第21話 噂

終幕の挨拶をして観客が帰ってからセラスタはポルトの部屋へ向かった


「ポルト入るぞ」

「せめてノックしてくれへん?」

「カルエトも呼ばれたのか?」

「おいこら」


ノックもしないで部屋に入ったセラスタに呆れたように注意するポルトの言葉を無視して椅子に座ってココアを飲んでいるカルエトに話かけた


「さっき呼ばれてココアを頂いてたとこっす」

「毒とか入ってないか?」

「俺を何やと思っとんのや……」


カルエトの頭を撫でて隣の椅子に座ってポルトに手を向けた


「この手はなんや?」

「俺のコーヒーは?」


さも当然のように足を組んでコーヒーを要求するセラスタを見て大きなため息をついて『仕方ない』というように渋々コーヒーを淹れた


「飲みながらでもええから俺の質問に答えてくれ」


2人と向かい合うように椅子を移動させて紅茶を片手に持って座った


「お2人さんここ最近で人前で魔法を使ったか?」

「俺が闘技会の前に少し結界張るために使ったのと

国を覆う結界を常に張ってるけどカルエトは使ってない」


ポルトが確認のために視線を向けたらカルエトが首を縦に振った

ポルトが唇に手を当てて少しの間考えた

セラスタもカルエトも邪魔をしないように黙って飲み物を飲んでいた


「貴族のバカどもが裏の人間から聞いたらしいで『魔法を使える人間がおる』って」


セラスタはなんとなく予想出来ていたようであまり動揺していなかったがカルエトは黙っていたが驚いているのが分かるほど表情に出ていた


「で? その貴族のバカどものその後は?」

「もちろん探しとるよ『魔法は神からの祝福』って言ってな」

「なんでそんな話が広まって……」


少し動揺した声色のカルエトの質問にセラスタが天井を見上げてポツリと呟いた


「薔薇姫の誓い……」


その呟きを聞いて2人がセラスタの方を見た


「薔薇姫の誓いと関係あるんすか?」


黙って頷いてセラスタが簡潔に伝えた


「薔薇姫の物語は『魔法が使える少女が神と共に天界に帰る』って言う内容からそう考える人が多いんだ」


「神として崇める奴もいれば、殺して血を飲めば自分も魔法が使えるようになるって思っとる奴もおるんや」


2人の話を聞いてカルエトは深呼吸をした


「じゃあ今までよりも注意しないといけないっすね」


「まあそういうことやな」


カルエトが自分の両頬を叩いていつもの笑顔で部屋の扉に手をかけた


「じゃあ僕は寝るっすね! おやすみなさい!」


2人きりになった部屋でしばらく沈黙があったがセラスタがコーヒーを飲んでから自分の弟を誇るように言った


「あれだけすぐに気持ちが切り替えられるんだったらこれ以上の心配は杞憂だな」

「そうやね。いつ見てもえらい出来てる子やね」


コーヒーを飲み終わったセラスタが「ご馳走さま」と短く言ってから立ち上がって部屋の扉に手をかけて部屋から出ようとしたらポルトが独り言のように話した


「今年の『薔薇姫の誓い』は荒れそうやな」


ポルトの言葉を聞いてからセラスタは黙って部屋を出た


1人になった部屋でポルトはソファーに横たわって花瓶に飾られた10本の紫色の薔薇を見つめていた


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「薔薇姫の誓いは楽しみ?」

「自分の悲劇をまるで幸せな物語なように語って楽しむ行事のどこが楽しみなんですか?」


キルトが書類片手に紅茶を飲みながら聞いた

セレスは苛立ちと嘲笑が混ざったような声色で答えながらまたコーヒーを飲んでいた


「後日祭サミダレと3人で一緒に行かない?」

「良いですよ」


短い会話をしてその後すぐに沈黙が流れる

コップを皿の上に置きセレスが黙って部屋を出ようとした


「君の剣はどんな理由で命を狩るんだい?」

「そうですね……進んだ先に何が見えるかを知るためでしょうか」


キルト1人になった部屋で紅茶に映る自分の顔を見つめながら先ほどのセレスの言葉を呟いた


「何が見えるか……未だに守護か復讐の狭間でもがく君が見る景色が綺麗であることを願うよ」


扉をノックする音がしてサミダレが部屋に入った


「薔薇姫の誓いでの王からの贈り物を何にしたら良いかという手紙がきております」

「義弟に王位を押し付けたのは私だから申し訳ない気持ちは多少あるけどさ〜王じゃない私に聞かなくて良いのに」


ため息混じりで手紙の返信を書いてサミダレに手渡した


「確かに受け取りました」


紅茶のおかわりと追加の書類を部屋に残してサミダレは部屋を出た


「当然のように書類追加された……」


10枚ほどの追加された書類に目を通しながら剣術闘技会のことを思い返していた


(セレスちゃんの動きが少し固い気がしたけど観客へのパフォーマンスを優先してたからかな……)


背もたれに寄りかかって窓際に置かれた白い薔薇を見つめながら紅茶を飲んだ


「薔薇姫の誓いまであと少しか〜セレスちゃん絶対綺麗なんだろうな〜」


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ルポの森でセレスが歌を口ずさみながら舞っていた


湖畔の水面に映る純白の装飾のないシンプルなドレスが秋蛍と月の光で照らされながら舞う姿は神の遣いのように美しくそれでいて儚さがある


「とある村に腰に薔薇の模様がある魔法が使える女の子がいました。


その少女はとても優しく、魔法で他の村の人々の願いを叶え、多くの人を笑顔にしました。


人々はその少女を神様として崇めました。


しかし、ある時天界から神がやってきて少女を連れ帰ってしまったのです。


少女は、

『私はあなた達をいつでも見守っています。そしていつか必ず帰ってきます』

と伝えました。


それを聞いた人々はその少女を薔薇姫としていつまでも忘れないようにしました」


舞うのを止めて切り株に座ってから『薔薇姫の誓い』の物語を赤子を寝かせるような声色で呟いていた


「これが真実なら『薔薇姫』はどれだけ幸せな人生を送れていたんだろうな」


下を向き暗い顔をしているセレスを森の動物たちが心配そうに見つめていた

セレスの手を舐めていたシカの頭を撫でてセレスはルポの森をあとにして家に帰って床についた

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