第32話 準備

「随分と遅かったね?」


 後輩達と色々話していたら、長くなってしまったので、カラメルに嫌味のような感じで言われてしまう。ヤキモチを焼いてくれているのかな、と考えると嬉しいが、これはキモいのでやめておこう。


「まぁ、いろいろな」


「ふーん」



 そうしていると夜空に花火が打ち上げられる。皆、花火に夢中だ。

 俺は、チラッとカラメルを見る。その無邪気なキラキラしている表情が好きなんだよな、と思う。

 来年も、皆で来れたらいいな……今度は少し違う関係性で。





 



 楽しい時間は早く過ぎるというもので、いつの間にか9月になって、夏休みも終わってしまった。

 いつもなら学校行きたくねぇな、と思うのだが、今年はそうも言ってられない。

 

 9月に入ると、10月にある文化祭の準備が始まって、校内も文化祭ムードになる。俺も色々準備しないとな…。

 俺らの学校の文化祭は2日間で、前夜祭や後夜祭などはない。ただ、2日目の最後の1時間に“フィナーレ”という時間帯があり、その時間はステージで盛り上がったり、恋人と一緒にいたり、告白したり……いわば、チャンスの時間だ。


そこで、俺はカラメルに告白する――






「えっ、生徒会の仕事で相談?」


「あっ、はい。そうなんです」


 俺はとりあえず第一段階として、鳥山先輩に話をしに行く。


「私はもう一応引退したよ?」


 夏の生徒会選挙で、会長たち3年は引退をした。一応10月までの任期はあるが、まぁ引退と言える。先輩達は受験もあるしな。


「いや、鳥山先輩に聞きたいことがありまして。先輩なら経験豊富だし、何しろ新会長もまだ全て把握していないみたいで」


「そういえばそうだもんね。カラメルちゃん惜しかったなぁ。決選投票で負けちゃうと役職なくなっちゃうもんね。生徒会、という部活動には所属したままだけど」


 7月に行われた生徒会選挙では、瑞希とカラメルの決選投票となった。瑞希も生徒会活動に興味を持っていたのは知っていたが、いきなり会長に立候補するとは……とても驚いた。

 瑞希の方の応援演説は、祐樹でかなりの美男美女ペアでとても人気だった。俺もカラメルの方の演説をなんとかこなしながら戦ったが、惜しくも負けてしまった。まぁ、ラブコメ展開はほぼなかったので割愛しよう。


 という事で、今は瑞希会長となり、新しい後輩も何人か入った。文化祭は、そんな新生徒会の初めての大仕事だ。


「それで……毎年、生徒会って伝統的な奴やってるじゃないですか?」

 毎年生徒会は、段ボール迷路だったり、謎解きを作成したりしている。


「そうだねぇ。結構、あれ大変だよね」


「あれってなくなりませんかね?」


「それは流石に無理じゃない? どしたの、なんかあった?」


「はい、実は」

 

 そして俺は、鳥山先輩に事情を話す。実は、この生徒会の出し物、結構面倒くさいのである。時間ごとに色々な担当をしたり、片付けもとても大変なのだ。“フィナーレ”の時間帯も、俺ら生徒会はいち早く片づけをしたりと、非常に損な役回りだ。これは、とても都合が悪い、


「ふんふん、なるほど。青春してるなぁ。そこら辺の多少の調整? はたぶんできると思うよ。まぁ、新会長と要相談することだね。何とかうまくといくといいね。応援してる!」


「はい、ありがとうございます!」



「はぁいいなぁ。勉強勉強勉強……」

 

 受験生は大変だなぁ、本当に。どうにか自我を保ってください、先輩。





「というわけなんですよ、会長さん」

 鳥山先輩との話を終え、新会長の瑞希に相談することに。


「斗真君、私は都合のいい女なんだね」

 うっ、心に矢が刺さる。


「うっ、それは否定できない。頼む、ここで一生の願い使わせてくれ!」


「冗談だよ。あっ、ちょっとこれ見てくれる?」


 そう言って、瑞希はスケジュールみたいなものを見せてくる。


「私が1日目の午前で、カラメルさんは1日目の午後で、斗真君は少し短い2日目全般にしているんだけど」


「あぁ、1年は全然知らないし……後輩達が何かトラブった時のために先輩と後輩で上手く配置してんだな」


「そう。だから動かすなら、斗真君を1日目の午前に……でもその時間帯は人もおいし難しいかも」


 あれこれ考えていると、


「先輩たち。私たちを舐めすぎじゃないっすか?」


「小鳥遊! それに来間も」


 そこに表れていたのは後輩2人だった。


「先輩たちの説明があれば、私たちでも対応できます! 先輩は、カラメルさんと同じ1日目の午後とかにして、2日目は思う存分イチャイチャしてください!」


「そうね。まぁ、このやらなかった仕事分は今後返済してもらうみたいなシステムでいいでしょう」


「皆……本当にありがとう」


「あっ、斗真君。利子とかについては、またちゃんと話しましょう」


 やっぱ、少しだけ優しくねぇわ。



 クラスの出し物は、休憩スペースを作る、ということになった。これならゴミ捨てぐらいで、文化祭をほぼ自由に楽しめるし、自由に展示したり色々装飾できるということで満場一致で採用! ということになった。


「斗真の意見を皆に言ったらこんな早く決まるとはな」


「だから言ったろ祐樹? 文化祭は楽しむことがいいんだし、これが一番だよ」

 こういう抜け道みたいな少しズルいことを考えるのは得意だ。


「それで、例の件もオッケーだ……って俺全然知らなかったんだけど!?」

 むしろ、お前が一番気づけよ! 


「瑞希や後輩達は気づいてたぞ」


「あちゃぁ、親友失格だな」


「まぁ、お互い頑張ろうぜ、祐樹」


「おう」


 そう言って、俺と祐樹はグーダッチを交わした。



 皆の協力もあり、2日目を空けることに成功した。これでカラメルとの件は、あらかた準備完了だ。あとは……


「真緒、文化祭の1日目の午前中に話があるから、一緒に回ったりしないか?」

 というメッセージを真緒に送る。


「う、うん。約束!」

 という返信が返ってくる、


 気持ちをぶつけてくれた真緒にも、俺の気持ちをぶつけなければならない。瑞希や後輩達は、俺のことを気づいたうえで協力してくれたけど……関係性が壊れる可能性だって少しばかりかはある。真剣に向き合わないとな。







 そして文化祭がついに開催する――






 

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