第7話

「お前、ナイスリアクション。いいの撮れたぞー」

ニヤニヤとした顔のコウ。横では少し不機嫌な由貴。だがやれやれ、という顔に近い。


「その映像撮りたいだけだったろ……ほんといい加減にしろよ。あれ知ってたくせに」

「……まぁ後で話すからシャワー浴びろ」

「もう大丈夫だろうか」

「心配なら俺入るけど、またどう?」

とコウは肩にお湯をかけるジェスチャー。

「結構!」

「イエス?」

「ノー!」


 由貴はそう言ったがコウは悪びれもなくニタニタしながら脱衣所に置いてあった牛乳パックくらいの大きさの箱を手に取り風呂場に向けて何かを振りかける。


 ザザっ!

「……ソルト?! 塩?!」

「塩」

「昔もこうしてたっけ」

「おう、そうだったな」


 2人は昔から塩はよく使っていた。子供の頃、心霊本にみえるものは塩でお清めすれば良いということが書いてあり、子供だった2人はそのまま鵜呑みにしてずっと塩は手放せないアイテムとなっているだけでもある。


 いろんな塩があるが当時子供だった2人が手に入れやすかったのが家の台所にある食用食塩であった。

 コウが今使っているのは大量に入ってて持ちやすいボックスタイプの食塩。


「海外製のこれよりももっと大容量の入浴剤のソルトも良かったんだがやっぱこれだな。実家の居酒屋でも使ってて便利だ」

「僕は小さいサイズの……今はないけど」

「あと……」 

「「スプレー式消臭剤」」


 2人は声を合わせたかのようにおなじことを言う。そして笑った。それも二人が噂を聞きつけて使ったこともあったが気休めにしかならなかった。塩が一番だったのは確かだ。


「さっさと入れ、風邪ひくぞ」

そう、まだ由貴は大事なところをタオルで隠しただけでまだちゃんとお風呂に浸かっていない。


「寒くなったのはお前のせいだ、たく。さっきまで血塗れだったのに……にしてもこの風呂場で爺さんはどうやって死んだんだ」

 由貴はジャポンと湯船に浸かる。風呂場の外、脱衣所からコウの声がする。


「ん? 外にいた女がその爺さんを風呂場で殺した」

「塩! 塩! もっといれろぉおおおお!」


 由貴は風呂から出てコウの置いた塩を浴槽の中にこれでもかと言うくらい入れたのであった。





 そして温まって出てきたが、気持ちは冷え切っている由貴は脱衣所のカゴの中に服が入っているのに気付く。

 タグを見ると自分のサイズである。自分よりも小さいコウのものではない。下着も肌着もある。


「まさか……」

 慌てて着替えて濡れた髪の毛をタオルで巻いてリビングに行く。

「コウ、この服……」

「その服を買いに近くのドラッグストアに行ってきた」

「そか、今時のドラッグストアは色々揃うな」

「そうだな、地元もドラッグストアだらけだけど都会でも便利」

「……ってそれ口実に僕を浴室に1人にさせやがって……」

「口実にってなんだよ! せっかく買ってきてやったのにすぐ脱げ! 俺んちで寝るな、裸で外で凍えてろ!」

「なんでだ、鬼だな! 鬼畜!」

 由貴はコウにさらに詰め寄る。

「さっさと話せ、この家のこと。そして……」

 リビング奥の和室を指さす。


「あそこに座ってる男の子のこともな!」

「……あー」

 畳の上に男の子が座っているのだ。


 その男の子は青白い顔して二人を見ている。

「あ、キミヤスくん。怖がらんでもいい。こいつは俺の幼馴染だから」


 キミヤスと呼ばれた男の子は由貴に会釈をした。


「ども、由貴ですっ……て。キミヤスくん?!」

「この子は元々の住人だし、結構話したら仲よくなって」

「かと言ってまず紹介してくれよ。奥にいて気づかなかった」

「それはすまん」


 キミヤスはまたペコリと頭を下げた。なんかなぜかそれが申し訳なくなった由貴はコウとともに彼の前に行き座った。


「まず違和感はアパートの外観とこの部屋の中。外は古いのにこの中だけめっちゃ綺麗、リフォーム仕立て。こんな綺麗なとこそんなに収入なさそうなコウが住めるわけない。つまりリフォームしなきゃいけない事情とその事情で安くなった家賃で住めた、てことだな」

「……正解」

 コウはさっぱりと正直に認めた。つまりこの部屋は曰く付きの事故物件であるのだ。


「事故物件に住むのも訳あってな。事故物件を抱えて入居者がおらず他の部屋も借りられず大家が借金抱えてしまうという話聞いてな」

「……よく聞く話だな」

「映画であるだろ、ルームロンダリング」

 由貴は首を傾げた。そんな映画あったかと。

「事故や事件が起きた部屋に住んで何事もなく過ごして退去するってやつ。そうすればその次に住む人に一個前に事故物件でしたと言わなくていいやつ。まぁその映画の主人公も霊と対話ができるやつだったな」

「まさかいまそれで稼いでるのか」

「それも仕事の一つ。ずっと幽霊見慣れてるから冷やかしや本当に金がないみえない人間が住むよりかは俺みたいにみえる人間の方が住みやすいと思う。もしなんかあっても除霊はできるからな。んー、ここで何軒目だろ……あ、ついでに除霊すれば報酬もらえるんだよね」

 コウはニヤッと笑った。


「うわー……そんないい仕事どこでもらうんや」

「あ、由貴……興味持った? 紹介しようか、というか一緒に働きたいんだけどね。一応下請けだけど、ネットで募集してて」

「なに?! 教えてくれ。霊媒師登録サイトか? って僕はみえる、引き寄せるくらいしかできないけど」

「それがいいんだって……で、そこは……」

 と由貴が食いついたところでキミヤスがか細い声で


『あの、すいません……盛り上がってるところですが』


 割入り、二人はハッとなった。

「ごめん、キミヤスくんのこと忘れてたー」

「ごめんね」


『いいえ、2人の間割り入ってしまい……』

 キミヤスは肩身狭そうにして遠慮してた。さっきの二人の霊とは大違いである。


「ルームロンダリングはさておき、ここでどんな事件起きたんだよ。キミヤスくんも巻き込まれたってことだろ」

 由貴が聞くとキミヤスは頷いた。そしてこう答えた。


『母が半狂乱になって祖父と父と僕を殺しました』



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