【第一部】第七章 ミハエルとの決闘【三】そして勝負は

――闘技場――


 急にアレンの動きが鈍くなり、ゴーレムの一撃を受けて吹き飛ばされた。それをエリスは観客席から見ていた。


「――――アレンッ!!」


 アレンは身じろぎもしない。意識が無いのかもしれない! ゴーレムが止めを刺しにアレンに近づいていく。


「もうやめて! この闘いをもう止めて!!」


 エリスが泣きそうになりながら大声で審判に向けて叫ぶも、審判も戸惑っているのか、ソワソワするだけだ。


 事態の急変についていけていないのだろう。まだ青年で、経験が浅いのかもしれなかった。


「おい審判! 見てるんだろ! 止めろよ!! 戦闘継続できないのは明らかだろうが!!」


 カールも叫ぶ。だが、審判は戸惑うだけだ。



 れたカールが観客席から飛び降りて助けに入ろうとした、ちょうどその時――



 暖かい光だった。そして、ひどく懐かしい。


 


「キュイ」


 鳴き声が聞こえた。可愛らしい声だ。もう一度鳴き声が聞こえた途端、アレンは自身の身体が再度光に包まれ、体調が急速に回復するのを感じていた。


 身体を起こし周囲を確認する。

 土の塊がある。他には……

 “何か小さな生き物”がこちらを見上げてしっぽを振っている。


「キュイ♪」


――可愛い。


 狐だろうか? 鮮やかな黄金色と純白の体毛をしている。でも、なんで狐がここに?


 それに、何故

 見ていると、酷く懐かしくて泣きたい気持ちになる。


「……おーいっ! 大丈夫か!? 戦闘継続できるかぁ~い!?」


 焦っている青年が大声で呼び掛けてくる。


(……誰だ、あいつ?)


 周囲を見渡すと、なんか観客が大勢……って――あっ!? アレンはミハエルとの決闘中だったのを思い出した。


 意識が飛んでいたのかも……。当のミハエルは、驚愕からか硬直しており、反応を示さない。


「やれます! まだ全然大丈夫です!!」

「そうか! なら継続しよう! ミハエルさんもいい?」


 ミハエルはかろうじてうなずく。


「一応、念のために確認するけど……は何?」


 顔を引きつらせながら小動物を指差し、審判が問う。ここで答えをミスると終わる。


「俺の召喚魔法です」

(たぶん……)


「そんな魔法、聞いたこともないけど……デバイスにも登録無いでしょ」


「審判さん! 今は決闘を再開すべきかと! 俺はルール違反は何一つしてません!」


 アレンは、戸惑いからザワつく観客席を指差し言う。


「そ、そうだね。ともかく決闘を再開しよう!」



――そうして、決闘が仕切り直された。



 そこからは一方的だった。


 アレンの肩に乗った小さいきつね――らしきものが『キュイ』と鳴く。するとたちまちゴーレムが土に還り、魔素が狐――らしきものに集まっていく。


 ゴーレムは無駄と悟ったのか、ミハエルは<ロックブラスト>の連打に切り替える。その<ロックブラスト>もアレンへの着弾前に、ゴーレム同様、土に還る。


 アレンはそれを。懐かしさから嬉しさが込み上げてくる。


……少しミハエルに対し同情と罪悪感を感じなくもないが、あいつ、動けない俺に割りと本気で止めを刺しにきていたし、こちらも遠慮なしでいく!


 観客席は戸惑いと歓声、そして、『可愛い!』の入り交じったカオスな状況となっていた。アレンは難なくミハエルのもとにたどり着く。


 ミハエルは、もう半ばヤケクソ気味に剣を抜き取り応戦するも、三合も続かずアレンに剣を弾かれた。


 首元に剣を当てられ、


「参りました……」



――アレンの勝利が決まった!!

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