第21話
2人は地元でも大きな山の前に着いた。あの例の二人が事故にあって由貴が助けを求めたあの場所だ。
その前にはお寺があり、とても広い境内、野良猫たちがニャーニャーと鳴いている。
コウはいつものように黒スーツにサングラス。由貴は普通のラフな格好である。こんな格好で良かったかと疑問に思うがいいか、と。
「猫は昔よりも減ったな……」
「そうだな、昔は猫捨寺とか言われてたからな。僧侶さんが猫好きだからと言ってさ……」
門の前では2人の若い僧侶が立っていた。待っていたかのように。
「お待ちしておりました」
「それでは、行きましょう」
コウはその2人に右手を上げて気軽に挨拶をするが、由貴は久しぶりすぎて初めて見るその坊主たちに頭を下げる。坊主たちも誰だ、と見ている。
「コウ、なんか変わったなぁ……昔よりも」
「そうだなぁ、色々変わっただろ。でも基本は変わってないし」
「……」
「お前が天狗様に助けてぇってゆうたのに全く……」
「……」
2人は僧侶たちき着いていくと更に奥の門の前に誰かが立っていた。180センチ近い由貴よりもデカい袈裟を着た男。
「コウ、また来たか……って横にいるのは」
「倉田さん、由貴ですよ。都会で死にかけていたところを救って連れて帰りました」
「ほぉ、死にかけていた男がまた死にかけたのか、はははっ。大きくなったなぁ。まぁあの時も大きかったけどなぁ」
由貴にとっては彼は初めてではない。倉田という男はずっと笑っていた。彼はこの寺を取り仕切る僧侶でもあり、この地域の冠婚葬祭の事業をまとめている倉田グループの社長でもある。
「動画見たぞ。由貴の驚愕の顔がたまらんかった。なぜあんなに驚くか……滑稽だった」
「恥ずかしいです」
「ははは。聞くところによると能力は全く使ってなかったと」
「そうですね。でも見る分には怖くないんですけど急に現れるとかすごく恐ろしいやつとかはいまだに無理です。」
倉田はそれを聞いて鼻で笑う。門を開けさらに奥に進んでいく。
由貴は思い出したのだ。コウと由貴は命は助かり、霊能力を授けられた。勝手にだ。拒否もできぬまま。
助かったが大怪我を負い、病院まで搬送され二人の家族たちに事情を話すと彼らは事故にあった山の麓にあるこの神社まで行き命を助けてもらったことを感謝しに行ったのだ。その時にいたのがこの神社の僧侶であるこの倉田だった。
霊能力を授かったことは誰も知らない。そして二人は倉田は普通の男ではない、と察していた。
その悍ましい空気感は子供のながらに危ないものだと察していた。だからあまり詮索しないようにしよう、と二人で決めていた。
「……でも夢に出てきた僕らを担いだものとは違う」
「ん?」
すると倉田が振り向いてニヤッと笑って2人はゾッとした。そしてカラス達がバァああああああっと飛び立った。
倉田は天狗様に命じられて二人のお世話係としてパイプ役にもなっていた。子供だった2人は倉田に何度も怒られてはいた。
怒られると言うものの今のような不気味さのあるものであって子供ながらに怖かったというのも覚えている。
だが彼のおかげで霊能能力をうまくコントロールしたり手強い霊から身を守って貰えたりアドバイスをもらったりしていた。
久しぶりに倉田の洗礼を受けたところでいよいよ天狗様の小屋にたどり着いた。
かなり山奥だ。ここまで家族は辿り着けなかった。まだ小さかった二人だからこそ行ける場所。今は息が荒くなったが平気なのは不思議である。
「今日は機嫌が良さそうだから……あ、そのかりんとうを渡せば喜ぶでしょう。いつもありがとうございますね。」
これは東京で買った時雨へのお土産でもあったが時雨からこれも持っていけと渡されたのだ。
「甘いものには目がない、さらに都会のものにはね。今のこの世はネットひとつですぐ手に入るけど天狗様はそういうのが嫌なんですよ、私もですが……こうやってここまで登ってきて手渡しをする、それがいいんです……すぐ手に入っちゃダメです」
淡々と喋る倉田はやはり不気味である。そして彼が小屋のドアを開けると甘い匂いがする。
「ういっすー! コウ、きたか! ……お前は由貴か」
顔が赤く大柄の鼻の大きな男がいる、由貴よりも倉田よりもでかい男だ。その男の手には小さい丸いチョコ、足元には無数の箱が置いてあった。
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