第49話 時の神獣、星々の使徒

「まさかここまでの数とは………」


フウマはその圧倒的数を見て驚いていた。

おおよそ万は超える軍勢の中に、ふんぞり返るように座っているのは蓮斗だ。

蓮斗はフウマ見つけるとにやりと笑った。


「どうだよこの数、圧倒的だろう?」

「これが全部で俺の力なんだよ」


「借り物の力で大口を叩いている様は無様でござるな」


「言いたいように言っとけよ魔王サマ」

「お前の親父は強かったって聞いてる。けど、お前はどうだ?」

「お前にこの軍勢全てを相手にしてたった1人で戦える程の力はあんのか?!なぁ、聞かせてくれよ!!」


フウマは蓮斗の煽りに対して言葉を返さずに、ゆっくりと妖力を高めていく。

そして、龍を呼び出して、その龍の周りに無数の魔法陣を生成していく。


「戦える力…?貴様は知らない。本当の強者と言うものを」

「術式変換 《火龍》」


龍は緑色だった身体をフウマの詠唱と共に赤く変化させていく。


「これは開戦の合図でござる。今日この日をよく覚えておけ」

「今日は貴様の命日であり、人間派の滅亡の日だ」

「《龍撃砲 赫》」


その言葉と共に龍は巨大な火の玉を発射し、骸骨の軍勢にぶつける。

ぶつかった瞬間に大きな爆発音と、火柱を上げて万は超えていたであろう骸骨の半数が消し飛んだ。

蓮斗はその様子みて少し冷や汗を流したが、すぐに表情を変えて楽しそうに笑う。


「これぐらいやって貰わないと困るってもんだぜ魔王サマよォ!!!!」

「やろうぜ!!歴史に残る最大のケンカをよォ!!!」


蓮斗が腕を振るうと、いっせいに骸骨は動き出してフウマに向かって走り出す。


「《辰》《虎》《鳥》《戌》」


フウマは神獣を4体召喚して、骸骨たちの迎撃をする。

その軍勢に紛れて蓮斗がフウマに襲いかかった。だが、フウマの前に大きな狼が立ち塞がってフウマを守る。


「下僕に戦わせて自分は傍観かよ?!」


「たわけ、貴様を葬り去るための準備をしているだけでござる」

「それももう終わった」


フウマがそう言い終わる瞬間、フウマを中心に大きな魔法陣が生成された。

そして、そこからは莫大な魔力が放出される。


「《魔力解放》」


フウマは身体の片側から大きな翼を生やし、頭から角をひとつ生やし、片側の腕が黒い外角で覆われていく。

目は両目とも紅く染まり光り輝いた。

蓮斗は危険を感じて後ろに飛び距離をとる。


(これが噂の魔力……あいつの本来の姿…)


「そのナリで共生派名乗ってたのかよ!!」

「どこからどう見てもバケモンじゃねぇか!」


「違う!!この姿こそがまさに共生の主張そのものでござる!異種族だとしても、共存できるという確固たる象徴だ!」


フウマの魔力の圧であたりの骸骨は吹き飛んでいく。

フウマは《干支》とはまた違う、錬成陣ではなく、魔法陣を展開する。


「拙者に宿るのは時を巡る12の神獣干支

「そして……」


魔法陣が淡い光を放ち、フウマを包む。

そしてその光は次第にフウマの手に集約されていく。


「《牡牛座タウロス》」


その手にはフウマの背丈と変わらぬほどの大きさを有する斧が生成された。

そしてそれを軽々と片手で持ち上げ肩に乗せる。


「天に輝く12の星霊 《星座》でござる」


そのフウマに付き従うように、龍はフウマを中心にとぐろを巻き、白狼と虎は後ろに悠然と佇み、頭上には鳳凰が翼を広げ悠然とその場を留まるように飛ぶ。

その姿は異種族達を従える王だった。


「ただ、武器が出てきただけじゃねぇかよ!!!!」


蓮斗は骸骨たちを向かわせて周り獣達を引き剥がし、自分は一直線にフウマに突っ込む。

片手には自分の支配下の骨から作った大剣を使って襲いかかった。

だが、その大剣をフウマは一瞥もすることなく、片手で受け止める。

そして、そのまま遠方へと思い切り投げ飛ばした。


「まじかよ…!」


蓮斗は体制を建て直して、再度突っ込む。

だが、次はフウマが持つあまりにも巨大な斧で受け止められ、そのまま押し返される。


(おいおい、俺は軽く10万体の骸骨を従えてるはずだろ?)

(パワーでここまでの差が出るなんて有り得るはずがねぇ……!)


「なら物量で潰してやるよ!!!」


蓮斗は後ろに飛び、それと入れ替わるように万は越える骸骨がフウマに襲いかかる。

フウマは肩に担ぐように持っていた斧を振りかぶり、骸骨達を斧と共に振り上げる。

その風圧は爆風を呼び寄せ、骸骨たちは上空に投げ出された。


「《蟹座カンケル》」

「切り取れ」


フウマのその言葉に次は斧ではなく、赤黒い甲殻類の殻を纏った大鎌が出現する。

そして、それを上空に浮かぶ骸骨たちに一振りした。

その瞬間全ての骸骨は真っ二つに切断され、そして上空に浮かんだ分厚い雲さえも真っ二つに割れた。


「まじかよ…」


蓮斗がその光景に唖然としていると、この隙にフウマは一瞬にして距離を詰め、そのまま引っ掻くような動きで攻撃した。

蓮斗は冷や汗を流しながら、それを反射神経だけで避けるが、その瞬間には目の前からフウマは消え、次は背後から攻撃される。

音速を超える速度に蓮斗は目で追うことすらもできなかった。

蓮斗は自分の周囲を囲むように骸骨を配置して、骸骨が切り裂かれる音で場所を特定して、そこに攻撃を加える。

それでも攻撃はかすりもしない。


「突然な怪力にこの速度……!」

「何がどうなってんだよマジで…!!」

「いくつの能力を持ってんだよお前は!!!!」


蓮斗は骸骨の体を全て剣のように変形させて、四方八方に攻撃を加える。

その攻撃はさすがにフウマも予想外だったのか、動きが止まる。

フウマの手には爪のような形状をした武器が両手に装備されていた。


「 《獅子座レオ》 」

「ただ、獅子のように駆けていただけの事」


「バケモンが…」


フウマは1度立ち止まり周りを見渡す。

今も《干支》の神獣達は召喚を続けて、骸骨たちを退け続けており、自身も今の攻撃でかなりの数を減らしたはずだった。

だが、

正確に言えば、倒したはずのものがゆっくりではあるが、再生している。


(これは借り物の軍勢…反応を見る限り再生させているのは蓮斗ではなく元々の持ち主の能力か…?)


「まぁ、それなら無視して蓮斗本人だけを狙うことにしよう」


そう言ってもう一度構える。

獅子座の能力は『超加速』初速からほぼ永続的に加速し続け、音すらも置いていく程のスピードまで至ることができる。

故に、蓮斗はこのスピードに対応できない。

今のフウマの力は10万という圧倒的数の暴力を集約されている蓮斗を軽く超えているからだった。

フウマはゆっくりと速度をあげていき、先程の速度まであがりはじめる。


(くっそ…!あんなもん勝てるかよ…!)


蓮斗はかなり焦っていた。このままでは為す術なく負けてしまう。

蓮斗はほとんどの骸骨を集約させて、フウマにぶつけながら後ろに下がった。

フウマは難なく返り討ちにしたが、加速を止められてスピードが元に戻る。


「お前の強さはよくわかった」

「今の俺じゃ勝てねぇってのもな」


そう言って蓮斗はニヤリと笑って、懐から無数の勾玉と玉を出した。


「…!それはまさか!」


「そーだよ。アイツらに貰ったのはこの兵隊だけじゃねぇ」

「中身がわかんねぇぶん使うのは嫌だったんだが……」

「おまえをぶっ殺す為ならなんでも使ってやるよ」


そう言ってその全てを一気に身体に押し込む。

その瞬間に一気に空気が変わる。

蓮斗を中心に妖力が舞い上がる。


────────────────────

〜数刻前〜

「あの兵隊以外にもこれを渡して置きましょう」


骸骨はそう言って、蓮斗に黒く濁った宝玉と、多種多様な妖術が封じられた魂魄玉を渡す。


「なんだよこれ」


「あの魔王様に勝つ為の力ですよ」

「制御出来れば貴方に絶大な力をもたらすでしょう」


「俺に神様になれってか?」


「とんでもない!そんな小さなものではありません…」

「神は神でも邪神。貴方にはその方がお似合いだ」

「これを渡した事はどうか内密に…」


─────────────────────

「あ…が…」


フウマは一度距離を取って、先程まで好きに動かせていた干支の神獣たちを自分を守るように周りに従わせる。


(あれはコン殿が言っていた宝玉と魂魄玉……)

(だが、あの宝玉は何か違和感を感じるような…)


「しかし、一気に入った力に身体が耐えきれていないようにみえる」


蓮斗は頭を抱えて苦痛を耐えるように、うずくまっている。

周りを漂う妖力が次第に黒くなっていく。

これは悪神化の兆候だった。


「某に勝つために知性とその身を捨てたか」

「愚かな」

「そうまでしてなぜあやかしを憎む!!」

「貴様にあやかしたちが何をしたと言うでござるか!!」


フウマの問いかけに蓮斗はギリギリの理性で断片的に答える。


「うる…せぇ…」

「俺の…ばあちゃんたちは…」

「あや…かしに…村ごと…」

「あ…ぐぁ……」


吹き出す黒い妖力は次第に蓮斗の身体に入っていく。


(悪神化が始まる…)


フウマはそう思っていたが、黒い妖力がどんどん骸骨たちに伝播していった。

そして、次第に苦しみから逃れるようにゆっくりと体を起き上がらせていく。

顔をあげると蓮斗の片目は瞳は赤く、そのまわりは黒く変色していた。

そして邪悪に笑っている。


「クックック…アッーハッハッハッ!!抑え込んでやったよォ!!!俺に流れる神の力をよ!!!!」


「支配の力で悪神化を防ぐために力を分けたでござるか…!」


神妖はどれも神聖的な妖力を放つ。それの持ち主の特性次第で妖力のプレッシャーの形が変わるだけだった。

だが、この蓮斗の妖力は違う。どこまでも黒く、そして邪悪に感じるこのプレッシャーは悪神から感じるものと同じだった。


「悪神として理性を保っているというのか…!」


コンやフウとは違う、禍々しさを感じる妖力。

そして、身体には無数のトゲが生えており、肩口から妖力で作られたのか黒い腕が生えている。背中には逆さ十字の紋章が光っていた。


「悪神だァ?んな可愛いもんじゃねぇよ!あの骨野郎とんでもねぇもんを俺に渡しやがった!!!」

「俺たち人間が感じた憎しみ、怒り、怨念!!!!」

「そういった負の感情だけが詰め込まれた魂の集合体!!!」

「この力ならお前に勝てる!!!」


「《神妖 邪神 辻神つじがみ》」

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