第13話

 東南アジアの密林に作られた基地の防衛に付き結構な月日が経った。ドロイドに乗れる夢みたいな話だったが実際は戦うことすらない、ただ担当の時間に指定の場所で来るはずもない敵に備えて立っているだけなのだ。

「つまんね……」

 実際地球にはこの兵器、ドロイドの存在は知られていないのだ。しかもこの基地自体が極秘施設であり早い話がいざという時の保険でしかないのだ。

「せっかくのロボットが台無しだわ」

 しかも見張りの俺らにはここで何をしているかすら教えてもらえてない。ヨハネとはいったい何なのか、目の前のロマンに飛びついた結果がこれとは肩透かしもいいとこだ。

「ったくよぉ……ん?」

 今一瞬モニターの隅で何か動いた気がしてセンサー類を確認する。しかしなにも反応していなかった。

「気のせいか」

 ベルデウスのセンサーは量産機の中でも優秀な物らしいし信頼していいだろう。

「どうせ何もないんだ少しくらい寝てっ!?」

 次の瞬間背後から凄まじい衝撃が走り視界が赤く染まった、自分の吐き出した血でヘルメットが赤く染まったようだ。彼は意味が分からず痛みすら感じることなくあっけなくその命を失うのだった。

 俺は機体特性をフルに活用して一気に正面のベルデウスを背後からストライクカタールで貫いた。

「まず一つ、次!」

 カタールを引き抜き、近くに居た別の機体の腹部のコックピット目掛けて一気に飛び込み正面から貫いた。それと同時にまた別の位置を警備していたベルデウスの腹部に風穴が開く。ミコの狙撃が正確に奴らを撃ち抜いていく。

「周りのお邪魔虫を排除する」

 警備中だったベルデウスはあっという間に排除された。俺は腰のアサルトライフルを引き抜き待機状態の戦車、装甲車、戦闘機を次々と撃ち抜きながら中央の研究施設へ近づいていった。そこで五機目ベルデウスがこちらに気づき応戦しようとしていたが構えるよりも早く腹部に風穴を開けて崩れ落ちた。

「クリア! 作戦開始!」

 次の瞬間猛スピードのウォンバットが基地へ三台乗り込んできた。後部が開き、レクティスが三機新たに援軍で現れる。

「俺も突入組と一緒に行ってくるから、レミィ機体の方任せたよ」

「お任せを!」

 俺はそう言うと機体を座らせ、コックピットから飛び降りた。

「ティア!」

「行きましょう!」

 作戦説明の際に一番の優先施設である研究所はティアさんをはじめ異世界人メインで編成された特殊戦闘部隊影虎とノールさんで行くと聞いた際俺も一緒に行くことを進言した。

「扉を開けます」

 俺はナイフを取り出し銀色の刃を柄の中へ格納し、代わりにもう一つの緑色の刃を出してそれを扉のカードキーを刺す穴に差し込んだ。ロックが点滅ししばらくの後扉が開かれた。データナイフ、斬るための刃ではなく機械のデータを盗んだりハッキングするために使われる特殊なナイフでパイロットに支給される便利アイテムである。今回の場合は機材に差し込みデータを近くに居るレミィ機へ送りシステムをハッキングして奪い取るという算段である。

「一班は私共に最深部へ、二班、三班は捕まっている捕虜の救助を最優先。散開!」

 ティアさんもだが黒い軽装ソルジャースーツに身を包み忍者を思わせる影虎のメンバーの動きは素早くかっこよかった。

「一気に最深部へ、恐らくそこに例のお姫様も居ると思われます」

 俺とノールは頷いて見せた。そしてそのまま施設を駆け抜けていく、さすが特殊部隊という感じか影虎の皆さんは出てくる敵兵を精確に倒して進んで行く。扉のロックもレミィが凄腕らしくデータを送ると高速で解除してくれてゲーム以上にとてもスムーズだ。

「二班、三班。収容施設に突入した部隊も順調に救助を進めています。私達も急ぎましょう」

「ミコ、そっちは平気?」

「問題ない、追加のベルデウスが出てきてるけど敵じゃない」

 ティアさんに頷いて見せると正面を向き更に奥へと進んで行く。

「ここが中央実験室です」

「開けます」

 扉のロックにナイフを差し込む、レミィがハッキングを開始しすぐに扉が開いた。すると開いた途端にノールが飛び込んでしまった。

「ちょ!?」

「クエンダ!!」

「あら? お客さんなんて珍しい」

 中には赤い肌に蝙蝠のような翼をもつ美人が中央の機械をいじりながら話しかけてくる。

「速やかに捕えてる人たちを解放してください、そうすれば命だけは保証します」

「物騒ね~、私痛いの嫌いなのよ?」

「アザリア! いいから邪魔ものを排除しろ!! ここを失うわけにはいかないのだ」

 後ろからなんかよくわからない年寄りが騒いでいる、正面の女性はアザリアというらしい。

「そんなの護衛に任せなさいよ」

「護衛ってこの寝てる人たちの事?」

 話している間に俺の方で護衛の兵士は処理させてもらった。

「あらら、優秀な兵隊さんが居るのね。じゃあ私のためにも戦ってもらおうかしら」

「なに?」

 次の瞬間アザリアの目から視線が離せなくなった。次第に意識が薄くなり頭もぼんやりと……

「い、ってぇえええええええ!?」

 急に体全体に激痛が走った体の内側から針で串刺しにされているかのような感覚が駆け巡り涙目になりながら体を抱えて持ちこたえる。

「残念でした、彼には催眠や洗脳の類は効きませんよサキュバスさん」

 ティアはそう言うと苦無を取り出しアザリアへ投げつける。

「なによ、対策済みなの~? せっかくいい感じの子だったのにぃ」

 空をひらひらと飛びながら苦無を躱すアザリア、そのまま周囲を見渡し始めた。

「はぁ、潮時かしらね。ベレス教授、貴方の研究データは私が責任をもって本部へ持ち帰るので安心してね」

「貴様! なにをいっ!?」

 アザリアは拳銃を取り出しベレスと呼ばれた老人の頭を撃ち抜いた。

「お前、仲間を!?」

「だって、このまま置いていったら貴方達の捕虜になっちゃうでしょ? いろいろ喋られたら困るし~」

「そんな理由で!!」

 ティアが銃を抜き発砲すると、アザリアは自身の翼で弾丸を弾いて見せた。

「ここは用済み、私はもう帰るから安心してね。それじゃあさようなら、凶暴な雌猫さん!」

 そう言うとアザリアの居る空間が歪み、その中へと姿が飲み込まれて行ってしまった。

「逃げられましたか……バラットさん大丈夫ですか?」

「めちゃくちゃ痛いです!!」

「対洗脳の機能が発動したんだと思います、すみませんが今は」

「わかってます」

 真ん中の機械の中に誰かが閉じ込められているのはわかったしノールの反応を見るに彼女がお姫様なのだろう。俺は近づき機械の操作盤にデータナイフを思いっきり突き立てた。

「レミィ任せた!」

「了解、システムハック開始します」

「鎮痛剤です、使ってください」

「ありがとうございます」

 ティアから受け取った薬を飲み込む。しばらくすると体の痛みも引いてきた。

「お待たせしましたシステム掌握しました、解放します」

 カプセルが開き褐色の少女が中から出て来た。

「クエンダ!!」

 ノールが少女を抱きしめて涙を流していた。

「バイタルは安定しています、大丈夫生きています」

「レミィありがとう」

 ティアに頷いて見せた。

「撤退しましょう、ほかの捕虜救出も完了しています」

「了解」

 俺達は再び施設を走り抜け出口へと向かった。

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