第6話 秒で決着!?

 今回のバトルフィールドは、撮影スタジオのような空間だ。


 戦闘空間をアヤコは、選曲するフリをしてこちらを見守っている。


 魔法少女になったとて、ワタシは攻めあぐねていた。


「出たな、キューティーチャーミサキ! 今度こそ引導を渡してくれる!」


 キャンディーコーラのモンスターが、泡を飛ばしてくる。


 これに当たったら、ワタシの衣装も溶けてしまうだろう。


「げ! 撮ってる!」


 なんと、ドローンでスマホを飛ばして撮影しているではないか。


「ヤバイ聞いてないよ! アヤコ、なんとかして」


「大丈夫よ。そのスマホはファッションだけだから」


 実際は撮られていない。魔法少女のパワーで、認識は阻害されているという。よって、ライオンになった山本さんも、ワタシがキューティーチャーだと知らない……はず。


「どうした!? 逃げてばかりではアタシを倒せないぞ!」


 意気揚々と攻め込むライオンコーラ怪人に対し、ワタシは逃げの一手しかない。


「ミサキ、どうしたのよ!?」


「生徒を殴るわけには」


 やはり教育者として生徒に手を挙げるのは避けたかった。


「では生徒でなければ殴っていいのか」と、いうわけではないが。


「殴っていいのよ! 相手は、あんたの生徒ではないわ。怪物よ?」


 モンスターは一応、人格は共有しているが、物理的には融合していないらしい。よって、殴っても問題はないのだ。


「でも、生徒は生徒だよ。手は出せない」


 避けるしかない自分が、もどかしい。しかし、どう戦うべきか。


「つまんない! もっと遊んでよ! アタシの強さが表現できない」


 泡を撒き散らしながら、ライオンが地団駄を踏む。


「そうはいっても、生徒を叩くなんてもう時代遅れだよ」


 攻撃を避けながら、ワタシは山本さんの説得を試みた。


「いいじゃん! 再生数も伸びてバズるわ!」


「それは、炎上って言うんだよ?」


「炎上しても、再生数が伸びればいい!」


 ダメだ。彼女は、承認欲求にとらわれている。


「この話はしたくなかったんだけど、昔、あんたみたいな子が教育学部にいたんだよね」


 その女子大生は当時で言う「バカッター」で、ウケるためならなんでもネタにした。浮気や犯罪歴、自分のハダカやらも。炎上するほど閲覧数が伸びるので、歯止めが効かなかった。


「で、どうなったの?」


「カンニングの画像をアップして大学にバレて、死んだ。社会的にだけど」


 そいつは家に引きこもって、十数年出てこられないらしい。


「そっか……」


 山本さんが、しおれていった。必殺技を繰り出すまでもなく。


 元の世界に戻り、山本さんの無事を確認した。


「お騒がせしました。では、失礼します」


 山本さんを連れて、部屋を出ようとしたときである。


「待ちなさい!」


 レジ係の女性店員さんが、ジャケットのウラを確認した。


 そこには、名札が。


「あなた小学生じゃないですか! 子どもがこんなところに、一人で入っていいの!?」


 突然、店員さんが怒りをあらわにした。


 山本さんは、大人のきょうだいが使っている会員証を使って、一人カラオケに来ていたのである。


 だがレジ係に、小学生だとバレてしまった。化粧をして見た目が大人びていても、気づく人は気づいてしまう。


「あんたみたいな子がいるとね、こっちが迷惑するのよ! 未成年を店に入れたって! 炎上しちゃうじゃない!」


 店員の怒りが、明後日の方角へ向かっている。


 いったい、なんだというのか。


「炎上するのは、やった当人だけでいいのよ!」


 レジ係が、ビールをあおって泡を吹き出した。さっきのモンスターへと変貌を遂げる。


「え、まさか!?」


「マズイわ、ミサキ! 怪物のやつ、店員さんの方に取り憑いた!」


 第二ラウンドかい!


「ビール泡、ブシャー!」


「きゃああ!」


 なんと怪物は、山本さんのキャミソールを溶かそうとするではないか。


「グヘヘ! 炎上、上等! 脱ぎかけ小学生は最高だぜ!」


 同性でありながら、弱い女児を狙うなんて!


「ゆ る さ ん !」


 ワタシは再度、髪留めに手をかけた!


「変……身!」

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