第41話 式典②

「じゃあ早速、本日のメインイベントだぁ!」

 司会者が声を張り上げて拳を突き上げれば、それに呼応して見物人たちが盛り上がる。


「おぉぉぉぉ!」


 なっ!?


「……ですわ」

 エリンが勢い余って見物人と同じく声を張り上げてしまう。護衛たちが驚きを隠せずこちらを見てきて心臓に悪い。


 しかし、エリンは腐っても侯爵令嬢である。すぐに落ち着きを取り戻すと、ふわりと笑ってみせた。


「民たちが楽しんでいるのです。私もそれに応えなくては……と」


 無理あるくね? と自身のひびが割れそうな鉄仮面に呆れ顔を隠しつつエリンの後ろに控える私。

 

「なるほど。そう言った考え方もある、か」

 しかし、ルートはその言葉に理解を示した。心の中ではそうは思っていないかもしれないが、こちらの体裁を慮ってくれたのかもしれない。


 気苦労が激しいわ、まったく……


 胃の痛みを意識しながらそれをおくびにも出さないように気を付けつつ立っていると、司会者が私たちに視線を寄越してきた。


「殿下、エリンワース様、お願いいたします」


 司会者の言葉を受け、二人が一歩前に踏み出した。大きくなる歓声に応えつつ、二人が向き合う。


 司会者も二人の動きに合わせて見物人を煽りだした。


 見物人たちの声が私たちに降りかかる中、ルートの後ろに控えていた従者二人が箱を持ってルートの真横に跪く。


 装飾がふんだんに施された箱だ。エリンに向けられた方には王族を表す鷹のマークが施されている。


 鷹には雄大な空を飛び、国民たちを見守っているという意味が込められているらしい。


 従者の片方が慇懃なしぐさで蓋を開け、もう片方の従者が中に手を入れる。


 そしてゆっくりと中に入れられていたモノを取り出した。


「おぉ……」

 私は思わずそうこぼしてしまった。それほどまでに綺麗だと思ったから。


 従者が取り出したのは大きな水晶。日差しを屈折させ反射するその様はそこにもう一つの太陽があると錯覚させるほどの力に満ちていた。


 加工前の水晶はそこらに転がっている石ころより少し綺麗といった様子。しかし、磨くとその真価を発揮する。


 この世のモノとは思えないほどの透明感を発揮し、見る者すべてを魅了する代物に変わるのだ。


 そして何より目を見張るのはその大きさ。従者から水晶を受け取ったルートの両手から零れ落ちてしまいそうなほどである。


 研磨してそれということは、原石はどれほどのモノだったのだろうか。


 これほどの大きさを持つ水晶は国内でもそう多くはないだろう。


 セレジーにも山脈はあるが、水晶はほとんど出てこない。国内であれば火の都アレツィナの火山帯でなければ見つからない。


 そしてアレツィナの火山帯は今も活動を続けている火山が多く、その環境に適応した魔物も跋扈している。


 王宮に献上された水晶は多大な犠牲と難易度の果てにもたらされたもののはず。


 それを今回、水の都に下賜するのだ。大々的に記念式典を行うのも頷ける。


 階段下の見物人たちは水晶の登場で圧倒されたようだ。盛り上がりは歓声というよりもどよめきに変わっている。


「エリンワース」 

 ルートの言葉にエリンは跪くと、水晶を受け取るべく両手を差し出した。


 ――その時、


 気配ッ!


「エリン!」

 背後に魔力の動きを感知した私はエリンの名を呼び、すぐさま薔杖そうじょうを呼び出した。

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