第28話

 家に向かう途中、由貴がコウのスーツを掴んだ。

「なんだ? スーツ傷むからやめろよ」

「そのさ……」

 俯いたままで話さない由貴。


「早く片付けないと布団敷いて寝られないぞ」

「だけど」

 となぜか黙る由貴。


「俺さ気づいたけど……」

「なに」

「由貴、渚ちゃん好きでしょ?」

「……!」

 由貴は顔を赤らめる。

「ほら図星。ああいうウブなのがタイプか? ……俺はちょっとー、ないかな」

「え?」

「だってなんか引っ込み思案だから」

「ああ……確かに。コウはお母さん好きだからもっと前に出てシャキシャキっとした人がいいんだろ?」


 反撃を由貴からくらったコウ。

「美帆子所長みたいなのがタイプでしょ?」

「……ま、まぁ渚ちゃんよしかは所長の方がタイプってのは認めるが」

「ほらやっぱり」

 と由貴は優勢に立ったと思ったが

「で、なんなんだ。いい加減服から手を離せ」

「……」

 コウは由貴の手を離した。

「お前の母ちゃんのところに行くんだろ? わかってる……蹴りつけてこい」

「ありがとう」


 2人で由貴の実家に向かい、インターフォンを押す由貴。するとすぐに母親が出てきた。

「……由貴じゃないの」

「ただいま、かあちゃん」

「あがっていきなさい。コウちゃんも」

 あっさりと家に入れてもらえて由貴は動揺して玄関で固まってしまった。

「おい、行くぞ。……なにかたまってんだ」

「……」

 コウは由貴の背中を叩く。

「言ったろ、お前の母さんお前が神隠しにあったんじゃないかって心配してたこと」

「……」

「お前が行くと決めたなら行くぞ!」

 由貴はコウに手を引かれ入っていく。


 由貴は母親の姿を見て小さく感じた。自分が大きくなったとか、それなのか?

 久しぶりに母と会い、話す由貴。特に母はなにも言わず由貴をもてなす。


 ただただ由貴の母は彼を心配していた。そして何度も天狗様の元へ拝みに行ってたそうだ。


 コウに助けられたことを言うと由貴の母はコウの手を握り、ありがとうと何度も涙して頭を下げる。


 コウもついもらい泣きしそうになる。

 由貴は横でボロボロ泣いていた。


 どうやら今度他県の由貴の姉夫婦の元に住むらしい。その話を聞き2人は家を出た。






「コウ、ありがとうな」

 目を赤くパンパンに腫らした顔の由貴。コウも上を見て涙を抑えてる。


「いや、ただついてきただけだ。今度お前の母ちゃんの引っ越しの時は手伝わないとな」

「うん……それもだけどさ」

「ん?」

「飛び降りようとした僕を助けてくれてさ。そうもしなかったら母ちゃんが僕を疎んでるって思ったまま死んで亡霊として彷徨ってたかもしれん」

 そう由貴が言うとコウは笑ってた。


「お前のことだから何もしない壁に張り付いてる幽霊だったかもな」

「そ、そんなぁ」

 2人は笑った。


「よし、帰ろか」

「現実が待ってる」

「さっきのは現実じゃなかったのか?」

「……んーなんと言うか」

 由貴はひとまずスッキリして新生活を送れそうだ、と。

 できるだけコウの方は見ないようにした。彼が涙を拭っていたからだ。

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