第九章 また誰かいた!

第34話

 平屋建てで2LDK。


 一応曰く付きではない、事故物件ではない、とは聞いていたのだがルームロンダリングされていたらその辺りはわからない。

 ここ数年でコウのように曰く付き物件をルームロンダリングして安く済む若者が増えているためなんとも言えない。


「どうしたんだよ、コウ。もうさぁ今日はここでベッド広げて寝ようよ……あれ、美佳子ちゃんは消えちゃったかな」

「今は美佳子が出てこない時間だ。なんか美佳子以外の気を感じないか?」

 由貴は首を傾げつつも目を瞑り、集中しているようだ。すると彼の二の腕はぞわぞわっと鳥肌が立った。


「いる」

「そういう仕組みか、お前は」

「うーん、ランダム」

「それはともかくネット内見では大丈夫だとか言ってたけど、もしかしたらルームロンダリングで記載がない場合もあるかもな……」

「物騒なこと言うなよ、コウ」

「ネット越しでは見えないこともあるしな。しまったなぁーやっちまったかもなぁー」


 由貴の目はまっすぐ何かを見ていた。コウは嫌な予感しかなかった。


「美佳子も簡単にここにきちまったし、由貴は引きつけやすいし……まさか」


 コウがゆっくり後ろを見る。


「なんで」


 当たりであった。見知らぬ男女2人が壁にもたれかかっていた。


「おかしい、さっきまでいなかったし……ネットサイトの事故物件にはここは炎上しとらんかったのに。やっぱ由貴、お前連れてきたんか」

 コウがそれらを指差して言う。


「そう言うことになるんだろうねぇ、死んだのがここじゃないところで……日中は多分死んだ所で2人して立ってるんだろうな」

「まぁ良くあるパターンだが……そうだったら前の住人が死亡のため、とかなるはずだが」


 コウは男女2人の前に立った。2人はコウを見るなり会釈をする。2人の間に少し距離がある。コウはラフな格好だがサングラスに変えた。


「なんでここに来た。何か言いたいことでもあるのか、伝えたいことでもあるのか」

「はじまった、コウの除霊タイム」


 由貴はカメラを取り出して撮影を始めた。こういうことになるとテンションが上がる由貴。


「今はスエットだけどな」

「だったら着替えるか」

「まぁいいわ。めんどくさい。サクッと除霊して今日はもう寝たいんだけどさ」

「たしかにそうだけどねー」

「……はいはい、じゃあお二人さん。まずは自己紹介してください」


 しかしコウに促されても2人の男女は黙っている。なぜ黙っているのだろうか、由貴はごくりと唾を飲み込む。


「そか、話したくないんだなぁ……それに2人は恋人って感じやないが」


 そう言うと2人はぎくっと反応した。コウはニヤッとする。


「ただのカップルとかではないか。曰く付きの……うーん、でも体の関係はない」

『なんでわかるんだ』


 男の方が声を出した。女よりも若い。まだ20代前半、女性は30代後半。


「……互いの距離、彼女の方は少し怯えている。かといって誘拐犯とかではない」

『彼は、ミツオ君は誘拐犯ではないです』


 女も声を出した。彼女の薬指には指輪がある。

『……俺が話すよ。ナナさん』


 男、ミツオが語り出した。


『僕たちはネットの中で知り合った中です。ずっとナナさんはネットのつぶやきで家族の不満を書いていて、どの人が見ても明らかにその家族のやってることは理不尽でナナさんは家政婦扱い、僕ら見てる側は逃げろ、離婚しろ、それしかできなかった』


 隣にいたナナはうつむいている。コウはハッとした。何かを思い出したのだ。


「由貴、検索しろ。県境で車が崖から落ちて失楽園事件とかネットで騒がれてたやつを! あなたたちはあの山の崖から車で落ちた……」


 由貴は慌ててカメラを置き慌ててスマートフォンで調べて三人に見せた。


 

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