こたつ手当のある会社に転職したんだが

浅葱

こたつ手当のある会社に転職したんだが

「こたつ手当ってなんですか?」

「希望者は冬の間デスクをこたつに変えられるのよ」


 同じ部署の女性社員が質問に答えてくれたことで、僕は周りを見回した。現在は1月。とても寒い冬の時期なのだが、デスクをこたつにしているのはたった二人だけだった。ちなみに女性社員のみである。


「ええと、僕も希望すればデスクをこたつにすることができるんですか?」

「できるわよ。いくつか注意事項はあるけど」


 そう言って彼女は「こたつ手当の条件」と書かれた紙をくれた。


一、こたつは各々で運ぶこと(手伝いは頼んでもよいが、就業時間外に行うこと)

一、自宅から持ってきてもよい(送料等は各自負担)

一、みかん、猫などの付帯は禁ずる

一、就業時間内の居眠りは罰金とす(居眠り時間に応じて給料を引く)。ただし休憩時間及び、業務終了後の居眠りは自己責任で(風邪などひかないように。膀胱炎には注意)

一、各々就業規則にのっとった常識の範囲での運用をすること


 真面目に書かれているが冗談のような条件だと僕は思った。


「ええと、こたつってどこにあるんですか?」

「こっちよ。デスクにするなら応援を頼むけど」

「是非お願いします!」


 僕は即答した。

 


 一日目の午前中、僕はデスクをこたつにしたという多幸感でいろいろなことがはかどった。

 問題は午後だった。

 昼食は会社の外でとったのだが、満腹になるまで食べたわけではないのにやけに眠たい。2時から3時の休憩時間までの一時間、眠気と戦うのが忙しくて全然仕事がはかどらなかった。途中トイレに行こうにもこたつの誘惑には逆らえない。こたつといえば居眠り、ともいえる魔との攻防である。

 やっと休憩時間になり、僕は恥を忍んで他のデスクをこたつにしている女性社員に眠気対策について尋ねてみた。

 のど飴を舐める、適度に立ち上がる、家で睡眠をしっかりとり、昼食は少な目にする。どれももっともな対策ではあったが、まずこたつから出られそうもない。

 僕はそれなりにがんばった。しかし眠気には抗えず、結局三日後、泣く泣くこたつを片づけることとなった。

 意気消沈している僕にしかし、同僚たちは優しかった。


「いやー、何日持つかと思ったけどやっぱ三日が限度だよなー」

「十一月からこたつ使用が認められるんだけど、みんな毎年トライしてだいたい三日ぐらいで泣く泣く片づけるんだよ」


 どうやら毎年の恒例行事らしい。それから新年明けてからも試す人がいるらしいがやはりすぐに片づける羽目になるんだとか。


「せっかくのこたつが……」


 悔しさと情けなさでなかなか浮上できないでいたが、


「昼飯買ってきて会議室で食べれば? 会議室と社長室にはこたつ置いてあるから」


 同僚からの情報に僕の目はキラーンと光った。

 


 社長室にはみかんと猫がいた。みかんと猫の付帯は禁止なのではなかったのか。それとも社長だからいいのかな。


「やあやあよく来たね。何か困ったことはないかな?」


 丸顔の人の好さそうな表情をした社長は、猫を撫でながら僕にそう尋ねた。


「……何故こたつなのですか?」

「冬場はエアコンだけじゃ足元が寒いと女性社員に訴えられてね。で、こたつを導入したんだがなかなか難しい。でもいつ使ってくれてもかまわないからね」


 やはり居眠り対策が喫緊の課題なのだろう。この会社は昼休憩も長めだ。11時45分から1時15分までが昼休憩である。そのことも少し気になっていたので社長に尋ねると、


「いやー、僕がサラリーマンだった時昼休憩が一時間ってのはなんか短いと思っていてね。それで三十分延ばしてみたんだよ。本当は昼寝ぐらいできるといいんだけどね」


 なるほど、である。その分朝の就業時間は8時45分からと少し早めにはなるのだが、営業時間は9時5時なので不満はない。昼休憩の時間中は交替で2、3人が残ることになっている。ちなみに昼休憩をとっていい時間として、11時半から1時までとか、12時から1時半までなど変則的にとっていいことになっている。ただし変則時間にする場合は事前報告が必要だ。

 で、結局僕はどうしているのかというと、基本お弁当を作り、昼休憩時は会議室のこたつでぬくまっている。こたつに入るとみな一様に幸せそうな顔になり、話の内容も和やかだ。相席は普通なので気にならないが、基本女性と男性が入るこたつは分けているらしい。セクハラなんてことになったらたいへんだし。

 バカとはさみは使いようとは言ったものだが、道具は使い方によって毒にも薬にもなる。

 また二月になったらこたつデスクに挑戦してみよう。



おしまい。



こたつの吸引力には抗えない(笑)


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