第1話 ゲーム

 今日は尚弥の家で対戦型のゲームをしている。


「だぁ! やっぱ尚弥は強ぇなぁ!」

「ハルにぃは相変わらず突進型だね……」


 六年も時間が経っているのにこうしてゲームで盛り上がれるなんて最高だな。

 ただ、問題が一つあるとすれば。


「ハルにぃ、よっわ! ザコじゃーん」


 とんでもないクソガキが一人混ざってるということだ。

 いや、俺だって水樹と遊ぶのはやぶさかじゃない。

 年は離れているとは言え、俺にとっては家族同然だからな。


「昔っからゲームよわいよねぇ。プー、クスクス」


「……お前後で覚えとけよ」


 だがこんな小生意気になるだなんて誰が想像したよ?


「あー疲れた。僕ちょっと休もうかな。ジュース買ってくるよ。ハルにぃ何がいい?


「俺も行くよ」


「いいよ、ハルにぃはお客さんなんだから。水樹と遊んどいて」


 そう言って尚弥は立ち上がると、水樹にコントローラーを手渡す。

 手渡された水樹は「へっ?」と声を上げた。

 コントローラーが回ってくるなど予期していなかったらしい。


「コーラでいいかな? 水樹はオレンジジュースだよね?」


「う、うん……」


「おぉ、悪ぃな……」


 尚弥がいなくなり、水樹と取り残される。

 気まずい。


「へ、変なこと考えてるでしょ? ハルにぃエロエロだからなぁ」


「誰がエロだ。おい、やるぞ」


「えっ?」


「さっき散々人のこと雑魚だとか言ってくれたよな。決着つけようぜ。負けたほうは相手の言う事何でも一つ聞く。どうだ?」


 すると途端に水樹の顔がいたずらっぽい笑みで満たされた。


「そんなこと言っていいのぉ? ハルにぃ、こんな中学女子にボコボコにされて泣いちゃうよぉ?」


「うっせ! やってみるまでわかんねーだろ! 行くぞ!」


 そして俺たちはゲームを開始した。



 ――数分後。



「おい……マジかよ」


 俺は思わず、絶望の声を出した。


「お前、めちゃくちゃ弱ぇじゃん……」


 俺は水樹をボコボコに打ちのめしていた。


 というか負ける方が難しい。

 何もしなくても勝手に落ちていく。

 自滅するのだ。

 壊滅的にゲームセンスがない。



「う、うるさいなぁ! 今日は調子が悪かったの!」



 水樹は顔を真っ赤にしている。

 それが面白くて、なんだか意地悪したくなる。


「おいおい、人のことあんだけ馬鹿にしておいて雑魚なのは自分なのかよぉ」


「う、うるさいうるさい!」


「情けねぇなぁ」


 悔しすぎてか涙が浮かんでいる。

 ちょっとからかい過ぎたか。

 我ながら大人気なかった。


「はいはい。じゃあとりあえず勝負は俺の勝ちってことな」


「ううううう……!」


「敗者には罰ゲーム、何でも一つ言うことを聞く」


「……仕方ないなぁ」


「じゃあ、俺の願いは――」


「はい」


「あっ?」


『俺を兄貴分として敬うこと』


 そう言おうとした時、不意に水樹が目をつむり唇を突き出してくる。


「なんだ? 何やってる?」


「罰ゲームじゃん。チューしてあげる」


「はっ!?」


 とんでもないこと言い出した。


「な、何馬鹿なこと言ってんだよ! そ、そう言うのはちゃんとした奴に取っとけ……」


 焦って顔が赤くなる。

 俺の様子を見て、途端に水樹がいつもの小馬鹿にした表情を浮かべた。

 こいつ、イニシアティブ取った瞬間に豹変すんのな。


「あれぇ、もしかしてハルにぃ、照れてるのぉ? 四つも年下の女の子に照れちゃうんだぁ?」


「ばっ……! 誰がちんちくりんのガキに照れるかよ!」


「そんなこと言ってぇ、顔真っ赤だよぉ? ふりふりほれほれ」


「だぁ! 頬を突くな! もうくっついて来んな! 離れろって!」


「嬉しいくせにぃ、ねぇ、どんな気分? 女子中学生にくっつかれてどんな気分? ねぇねぇねぇ?」


「やめろって! 密着が! 距離が!」


 水樹はグングン距離を詰めて腕を絡ませてくる。

 柔らかい感触が体に密着し、嫌でも意識させられる。


 高三と中二とは言えこれはちょっと刺激が強い。

 どうにかなりそうだった。


 妙にグイグイくる水樹と揉み合っていると、不意に入り口に人の気配を感じる。


「ただいま……」


 買い物終わりの尚弥が立っていた。


「お邪魔だったみたいだね。僕もう一回出てくる」


「おい! 違うぞ! 尚弥! おぉーい!」

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