第4話 人生ハードモード

「何とか乗り越えた……」

 

 プリクラという最難関ミッションを乗り越え、俺はテンションがハイになっていた。陽キャですが何か?

 あれ、俺最強じゃね?

 あっ、そんなことない? 全然カス?

 どうもすみません。




「それにしても色々なゲームがあるよね」

 桜葉さんはまだまだワクワクしている。


「なんでもいいよ。せっかくだから遊びつくそう」


「うーんこれかな。なんか面白そうだし」



 と、今度は“太鼓の名人”をやる事に。曲のリズムにあわせて、太鼓をたたくゲームだ。


「俺もこれ苦手なんだよなぁ。とりあえず難易度は普通でいいか」

 リズム感が全くない俺は、昔、このゲームを卒業したことを思い出した。

 だってガチ勢から白い目で見られるんだもん……怖いよぉ。


「うん!」


 そう言ってお金を入れると、


「曲を選ぶバン!」

 と、このゲームのキャラのバンちゃんが、登場。これまたハイテンションなキャラだ。

 ゲーセンはハイテンションな奴ばかりだな、本当に。

 えっ、ちょっと前の自分にブーメラン? 

 誠に申し訳ありません。



「曲とか全然わからないわ……国歌とか選べはいいかな」

 桜葉さんは全然曲を知らないようだ。


「いや盛り上がらないでしょ」

 いや国歌って。いや日本国民としていい曲だとは思うけどね?



「じゃあ、安佐川君が選んでよ」


 と桜葉さんが、若干すねたので、最近流行しているアーティストの曲を適当に選択した。


「とりあえず流れてくる ダン! がきたら太鼓を叩けばいいから。あと、サッ! が来たら外側を叩くって感じで」

 曲を知らないから余計難易度高いとは思うけど……


「まあ、一回やってみるね」

 うん、まぁ楽しく遊ぼう。

 俺も下手だからね、うん。

 





「フルコンボだバン!」

 俺が一度も見たことない景色がそこに映っていた。

 なぜなのか。


「やった、やったよ安佐川君!」

 桜葉さんも盛り上がってハイテンション状態だ。

 やっぱゲーセンってすげぇな。いやこれもう桜葉さんが凄いのか。



「いや近い、近いから」

 ハイタッチしようとする桜葉さんを何とか引きはがす。

 やめて、それ。絡まれるのドキドキするから本当に。チキンなのよ。


「でも唐沢さんはこんな感じじゃない?」


「真似したのかよ。あいつは特殊案件だよ」

 けど、こんな桜葉さんめっちゃいいな。見れたことに感激だ。

 カラメルにも感謝しておこう。

 たまにはジュースでも奢ってやるか。ケチな俺が言うから珍しいぞ。


 


 その後、桜葉さんは


「なんか、とてつもない枚数出てきたんだけど」


 とメダルゲームで億万長者のようになり、


「思ったより簡単だった! 楽しかった!」


 と他の音ゲーやダンスゲームなどでもフルコンボを出したりして、それはもう圧巻だった。

 

 ゲームはセンス、はっきりわかんだね。





 たっぷり遊んでしまった俺たち。空を見ると暗くなり始めていた。俺も早く帰らないと怒られちゃうな。


「今日はありがとう」


「いえいえこちらこそ。すっかり夕方だな」


「凄く楽しかった。これがゲームセンターなのね」

 

 桜葉さんは一つ新しい世界を知った。

 きっとこれからも色んな世界を知るのだろう。

 そこの隣にいるのは誰なんだろうと思ったりもして。



「そういや安佐川君の都合は大丈夫だったの?」

 桜葉さんは、不意に思い出したのか俺に質問してくる。


「そっちこそ大丈夫なのか?」


「私はまた別の機会にするわ。あれ、そういえば安佐川君の用事ってそういや何?」


「いや新発売のライトノベルを買おうかなって」

 まぁ、結構ゲーセンで使っちゃったからカツカツになったけど。


「ライトノベルって面白いの?」


「面白いぞ。祐樹もめっちゃハマったし、カラメルも沼に引きずり下ろす予定だ」

 やっぱり、自分の趣味は布教したいよな。話すことが増えると楽しい。

 

「じゃあ、電車で帰る前に一緒に行こうよ。まだギリギリいけるでしょ?」


 えっ、マジか? その展開いく?






「桜葉さんに果たして合うかどうかめっちゃ不安なんだけど」

 向かう道中、どんどん不安になっていく俺。

 そもそもあのオタクな感じに美少女を合わせていいものなのか?


「私は人の趣味にはとやかく言わないし。色々な世界を知りたい」

 桜葉さんは、色んな世界を本当に知りたいんだろうな。

 無邪気な幼少期の頃のように。何でも挑戦して、触って、興味を持って。



「変わったね」


「それは誰のせいでかな」


「結局は自分自身でしょ」

 桜葉さんは強いから変われたはずだ。俺とは大違いだ。


「ふふっ……確かにそうだね」


「ちょっといい?」

 でも、どうしても気になるよなぁ……



「うん?」


「いぇーい」

 少し羞恥心を捨てて、ハイタッチをしてみようとする。


「うん? い、いぇーい!」

 桜葉さんも一瞬戸惑ったが、すぐにノッてきてくれた。


「ダメだ、キャラ変についていけない」

 あまりにも違和感が凄い。

 久しぶりに会った幼馴染が本当は女の子だったぐらいの違和感がある。


「酷くない!?」


「まぁ、それが本当の姿ならいいんじゃない?」

 きっとみんな最初は戸惑うけど。

 変わった桜葉さんも徐々に慣れて、受けいられていくだろう。



「これで私も人気者になれるかな?」

 


「なれるでしょ」

 桜葉さんなら確実だ。

 

「なんで断言できるの?」


「そりゃあね。容姿が優れてるからねぇ」

 容姿が優れている人は必ず注目されるし。

 結局、顔ってとこはどうしてもある。


「そ、そっか」

 桜葉さんは少し恥ずかしがるような仕草を見せる。

 人とあまり接してこなかったから、慣れてないのかもしれない。

 あれ、じゃあ俺結構しくじってない?

 そうして俺も急に恥ずかしくなるのであった。



 


 こんな感じでいつも楽しくのはほんと生きていたい。

 けど、そううまく行かないのが人生である。何かといつもハプニングが起きる。

 それは人通りの多い道を通って、もうすぐアニメショップに着くという時だった。


「あっ、斗真と……桜葉さん!? え、ちょい待ち、え、えなんで」

 


 その声は――


「カラメル!? お前こそなんで」

 俺の親友のカラメルだったからだ。


「生徒会終わるの早かったし、市内ブラブラしようかなぁって。え、もしかして2人って、そのさ、えっえっ」

 

「うん、今日ね。なったんだ」


「桜葉さん、誤解を生む発言やめようか」

 それじゃあ、俺と桜葉さんが付き合ったみたいになるでしょ。

 なったんだ、ってそれ色んなことに捉えられるから。


「まあ、色々あってその、仲良くなったと言いますか」


「ふ、ふーん」

 なんで少しホッとしてるんだよ。

 てかそもそも俺と桜葉さんがどうやったら付き合えるっていうんだよ。冷静になれ。


 


 しかしこれだけでは終わらない。それは最悪の事態で――


「瑞希!! 何をしてるのかと思ったらこんなとこにいて!」


「お母さん……」

 

 こいつか。クソゴミカス人間は。

 俺とは違うタイプだけど、こりゃ怪物だ。

 同じクソ人間みると腹が立つ。


「お母さんじゃなくて、お母様、でしょ。ほんと低俗な人間と絡むとこうなるんだから……」


「ご、ごめんなさい。でもなんで?」

 桜葉さんが不思議に思うのも当然だ。

 なぜこの場所がわかったのか。


「少し違和感を感じたから連絡用に持たせてる携帯のGPSを確認したのよ」


「いつの間にそんなこと! 私にプライバシーはないの!」

 桜葉さんもそこまでは計算してなかったのだろう。

 でも勝手に設定するわ、追いかけてくるわ、文句は言うわ……最低だな。


「ないわよ、そんなもの。あなたはゆくゆくは立派な人にならないといけないのだから」


 立派な人ってなんだ?

 楽しく生きていくだけではだめなのか?

 まだ未来なんてわからないだろ? 

 そりゃ親のある程度の結局の縛りはあるけど、最後は自分自身で生きていかないといけなくなるんだぞ。

 ふざけんなよ、俺らはマリオネットじゃねぇなんだぞ。


「ほら、さっさと帰るわよ。あなたたちも二度と娘と絡まないで」

 それはゴミを見るような視線だった。間違いなく俺らを見下しているような目だったのは確認できた。



「ね、斗真。なんだかわからないけどこれやばいよね?」

 カラメルがこそっと俺に話しかけてくれる。

 いつもは明るく活発な奴だが、こういう時に空気を読んでくれたりしてくれるのが本当にありがたい。


「あぁ、めっちゃやばい」

 俺は弱い。ノミの心臓だし、今もどうしていいかわからない。

 けど、どうにかしたい。でもできない。でも、でもでもどうにか!

 けど俺には無理だ無理だ無理だ……!

 このまま何もなかったことにすればいい。もうかかわらなければいい。逃げたらいい。



 すると、ポンっと優しく背中を叩かれた。乱暴だった朝とは違って今度はとても優しかった。


「何だかまだわからないけど、とりあえず助けないとね。大丈夫、きっと大丈夫。斗真ならできるよ。それに斗真だけじゃない。私もいる」


 きっと桜葉さんのトリガーが俺だった。

 

 そして俺のトリガーは――





「あの、ちょっといいですか。」

 こうして俺は対峙する。魔物から姫を取り返す勇者のように。

 一人の相棒を連れて。



 さぁ、行こう。

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