黒田君は猫耳が生えてくる

椎茸仮面

黒田君は猫耳が生えてくる

「あー、お前らいいか? 平安時代でも一般ピープルはな、弥生時代とほとんど変わらない生活してて……」


 独特な喋り方をする日本史の先生の授業の中、前の席の黒田くろだ君は寝ていた。

 スヤスヤと寝息をたてて、ぐっすりと。

 私はちゃんと受けている。

 すると、日本史の先生が机の間を巡回し始める。

 私は危険を察し、耳を塞ぐ。


「黒田ァァァァァ!! 寝るなぁ!」


 黒田君は目を覚ました。


「ふぁ?」


 放課後。

 私はこう見えてオカルト研究部に入っている。

 別にオカルトが好きでは無いのだが。

 運動も文化系の奴も嫌だった。

 絵なんかは青狸の絵描き歌ができないレベルなので無理。

 そうやって減らした結果がオカルト研究部に入る事になったのだ。


「おっ、真田さなだちゃーん」

「……今日先輩追試じゃ」

「バックれた」


 ショートヘアの丸メガネでやたらと胸がでかい部長の先輩は成績が落第ギリギリであるというのにこんな部活でオカルト情報のネットサーフィンをする事を優先する狂人である。

 真田、つまり私がオカルト研究部に入ったのも7割は先輩が原因だ。

 この高校が部活強制でなければ私はいつでも抜ける気だ。


「真田ちゃーん。この高校に地下室があるって知ってるかい?」

「地下室……ですか?」

「そう、地下室」


 そういうと先輩はぐちゃぐちゃに積まれた紙の資料の中からとある図面を出してきた。

 どうやら学校の間取りらしい。


「ほら、この高校かなり昔からあるだろ? それでここを見たまえ。地下室がある。しかし、今の間取り図だと無い。きっと何か怪異が居るはずだよ!」

「……ただ埋めたd」

「そんな事言うんじゃない!」


 言論統制ダメ絶対。

 そんな中、黒田くんがあくびをしながらオカルト研究部の部屋に入ってきた。


「黒田君じゃないかぁ。君も高校の地下室に興味a」

「おやすみ」


 黒田君は速攻で机の上で寝た。

 その寝顔はとても可愛らしい。

 肖像権が無ければ私はこの寝顔をSNSで拡散してやりたいと思っている。


「起きろ黒田君! 今夜! 高校! の! 幻! の! 地下室! を! 見に行くぞ!」

「……」


 騒がしい先輩の声で黒田君は起きてしまった。

 黒田君はムカついたのか先輩を1発ぶん殴ろうと殴り掛かる。

 それを私は羽交い締めにした。

 意外と黒田君は貧弱なのだ。すぐに黒田君はおちついた。


「……真田ちゃん。ナイス」

「先輩はいい加減黒田君を起こすのを辞めてください。黒田君も殴らないの。良いね?」

「……にゃあ」


 私はこの時は、眠気で呂律が回っていないだけかと思っていた。


 その日の夜。

 私たち3人は夜の学校に来ていた。

 成績は程々だが、風紀は正しい私にとってはとんでもない悪行だ。


「幻の地下室、探すぞ!」

「いやな予感しかしなさそうですけど……」


 私は高校に地下室があるというのを知らなかった。

 見た事すら無かった。

 その疑問を解決する為に来たのもある

 ノリノリの先輩に続き、私と黒田君は学校を探索した。

 そして5分程で地下室への階段はあっさりと見つかった。

 2階へ続く階段をそのまま真下に向けたようで奥は暗くてよく分からないがまるで吸い込まれる様だ。


「うっひょフォアー! 行くぞ! 真田ちゃんと黒田君」

「はーい」


 私は空返事をするが、行きたくはない。

 なんか、怖い。

 それがこの階段に対する第一印象だった。

 そして先輩が階段に足を踏み入れた途端。

 先輩の腹から出血が始まった。


「……へ?」


 先輩の腹を貫いたのは、大きな化け蜘蛛の脚だった。


「……うまそうなオンナだ」

「ひゃ……く」


 先輩は引きずり込まれた。

 私はすぐに後ろを向いて走り出した。

 黒田君の事なんかを心配するほど私は善意の塊じゃない。

 とにかく逃げる。

 その一心だった。

 しかし、謎の糸が私の足を引っ張る。


「またオンナだ」

「……ひっ」


 糸が足に絡みつき、ズルズルと引っ張られていく。

 そして糸の先には。

 巨大な蜘蛛がいた。

 先輩は既に首だけになっていた。

 もう体は、蜘蛛の胃の中なんだろうか。

 

「オンナ、うまい」


 蜘蛛は大きく避けた口をクチャクチャしながら脚で私を持ち上げる。


「いたたきまス」


 ああ、こんなわけも分からない化け物に食い殺されるんだ。

 人生終わった。

 そう思った刹那。


 蜘蛛の腹は突然切り裂かれた。

 気味の悪い蜘蛛の内臓が溢れ出る。

 蜘蛛の悲痛の叫びと共に現れたのは。


 猫耳の生えた黒田君だった。


「……猫?」


 私はあまりにも非現実的な光景にこれしか言葉が手間なかった。

 もう私の知っている黒田君では無い。

 両手は猫みたいな手をしているし。服装も短パンにサスペンダーというものすごくエロい格好だし。

 でも、蜘蛛をめちゃくちゃに切り裂いている。

 

「ニャーハッハッハッハー!!!」


 黒田君が絶対出さない声を出してる。

 すると、黒田君と思われる猫の怪人は私の方を振り向いた。

 そして私に近づいて匂いを嗅いでくる。近すぎて鼻息が聞こえる程に。


「……人だにゃ」

「黒田君?」

「黒田ぁ……? ああ、宿主かにゃ。にゃーはクロだにゃ。よろにゃ」


 黒田君は猫耳が生えてくるらしいです。

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黒田君は猫耳が生えてくる 椎茸仮面 @shiitakekamen

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