第9話
「皆、おはよ」
しばらくして渡されたズボンとシャツにジャンバーを羽織って部屋をでた。
「バラット、おはよ」
「おはようございます!」
「お、おはよう、ございます」
全員もう揃っていた。恐らくこの服は支給品なのだろう全員同じ格好だった。
「では、食堂へ案内しますね」
ティアはそう言うと俺達を連れて歩き出した。
「本日の予定なのですが、間もなくベトナム近海に到着いたしますので市場に行きましょう」
そういえば昨日東南アジアへ向かっていたと言っていたな。いよいよ任務開始なのだろうか?
「とりあえず、日本製じゃないのは申し訳ないのですが替えの下着など必要な日用品を揃えましょう。通訳もかねて私が同行しますので安心してください」
「助かる、いろいろ困ってた」
「はい、助かります」
デリカシーが無いとか言われたくないし口にはしないがミコ達は女性なのだ、必要な物がたくさんあるのだろう。急に今までの生活を捨てて体一つで飛び込んだのだ、こういう気づかいはありがたい。
「向こうの政府にも話は通しておりますが我々はまだ隠密行動中ですので一般の観光客という設定になりますのでよろしくお願いします」
「わかりました」
「承知」
しばらく歩くと食堂に到着した。
「ここです、食事を受け取ったら好きな場所に座ってください」
超ド級の船なだけある。普通の潜水艦などの狭い食堂ではなくどちらかと言うとアニメとかに出てくる宇宙戦艦なイメージだ、すごい清潔感があってレストランみたいだった。
「すごく綺麗」
「潜水艦とは思えない」
皆同じことを考えているようだった。席はすでにエミリアが座って食事をしていて、ティアがその隣に座ったので自然と俺達もその周辺に集まった。
「食べながら聞いてほしいのですが、今日の買い出しはエミリアさんも連れて行こうと思います。自分の居た世界と違うことをしっかりと認識していただき、これからどうするか考えてもらうためにも」
「いいんじゃない? 私達も買い物がしたいし文化交流には丁度いい」
「護衛としてもということですかな?」
ゲンジさんが呟いた。恐らく昨日の射撃練習は俺達が護衛としても機能するか確認したかったというのがあったのだと思う。
「はい、皆さん十分な腕をお持ちのようですので安心してお願いできます。もちろん装備はこちらで用意しますので安心してください」
朝から物騒な話ではあったが敵が潜んでいる近くに行くのだ、用心に越したことはないのだろう。
「着替えなどすでにお部屋に用意されていると思いますので食べ終わったら確認してみてください」
そう言うと食事を終えティアはエミリアと一緒に食堂を後にした。
「気になっていたんですけどぉ……皆さんって知り合いなんですか?」
レミーアがふと口を開いた。話を聞いていて気になったのだろう。
「そうだよ、俺とミコはなんて言うんだろ?」
「恋人~」
「違うでしょうが、相棒みたいなものでゲンジさんとも狙う獲物のランク的に一緒にやることが多かったんだ」
まんざらではないが冗談でもそういうことは言わないでほしい。恋人居ない=年齢のゲーマーは困ってしまう。
「ちょっと残念、でもそう。歳も近かったし同じ支店使ってたのもあって一緒に遊んでた」
「プレイスタイルの相性も良かったしね」
「うん」
実際俺とミコの相性は良くコンビでトッププレイヤーの一角に上り詰めていたのだ。
「わたくしはギルドに所属していましたので基本的にはそっちで行動しておりましたが、適正ランク帯に行く時はお二人のお世話になっておりました」
「ゲンジさんはギルドの保護者みたいな感じでしたもんね。おやっさんとか呼ばれてて」
「ははは、皆いい子達でしたぞ。正直今は心配しております、記憶が無くなり家族みたいな繋がりはギルドの皆様になっておりますからな」
少し肩を落としながらゲンジさんはそう語った。実際、魔獣が出たエリアは大騒ぎだろうし今後どうなっていくのか想像すらできないのが現状なのだった。
「次はレミィちゃんの番」
「わ、私ですか? えっと私は情報戦特化のプレイスタイルで、あんまり戦闘していないんです……」
「そうなのですか? トロール戦の際は見事な腕前でしたぞ?」
「あのくらいの敵ならどうにかできますが、対人戦は苦手で……」
「でも電子戦ができる人がいるのはありがたいよ? 今後は情報が少ない戦闘が増えるだろうし、レミーアさんは重要なポジションになると思う」
「が、がんばりますっ!」
「レミィちゃんがんばれ!」
急になれなれしく呼びだしてミコの距離の詰め方がエグイ。ちょっと牽制しとくべきかな?
「急にそんな詰め方したらレミーアさん困るだろ?」
「い、いえ。あだ名で呼んでくれるようなお友達いませんでしたから、嬉しいです」
「ふん! レミィと私はマブダチになるのだ」
ミコのドヤ顔にちょっと腹が立った。
「今は我々四人しかいないのです、仲良くやっていきましょう」
ゲンジさんが丸く収めてその場は解散となった。実際前衛の俺、後衛のミコ、情報収集のレミーアさんにフリーポジションのゲンジさん。小隊を組む場合相性は悪くない編成になる、腕も折り紙付きだし。
「これは……」
食事を終え部屋に戻るとそこには昨日着ていた流行を無視したカーゴパンツにTシャツ、スタジャンと物騒なハンドガンとナイフ。予備マガジンが用意してあった。
「このハンドガン、いつも使ってるやつだ……」
ベレッタM92、ゲームで普段携帯しているハンドガンでありナイフも同様の愛用品だった。登録データから引っ張ってきたのか? どこまで調べられてるのか恐怖を覚える。
「とりあえず準備しますかね」
俺は私服に着替え、ショルダーバックにマガジンとハンドガンを、腰に見えないようにナイフを忍ばせた。使う機会が無いことを祈ろう。
「バラット、遅かったね」
「お待たせ、早いね」
部屋を出るとすでに着替えたミコとレミィが話をしながら待っていた。ミコはあった時と同じパーカーに短パン、ソックスにスニーカーという格好に俺と同じようなショルダーバックを背負っていた。レミィの方はワンピースにケープとお嬢様のような綺麗な私服だった。
「見惚れた?」
「何のことかわかりません!」
「皆様はやいですな」
そう言いながらゲンジさんが部屋から出て来た。筋肉質体を強調するシャツにジーパンとジャンバーを見事に着こなしたゴリマッチョだった。
「……」
「バラット殿もいい肉体ですぞ?」
「なにも言ってないでが!!」
確かにいい筋肉だなぁ、同じ男なのにこんなに違うのかぁとは思ったけど!!
「筋肉だけがすべてじゃないよ?」
「そんなにうらやましく思ってないからね??」
ミコにもなんか誤解された気がした。昨日パイロットになった時自分も結構引き締まったいい体と思っていたのに……
「皆さん準備できましたね?」
声の方を見るとティアさんとエミリアがやってきた。ティアさんは帽子で猫耳を隠し、タンクトップに短パン、腰にジャンバーを巻き上手く尻尾を隠していた。エミリアの方はシャツにジーンズとスタンダードな服装に帽子と長い髪でこちらも上手く耳を隠していた。
「二人とも人間みたいですよ」
「今はまだ異世界人とバレるわけにはいきませんからね。それでは行きましょう、こちらです」
ティアさんについて俺達は休憩室のような部屋へとやってきた。
「ザラタンは間もなくベトナムの軍港に着港致します。向こうとは協力関係なので問題ないです、元々ヨハネの拠点強襲任務以外にベトナム軍へのレクティス受け渡しも兼ねていたので問題なしです」
「ドロイドが地球の軍隊に配備ってなんかすごい話ですね」
「今後間違いなく必要になる戦力ですからね、資金援助もしてもらっていますし」
政治的にだろうか? いろいろあるのだなぁと実感させられる。
「ちなみに、フライキャリアーやウォンバットなど運用補助ユニットもまとめて納入いたします。その間に私たちはちょっとお買い物と周辺調査という感じですね」
フライキャリアーはドロイドや武装、物資を専用コンテナに格納、それを機体腹部にマウントして輸送する垂直離着陸可能な航空支援機で昨日も乗ったものだ。ウォンバットは陸上輸送機で動物のウォンバットのような幅の広いずんぐりむっくりとした形をした車両でドロイド一機と各種装備や物資、歩兵を搭載して運用可能なものとなっている。
「はい、了解いたしました」
何か連絡が来たのか急にインカムに手を当ててティアさんが話し出した。
「皆さん、着港完了とのことです。行きましょう」
初海外がこのような形で訪れるとは思わなかった。ザラタンからベトナムの軍港へ降り立つ、太陽が眩しい。
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