エピローグ

エピローグ

 戦いに勝利したからと言って、華やかな凱旋とは行かない。まだ見ぬ残りの四天王の居場所や、神となった魔王の討伐方法など、考えることは山積みだ。こと気を使わなければならないのは、勇者について。四天王ジールレヒトからもたらされた情報によって、現在勇者とされている人物は、魔王によって召喚された偽者であることが判明している。おまけに世界の各所に、魔族の血を引くものが紛れているというのだから、これはもう手に負えない。俺同様、本人達に自覚がないとしても、この真実が明らかとなれば、下手をすれば人類同士での戦争が起こりる。魔王が健在である今、そのようなリスクを負うのは好ましいとは言えないだろう。結局、真実は闇の中のままにする他、手の打ちようがなかった。


「という訳で、マサヤ=キサラギさん。あなたには引き続き勇者として振舞って貰います。四天王ジールレヒトを討ったのも、勇者あなたということにさせていただこうかと」


 問題は、後方で待つ多くの者達に仮称魔王城での出来事をどう伝えるかである。危険な真実を隠しつつ、人類の前進を伝える案。その案として、俺はマサヤ=キサラギを改めて勇者として担ぎ上げ、彼が四天王の一人を討ち取ったというシナリオを提示したのだ。


「……俺は構わないが、お前はそれでいいのか? 俺のおこないには思うところがあっただろ?」

「それはもちろん不満に思ったこともありますが、今の人類から勇者という存在を奪うのは得策ではないんです」


 俺は想定される最悪の未来を語って聞かせる。


「……確かにそんなことになったら、暢気に名声がどうのとか言ってる場合ではなくなるな」


 マサヤ=キサラギが異世界人で、俺達にない能力を持っていることは事実。一番恐ろしいのは、その力を魔王に利用されることだ。もし彼が魔王の器とされた場合、魔王は元あった魔族として持って生まれた力に加え、アルヴェリュートから奪った神としての力、更に異世界の知識や技能を併せ持つ存在になってしまう。異世界に知識や技術がどれほどのものであったにせよ、魔王が使うとなればろくなことにならないのは明白。実際、アルヴェリュートの力は悪用され、魔王の器を作り出すために使われているのだ。


「出来ることなら、あなたには元の世界に返ってもらいたいところですが、現状それを実行する手段がありません。ですので――」

「せめて勇者役を演じろ……と」

「そういうことです」


 ジールレヒトが倒れたことは、既に魔王側には伝わっているはず。当然、魔王はその理由を調べ、対応策を講じてくるだろう。一度勝っているとは言え、神気功術の存在は魔王にとって不都合が多いであろうことは容易に想像がつく。だからこそ、前回は対の存在とも言える封印術師を追い込み、人々の記憶からその存在を抹消したのだ。今回はどのような対策を講じて来るか、全く想像がつかないのがもどかしい。


「こっちは勇者を続けるとして、お前はどうする」

「そうですね。どうことが動くにせよ、魔王軍との戦争は続いている訳ですし、いっそこっちから魔界に乗り込んでやろうかと」


 儀式とやらが成立しなければ、魔王がこの世界に再び姿を現すことはないはずである。そしてそんな大層な儀式を行うことが出来るとしたら、残りの四天王はその筆頭候補だろう。出来るだけ早く見つけ出して、討伐してしまいたいところだ。もちろん、最終的には神となった魔王も討伐しなければならない訳だが、それを考えるのは四天王を倒してからでも遅くはない。


「パーティーはどうするんだ? 魔力が使えないんじゃ、人員は限られるだろう?」


 そう言って口を挟んだのはガイズだ。彼の言い分は尤もで、頭の痛い部分でもある。スフレもノルも、魔王によって選ばれた器候補。その力は魔力ありきで、封印術とは相性が悪い。かと言って、ただ体格のいいだけの人間を連れて歩いたとところで戦力になるとは思えないし、仲間探しは苦労することになりそうだ。


「下手の大勢連れ歩いても守りきれないし、しばらくは俺とラキュルだけで行こうかと。スフレとノルには悪いけど、またここでお別れだな」


 俺がそう口にすると、スフレはあからさまに肩を落とした。今度は自分が足手まといになることがわかっているからだろう。前回の時のように、追い縋って来たりはしない。


「すぐにつのか? 準備が充分とは言えないと思うけど」


 ノルもそこを気にしている。しかし、ここで味方の拠点まで戻っていたのでは、時間がかかり過ぎだ。相手に行動の余地を与えるのは、出来れば避けたいところである。


「食料くらいならこの城にもありそうだし、この際だから有効活用させてもらう。他の物資はまぁ、最悪現地調達だな」


 そう言ってラキュルの方を見ると、彼女は苦笑いをしていた。多少不満はあるのだろうが、それを口にしている場合でないことは彼女も理解しているようだ。


 この世界と魔界を繋ぐゲートがあるのは、恐らく地下だろう。それもそれなりに広い空間であることが予想される。一度に多くの魔物を移動させるのだから、それは最低条件。そして、ゲートの守りを固める上でも、地下というのは都合がいいはず。今いるのが白の中央部辺りなので、階段を見つけてくだる必要がある。流石に来る時と違って案内は付かないはずなので、自力で道を確保する必要があるだろうが。


 スフレとノルには勇者によるジールレヒト討伐の証人になってもらうことで話をつけ、俺とラキュルは地下を目指した。途中出くわした残党の魔物を倒しつつ、先に進むことしばし。いかにもそれらしい大扉を見つけ、扉を開ける。魔力を封じているせいか、今度の扉はやたらと重かったが、そこは神気功術にものを言わせて押し通った。


 真っ暗な広い空間。その先に、何やら門のような構造物があるのがわかる。恐らくこれがこの世界と魔界を繋ぐゲート。今は封印術によって魔力の流れが絶たれた結果閉ざされているのだろうが、封印術を解けば再びゲートとしての効力を取り戻すはず。その確認が取れたところで、一度上階へと戻り、食料を確保。使えそうな物資も調達して、今一度地下までやって来た。


 俺とラキュルはお互いに顔を見やって、頷き合ってから、封印術を解除。ゲートの起動を確認し、一気に飛び込んだ。


 俺達は進む。例えどんな苦難が待ち受けていようとも。何度希望がついえ、絶望に打ちひしがれたとしても、必ずや最後は立ち上がって、その先の未来を切り開く。既に失われてしまった多くの命が、決して無駄ではなかったという証明のため。この先に生まれる命が、平穏な日常を送ることが出来るようにするために。俺達は戦う。戦い続ける。


 これは世界最強の魔法使いと言われた俺が、封印術師の少女と出会い、いくつもの旅を経て、数多くの真実を知り、やがて世界を救うまで物語。今はまだほんの序章に過ぎないが、いつの日にか、それが在りし過去の出来事として語り継がれるようになることを祈って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界最強の魔法使い、強過ぎて勇者パーティーを追放されたが実は物理の方が強い C-take @C-take

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ