第六章 スーツ屋の店主
第24話
由貴とコウは通された店内を見渡す。スーツやシャツ、生地など外観からすると店内はこんなに広かったのかと。
「実はいつも着ているこの黒スーツ、このおっさんに作ってもらったんだ」
「おっさん、て……言い方考えろ。いくら幽霊でも。てかこの胡散臭い黒スーツをか」
と由貴がコウのスーツをつまむ。
「胡散臭くない。てか別にこんなの着たくないけど着た方が気持ち切り替えできるし、気持ちがこっちの方が入る」
普段はスウェットを着てゆるっとしているコウだがスーツを着るとしまって見えるが、ホストっぽいスーツで少し胡散臭いと動画サイトやネット掲示板に書かれているのは事実である。
「このスーツ高いだろ、どう見ても置かれてる生地とか絶対輸入物だし、まずもってオーダーものだから高い……低収入のお前がどうしてあんないいスーツ持ってるのか。しかも同じやつ三着くらいあったぞ」
「……お前、意外と見る目あるな」
「一時期、服の卸屋も入ったことあって従業員に売値は高いがコストは安い、かなり儲けているって教えてもらった」
そう言われてコウは目を泳がし動揺している。たいていそういう目線の時は何か裏があるのは分かっている。聞き出そうとしても濁されるだけだと由貴は諦めた。その時に奥から店主がやってきた。
『お二人ともご無沙汰しております。時期と場所は違えど奇遇ですね。あ、コウさんのお母様が先月頭にスーツのお直しで持ってきてくださって』
「は、はい……忙しい時にありがとうございました」
この会話で由貴はハハーンとやはりな、と理解した。スーツを買ったのはコウの母親であった。メンテナンスまで母親に任せているのかとよみ通りだと勝手に1人で納得した。
「1人でこのお店をやってらっしゃたんですか」
『そうですね、一応全国に仲間があってそのグループにも入ってますから連携はとってますし、一部商品はサイズを測って生地と形を選んでデータを送って海外で作って送ってもらってるんですよ』
「……失礼ですが後継の方は」
店主は由貴の質問にニコッと答えた。
『娘が2人いるのですが……妻と離婚しまして別で暮らしているんです。残念ながらあまり被服には興味がないようで……作るよりかは作っているものを買うくらいですかねぇ。後継はもういいので私の代で終わりです、元々昔から……所帯持つ前からそう思ってましたから』
店の中はアンティークのものばかりで閉まってしまうのはもったいないくらいである。
「そいや、由貴はなんでおっさんの名刺持ってるんだ」
「それは……」
店主は覚えてると頷いて話を始めた。
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