第18話

 しばらく時間が経って目が覚めた、なんだか艦内が騒がしい気がする。

「あ、バラット」

「ミコ、なんかあった?」

 外に出るとミコも様子を見に出てきていたようだった。

「わかんない、レイカのとこ言ってみよ」

 俺達はレイカさんを探して歩き回っていると会議室に居るところを見つけた、レミィとゲンジさんもすでに来ていたようだった。

「レイカさん、何かありました?」

「一言で言うと核が消滅したわ」

「はい?」

 何言ってるの? とはまさにこのことだろう。

「とりあえず説明するから座って」

 そう言われ俺達は席についた。

「今から二時間前に世界中で突然現れた光の柱が観測されたの、恐らく魔術的な何かだと思うんだけどその柱は次第に太くなっていきやがて強い光を放ち消滅したの」

 光の塔が立ったけどすぐに消えたということでいいのだろうか?

「その後世界各国が所有していた原子力発電所は機能停止、核兵器は中身が空になって消滅していたのよ」

 核兵器が使えなくなったのは普通にいい事な気がする。

「おかげで世界中でとんでもないエネルギー不足に陥って大騒ぎよ」

「原子力のエネルギーに頼っておりましたから、それが無くなったということは世界中に大きな打撃を与えたのでしょう」

「放射能ってそんな簡単に消えるものなんですか?」

「消せるのよ、核を構成する原子を全部強制的にマナへ変換して自然に返しちゃったの」

「そんなことが可能なんですか?」

「錬金術を使えば可能みたい、膨大な力を膨大な力に変えるだけだから消耗は大きいけど術式的には簡単らしいわよ」

 ホント魔法やら錬金術やらはなんでもありなんだなぁと実感させられた。

「ザラタンは平気なんですか?」

 レミィが呟く、確かにこのような大規模な潜水母艦だ普通なら原子力でも使わなければ起動すらできないレベルだと思われる。

「私達は原子力なんて使ってないわよ、魔導術式転換炉っていう世界中に満ちたマナを吸収してエネルギーに変える科学と魔法の夢の融合エネルギーを使ってるから無影響よ」

 ほんと何でもありなんだなぁ、そんなのあるって聞いたら世界中が何としても手に入れようとするのは目に見えている。そんな代物どう扱う気なんだろう?

「まぁ、国の事はそこの偉い人たちが考えることだから私達は様子見って感じかしらね」

「そうも言ってられないんだけどね」

 急にレイジさんが部屋へとやってきた。なんか久しぶりに会った気がする。

「急に膨大なエネルギー変換が発生した影響で大型の異空間ゲートが世界各所で開いてしまったんだ」

「それってまさか……」

「地球に大魔獣クラスを始めとした様々な獣人や魔獣がやってきてしまうということだ」

「更に国同士の戦力バランスが大きく崩れてしまう」

「それって完全にメールドライバーズの世界じゃ……」

 魔獣の進行、国同士の戦力バランスの崩壊。まさにゲームの設定そのものだった。

「つまり魔獣の襲来、国同士の争いが今後起きるということ?」

「そう予想されている、間違いなく世界が変わるだろう」

「私達はこれからどうするのですか?」

 ゲンジさんが質問した、正直一番大事なのはここなのだ。人というのは残酷なもので結局は自分たちに影響が出ない限り何も変わらないし動こうとすらしない人がほとんどなのだ。

「我々は一度本部に戻って保護対象の返還、物資の補給をしつつ様子見って感じだね」

「確かに現状たいしたことできないですしね」

 自分の機体もボロボロだし……

「なにより私達はどこかの国に所属しているわけじゃないからどちらにしろ今は動けないわね、各国がどう動くか次第って感じね」

「なんかホントゲーム見たい」

「現実の方がゲームに寄ってきちゃったな」

 一度は夢に思った現象ではあるが世界中にこの状況を望む人がどれだけいるのか。望む者は少なくともその環境を楽しめるか楽ができるほど圧倒的な力を持つものくらいだろう、ほとんどの人間は絶対に望んでいない。

「ちょっと日本が気になりますな」

 自分たちの故郷というのもあるがゲンジさんの場合ギルドの仲間が心配なのだろう。

「日本にはまだ支部が残っているからどうにかなると思うわよ、支援要請が来たらこっちも動くしね」

 俺達のようなパターンがまだ起きるかもしれないということだろう。とりあえず自衛隊に期待するべきなのだろう。

「ちなみに日本にレクティスを始めとした機体提供はしてないわよ」

 うん、なんとなくそんな気はしていた。

「あの国は軍隊を持たないし戦争はしないって言ってるのもあるんだけど、ゲームとか娯楽文化が発達してる癖にお偉いさんとか力を持つとこがそれを大嫌いだから援助も何もしてくれなかったのよね」

「で、勝手に機体を配備して準備してたと?」

「そそ、プレイヤーは優秀だからそんなバカのせいで失うのはもったいないしね」

 とりあえずレイカさんが日本というか政治家が大っ嫌いなのはよくわかった。

「ちなみに今支店はこの前の騒ぎで注目されちゃってるから全部閉鎖して地下の秘密格納庫で活動中よ」

 ボルガザウラーとあれだけ派手に戦ったのだ、そりゃ大騒ぎになるだろう。国が関与してないならなおさらだ。

「機体を提供する代わりに援助してもらっていた国には一応こうなる可能性もあると伝えてある。そう簡単に滅ぶなんてことは無いだろう」

 実際ドロイドを主軸に戦闘機や戦車などで連携して戦うんだろうなっとちょっと見てみたい気持ちも無くはなかった。

「まぁ魔獣を相手に国と国が協力して一つになって戦うなんて想像もできないけどね~」

 レイカさんは手を広げてヤレヤレというジェスチャーをして見せた。

「とりあえず、今我々にできることはない。拠点に戻るのにもしばらく時間も掛かるしゆっくり休んでいてくれ、何かあったら連絡する」

「よろしくお願いします」

「あ、レイカさん聞きたいことが」

 ふと疑問に思っていたことを思い出した、危なく忘れるとこだった。

「ん? なに~」

「作戦の時、敵の悪魔? みたいなのと戦った時なにか魔法を受けたんですけど、その時に体がめちゃくちゃ痛くなったんですよ。あれって何だったんですか?」

「ああ、それね。貴方達の体にナノマシンが入ってるって話はしたでしょ? その機能の一つにね、精神操作などの影響を受ける魔法もしくは催眠などを受けた際にそれを強制的に解除するものがあるのよ」

「なるほど……」

 ありがたいけど、できれば二度と受けたくない痛さだった。

「とりあえず、艦内なら自由にしてて構わないから船旅だと思って楽しんでね!」

 そうしてこの場は解散となった。何しようかな……

「アオイさんって日本人ですか?」

「え? 急にどうしたんですか?」

 俺は暇だったので自分の機体を見に格納庫にやってきてなんとなく作業中のアオイさんに話しかけていたのだった。

「そう言えば言ってませんでしたね、私もプレイヤーですよ」

「そうだったの!?」

「はい、ただパイロットじゃなくてメカニック専門だったんです。で、ちょっと前にウィンディタスクの人にスカウトされてここで働きだしたんです」

 俺やミコは緊急事態で巻き込まれ感じだったがアオイさんはあらかじめ勧誘されていたらしい、つまり俺達以外にもプレイヤーは複数人居るということになるだろう。

「そういうパターンもあるんですね」

「ゲームよりも稼げて楽しいですって誘われちゃってつい」

 ブラック企業みたいな誘い方されてない? 実際命がけの世界だけど……

「実際機体を整備してる仕事なんで満足ですよ! 元々ウォンバット乗り回して現地改修とかやってたんでちょっと物足りない感じもしますけどね」

 ウォンバットは輸送だけでなくカスタマイズによって小型の工房になったり火器を積んで戦車替わりに利用できたりと汎用性がとてつもなく高いのだった。

「アオイさん、フィールドメカニックだったんですね」

 フィールドメカニック、パイロットの任務に同行し現地での補給や整備を担当するプレイヤー達のことで俺もだいぶお世話になった。

「はい!」

 あまり名前は聞いたことなかったがいい腕のメカニックなのだろうことは見てて分かった。

「ちなみに、こっちでのレクティス製造時も参加してたんですよ?」

 つまりレクティスのリアル版生みの親の一人らしい。アオイさん同年代な気がするのだがここでは結構な古株なのかもしれない。

「でもMAXモードで自壊した機体の修理って経験したことないんで新鮮ですよ。想像以上にダメージ受けててほぼほぼ交換ですけど」

「ゲームだと使うほど追い詰められることなかなかないしリトライできるから存在すら知らない人も多いんじゃないですか」

 実際MAXモードを使うと今回のようにフルメンテが必要になって費用が掛かってしまうのもありやたらめったら使える物じゃなかったのだ。

「今回はホント命がけって感じでしたから、なりふり構ってられないって感じで……」

「わかってます、たぶんレクティスがバラットさんの技術についていけないんでしょうね。もっとハイスペックな機体が用意できればいいんですけど」

「そんなことないですよ、レクティスは良い機体だし量産を考えるなら理想的です」

 実際俺がゲームで使っていた愛機はレクティスではなかったが初期はお世話になった良い機体なのだ。

「でもMAXモードって機体性能が急に上がるから性能に振り回されて扱いきれなくなるケースが多いって聞いてましたけど、バラットさんは問題ないく乗りこなしてた。つまり元々そのくらい性能の高い機体を乗りこなしてたってことですよね?」

 流石メカニック専、鋭い観察眼だ。

「まぁゲームではですよ」

 はははと笑ってお茶を濁すことにした。愛機に関してはいろいろあるので今は秘密にしておこう。

「そういえば、ほかの皆さんはどうなさってるんですか?」

「ミコとレミィはエミリアさん達が日本語を覚えたいとのことでティアさんと一緒に女子会してます。ゲンジさんはジムがあると聞いて筋トレに」

 解散した後ティアさんがやってきてエミリアさんやノールさんが日本語を覚えたいと言っていることを聞きミコとレミィは一緒に教えつつ女子会をしようというノリになって行ってしまった。ゲンジさんも最近筋トレサボってしまいましたしジムがあるなら鍛えなおしですぞと張り切って行ってしまい俺だけ取り残されてしまったのだった。

「で、お暇なバラットさんは愛機の様子見と」

「そんなとこです」

 なんだかんだ俺自身もゲーマーなのだ、いつも通り機体を眺めているのが一番落ち着く。

「なんかこれが現実なんて信じられませんよね」

「そうですね、ゲームーで毎日やっていることと何も変わんないですしね」

 これから現実世界自体もゲームに近づいていくというのだ、感覚がおかしくなってしまう。

「あ、せっかく暇してるならちょっと手伝ってもらってもいいですか?」

「もちろん、いいですよ」

 これからの事なんてどうなるかわからないのだ、今はこの環境を楽しもう。ゲームの中ではない現実の仲間達との何気ない出来事を。

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