第47話 堕ちた天狗は夜を靡かせて
「フウ……」
僕がフウの変わりように驚いてるうちに、フウマは既に攻撃を仕掛けるために錬成陣を構築していた。
「拙者の大事な息子を返せ」
「《辰》」
「《巳》」
その言葉と共に錬成陣から緑の龍が飛び出し、フウに一直線に突っ込んでいく。
だが、フウはその龍を片手で受け止め上空に投
げ、風の妖術で斬撃を龍へと飛ばす。
その隙にフウマは身体から羽を生やし、片腕を黒い外殻を纏わせて殴り掛かる。
フウはそれを流れるように躱して、カウンターのように蹴り飛ばす。だが、蹴り飛ばした瞬間に目の前に錬成陣が展開され、そこから先程までいた龍が姿を現し、口を大きく開けて炎のブレスを放った。
ゼロ距離のブレスをフウはまともにくらい、あたりは土煙と黒煙が舞う。
やがて収まっていき、フウの姿が見えるようになったが、フウは黒い影を自分の前に盾のように出して防いでいた。
「久しぶりの再会だってのに焦んなよフウマ」
「そなたが何をしようとしてるか分からない以上、大事な息子とその友が攫われそうになっているこの状況に焦らない親などいるはずがないでござろう?」
「そしてその影の妖術……説明してもらわねばならぬな」
フウマは指をクイッと上にあげると、フウが拘束した花凜と翔太の風の牢獄の下に錬成陣が展開された。
「《飲み込め》」
その言葉と共に2匹の蛇がそれを飲み込むように現れて、一瞬にして丸呑みにして錬成陣の中へ戻っていく。
そして、フウマの元へと帰っていき、それを吐き出した。
「無駄だ。もうここにはいねぇよ」
フウがそう言って指を鳴らす。すると、風の牢獄は消えてなくなり、その中に捕らわれたはずだった2人の姿はなかった。
「それはフェイクだ。既にあいつらは俺のアジトに飛ばされてる」
「ていうか、フウマ。いいのか?お前の集落はもう襲われる寸前だぞ?」
「……ちっ!」
フウマは苦悶の表情を浮かべながらも、走り出す。
「コン殿!!拙者は集落に戻り迎撃してくるでござる!コン殿……!あとは頼むでござる!」
「《午》」
フウマは錬成陣から馬を呼び出し、それに飛び乗って集落へと戻っていく。
フウはそれを流し目で見たあと、僕の方に目を向けた。
「なにか言えよ。言いたいことがあるんだろ?」
そう言って妖しく微笑んだ。
「フウ…お前…人間を喰ったな…?」
この妖力の変わりよう、そして増え方はそれ以外に有り得ない。
僕がそう言うと、フウは顔を抑えて笑う。
「まぁ…半分正解だな。だけど、もう半分はこれだよ」
「《神妖化》」
その瞬間、世界は暗く染まり出す。一瞬にして世界が塗り替えられ、天には満月が輝いた。
フウの目は赤く染まり、そして身体からは夜を吹き出すように黒いモヤを纏い、失ったはずの片翼が夜で生成されていく。その翼はどこか不完全で不気味な形をしていた。
そして、頭の上には天使の輪のように紋章が浮かんでいる。
「《神妖
「これでお前と同じステージだ」
そう言って、フウは僕を真っ直ぐ見つめる。僕は困惑した。その見た目にはどこか既視感があった。
「翔を喰らったのか……!」
「………」
フウは何も言わずにこちらを見るだけだ。僕は疑問を投げつけるように声を荒らげる。
「お前は一体何がしたい!なんの為にその力をつけた!!お前の目的は…一体…!」
「俺の目的…か…」
フウはそう言って少し視線を落とした。そして、覚悟を決めたかのようにこちらをもう一度見た。
「俺の目的は、翔と凛ちゃんを生き返らせることだ」
「その為にはあの2人と、お前と俺の中にある凛ちゃんと翔の魂が必要だ」
そして、そんな空想でしかない夢を語り出した。
「なっ…!何を馬鹿な事を言ってる!そんなことできるはずが…!」
「大体、僕らの中にある凛達の魂を取り出すなんて……」
「どうせお前なら出来んだろ」
「…!それは……」
僕は声を曇らせた。
できるかと言われれば、恐らく出来る。試したことは無いが、可能性はない訳では無い。
そして、それを可能とするあるものを僕は持っている。
「そ、そうだとしてもあの二人はどうする!」
「もちろん殺すさ。殺して2人の魂を入れた宝玉を入れれば生き返る」
「見た目だって瓜二つだ」
「か、仮にそれで生き返ったとしても凛達がそれを望むわけが……」
「そんな事はわかってんだよ!!!!!」
フウは僕の声を遮るように声を荒らげた。
「あの二人が望んでない?!あぁ、そうだ!こんなもん俺の自己満足なんだよ!!」
「600年だ!600年も生きた!!」
「その長い中の5人で過ごしたたった数年が!!俺の中人生で1番楽しかった……!」
「お前だってそうだろ?!だからあの子を助けて自分の元に置いてるんじゃねぇのか!!」
「違う!僕は……」
「いいや、違わない。お前はあの子に凛ちゃんを重ねてる!」
「お前だって凛ちゃん達が生きてる世界を望んでるはずだ。だからお前も魂を分離させる方法も見つけた今もまだ自分の中に凛ちゃんの魂を入れたままだ!!」
「俺は俺の夢の為に全てを捨てたとしても翔達を生き返らせる」
「そのためにはお前の力も必要だ。けど、お前の決断を待ってやるよ」
「今日の夕刻まで待ってやる。それまでに答えを出せ」
そう言って、僕の前から消え去ろうとする。
「待て!このまま行かせるはずが……」
僕は炎を発現させて、その色を徐々に金色へと変換しようと──
『使うのかい?その炎を』
耳元で蛇が囁く。
『君の罪を象徴するその罪深き金色の炎を』
『この世界がここまで混沌としてもなお見殺しを続けた君が、今更人間の子供2人を救うために次は無二の友をその炎で殺すのかい?』
いるはずのない言葉が頭になり響く。
その言葉はまるで鎖のように僕の身体を縛り付けていく。
そしてそのまま炎は消えていった。
その様子を見てフウは吐き捨てるようにため息を混じった声で言った。
「まだそれなのか。お前は」
「過去を乗り越えれていないお前に、今の俺を否定する権利なんてねぇよ」
「妖魔戦争跡地。そこで待つ」
そう言ってフウは夜と共に去っていった。
僕は何も出来ずにただその場に立ち尽くしていた。
─────────────────────
「なんだこれは……」
フウマは愕然としていた。集落に戻り迎撃体制を取るために敵の前に出たが、奴らは人ではなかった。
全てが人骨。そして全てがそこらの上級に匹敵する程の妖力を持っていた。
その中に1人だけ人間が邪悪な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「驚いたかよ魔王サマ?」
筋肉隆々な身体に無造作に伸びた髭と髪。
その中で一際大きな妖力を持った人間がその場で笑う。
「相変わらず趣味の悪い妖術でござるな蓮斗殿」
「この骨達は新しい仲間か?」
フウマはそう言って龍と虎を呼び出してその場で威嚇するかのように佇んだ。
「そう怖い顔すんなよ。今日は宣戦布告をしに来ただけだ」
「この骨どもはあやかしの奴らと取引したものさ。使い勝手がいいし俺の妖術ともピッタリだ」
そう言って、近くの骸骨をコンコンと叩く。
「あやかしを嫌いっていたお主が、あやかしと取引とは…どんな心境の変化でござるか?」
「ただの利害の一致さ。俺らもアイツらもお前らが邪魔なんだよ」
「今日の夕刻、俺らはお前らに全面戦争を仕掛ける。今度こそお前らみてぇなあやかしと仲良くしてぇっていう気持ちわりぃやつ全員ぶっ殺して人間だけの世界を作ってやるよ」
そう言って邪悪に微笑んだ。
フウマはチラッと周りを見る。よく見れば人間もちらほらと伺えた。
(この人骨が何なのかも分からぬが、この強さがこの数……)
(奴の妖術の範疇に全て入っているなら、拙者1人では少し心許ないか……)
「そう怖い顔すんなよ魔王サマ」
「拙者を魔王と呼ぶな井の中の蛙が」
「井の中の蛙かどうかはやり合って見ればわかるぜ?」
互いに緊張が走っていく。そして妖術を高めていくと、辺りが突然暗くなる。
そして、コン達の方向に巨大な妖力を感じとった。
「これはフウ殿…いや、この妖力は……!」
「父上……!」
「おーおー、バケモンだなあの天狗」
蓮斗はおどけたように笑った。
そんな蓮斗をフウマは睨みつけた。
「…貴殿はあれにも勝てると思うのか?」
フウマがそう聞くと、蓮斗は少し考えるような素振りを見せて邪悪に微笑んだ。
「今はまだ無理だな。けど、お前とあの九尾…そのどちらも俺が手に入れることが出来りゃ勝てる」
「俺の目的はそれだよ。俺の《支配》でお前らの力を手に入れさえすれば最強は俺だ!」
そう言って高らかに笑う。
蓮斗の
もし、本当にフウマとコンの支配出来れば、その力がそのまま蓮斗の力に変換される。
フウマは怒りを露わにするように妖力では無く、魔力を高ぶらせていく。
「三流が……貴様などに支配される程、脆弱では無いぞ」
蓮斗は「おー怖」と、おどけたような素振りを見せた。
「ま、今は一旦引くさ。お前らを全滅させるまでは一応約束は守っとかねぇとだしな」
「今あいつらに攻め込まれても困る」
「あばよ。最高の殺し合いをしようぜ?」
─────────────────────
蓮斗達が1度撤退し、フウマは僕の神社に戻ってきた。
「フウ殿のあの力の中には間違いなく父上の力があった」
「フウ殿は…拙者の父上を…喰ったということか…!」
フウマが手のひらから血が出る程に強く握りしめる。
僕は首を振った。
「人は喰っている。そして、あの力は間違いなく翔の魂を取り込んでいる」
「だが、翔が死んだ直後のフウにはそれを感じられなかった」
「だから、少なくとも翔を直接喰らった訳ではないはずだ」
「だが、別の人間を複数人喰っている。その相手は恐らく翔を殺した奴らだと思っている…」
正直、妖力量だけで言えば凛を取り込んだ僕と変わらない程に増えていた。
フウマとの接敵もほとんど体術ではなく、妖術を使ったもので防いでいた。
僕と変わらぬ妖力と妖術、そして僕を超える体術。
少なくとも神妖にならねば戦いにすらならない。だが、まだ僕は金色の炎を使う事を恐れている。
「夕刻まで時間が無い……」
「僕は…僕は…」
僕がそう嘆くと、フウマが僕の首元を掴んで、僕を睨みながら声を張り上げる。
「いい加減にするでござるよコン殿!!!!」
「フウ殿と戦えるのは貴殿しかおらぬ!!」
「その貴殿がこれでは拙者らに勝ち目などゼロに等しい!!」
「拙者は蓮斗との戦闘で助けになど行けぬ!コン殿自身の手で!この戦いを終わらせねばならない!」
「凛殿も父上も死んだのだ!それに囚われているという意味ではコン殿もフウ殿も同じ!!貴殿が囚われたまま下を向き続けているからこそ、フウ殿が道を違えているのだ!!」
「このままでは貴殿は友すらも失う!!戦うのではない!救うでござる!!フウ殿も!そして自分自身も!!その為にもう一度剣を握り前を見よ!!!」
「貴殿は、史上最強の妖なのだぞ!!!!!」
フウマはそう言って、悔しそうな顔して息を荒らげた。
フウマの言う通りだ。あの時、共にいれば翔は死ななかったかもしれない。
僕があの場で閉じこもっていなければ、フウもまたこうはならなかったかもしれない。
凛が死んだ事を言い訳に、全てを見ないフリしていたツケが回ってきたのだ。
だからこそ、もう目を逸らしてはいけない。
僕はつかみかかってきている手に自分の手を添え、降ろしてもらい謝る。
「すまない、フウマ」
「フウの相手は僕がしよう。人間側の相手はフウマに任せる」
「そして…」
「彼らの救出はこいつに頼む」
僕がそう言うと、音もなくそいつは現れた。
緑の髪に黄色の目、鋭い眼光は蛇を彷彿とさせる。忍者のような服を着たその少年は手と膝を着いて僕の前に跪く。
「話は聞いていた」
「開戦か、主君」
「あぁ、頼む。オロチ」
「御意」
オロチと呼ばれた少年の種族は「八岐大蛇」。
ハクの転生体だ。
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