御家族)と楽しんだ思い出もあったからだ。

 入学直後の佐遊希との電話のときに、その話をしてバックギャモン部を考えていることを言ったら、佐遊希の学校にもバックギャモン部があって、一緒に入ろうねと……そんな感じで現在に至るっ。

 なお、俺たちの学校のバックギャモン部の部員数は、一年生六人・二年生四人・三年生四人。男子が九人・女子が五人。総勢十四人の部活だ。

 左隣の風次郎はお気楽に笑い、右隣の睦音先輩は優しく見守り、向かいでこっちに顔を向けて座る、一年生の三滝みたき 陽和ひよりは、俺と目が合うと肩くらいまでの髪を揺らしながら、きょろきょろしちゃった。陽和の方がよっぽど緊張しぃである。

「あら桐峰くん緊張しているの? 先生も初めてだから、緊張しているのよぉ~」

 こちらから見て、陽和の右隣に座っているのが、顧問の先生である弥生やよい 帆美奈ほみな先生。教科は社会。

 身長は割と高い方? 髪は後ろにひとつお団子にくくられていて、正確な長さは不明。

 前から先生だったけど、高校の先生になったのは今年かららしく、バックギャモンもまったくの未経験者だったという新星。今日はセーラーの色に近い紺色のスーツを着ている。いつもはねずみ色とかその辺が多いかな?

 前の顧問の先生は、育児のために休職したとのこと。

 弥生という下の名前っぽい名字だからか、早速鈴穂すずほ先輩からは『やよちゃん』と呼ばれちゃっていて、本人もどうぞどうぞという心の広い先生。

「うちらは交流を重ねていますから、わからないことがあったら、任せてください」

「ありがとう瀬路せじさ~んっ」

 さらにその先生の右隣に座っていたのが、三年生の瀬路せじ 七恵ななえ先輩。副部長。

 身長は睦音先輩と同じくらい。髪は肩にかかるかどうかくらいだが、いつもしている白いヘアバンドが目印。

 まさにしっかりしている副部長さんという感じ。全体的に気楽なムードであるバックギャモン部において、最もしっかり者さんだと思う。日誌の管理やバックギャモン初心者である先生への説明など、事務的なことをこなす。

「オレ様もいるのだ。大船に乗った気分で任せるがいい!」

「頼りにしているわぁ仁越にごしくんっ」

 さらにさらにその七恵先輩の右隣に座っていたのが、我らがバックギャモン部部長、三年生の仁越にごし 蓮太れんた先輩。

 身長は男子の中ではやや低め。一見すると、いや二見三見したって、ただただ明るいムードメーカーにしか見えないこの先輩こそが、十三人を束ねる部長さんである。

 バックギャモンは大会レベルともなると、決断力と勢いも大事な要素らしい。しかも世界規模では、なんと三億人300000000人ものギャモラーバックギャモン愛好者がいるらしいとはいえ、囲碁・将棋勢に比べれば、まだまだ低いバックギャモンの認知度を高めるのにも、この強烈なキャラクター性もまた、部にとって重要らしい。

(うまい人は、全駒ゴールまでの距離ピップカウントの計算も、瞬時にするらしいけどさ……)

 二・三年が四人ずつに対して、今年入った部員は、俺含め六人だったことから考えれば、先代部長からの新部長任命は、正しかったのだろう。

 夏に行われる全国規模の大会には団体戦もあって、女子がちょうど五人いて出場できることから、よくやったとめちゃくちゃほめられたらしい。

 そして緊張しぃであり、かつ俺よりもっと未経験者な陽和がいきなり主力扱いを通告され、超スーパー緊張しているのであったちゃんちゃん。という、そんな俺のバックギャモン部活ライフの始まりだった。



(ここかぁ……)

 佐遊希のいる高校へ、俺たちバックギャモン部員十四人+先生一人がやってきた。

 うん、ぱっと見てわかる。俺らの学校よりでかい。塀も。グラウンドのネットも。校舎の長さも。プールまである。

 で、でもうちの高校は歴史の長さで勝負らしいしな?!


「ようこそ。遠いところお越しくださいまして、ありがとうございます。顧問をしております、別所べっしょ千鶴ちづると申します」

「部長を務めております、染矢そめや水織みおりと申します」

(こっ、これがよその学校のバックギャモン部のオーラ……!)

 俺、バックギャモンの存在自体は昔から知ってたとはいえ、部活動としてあるなんてのは、高校に入学して初めて知ったから、なんか改めて、ほんとにこの世界にバックギャモン部ってあるんだなあ、って思った。

 おっきな校門の前で出迎えてくれた先生は、灰色のスーツを着ている。そして部長さんはつまり、この学校の生徒なわけであり。

 深い赤茶色みたいなブレザーに、赤いリボンを装備している。スカートも深い緑色のチェック柄だ。わかるわかる、高校生ってこういう装備のイメージだよなぁ。

(うっ、うちらも能ある鷹は爪隠す的な! さ!)

 なんで高校生のイメージがこれなのかって? ……佐遊希が着てる写真送ってきてくれたからさ!! ちなみに中学生のときは、青色スカーフのセーラー服だった。

 …………女子がだぞ!? 男子は学ランだからな!?

「お招きくださりありがとうございますっ。本日はお世話になります。お電話でもお伝えさせていただきましたが、今年から新しく顧問になりました、弥生帆美奈と申します」

 先生はこのオーラに対し、動じてないようだ。きっとこれが大人さんなんだなっ。

「オレ様が部長の仁越蓮太だ! 今日はよろしくな!」

 ……き、きっと部長も大人さんなんだろう。あ、手を出している。俺らの勢力のうち、一年生を中心とする一部が、そのアクションにはっとなった。

 相手の二人もやっぱちょっと驚いて……ない、だと?!

(あぁすでに交流してて知ってるからかテヘ)

 いやしかし女子に対してまったく緊張せず握手できるってのもすごい気がっ。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 ギャモラー同士の固い握手が交わされた!! あ、先生とも続けてしてる。お二人とも余裕っぽそうだけど。

「副部長の瀬路七恵です。よろしくお願いします」

 うんうん、さすが副部長。てかやっぱり、お互い明らかに知ってる仲でのこのセリフ。お互いちょっと笑ってるし。

 部長が作った流れだからか、副部長も二人と握手することになった。

「じゃあ……私もしちゃおうかしらっ?」

 おおっと先生も二人と笑顔で握手!

(はっ! これぞ部長パワー!?)

「本日の交流会は大会議室にて行われますが、すいません、校内に入られる際には、事務室にてお手続きをしていただかなければなりません。ご面倒ですが、先にお手続きをお願いします」

「わかりました」


 ということで、でっかい玄関にて靴装備から、持参した上靴装備へ部員全員が切り替え、広い廊下を通って事務室で手続きを受け、許可証ネックストラップを首から掛けた俺たち。

 名簿記入欄に、うちらのバックギャモン部メンバー直筆名前が、ずらっと並んだ。先生の装備は……なんかつぶつぶ付いてる青いサンダルみたいなの。

 ちなみに上靴の先端の色を初めとして、体操服・げた箱やロッカーとかの名前のシール・体育館シューズなど、学年ごとにテーマカラーが決まっていて、俺ら一年は青、二年は赤、三年は緑だ。同じ色を三年使うらしいから、俺らは二年三年になっても青とのこと。後輩ができたら、次は緑なんだろうか?


「でけー学校だなー!」

「ああ。人も多いかもな」

 電車のときと似たように、俺の左隣を歩いていた風次郎がつぶやいた。それに対して俺も思ったことを口に出した。

 高さは三階建てっぽくて、そこは大差ないとは思うが、なんせ廊下が長いっ。歩くとこの横幅も広い気がする。てか床の色が白じゃなく肌色っぽい感じなのもまたおしゃれポイント。

 国際資料室? なんだそれは、図書閲覧室図書室とは違うのだろうか? そんなよくわからない特別教室っぽいとこまである学校。

(に、通ってるんだよな、佐遊希は)

「こちらの学校では、一学年辺り何名が通われていますか?」

 お、先生が俺らのつぶやきを拾ってくれたみたいだ。

「三百二十名を定員とし、今年も定員数が入学しております」

 少し顔をこちらに向けてくれながら答えてくれたのは、えっと、別所先生。

「てことは、それが三年分で……げっ! 千人近くいんのかこの学校?!」

 おおすげぇ! 俺が校長なら、もうちょっと定員数増やして千人にすゲホゴホ。

「四十人で一クラスですので、八組まであります。私は三年八組です」

「はちぃ?!」

 同じように、顔を少し向けてくれながら答えてくれた、えっと、染矢部長さん。

(俺名前覚えるのスローペースなんだよっ)

 俺が校長なら、きりのいい十組までゲホゴホ。


 体操服や専用ジャージ装備者や、もちろん普通のブレザー装備者など、部活に来ているであろう、ここの学校の生徒たちとすれ違うたびにこんにちは~をしながら、がやがやが少し聞こえる大会議室の前までやってきた。

 横開きの白い扉には、使用中の赤い札と、バックギャモン部と書かれた青い札がででんと掛かっている。

(この中に……)

 ここに来て俺の緊張は、さらに高まった模様。

 別所先生が扉を開けると、俺たちが来たことを知らせたみたいだ。部長さんがどうぞと言って、入室をうなが……したら、うちの部長が勢いよく先頭きって入っていった……もはや切り込み隊長。

 やあこんにちは今日はよろしくわっはっはとか聞こえる中、続く俺たちは、入室時に一礼してこんにちはという、オーソドックスな入り方をした。

 大会議室と聞いていたから、広いとは思っていたが、ぱっと見て、うちらよりも部員はやや少ないっぽいかも。

 会議用の薄いねずみ色の長い机をふたつ並べて、机の上にはマットみたいなのが敷かれてあり、その上に、大きなギャモンボードが置かれている。それを1フィールドとして、6バトルフィールド分が設置されてあった。マットの色もギャモンボードも、全バトルフィールドで別々だ。

 イスも会議用の、プラスチックでコロコロキャスター付きの物。

 バトルフィールド以外にも、さらに後ろには……本コーナーやらなにも乗ってない机やらイスいっぱいやら。うちら側が持ってきたギャモンボードも置かれるかもしれない。

 ギャモンボードは、ボードと言っても、閉じた状態だったらただの四角いかばんって感じ。

 外側も内側も、デザインや色は様々。大きさも大会本番で使う大きいものから、学校の机ひとつ分くらいのや、ポケットに入る薄い物まで、いろいろある。うちの学校には、古~い木のやつまであった。

 部員数は、いちにーさんしー……

(……いたっ)

 三年間。ずっと手紙や写真や電話とかで、やり取りが続いていたとはいえ……本物の佐遊希が立っているのを、ついに俺は見つけた。

 佐遊希も俺をすぐ見つけたらしく、目が合うなり、ずぅ~っと俺を見続けている。

本気マジで本物だ……)

 やっぱ俺。佐遊希のこと、好きなんだな。それにしたってあの笑顔は反則すぎ。


「一年生の諸君! オレ様が三年生で部長の仁越蓮太だ! 覚えておくがいい! 得意技はとにかく攻めまくることだ! よろしくな!」

 部長の声が会議室中に響き渡り、座るときには拍手に包まれていた。

 まずは自己紹介タイムということで、やっぱり先陣切ったのは部長だった。

 それは得意技……なのか? まだまともに戦ったことがないなぁ。てか他の部活と交流するか、徳真とくま先輩に呼ばれて研究? してるらしいから、戦ってる姿すらもまだ見たことないんじゃ……。

 ここの学校との交流会はよく行われているから、向こうの二・三年は、この部長のことをよく知ってるんだよな。てかこの強烈キャラキャラクターを忘れる方が至難のわざっしょ。


「みなさん、こんにちは。本日はお招きいただき、ありがとうございます。一年生の方は初めまして。三年生で副部長の瀬路七恵です」

「得意技も言ってやれ!」

 あ、部長命令が発動した。

「得意技は……セミプライム移動妨害集合壁陣形かしら? よろしくお願いします」

 部長が先頭ならばと、続いた副部長。副部長も裏方ってることが多いのか、まだ戦ったことないや。でもダブルス二人VS二人で戦っているのを見たことならあった。たしかにプライムが作られていた気がする。

 バックギャモンで出るふたつのダイスの目は、合計値じゃなく、それぞれ一回ずつの移動力だから、ブロックポイント複数駒設置箇所が連続して築かれた壁は、なかなか突破しにくいんだ。


「こんにちは。僕は三年生の尾高おだか徳真とくま。バックギャモンはおもしろいよね。得意技は……蓮太、僕はなにかあるかい?」

「計算早いんじゃね?!」

「それはまだ得意技って言えるほどでもないかな? これからも交流してくれるとうれしいよ。よろしく」

 うちの部で最も強いと言われているのが、こちらの徳真先輩。でも本人は部長の方が強いと言っている……ほんまかいな? 七恵先輩とは幼なじみらしい。

 身長は高い。いかにも賢そうな感じだけど、同時に柔らかい感じもする。そんな徳真先輩が強いと言っている部長……一体どんだけ強いんだろう?


「こんにちは。本日もこうして、交流会が行なわれたこと、誠にうれしく思います。わたくしの名前は久織睦音。三年生よ。得意技は……徳真にプライムウォー壁自壊誘発持久戦を褒められたことならあるわ。よろしくお願いいたしますわ」

 いつも頼りにしてます、お嬢様先輩の睦音先輩。一年生を教える役目な先輩たちの中心にいる人。ギャモン用語や一手一手の戦術の幅など、細かく丁寧に教えてくれる。

 明純あきすみ先輩が、睦音先輩は駆け引きがとてもうまく、まったく太刀打ちできないと言っていた。いろいろ教えてくれるけど、やはり本気睦音先輩とバトったことはないなぁ。今度お願いしてみよっかな?

 ……ここで○得まるとく情報。実はバックギャモン部員の中で、唯一俺と同じ中学校出身者。確かに見かけたことはあったけど、昔から優雅オーラ全開で、なんだか遠い存在って感じだった。

 当時はウィンドオーケストラ部所属で、今は音楽については部活ではせず、地域の団体に所属して続けているらしい。


「オレぁ二年の諸井もろい海斗かいと! 得意技はダブルヒット反撃抑制二連続攻撃! やっぱギャモンはヒット敵単独駒への攻撃してなんぼっしょ! 今日もギャモバックギャモンでバトろうぜ!」

 今部長があの人なら、次期部長は間違いなくこの人。(※個人による感想です)

 バックギャモンは、ひとりぼっちの駒ブロットだと攻撃される危険があり、もし攻撃されると、振り出しに戻るオン・ザ・バーというような扱いになる。

 しかもそれは普通の双六のスタート地点のようなものではなく、やはりこれもダイスの目によって、決まった場所ポイントから復活リターンさせなければならず、さらにそこへ敵の駒が二個以上ありふさがれていれば、そこからは復活できない、というルールまで存在する。

 状況によっては、20マスポイント以上の移動が損してしまうこともあるので、なるべくひとりぼっちにはしないように進むのが基本戦術。

 でもあえてひとりぼっちにすることで、次の攻撃や陣形を作るときの選択肢を増やすこともできるので、こういう駒の移動の駆け引きもおもしろいんだよなぁ。


「あたいは二年の河原かわはら鈴穂すずほ! バックギャモンするようになったきっかけは、お兄ちゃんがやってたからかなー。よろしくねっ! ああ得意技? 海斗と一緒で、攻撃あるのみなとこ?」

 二年生の中で唯一の女子先輩、鈴穂先輩。世話焼きというか、かわいがってきているだけというか……?

 髪はいつもポニーテール。ポニテポニーテール状態で肩越してるから、ポニテ解除したらなかなか長そうだ。

 身長はうちの部女子勢において最も高く、俺より高い。

 中学校のときはバスケバスケットボール部だったらしく、うちの部において、ぶっちぎりで球技全般がうまいらしい。(いやまぁバックギャモンは、別に相手に駒を物理的に投げつけることなんてないけどさっ)

 そういや睦音先輩が水泳上手だって話を、鈴穂先輩から聞いたことがあったなぁ。やはり水中でエクストリームバックギャモニングされることもないだろう。

 本人の言うとおり、勢い任せて突進派。単純に見えて、これがなかなか厄介。ペースを握られれば、為すすべもなく完封なんてことも。なんで知ってるのかって? 俺それでやられたから。

 強い強いと聴かされてきた三年生先輩である、徳真先輩&七恵先輩との混合ダブルス戦で、海斗先輩と組んだときに、やっつけたこともあったらしい。なんとも恐るべき爆発力の二人組。


「僕は二年の脇坂わきさか明純あきすみ。得意技……何かありますか先輩」

スペアマン同場所三個目以上の駒を組むタイミングと切り離すタイミングだろう!」

 ……やっぱ部長って、部長なんだなぁ。

「だそうです。よろしく」

 明純先輩はクールな感じ。でも愛想が悪いとかじゃなく、虎視眈々こしたんたんと相手の出方をうかがって戦うって感じ?

 やっぱバックギャモンの戦法って、性格出るもんだよな!?

 同じ場所にふたつ以上駒があれば、敵からの攻撃を防げるけど、それだけではその場所からひとつ離したときに、元いた場所の駒をひとりぼっちにさせてしまう。

 そこで、みっつ目以上のスペアマンがいてくれてたら、ひとつで敵の駒を攻撃しつつ、元いた場所もブロックが継続、というすきのない戦い方ができる。その扱い方が上手だ、ということらしい。

 俺が戦ったときにも確かに、どう攻めたらいいんだろうって悩んだ気がする。明純先輩との戦闘結果? 全敗記録更新中。


「おいらは塩柏しおかしのぼる。二年。バックギャモンしながらしゃべるのは好きなんだけど、みんなに負けてばかりで、あんまり強くないよ。それでも楽しいね。よろしく」

「それは聞き捨てならねぇなぁ! オレ様は昇が弱いと言ったか?!」

 おおさすが部長っ!

 昇先輩は、我が部ののんびり屋さん担当といったところ。かつ、部の中で最も身長が高い。

 確かに俺でも勝てた勝負はあった。でもさすがに俺ら相手では、手を抜いてくれてるんじゃなかろうか……?

「い、言われたことはないかもしれないけど、全然勝てないじゃんかぁ」

「昇は突き抜けた強みがなかったとしても、のびのびと打つことで、かえってこちらのペースが乱されることもある。自分の揺るがないペースを持っているのが、昇の強いところだ」

 さすが徳真先輩っ!

「大会でも足を引っ張ってばかりだしよぉ」

「昨年の冬に行なわれた大会。4倍時でのギャモン勝ち基礎得点2点の勝ちの棋譜、出しましょうか?」

 さすが七恵先輩っ!

「あ、あんなのまぐれっすよぉ」

「まぐれでも何であっても。そこには8点を手に入れたという、記録が残されているわ。もう少し自信を持ったとしても、だれも怒らないはずよ」

 さすが睦音先輩っ!

「つ、次の人、どぞ」

 バックギャモンでの真の戦いには、ダブリングキューブを抜いては語れないっ。

 バックギャモンは、勝ち方がシングル勝ち基礎勝利点数1ギャモン勝ち基礎勝利点数2バックギャモン勝ち基礎勝利点数3があり、そこに場のダブリングキューブ表示倍数を掛けられた点数が、一回の戦闘での勝利点数として得られる。まぁ3点のバックギャモン勝ちっていうのは、めったに起きないらしいけど。

 またこのダブリングキューブを相手から提示されたとき、勝負から降りて、シングル勝ち分の点数を譲ることもできる。

 ちなみにダブリングキューブによって場の点数を倍にしたいぜっていう提示、いわゆるダブルを提示するのは、一回目はどちらからでもできる。

 相手から提示されたら、受けるテイク降りるパスかを選択できるけど、受けて勝負が続行された場合、次にさらに倍にして再提示リダブルできるのは、さっきダブルを受けて勝負を続行させた側のみ。

 さっきの昇先輩の例だと、序盤に昇先輩が有利だと思ってダブルを提示。相手は受けて、場の点数が2倍に。試合が進んで、相手は自分が勝てると思ってリダブル。昇先輩はここで、相手に点数を渡さずさらに勝負を続行。場が4倍に。

 この状態で、昇先輩は鮮やかな逆転ギャモン勝ちを収めて、見事8点を手に入れましためでたしめでたし、というもの。

 何ポイントで勝利のマッチなのか……倍数をどこまで釣り上げるか……点数渡し最小限のダメージで済まして、次の勝負に臨むか……このダブリングキューブの発明には、世界中に衝撃が走ったらしい。

(……なんて言いつつも。俺はまだまだそんなにダブリングキューブの駆け引きは、詳しくないや)

 必ず通る道だからってことで、特にこのダブリングキューブについては、睦音先輩以外からも、たくさん教えられた。実践はまだまだだけどねっ!


「オレは一年の谷北風次郎! 小学校でちょこっと触ったことはあったけど、こんな本格的にはやったことなかったぜ! やっぱ勝つとおもしれぇよな! よろしくなっ」

「得意技は?!」

「だから先輩オレまだ始めたてっス!」

「七恵から棋譜を見せてもらったぞ! その調子でヒットの腕を磨いていくがよい!」

「え!? 先輩見てんスか?!」

「当たり前だ! 残り四ヶ月の間に、見事オレ様を倒してみせよ!」

「無理っス!!」

 俺もそんな感じ。部長が引退するまでの間にやっつけることまでを含めて。てか部長あんなキャラなのに、そういうとこまで見てるのか……。


「オレも一年の横福よこふく湧典わきのりや。バックギャモンはサイコロ振っから、決められた数を進めればええんやろ? 気楽にやれるとこがええと思うわ。よろしゅうな!」

「ちゃんと臆することなくチェッカーを前進させられる、と言うのだ! 多少の遠距離なら、固まりを崩して次に備える。先にペースを握るのは大事なことだ!」

「げぇっ! オレのも見てんスか?!」

「当たり前だ!」

 俺のも……見てるんだろうな。だから裏方役の副部長は、あんなにいつも棋譜を記録してたのか……。

 大会でもなく本番を想定した練習とかでもない、ただただ打ってるだけのでも、気づいたらどこかのテーブルの横に座って棋譜を記録している副部長を、よく見かける。超まめな人だよなぁ。

 棋譜っていうのは、だれがどの駒をどう動かしたか~とかを記録したもの。将棋とかでもあるっしょ? あれ。そうそれそれ。

 湧典は、一年生勢の中で最も身長が高い。本人が言うとおり、お気楽タイプ。

 まぁバックギャモン自体が、しゃべったりお菓子食べたりしながら、ゆったりのんびりするのにも向いてるから、お気楽な感じでも超ウェルカムらしい。

 なんかそうやって、みんなを尊重している部の雰囲気も、居心地がいいと感じられるところ。

 まだ一ヶ月くらいだけど、なんとなくそれは感じている。


 次はどっち行きますよとりんを見てみると、淋が自分を指差しクエスチョンマーク疑問符を頭の上に作ってくれたので、どうぞどうぞした。ら、淋は立ち上がった。

「は、はじめましてっ。あたしの名前は波根なみねりんです。一年生です。中学校のときに、ボードゲームが好きな友達がいて、その時に少ししたことがありました。陽和ちゃんと一緒に、入ってみる~? ってなったので、入っちゃってみました。前は陸上で走り高跳びとかしてました。えっとえっと……」

「基本に忠実なのが得意技だと言え!」

「そ、それ得意技なんですかあっ? えとえと、以上ですっ。はい次陽和ちゃんっ」

 陽和との仲良しコンビである淋。バックギャモン部にいる一年生は、俺からすればみんな入学して知り合ったばかりの面々だが、淋と陽和と眞央まおは、もともと知り合いらしい。

 身長は陽和とほぼ同じ。バックギャモン部においては、最も低い二人。目立って低すぎるわけでもないけど。

 髪は肩より長く、いつもひとつにくくって前に下ろしているのがスタンダードスタイル。もちろん今日も。しかし鈴穂先輩の手によって、ツインテール化された日も。

 ちなみにその日はお返しとばかりに、淋の手によって鈴穂先輩もツインテール化されていた。下ろされていた瞬間は、俺は戦闘中ギャモン中で見てなかった。


「……はじめましてっ。一年生の三滝みたき陽和ひよりです。淋ちゃんと一緒に始めてみました。家庭部だったので、ボタン付けとか得意……かもしれないです」

「自慢の鉄壁防御力を、七恵に鍛えてもらえ!」

「じ、自慢じゃないです……よろしくお願いします」

 緊張しぃ陽和も、無事自己紹介を終えることができた。

 髪は淋よりちょい短く、肩に少しかかるくらい。淋と違い、特に結ぶことはない模様。


「はじめまして! 僕も一年生で、路上ろがみ眞央まおっていいます。家に大きな木のバックギャモンボードがあったから、友達や家族とかとよくしてきました。バックギャモンをする部活に入ったのは初めてで、先輩たちの強さにびっくりしてます! よろしくお願いします!」

「得意技はダブリングキューブさばきだ! 徳真と睦音に鍛えてもらったら、いいギャモニストバックギャモン愛好家になるだろう!」

「れ、蓮太先輩は教えてくれないんですか?」

「オレ様に勝つことができたら、秘技を伝授してやろう!」

「ええっ……?」

 バックギャモン部の男子勢力の中で、最も身長が低いのが、こちらの眞央。淋や陽和ともほぼ一緒。

 まだ入って一ヶ月とはいえ、俺たち一年生の中で最も強いのが眞央。俺も少しはしてきていたが、眞央は家族や親戚ともよく戦っているらしいので、もっと対戦回数が多いようだ。

 そんな眞央の力でもまったく歯が立たない、強力な先輩勢……ほんとに俺が先輩を倒せる日なんて、来るのだろうか?


(さ、俺の番だな)

 てか部員のトリが俺でよかったのだろうか? 今になってふと思った。

(めっちゃ見てるし)

 まぁ自己紹介なので、立ち上がればみんなが俺を見るのは当然なんだけど、特にこの佐遊希ビームがずっと照射されておりましてね?

「は、はじめまして。俺は桐峰雪之進。一年です。俺も今までちょっとしかしたことがなかったバックギャモンを、今年から部活としてやってみることにしました。なんか、バックギャモンがある風景がいい……かもしれない」

 うわ部長めっちゃ見てる。得意技ぁ……?

「と、得意技は…………クローズアウト復活完全封印陣形? でいいのか?」

「そうだ! 皆もこの桐峰雪之進という名前をよく覚えておけ! そしていつの日かこのオレ様に、クローズアウトで完全勝利する日が来ることを、大いに期待しているぞ!」

 部長、俺のことそんなにアピールしてどうすんスか……。

「あはは、よ、よろしくお願いします」

 みんなから拍手をもらった。もちろん佐遊希からも。


「バックギャモン部の顧問をしてます、弥生帆美奈ですっ。先生もバックギャモン初めたばかりだから、みんなも先生に教えてねっ。得意技~……仁越くん、先生にも得意技って、あるのかしら?」

「七恵! なぜ弥生ちゃんの棋譜を持ってこない?!」

「先生は忙しいのよっ。今日の交流会のセッティング、だれがしたと思っているの? 電車の時間はだれが調べたの? そんなに先生の棋譜りたいんなら、先生にルール教えながら自分で記録しなさいっ」

「……た、たまには気が利くことを言」

「返事は?!」

「はい」

 ここで会場に笑いが起こる。うん。影の支配者は、間違いなく副部長なんだろうな。

 そんなこんなな、俺たち十四人と顧問の先生な、バックギャモン部であった。


 もちろん自己紹介はこっちだけでなく、向こうのバックギャモン部も。

 こっちが三年生からってことで、向こうも三年生から順々に。


 ……そして。二年生を経て、一年生である佐遊希の番がやってきたようだ。立ち上がると、手は前で軽く組まれた。

「みなさん、はじめまして。今日は来てくださって、ありがとうございます。私は一年生の星川佐遊希です」

(ああ、本物や……)

 やっぱ。電話とはちゃうで。つい関西弁なってまうでほんまにっ。

「私も小学生のときから、友達と少ししたことがあっただけで、本格的にするのは、バックギャモン部に入ってからです。今はまだ、バックギャモンの言葉や戦い方を勉強しているところですけど、私もバックギャモンを通して、いろんな人と仲良くできたらいいなと思っています。よろしくお願いします」

 身長は……まだ立って横に並んでないからあれだけど、俺よりはちょい低いと思う。たぶん淋らよりかはちょい高いかもしれない。

 髪は肩を越えていて、下ろされ……あ、今気づいたけど、全部じゃなく後ろちょっとだけくくって重ねられてたんだな。


 自己紹介タイムが終わり、フリーギャモンタイムに入った。俺のいるバトルフィールドには、すでに佐遊希がいるので……

(こっち見てるぅ)

 正面に、この高校の赤茶色ブレザーを着た佐遊希がいるぅ。

「二人も一年生なんだな!」

 右隣に風次郎、そして右斜め前には、佐遊希と同じ一年生である、橋岡はしおか 百華ももかちゃんがいる。

 百華ちゃんは、髪は肩にかかるくらいだが、先がくるんとなってる。

「そうだね。よろしくね!」

 百華ちゃんのよろしくに、俺たちもこちらこそよろしくをした。

「よろしくお願いしますっ」

 佐遊希のよろしくに、俺たちもこちらこそよろしくを……した。

「いきなりだけど、聞いていい?」

「なんだっ? オレまだあんま詳しくないけどさ、ははっ」

 おっと百華ちゃんから早速ご質問。

「部長さんって……強いの?」

 初手まさかの部長ネタ。

「さぁー、オレ戦ったことねーから、よく知らねぇんだよなー。雪之進は?」

「俺もまだ戦ったことないな。戦ってるのを見たこともない」

「えーっ? そんな人が部長さんなのー?」

「他の先輩によると、相当強いってさー。ほんとかねぇ?」

 あ、睦音先輩がこっち来た。

「こんにちは」

「こ、こんにちはっ!」

「こんにちはっ」

 やはり睦音先輩のオーラに一年生がビビるのは、万国共通らしい。

「なーなー先輩ー。部長ってほんとに強いんスかぁ?」

 見上げながら聞く風次郎。

「強いわ。徳真と互角に戦えるのは、彼だけよ」

「それ睦音先輩より強いってことですか?」

「ええ。わたくしでは、混合ダブルスの候補にもならないでしょうね」

 睦音先輩。教えるの丁寧だから、強いに決まってそうなのに……?

「オレは先輩と組んでみたいっスよ~!」

 俺は~……戦ってみたい、かな?

「わたくしと組みたいの?」

「うぃっす!」

 とても真っ直ぐな申し出である。

「ではまず、雪之進くんとダブルスを組んで、彼女たちとシングルマッチダブルなしの勝負で戦ってみてはどうかしら。もし風次郎くんが勝ったら、わたくしと組んで、だれかと戦いましょう」

 なんか巻き込まれたー?!

本気マジっすか!? よっしゃ雪之進、いいよな!?」

 めっちゃ目輝かせてる風次郎。

「え、ああ。でもダブルスってどうするんですか? やったことないです」

「では、わたくしが教えてあげるわ。どうかしら。よかったら、彼らと戦ってあげてくれないかしら」

 目の前に座る一年生女子二人にも、優しく声を届ける睦音先輩。

「は、はい! 喜んで! さゆちゃんもいいよね?」

 佐遊希って、さゆちゃん呼びなのかっ。

「はい。よろしくお願いしますっ」

「よっしゃ勝負だぁー!」

 交流会初戦! 佐遊希&百華ちゃんコンビと対決だ!

(てか初戦が佐遊希とかぁ……なかなか感慨深いものがっ)



     【交流会 フリーギャモンバトル】

  バトルフィールド:佐遊希んとこの高校の大会議室

  勝利ポイント数:1(ダブリングキューブなし)

  対戦形式:ダブルスによるタッグ戦

  制限時間:無制限(一応交流会終了まで? そんなに長引くわけないけど)

  使用ギャモンボード:佐遊希んとこの高校の、結構大きいやつ。赤色と黒色のポイントに薄い黄色の生地。木製のふち。黒色ダイスカップ。赤と白の駒。

  特殊ルール:睦音先輩が横にいる


 赤色陣営         白色陣営

 桐峰 雪之進       星川 佐遊希

    &     VSバーサス    &

  谷北 風次郎 組     橋岡 百華 組



「まずはお互いのチームで、どちらが一手目を行うか、決めてちょうだい。自分のチームの番に来るたびに、交互に戦闘へ出るのよ」

「よし! オープニングロール開戦のダイス第一投行かせてくれ!」

「わかった」

 向こうも相談して、決まったのか、二人ともがこっちを改めて見てきた。

「よろしくな!」

「よろしく!」

「よろしくお願いしますっ」

(ああほんと本気マジで)

「……よろしくっ」

 向こうのチームが最初にダイスカップを握ったのは、百華ちゃんだった。

「オープニングロールっ!!」


 バックギャモンでの勝負が始まるときは、お互い同時にひとつずつダイスを振って、出た目が高い人が先攻という始まり方。この最初だけは、今お互いが出した目を、最初の人が移動させるふたつの目とされる。ちなみに同じだった場合は振り直し。

(てことは、最初の一発目はゾロ目で動くことはないってことだ)

 その結果、4を出した風次郎が、百華ちゃんが出した3のそれぞれでオープニングムーブ開戦の第一移動を行った。まずは初期配置で中盤の重なっている駒を分散か。

「次にあなたがダイスを振って動かすの。最初だけはオープニングロールの関係で、二人とも次の番の人へ同時に移るわ」

 ということで、次は佐遊希の番だ。ダイスふたつがカップ内でカコカコ。すべすべそうな指先を広げ、飛び出したのは、2ゾロダブレット

 ダイスカップはちょうど……そうだなぁ……駄菓子の箱くらい? ごめんざっくりしすぎだったので忘れてくれ。

 手で握って、開いている部分をそのまま指三本で覆えるサイズの物。これ振るときにも正式ルールがあるなんて知らなかった。

「いきなりゾロ目かよ!」

 さすが佐遊希と言うべきかっ。最も後ろにあるバックマン最後方ふたつの駒スイッチ同場所複数駒同時移動、中盤の重なっているところも同じくふたつ、一緒に移動した。

 気づいたら後ろのふたつ取り残されてた戦闘、あるある。

 ゾロ目が出たら、通常ダイスの目の分の回数である二回行動から、さらに倍の四回行動ができる。

「次は雪之進くんよ。このように、交互に交代しながら戦っていくのよ」

「わかりました」

 さあて俺もカコカコ鳴らして、ギャモンボード右側のエリアへ……そいやっ。


 初めてダブルス戦をやってみてるけど、交互に打つことに慣れれば、あとはいつもとやっていることとそんなに変わらないな。もちろん風次郎がどう動かすのかはわからないが、まだ初めたばっかの俺たちなんだから、相性だとかはまだそんなに深く考えなくて……いいよな?

 百華ちゃんは割と表情に出るタイプ。佐遊希は……ずっと楽しんでそうだ。

「で、睦音先輩……そのメモは、まさか~……」

「棋譜よ。わたくしだって、記録できるわ」

 てことは、部長に見られるわけだな、うん……。今部長は、向こうの部員と本読んでる?


 ある程度、陣の形成などが進んできた。俺たちは、(主に風次郎主導により)前進させることを重視していたため、相手の後方にある駒たちを、だんだん追い詰めていくことができている。

 しかし相手は相手で、中盤に連続しての壁があるからさっさと乗り越えたいけど、俺たちはひとりぼっちの駒への攻撃を二回受けたから、なかなか突破に手間取っているという、そんな状況。

 これは……どっちが優勢なんだろ? やっぱ前衛に陣を少し敷けている俺ら? 用語の勉強とかは、本読んだり先輩から教えてもらったりしてきたけど、まだまだ戦術とかはよくわからないなぁ。

 こっちもひとりぼっちの駒を攻撃したいところだけど、なかなかすきを見せてくれない。

「先輩はこれ~、どっちが勝ちそうっスか?」

 風次郎は直接聞く派らしい。

「まだわからないわ。お互いダイスの目次第ね」

 風次郎はぐぬぬしていたが、出たダイスの目は3・4。これは……ひとりぼっちの駒を作ってしまいそうだ。

 が、特に迷う素振りもなく、単独で駒を前進させた風次郎。次のターンに攻撃されなければ、さらに陣を厚くできそうだが……

 佐遊希もカコカコ振って……6・1が出た。

「いいのかなぁ……」

 少しの間、大事そうに両手でダイスカップを持って考えていた佐遊希。まとまったのか、カップを置いて駒を動かし始め……うぉ向こうはひとりぼっち覚悟で突撃、またこっちの駒を攻撃されたぞ!

「うわまたかー!」

 風次郎、頭に両手。

「ふふんっ」

 佐遊希のにこにこに合わせ、百華ちゃんもふふんと有利を確信した模様?

 次は俺の番か……4・5っ。だめだ、復活はできても攻撃できないうえに、その復活駒を合流させることもできないかっ。

(ここは……)

 仕方ないから、飛び越えられる駒を飛び越しておこう。風次郎なら前進に使ってくれるだろう。

「いくわよ、それっ!」

 百華ちゃんがカコカコ振って……4・6? うわ閉じ込めといたはずの後方の駒が、ふたつとも抜け出された上に、そのうちひとつは合流されたぞ!

「あーっ! 先輩これやばいっスか!?」

「このままヒットできなかったら、危ないわね」

 風次郎頭抱えてるが、次お前が振るんだぞっ。そして睦音先輩凛々しいです。

「せ、先輩! あたしたち勝てそうですか!?」

 百華ちゃんも睦音先輩に聞いてきた。

「今までよく耐えてきたわね。反撃に転じるのは、今よ」

「は、はい!」

 なんとか相手の単独駒を増やす方法……そんなのあんのか?

(ん? その動かし方……)

 風次郎のターンだったので、出た目は3・2。さっき敵の最も後方にいる駒には飛び越された、俺たちの最前線の駒たちは、単独になったとしても攻撃される心配がない。バックギャモンのダイスの目は、前にしか進めない。

 その最前線の駒を、敵の復活地点を占拠しにいく形に。より敵の単独の駒を攻撃できたときの有利度が増した。


「……これで完成っ」

「うわ! 当てられたらやばいよどうしようさゆちゃん!」

「頑張ろう」

 焦る百華ちゃんに、まだまだ笑顔な佐遊希。お、俺はどんな顔なんだろうか?

 完成させたのは……そう。クローズアウトっ。

 1番から6番までのすべての復活ポイントを、複数駒で占拠するという、まさに最上級攻撃陣形ってところだろう!

 さて、あとはじっくり攻撃のすきをうかがって……


 もう終盤だ。お互いインナーボードゴール手前の先方地点に駒が集まってきた。

 俺らの駒は、クローズアウトってる駒たち以外は、攻撃された影響もあって、まだまだ後ろの方。

 対して、相手の駒の多くがゴール手前1・3・4ポイントに集中しており、ベアリングオフ駒をゴールさせる体勢に入ったら、ばんばんゴールしていきそうだ。間の2ポイントのところに俺たち最後方の駒が、まだそんなとこにいてる。

「先輩ぃ~……全部ふさいだのに、このままじゃ負けちまいそうっスよぉ~。どうしたら勝てるんスかぁ~」

 なんというドストレートな助けの求め方っ。

「ヒットすればいいのよ」

「だからできねぇんだってばぁ~っ。オレ先輩と組みてぇよぉ~……」

「なら、ヒットしてみなさい」

「うぇ~」

 字面じゃ淡々と語る睦音先輩だが、表情は優雅な笑顔。バックギャモンほんと楽しんでんだろうなぁ。

「しかもちょっとしか進められねぇし!」

 1・3。まだ中盤をうろちょろしてる単独の駒が少し前進。ゴール合戦にとても追いつけそうにないぞ……。

「このまま最後までー……えいっ! あ!」

 うわっ、5・6か! こっちの移動距離の二倍以上だぞ!?

(ん?! 5と6!?)

「えっ! せ、先輩、これまだゴールできないですよね?」

「できないわ。ベアリングオフできるのは、すべての駒がインナーボードに入ってからよ」

「え、えっ、でも、先の方の駒はゴールできなくて動かせないから、後ろにある駒を分けるしかなくて……でも6は邪魔されてるから、ひとつを5動かして……6は邪魔されてるから、ゴールできなくて……えっ、せ、先輩、これどうなるのっ!?」

 百華ちゃんの顔に焦りの色!

「パスよ。出たダイスの目は、必ず出た目の分を動かさないといけないけれど、動かせる駒がひとつもないときは、パスになるわ」

「わわあわあ! ごめんさゆちゃーん!」

 佐遊希ここに来てまだ笑っている……だと……?!

「よっしゃいけ雪之進~! オレたちの力、見せつけてやれぇーっ!!」

「お、おうっ!」

 俺は、いつもよりも多くカコカコさせたと思う。そしていつもより視線が集まってる俺の右手。

 気合入れて……うおりゃっ!

(3ゾロ……!)

「さ、さんさんっ! えっ、えっ、じゃあ、えっと、いちにーさんよんごー……ろく…………」

「お! おおおおお!!」

 色が互い違いに配色されているポイントは、これを見て奇数と偶数がすぐにわかるとは聞いたけど、俺は改めて、百華ちゃんみたいにいちにーさんよんと数えて…………

「……クローズアウト・ヒット止めの一撃っ!」

「ああーーーっ! そんなあ~!」

 口を開けている百華ちゃん! 両腕を上げて勝利のポーズ風次郎! 笑顔の睦音先輩! 肩をちょっとすくめてる佐遊希! 俺は~…………

「……これが、バックギャモン三千年のボードゲーム!!」

 俺が取り上げた白い駒は、ギャモンボード中央のバー振り出しへ置いた。


 クローズアウト時に駒を攻撃できれば、相手にダイスを振らせることすらなく、こちらが延々と振りまくり進めまくり。さっきまでひとりぼっちがどうの~とかを心配していたが、そんなの気にすることなくばんばん後方の駒たちを進めた。

 最終盤。俺らがベアリングオフを開始させてからも、運悪くすぐに復活できなかった相手タッグ。なんとか復活できたときには、すでにすべての駒がすれ違いノー・コンタクト、とどめと言わんばかりに5ゾロを叩き出した風次郎の手によって、俺たちの勝利。

 初の交流戦。俺たちの! 白・星・発・進っ! てやつだな!!

「うわーん負けたー!」

「いよっしゃ勝ったぜ先輩ぃー! どうだ見たかオレの力を!!」

「ヒットされても臆することなく前進し、焦ることなくクローズアウトを維持し続けたのは、いいファイトスタイルだったわ。その力押しは、これからも磨きをかければ、相手にとって脅威となるはずよ」

「おっしゃー! やっぱバックギャモンは攻めてなんぼだぜー! 雪之進も、いいファイトスタイルだったぜっ!」

「あ、ああ、まあなっ!」

 親指を上げてグッってしてきたので、俺も上げてグッしといた。

「ちなみに、百華ちゃんたちは駒を進めていたけど、風次郎くんたちのように、後方に駒を待機させて逆転を狙うゲームを、バックゲームと言うわ」

「あれがそうなのか……」

 やっぱ本で読むだけより、実際やってみたらよくわかったぜ。

「本当は狙ってするものじゃないけど、うまくはまれば勝てる上に、大会のようなポイントマッチだったら、逆転でたくさんポイントを獲得できる可能性すらあるわ。勝った方も負けた方も、今の感覚、忘れないでね」

「はぁい」

 百華ちゃん、なかなかショックだった模様。一度顔をがくっとしてから、もっかいこっちを見た百華ちゃん。

「ぁりがとうございましたっ」

 低いところからの上げ調子や、『たっ』が強調されていたところに悔しさがにじみ出ていたけど、最後はちょこっと笑った百華ちゃん。

「ありがとな! またやろうぜ!」

 いい友情だねぇ……バックギャモン万歳っ。

「ありがとうございましたっ」

 ああもう笑顔佐遊希うはぁ……。

「こ、こちらこそ、ありがとうございまし、た」

 っかしぃな。佐遊希とは何度も戦ったことがあるはずなのに、なんだか新鮮に感じるぞ……?

「おっし先輩! 約束だ! オレと組んでくれ!」

 風次郎は立ち上がって、そう言い放った。

「ええ。組みましょう」

「おっしゃー!」

 ここに風次郎・睦音混合ダブルス結成の瞬間?!

「あ、あたしも先輩と戦ってみたいです! あたしも三年生と組んで、先輩たちと戦ってみてもいいですか!?」

 おおっと、百華ちゃんも睦音先輩がお気に入りになったのかっ?

「ええ。ではあの後ろの方にある、空いているボードを使いましょう。百華ちゃんと組んでくれる人を、探してきていただけるかしら?」

「は、はい!」

「オレは場所取りだぁー!」

 百華と風次郎は、元気にこのボードから立ち去っていった。あ、睦音先輩が俺を見てきた。

「雪之進くんも。風次郎くんの攻める姿勢を尊重していて、いいバディ相方だったんじゃないかしら」

「ば、ばでぃって、そんな…………なぁ?」

 って、佐遊希に聞いてもしゃーないと思うけどさ。笑ってる顔を見られた。よかった。でも勝ったのは俺だっ。

「佐遊希ちゃんも、全体を通して見れば、基本に忠実でよかったわ。何事も基本からよ」

「ありがとうございます」

 佐遊希のありがとうございますで、白飯三杯はいけるな。いや四杯。いや五杯。

「たしか、小学校のときにしていたのだったかしら」

「はいっ。友達……ともしていましたし、家族や親戚ともしたことがあります」

 俺をちらっと見たのは、その相手に俺が含まれているから。あれ? これもしかして、小学校のとき仲良しでしたーを隠していくスタイル?

「わたくしも、家族や親戚とよくするし、お父さんやお母さんについていって、その日会うお相手さんや、子供さんとすることも多いわ」

「へぇー」

 あいや、すでにちらっと聞いてたけど、思わずへーって言っちゃった。

「それじゃあ、わたくしはそろそろ行くわ。二人はどうするの? このボードでシングル戦をするのかしら」

「あ、えとー……」

 佐遊希こっち見てるぞぉー。あー、じゃあ、こほん。

「せっかくボードも空いてるし、さっきの戦いを、振り返……る?」

 あ、佐遊希に聞く形になっちゃった。

「はい」

 佐遊希のはいでご飯六杯ウップ。

「試合を振り返るのはとてもいいことよ。二人でじっくり振り返ってみてね」

「あ、あざす」

 このボード前にいる間、優雅さを一秒も崩すことなく過ごして、今去っていった睦音先輩。

 残った俺たちは……まぁ、顔を合わせるわけで。

(あー、せ、せっかくなんだ。しゃべらないとなっ)

 ボードは、佐遊希たちの駒が取り残されたままだけど……ま、まぁこほんっ。

「……よっ?」

 超戦った後だが、右手を上げて、よっ。

「こんにちは、雪くん」

 電話や手紙ではあったけど、実際にそう呼ばれたのは、実に三年ぶりだ。

 中学校の三年間でも、俺を雪くんと呼んだ人物は、一人もいなかったからな。

「こ、こんにちは、佐遊希」

 奥義・こんにちは返し。佐遊希は笑ってる。

「本物の雪くんだねっ」

「実は忍者が化けてたりして」

「もしそうだったら、さみしいなぁ」

「フッフッフ」

 あーやべ。懐かしすぎるこの感じ。

 周りは交流会でキャッキャワイワイしているが、なんだかここの場所だけ、昔に戻っているような、そんな感じがしてしまっている。

「佐遊希こそ、ちゃんと本物なんだろうな?」

「私よりも雪くんに詳しい忍者さんがいたら、なんだかやだなぁ」

 俺の知らぬ間にスパイが潜入してたとかっ!? まさかぁ~。

「会うのは久しぶりだな、佐遊希」

「うん。ずっと楽しみにしていたよ、この日が来るの」

 くぅ~……やっぱ佐遊希ってツボにグサグサッ! 肩ちょっとせばめるその感じもまたGood!

「俺~……もって言いたいけど、なんか、久しぶりすぎて緊張してたかも。電車乗ってたときとか」

「私もそうかもっ。登校して、机やバックギャモンのボードを準備しているときとか、だんだんと雪くんと会っちゃう時間が近づいてきているんだなあって」

 佐遊希も俺と会うのを楽しみにしてくれてたようで、えがったえがった。

「あ~やっぱ、電話や手紙もいいけど、直接ギャモって直接しゃべると、超いいよなー」

 頭の後ろに手を当てながら、ちょっと大げさ気味に言ってみた。

「うん。引っ越しちゃって、小学校のときの友達は、ずっとひとりもいなかったもん。雪くんと会えて……とってもうれしいっ」

(うふおぉ~っ……)

 今のは効いたでぇ佐遊希ぃ……。もっと会いたくなるではないか~……。

 でもそうだよなぁ。俺は地元にいてるままだから、幼稚園・小学校の同級生らと会う機会はよくあるわけだが、引っ越した佐遊希は、中学校でいちからそっちの友達作ってったって感じだもんな。

「……俺~。ときどき電車で来ようかな」

 と、心の声がぼそっともれてしまった。

「ほんとっ!? うんっ、私も雪くんと会いたいっ。私も電車でいっちゃうっ」

本気マジ!?」

「うんうんっ」

 決めたっ。俺は今年から、佐遊希とばんばん会っちゃうぞっ! 佐遊希も両手ぐーでやる気まんまんポーズだっ。

「夏休みも泊まりに来てっ。お父さんもお母さんもお兄ちゃんも、雪くんとバックギャモンしたがってたよっ」

本気マジぃ!?」

「うんうんっ」

 あいやその、御家族様も俺とバックギャモンしたがってたんかーいっていうツッコミ部分と、お泊まり大作戦だと?! の衝撃とで両方っ。

「冬休みも遊ぼうねっ」

「早い早いっ」

 そんなにも俺と遊びたがっててくれてたなんて、感動ですわぁ……。

「引っ越してから、中学校でも、お友達はできたの。でも、雪くんたちといた小学校のときよりも、なんだかちょっと緊張しちゃってっ。あの時みたいには、のびのび遊べてないかも」

「あんまり気が合わないとかなのか?」

 手紙では、友達関係でそういうネガティブな感じのこと? みたいなのは、特に書かれてなかったと思うが。

「ううん、楽しいし、みんなも私と仲良くしてくれてうれしいよ。小学校のときのみんなとの思い出が、忘れられないだけなのかも」

 ふむ。俺も忘れてないぞ、佐遊希と遊びまくったことと、遊んでるときにうきうきしてたこと。

「特に雪くんとなんて、いちばんの仲良しだったから…………ふふっ」

 む? なんで笑顔からさらに進化させたふふっを、右手を口元に添えながら披露したんだ?

「雪くん。あんなにも泣いちゃうなんてっ」

「だっ! じ、人生で一回だけじゃい! 女子の前であんな泣いたの! ……男子の前でもねぇけど!」

「あはっ、そうなんだぁ」

 い、今なら泣かないもん。ぷいっ。

「あまりにも雪くん泣いちゃうから、私泣けなかったよぉ」

「ふんっ」

 ああ今日もいいお天気ですねぇ!

「……夜まで我慢できていたけど。おやすみするときには、我慢できなくなって……いっぱい泣いちゃったけどねっ」

「……そっか」

 今の発言でチャラにしてやらあっ。

(だれか特殊な電波発生装置を佐遊希に付けたのか? 俺、たぶんめっちゃくちゃうきうきしてっぞ?)

 ぜひとも辞書のうきうき欄に、佐遊希の正面に座ったときの気分、という文言も追加していただきたいものである。

「やっぱり雪くんって、いいなぁ」

「なんじゃそりゃっ」

 ちょこっと間があったと思ったら、そんなセリフがっ。

「一緒にいてて、落ち着くし、でも楽しいし……なんだか、いいのっ」

「お、おぅ」

 お役に立てられているようで、なによりですたい。

「これからも、ずっと……仲良くしてねっ」

 そんなダブリングキューブはいかいいえの選択肢を提示されたら……

「……テイクもちろん、はいでっ」

 横に置いてあったダブリングキューブをとんとんして、テイクアピールを増してみた。そんな佐遊希のにっこりなんて、いくらでもテイクどんとこいしちゃいますがな!



 その後、俺たちは戦わずに、さっきのダブルス戦を思い返しながら、駒を移動させたり、あの時これやばかったなーあれ効いたわーな話をしたりして、実に平和な時間を過ごした。

 しばらくして、7ポイントマッチの団体戦をするっていう流れになって、それぞれの学校から五人ずつメンバーを立候補制で集い、ダイスの目でAチームBチームに配属、学校ばらばらの連合チームがそれぞれ作られた。やっぱり部長は戦わないんだなっ。

 俺と佐遊希は横に並んで見学。さっきまでずっと向かいだったが、横だとやっぱ近くて……イイネッ。

 たくさんの人たちが、ひとつのギャモンボードを囲み、ダイスの一振りごとに盛り上がり、なんか、やっぱ、バックギャモンのある風景って、いいよな。


「本日はありがとうございました! バックギャモン、もっと勉強しますね!」

「こちらこそ、ありがとうございました。今度は来月の下旬ごろに、こちらからうかがわせていただきます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」

「来月も会えること、とても楽しみです。ありがとうございました。またいらしてください」

 校門まで見送りに来てくれたみんなにばいばいして、俺たちは帰ることにした。

 佐遊希はいつまでもどこまでも笑顔だった。


「今日の交流会は、どうだった?」

 行きと同じ横に長い赤イスに座っていたら、副部長が声をかけてきた。

(も、もちろんこれは、佐遊希のことだけじゃなく、全体的なことだよなうんうん)

「まあ、うまくいったと思います」

「睦音から棋譜を見せてもらったけど、風次郎と組んで勝ったみたいね」

「あ、ああ。逆転決まりましたっ」

 その風次郎は、今は眞央や明純先輩らとしゃべってる。

「これからも頑張ってね」

「は、はいっ」

 副部長もまた、三年生らしい大人なほほえみをかけてくれ、次はー……湧典のとこか。みんなに声かけてんのか……さすが副部長っ。

 俺は一人で窓の外に流れる景色を眺めていた。なんでかって? 佐遊希のこと思い出してたからっ。

「やっ! 相手の一年生の子をやっつけたんだってー?」

 お? ここで鈴穂先輩が声をかけてきた。

「途中までまったく攻撃できなくて、そのまま負けるかと思ってましたけど、なんとかっ」

「で? その一年生の子とずっとしゃべってたんだってー?」

「な?!」

 一気ににやにや顔になった鈴穂先輩……。

「なになに。好きになっちゃった? ほれちゃった? 対戦した後も猛アタックしてたらしいじゃないのこのこのぉーっ」

「な、なんですかそれはっ! あーあれですよ感想戦感想戦!」

「へぇ~、初めての交流会なのに、随分と交流に熱心なのねぇ~……」

 だって佐遊希とは初めての交流じゃないもん! ってなんだ陽和、なぜ俺を見ている?! それに気づいた淋もこっち見てるやないか!?

「団体戦も、しっかり隣キープして見てたし?」

「だっ! か、感想戦した流れでそのまま座っただけさっ!」

 ひぃーなんで俺だけこんなに攻められてんだぁー!

「いや~先輩にも見てほしかったっスねぇ~オレと雪之進との鮮やかなデビュー戦!」

 おっとっ、ここで風次郎がやってきた。

「でも睦音先輩と組んだときは、やられちゃってたもんねぇ~?」

「ぐはっ!」

「そうだったのか?」

「ぐはぐはっ!」

 あの睦音先輩と組んでも、負けることがあるっていうのかバックギャモン……。

「……ダブルの練習も兼ねてってことで、3ポイントマッチをすることになったんだ。オレは有利だと思ってダブルしてさ。そしたらしばらくして向こうがダブル仕返してきてよぉ。受けて立ったら、走りきられて4ポイント取られて一発負け。はぁー」

「ダブルなんて睦音先輩に任せときゃいいのにー」

「練習なんだから、やりたいときはやれって言われてたしよぉ?」

ドン~マイッドント・マインド

「はぁー」

 肩を落とす風次郎に、ぽんっと肩に手を乗せる鈴穂先輩。

「で? 風次郎くんは、お目当ての子、見つけた?」

「は? お、お目当て?」

 鈴穂先輩は何しに交流会行ってんだっ?!

「ほらぁ~かわいいこいっぱいいたでしょー? 彼女にしたい子、一人くらいいたでしょっ?」

「はあ!? せ、先輩なに言ってんスかっ! てかわざわざあんな遠い学校の女子を彼女にしなくたって、うちの学校にも女子いるじゃないっスか!」

 う。鈴穂先輩の目がきらりと光った気が。

「ははーん。すでにうちの学校にお目当ての子がいる……と?」

「んなこと言ってねぇっスよぉ~!!」

「にしし~」

 やべぇな……このままじゃ、佐遊希のことでいろいろ言われる日も、そう遠くないかもしれないぞ……。

 ここで、この駅では人がたくさん入ってきて、イスにも続々と座っていったので、俺の左隣は風次郎、右隣は鈴穂先輩で固定される形となった。


 人が増えてからは、鈴穂先輩のキャッキャ攻撃は減ったが、やっぱ電車で女子が隣ってのは、多少なりとも緊張がっ。

 次の交流会は続けざまに来月かぁ。七月の頭に、地区ごとの大会がそれぞれの学校にあって、その前の調整って感じなんだろう。今度は向こうがこっちに来てくれる。

 そしてその大会もまた、夏休みに行われる全国大会に向けての、調整の場にもなるらしいので、これからいろんな学校と戦う機会が出てくるんだろうか。

(やっぱー……大会で勝ったら、佐遊希も俺のことかっこよく見てくゲホゴホ)

 こうして、バックギャモンを部活として始めるっていうことと、佐遊希との新しい一年が始まるっていうこと

(と、風次郎とのタッグで初勝利!)

 で、高校生活がオープニングロールされた。



 その日の夜には、早速と言わんばかりに、佐遊希から今日の交流会についての感想の電話があった。楽しんでいただけたようでなにより。

 その時にひとつ、まあちょっと、ありまして…………



(……来てしまった)

 この前はぞろぞろ集団で降り立ったこの駅。今日は単独行動。一人であんな長い時間電車に乗ったことなんて、初めてだったろうにっ。

「こんにちは、雪くんっ」

 この前の制服姿もかっちょよかったが、今のこのワンピース装備な佐遊希はもちろんそれはそれで……よろしい。

「こんちは、佐遊希」

 あまりにも、この笑顔な佐遊希にもっかい会いたかったから、即日曜日にもっかい会おうぜ、って電話で言ってしまったのさっ。

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短編77‐1話  数ある盤賽友愛! ~はじめましてとこんにちは~ 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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