第14話 処世術

 館倉では、入学式の後、テストがある。

 というのも、ここに来る生徒は皆これまでクラスで1、2番という生徒ばかりだ。学年でも20番以降には落ちてはいない。

 しかしここにはそういう生徒ばかりが集まる。なので当然、これまで挫折を知らなかった生徒が、クラスの下半分の席次になったりするのだ。

 そのショックを軽減するために、定期テストの前に予備テストとでも言おうか。テストが行われて、新1年生の席次が発表されるという、震え上がるような行事があるのだ。

 その結果は個人個人に紙で渡されるが、上位100名の名前と点数は職員室前に張り出されている。

 まずは教室で配られた紙を見て、そこかしこで悲鳴を上げる生徒や悲鳴さえ上がらずに凍り付く生徒が続出する。

「ショックを受けるなよ。なあに。上には上がいるとか井の中の蛙とか言うだろうが。これが現状と受け止め、これから先はお前らに任せる。

 ああ、言っておくが、自殺とかするなよ。面倒くさいからな」

 なんという言い草かと思うが、城崎先生は面倒くさそうにそう言って、終礼を終えた。

 職員室の前に張り紙を見に生徒が行く。

「柊弥は見に行く?」

 俺は紙切れをポケットしまい、どうでもよさそうにかばんを手にした。

「いや、上位100人の顔ぶれなんかどうでもいいしな」

 自分の順位、点数さえわかっていればいいじゃないか。

 と、春弥がするっと近づいて来ると、ポケットの紙を出して広げた。

「あ、春弥!」

「いいじゃないかあ。

 あ、柊弥やっぱり1位だ!凄いなあ。物理が1問間違い?」

 俺は紙を取り返しながら言う。

「絶対に満点は点けない主義なんだとさ。で、字の、止めがきっちり止まってなくて払いになってたから減点されたんだよ」

 くそ、なんて減点理由だ。

「春弥はどうだったんだよ」

「僕は中間だね。定期テスト前、お願いするね。

 あ、でもやっぱり柊弥はスパルタだからなあ。智宏いっしょにがんばろう?」

 こいつらはいつも通りだな。

 百山は目の前で目を丸くしていた。

「凄いんだね」

 そこで自慢気に勇実が胸を張る。

「そうなんだぜ。こいつ、成績はいいし、実は運動神経だっていいのに、目立ってないだろ。中学の体育祭でも、こいつが1位で水泳部の顔のいいエースが2位だったのに、2位のやつが凄い凄いと言われてたんだよな、不思議なことに」

 俺は淡々と事実を述べる。

「地味さが全てを覆い隠すんだ」

「柊弥と陸上部のもてるやつがたまたま倒れている人を発見して助けた時も、凄いと言われるのはそいつの方だけだったもんね」

 前川が気の毒そうに言うと、春弥は、

「納得いかない」

と頬を膨らませた。

「目立たなくていいだろ、別に。俺は世間に埋没して生きていくんだ」

 跡継ぎとかにもなりたくない。市役所にでも就職して、地味に堅実に一生を送ろう。

 そしてやはり、2位以下の目立つ生徒が口の端に上り、俺の事は、目にしても皆忘れたようだった。

 だが、そんな楽に生活しやすい毎日が脅かされようという事件が起こるのだった。




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