【第一部】第四十章 説明と偽名と

――職員室外にて――



「ねぇ……今、教官の様子、変じゃなかった?」

「そうだな。アレン……お前、また……」

「ち、違う! 俺は何もしてない!」


 職員室から出てくる際、アレンは女性教官――ナタリアに送り出されたが、ナタリアの顔が真っ赤だったのをエリスとカールに怪しまれる。――どこか、稲姫と琥珀からも非難めいた視線を感じる。


「ふ~ん……まぁ、いいわ。で、何の話だったの?」


 これっぽっちも信じていなさそうな態度でエリスが聞いてくる。


「ここではちょっと……この後、俺の部屋に来れるか?」


 カールとエリスがうなずいたので、アレンは皆を引き連れて寮に向かった。


――アレンの部屋にて――



「――実は、理事長から卒業試験を受けるよう言われてな」

「ちょっと職員室に行ってくるわ」

「ちょ! 待てエリス! 最後までアレンの話を聞こうぜ!」

 

 寮に着くとエリスとカールは一度自分の部屋に戻り、普段着になってからアレンの部屋に集まった。稲姫と琥珀も人化し、茶と茶請けを用意してアレンが話し出した直後のことだった。


「何よカール。あんたはアレンがいなくなってもいいの?」

「い、いいわけねぇだろ! でもまずは、理由とか色々聞こうぜ」


 さすがはカール、冷静だ。――それに、エリスは俺の代わりに怒ってくれてるんだよな。友人たちの反応にどこか嬉しくなる。


「そうだな。まずは話を聞いてくれ」


 エリスとカールがうなずき、アレンが話を再開する。


「稲姫をさらいに来た仮面の奴ら――俺達が拘束して自警団に引き渡した奴らだが、収容施設で全員死んだらしいんだ」


 エリスとカールが息をのむ。


「原因や手段はわかってないらしい。自殺か他殺かも。――だが、これを重く見た学校側は、このまま俺を学校に置いておけなくなったんだ」


 そう言い終え、アレンは一息つくが――


「何よそれ……アレンは何も悪くないじゃない!」

「危ないから放り出すってか……? それでも教育者かよ」

「主様……ごめんなさい。わっちのせいで」


「退学じゃなく卒業なんだ。――明日の卒業試験に受かればだけどな。そんなに悪い話でもないさ」


 稲姫の頭をなでつつ、エリスとカールをなだめようとするが――


「アレンは! ……いいの? ――と、離れ離れになっても」

「ん? すまん、よく聞こえなかった」


 アレンが聞き返すと、エリスは真っ赤な顔で「う~っ」とうなり――


「アレンは私と離れても平気なのかって聞いたのよ!」


 ストレートだった。カールも驚いている。……エリスのこういうところは、純粋に好ましいな。


「もちろん、離れたくなんてないけどな。――でも、俺のせいでエリスが傷つくのはもっと嫌だ」


 アレンもエリスに本音で返す。


「相手がヤバすぎるんだ。――平気で仲間を殺す程な」

「他殺を疑ってるのか?」


 カールの問いかけに無言でうなずく。


「もちろん自殺の線もあるけどな。でも、皆が一様に同じ死に方をするなんて、事前に仕込まれてたか、そういう能力を持った者による犯行という線が濃厚だろう」

「まぁ、そうだな……」


 カールもうなずく。


「危険なら、アレンだってそうじゃない! それに、一人になるんだし……」


 エリスが心配そうに言う。


「そうだな。こればっかりは仕方無い。もっと力をつけるまで、また襲われないことを祈るしかないな」


 アレンは少し弱音を吐くが――

 

「うちもいるし! ご主人もうちの力をまた使えるようになったし、頑張るにゃ!」

「わっちも、もっと強くなるでありんす!」


 琥珀と稲姫が喝を入れてくれた。――これは、みっともないところは見せられないな。


「ああ。二人を守れるくらい強くなってみせるよ」


 アレンも不敵に笑う。


「わかったわ。――納得はしてないけど、考え直さないみたいだし。でも――」


 エリスが顔を引き締め、アレンを指差して言う。


「手紙を定期的に送ってよね! それくらいならいいでしょ!」

「俺は珍しそうなお土産がいいな」


 エリスが手紙を要求し、ちゃっかりカールも便乗してきた。全く、抜け目のない……手紙とお土産くらいなら大丈夫かな。


「ああ。それくらいなら問題ない。……でも、そうだな。万が一を考えて、偽名を使うことにするよ」


「用心深いな。でも、それくらいがいいのかもな」

「それでいいわ。で、なんて名前にするの?」

 

 その問いに俺は――


「カレラ」


 思いついた名を口にする。


「俺の旧名神楽カグラと、ルーカスに付けてもらったアレンを組み合わせただけだけどな」


 たった今思いついた名を皆に告げるが――


「あんたのことを知ってる連中ならすぐわかりそうだけど……」

「確かに」


 不評だった。くっ……!


「じゃあ、わっちがつけてあげるでありんす!」

「ずるい! うちも!」

「じゃ、じゃあ私も!」

「なら俺も!」


 全員が名付けを申し出てきた。――ペットになった気分だ。でもここは任せてみようか……どうせ偽名だし。


「カムイ」

「アサヒ」

「ルーク」

「フレディ」


 皆が順々に名を告げる。えっと……


「見事にみんなバラバラだな……」


 どうするか。


「好きなのでいいわよ?」


 では、エリスのお言葉に甘えて――


「じゃあ、ルークにしておくか。この辺にもいそうな名前だし、手紙を送るのはエリスにだから、思い出しやすいだろ」

「じゃあ決まりね♪」


 他の皆は少し不満そうだが、なだめて納得してもらう。


「でもまずは、明日の卒業試験に受からないとな……」


 落ちたらただの退学だろうからな。せっかく通ってたんだし、卒業はしたい。



――その日はお開きとなり、俺は明日の卒業試験に備え、英気を養うのだった。


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