第26話 殴り合い

 魔法使い同士の戦いなのに、両名が選んだのは殴り合いである。小細工はなし。拳で語り合う。


「どうやったって、あんたにこの子は救えないわ。キューティーチャー・ミサキ!」


 わたしのホホに、魔女キテラのパンチがめり込む。


「救うのは、わたしじゃない!」


 お返しに、キテラのボディに拳をねじ込んだ。


「ごほおお!」


 魔女の身体が、宙に浮く。魔法で受け流すことも、できなかったらしい。


「リクが自分で助かるんだ! こいつはもう、わたしを必要としない!」


 カーフキックでふくらはぎを蹴って、左フックを見舞う。


「生徒を導くのが、教師でしょ!」


「わたしは、道案内しかしない!」


 跳んできたハイキックを、わたしは殴って撃ち落とした。


「があ!?」と、魔女が呻く。


 ただのケンカなら、わたしの方が上である。


「生徒は、自分で立つ必要があるんだ。わたしたち教師は、その手助けをするだけ。一から全部やってあげていたら、生徒は成長の機会を失うんだ!」


 ローブの胸ぐらをつかみ、魔女を投げ飛ばす。


 が、頭突きによって投げが解除された。


「リクを弱くしたのは、あんたたち大人のせいじゃない! だからリクは、あたしに助けを求めた!」


「そうかもしれない。だが! ほんとうの意味でリクを腑抜けにしたのは、お前だ魔女!」


 相手のミドルキックに合わせて、またカーフキックを浴びせる。


「リクをそそのかして、全部自分でやっているくせに、リクに罪を全部被せようとしているじゃないか!」


 だから、あやかし仮面が動いた。


「お前は、リクの身体から出て行け」


「イヤよ。あたしはリクとして生きるの。せっかく天敵の苺谷いちごだに一族に接近できた。篭絡して、今度こそ壊滅させるチャンスなのに!」


「テメエの野望は、わたしが止める!」


「リクもろとも、殺す気ね?」


「死ぬのは……テメエだけだ!」


 わたしは、髪留めに手をかけた。


「デュワッ!」


 髪留めがわたしの魔力を浴びて、ステッキに変形する。


「ムウウウ、デュワアア!」


 わたしは、ハート型の光線を放つ。


 魔女キテラも、杖を構えて火球を撃ち出した。


「ムダよ! 純粋な魔力勝負なら、あんたに勝ち目はない!」


 火球を大型化させて、魔女が優位にたとうとする。


「それはどうかな? リク、聞こえているな?」


 わたしは光線越しに、リクくんに声をかけてみた。


「あんたの身体から、魔女を追い出すんだ! 魔女はあんたを乗っ取ったつもりだろうが、キテラはあんたじゃない! あんたもキテラじゃないんだ! リクとして、生きるんだ!」

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