第10話 それぞれの思うこと

「で、話したいことってなんだ?」


 俺と瑞希は、学校の近くのカフェに来ていた。

 瑞希の話を聴くために。


「祐樹君のこと、なんですけど」

 あぁ、やっぱりか、と思った。

 けど、ただ簡単な話でもないようで。


「遊びに誘ってくれて、本当嬉しくて。でも怖いんです」


 まずは、友達として誘ってくれて本当に嬉しいという気持ち。

 だけど怖い気持ちがいて。

 きっとこれは、瑞希の根っこにあるようなもので……



「怖い? 男性恐怖症みたいなことか?」


 瑞希は、美人があるが故によく絡まれる。

 男性を少し怖がる、ってのもありそうだ。


「近いと言えば、近いかもしれないけど……」


「もしかしたら」

 俺は、祐樹や瑞希の話をもう一度深く考え、一つの結論に辿り着く。

 

「告白とか、恋愛部分が根幹にあるのか。言ってみれば、告白恐怖症みたいな感じか」

 

 関係性が破綻する、みたいに告白とか、恋愛感情を怖く考えてしまうのだろうか。


「斗真君は流石というか、よくわかる、ね。私は、そういう恋愛のこととか、あまり分からなくて。色んな人が告白してきたけど、全部断って。そして、ふと思ったんです」


 



「結局、私と付き合いたいとか、顔が良いから皆寄ってくるのかなって」

 


 と、これが瑞希の答えだ。自分自身に価値はなくて、皆は外面だけ好きになってくれるのではないかと考えて。それが瑞希は嫌で、もどかしいのだろう。


「なるほどな。ちょっと残酷なこというけどいいか?」

 俺は、また瑞希と出会った時のように本音をぶつける。


「……はい」



「基本、男から女への絡みとか、仲良くするっていうのはさ。そういうのが大半だと思うよ。最初は、仲良くなりたい。そして付き合いたい、もっと知りたい、結婚したいってなるんだよ」


 たまに、異性の友情はありかなしか、みたいな議論をみる。

 確かに異性の友情もある。瑞希やカラメルなんかもそうだ。

 けど、それは特別な事情だ。お互いに共通項があったり、俺自身が抱えていることがあったりのレアケース。

 基本的に異性に話しかけるのは、恋愛感情だと思う。俺は、男だから男の気持ちしかわからないが。だから俺はいつも言う。

 異性の友情、ってものは、レアケースでしか起こらない。基本的に異性の友情はない、ってね。女子目線からするとまた違うんだろうけど。


「斗真君もですか?」


「まぁ俺は、そういうのないと分かってるから大丈夫、ってところはあるけどさ。異性の関係なんて好きとかそういう恋愛が断トツで多いわけだし」

 俺は、そういう恋愛なんて無理だと諦めてるし。


「そう、ですか」


「瑞希の言いたいことも分かる。内面を見てくれないのか、とか思うよな。でも大丈夫だ。祐樹は優しくていい奴だからな。だから気にするな」

 少なくとも祐樹なら、接していく中で、内面も好きになってくれるだろう。

 見る限り、あいつはとても良い奴だから



「ありがとう。少し、すっきりした」


「感謝なんて言われるほどでもないよ。まっ、でもちゃんといい人を見極めて、その時は付き合うようにな」


 瑞希もいずれ誰かと付き合う日が来るのだろうか。


「いい人、ね。祐樹君は、私のことどう思ってるんだろう?」


「やべ、ちょっと喋りすぎたかも……あ、この話は内緒な。あとは祐樹本人に聞いてくれ」

 つい、離しすぎたかもしれない。許せ、祐樹。

 ま、まぁとりあえずがんばれ。






 瑞希との話も終わり、帰宅して、風呂と夕飯を済ませて課題をしていると携帯の通知音が鳴った。久遠さんからだった。


「ねっ、暇? よかったら通話でもしない?」

 というメッセージと共に、可愛い犬のスタンプが送られてきた。


「はっ!?」

 えっ、どうしようなどと焦っていると、さっそく電話がかかってきた。



「も、もしもし?」


「あっ、やっほ。通話大丈夫? 今何してた?」

 久遠さんは俺と違って、通話に慣れているような話し方だ。


「いや、今課題をやってたけど」


「どうせ、安佐川君のことだから答え丸写ししてるだけでしょ。どうせ動画でも観ながら」

 いやなんでばれてるの? 超能力者なの?


「そ、それで何か用か?」

 

「何か用がないと通話したらいけないの?」


「いや、そういうこともないけど」

 

 そういうこともないけど……じゃあ、なんで通話するんだ? と経験のない俺は思ってしまうが。


「仲良くなるための親睦を深める、ってことで。安佐川君って趣味とかなんだっけ?」


「うーん、スポーツ観たり、お笑いとかアニメとか」


「どっちかっていうとインドア派かな? 同じだ」

 久遠さんもインドア派なのだそう。サバサバしている感じなので意外だった。


「久遠さんもアニメとか好きなの?」


「うーん、好きになったっていうか、興味を持ったというか。なんか触れてみたら、予想以上って感じ?」


「あーまだ初期段階みたいな感じね」

急に饒舌じょうぜつになる俺。

うわ、オタクの悪い癖出てますわ。


「そそ! だからまた色々教えてほしい!」


「それは任せてくれ。久遠さんに合いそうな奴、考えておく」

 最初はやはりラブコメがいいかな、などと考えてると


「安佐川君、って優しいよね」

 久遠さんが優しい声で呟いた。


「そうか?」


「きっと安佐川君にとっては、そこは当たり前という考えなんだと思う。けど、それっていい所だと思うよ」


「いやいやそんな。俺なんかダメ男だし」


 最低限、人間としてルールとかを守ってるってだけだし。

 結局、根は腐ってるし。


「それでも良いって人がいるかもよ」


「はは、ないない」

 そんな人良いなんか、想像もつかない。


 



せっかくの機会なので、俺も気になったことを質問する。



「久遠さんってさ」


「うん?」


「友達とかと遊んだりしないの? それに帰宅部だし、なんか意外」

 イメージと少し乖離かいりしている久遠さん。

 それがどうしても気になって。


「そこを突かれるとは、こりゃ参ったね。2人だけの秘密にしてくれる?」


「もちろん」


 そういって、久遠さんは昔話を語り出す――





「私、中学の頃さ、事件というか大きな出来事があってさ」


「事件?」

 いきなりの物騒な言葉に驚く。


「私も昔はさ、いっぱい友達いたよ? 親友もいた。けどさ、裏切られたんだ」

 

 安佐川君は、私に仲良い人がいないことを言いたいんでしょ? と見透かされているような気がした。


「最初は仲良くて、ずっとこの子と一緒にいるんだと思ってた。けど私は、利用されたんだ」


「……マジか」

 想像以上の事件で思わず絶句してしまう。



「モテてたってのもあるんだろうね。自分で言うのもなんだけどさ」

 まぁ確かに、久遠さんも可愛いし、モテるだろうな。


「利用されたって?」


「最初は可愛いもんだったよ。親友の子が、好きな人と話したいからさ、それに利用されたりさ」


 中学生らしい、といえば中学生らしいし人間らしい。


「でもどんどんエスカレートしていったんだ。親友の好きな男の子の本命は私だったから、さ」


 複雑に絡まる人間関係、そしてまだ中学生で未熟ってこともあって――




「勝手に変な写真を撮られて、バラまかれたことかね。まぁ、私は悪くないって言って先生からの疑いは晴れたけどさ……同級生とかはそうもいかなくて」


 笑っちゃうよね、と自虐的に言いながら、さらに話し続ける。


「今まで仲良かった子も、私をいじったり、いじめるようになって」


「親友の子は?」


「ずっと自分は悪くないって主張してたよ。だから親友派閥もできてた、みたいな」

 

 多分、その子も後に引けなかったんだろうな、と思う。

 未熟だから素直に謝れなくて、認められなくて。


「ま、結局私の仲間は誰もいなくてさ、濡れ衣を着せられてさ、引っ越した」


「確かに、1年生の時の自己紹介……」

 同じクラスだったし、そういえば、と思い出す


「そうそう。私、大阪出身やからね。なかなか高校で県外から来る人珍しいでしょ」




「そんなことがあった、のか」

 久遠さんに、まさかこんな事があったなんて。

 てっきり人気者だとか勝手に決めつけて。

 久遠さんも抱え込んでいて。


「本当に人生、ってクソだよね。でもやっぱり親友とかほしいとか思っちゃうし、コロっといきそうな時もあるよ」


「そういうのわかるよ。誰かにすがりたくなるよな」


 俺もその気持ちはよくわかる。

 俺も人生にどうしても希望や夢を持ってしまったりする。

 それは、とても輝いていて、どうしても諦めきれないもので。





「安佐川君は裏切らない、かな?」


「俺はそこのところは大事にしてるからな。人を大事にしとく分はメリットが多いってのもあるぞ」

 

人間関係は生きるうえで特に重要だ、と思う。


「はははっ……! ほんと安佐川君って面白いし……大好き」




「え?」



 あれ今なんて?




「あ、もちろん恋愛的な意味でね?」


「……」

 えっ、いやなんで? えっえっ!?



「今、なんでって思ってるでしょ? それは、まだ内緒」



「いやでも、俺だぞ」

 こんなダメ男で、イケメンでもないただの売れ残りのような男なのに



「ほんと皆気づいてないよね。私は結構好きだよ、そういう性格も含めてね」

 





「返事、は気長に待つよ。待たされすぎても嫌だけど」


「それって、本当なのか?」

 未だに信じられない。久遠さんは、俺のことを本当に好きなのか? いやマジで?


「嘘じゃないよ。そこは信じて」


「でもそこまで絡みもないし」

 仲が特別良いわけでもない。



「安佐川君が思ってる以上にさ、女子って男子のこと見てるしさ。色々と考えたりしてるんだよ」




「まっ、本当は仲良くなってから言うつもりなんだったんだけどね。こっちにはこっちの都合がありましてね」

 ちょっと急に事情が変わってね、と付け加えつつ、




「私は、絶対に欲しいものを手に入れたいから。じゃあ、また学校で。あっ、私も一緒に弁当食べたいな、昼の時間」


 



 と、最後に久遠さんはそう言って、通話が終了した。

 この事がいっぱいで、今日の夜は全然寝付けなかった。

 







 ただ俺は、まだ知る由もなかった。

 


 この後にも色々起こる、激動の体育祭のことを――



 

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