第28話 終幕 過去の回帰 そして現在へ

「なんで…どうしてこいつが…」


「おい、総一郎!起きてくれよ!なぁ!!どうして…一体誰が!!!!」


返事はない。だが、微かにまだ息があるのか鼓動と妖力のゆらめきがある。

フウは土のあやかしを睨みつけて、声を張り上げる。


「なんだよこれ!一体なんでこんなことに!」


土のあやかしは申し訳なさそうに話し始める。


「私はダイダラボッチ、彼の友人だ」

「彼はとある凶悪な2体のあやかしと戦っていたんだ。それで……」


「負けたってのか?!そんなわけねぇ…総一郎が負けるわけが…!」


フウが吠えるのをダイダラボッチは静止させて、話を続ける。


「彼は凄かった。2体のあやかしを相手にたった1人で圧倒していたんだ」

「だが、奴らは人間を使い始めた……!」

「人間を喰らい傷を癒し、人間を盾にしたりなど最悪の戦法を使い始めた」

「だが、それでも激闘の末奴らを瀕死まで追い込めたんだが…」

「奴らは最後の力で妖術を使ってその場の人間まで巻き込んだ攻撃を……」

「それを彼はたった1人で全てを庇い幸い‪誰一人として傷つかなかった。だが、彼は……」


「そんな……」


「誰だよ……そのあやかしは…俺が、俺がぶっ殺して──」


「いらん事すんなよクソガキども…お前らじゃ勝てねぇよ……」


今にも消えそうな声で総一郎が話し出す。


「総一郎!!!」


フウは声を聞いてすぐに総一郎の元に駆け寄ってそばにしゃがむ。

僕も隣に座ったが、今起きていることが信じられず声も出せなかった。

総一郎は僕らを見て少し笑う。


「今残った妖力で心臓と脳に電気送ってギリ生きてるって感じだ……あんま、長くはねぇ…だから…今から言う事をよく聞け……」


「そんなこと言うな!!なぁコン!お前妖力の扱い上手いじゃねぇか!この傷を治すまではいかなくても死なないようにぐらいなら……」


僕はフウの問いに首を振る。


「む、無理だ。延命に使える量を調整しながら他者の体内で妖術を行使し続けるなんて神業、僕には……」

「しかもこれは《雷》の妖術だからこそできる事だ…。僕の妖術じゃ出来ない…」


そもそも、それをこんな瀕死になった状態でできるなんて、神業なんて言葉じゃ収まらないほどの芸当だ。


「くっそ……」


そんな僕らを見て、何故か嬉しそうに総一郎は笑う。


「お前ら…強くなったなぁ…前見た時と全然違うじゃねぇか…」

「俺がいなくても…何とかなりそうだな…」


「バカ言うなよ!!お前が死んだら…お前が死んだら!!俺ら誰を目標にしたらいいんだよ……!」


フウは泣きじゃくりながら、総一郎の残った手を取りながら叫ぶ。

僕はその光景を横で呆然と見ていた。何故か涙は出ない。まるで夢を見ているような気がしていた。

そんな僕たちを総一郎は優しげな目で真っ直ぐと見つめる。


「いいか…今からお前らに…師匠として最後の言葉を残してやる…」


「うるさい!!聞きたくねぇ!最後なんて言うな!!」


「いいから聞け…!!」


総一郎は力を振り絞るように声を荒らげ、フウを叱る。

フウは涙を拭いながらも総一郎の最後の言葉を聞き逃さない為にも静かに総一郎を見る。

僕も止まったような頭を動かすように、意識をしっかりもって聞く姿勢になる。


「いいか…飯はちゃんと食え…んで、ダチもいっぱい作れ…好きな女も作れ…」

「俺の仇とか、絶対取ろうとすんな…これは俺の人生だ…お前らにはお前らの人生を楽しむ権利がある…」

「お前らのその力は…復讐なんてしょうもねぇものの為に使うな……守りてぇもんの為に使え…多分、そーやって生きてたらアイツらとぶつかる…」

「その時についでに俺の仇を取ればいい…」


そこまで言って、総一郎は口から血をはき出す。


「総一郎!!!」


フウが心配そうに名前を呼ぶ。僕はまだ声も涙も出てこない。


「はぁ…はぁ…大丈夫だ。まだ、言いてぇ事が沢山あるんだからな…」


そう言ってまずはフウの方を見た。


「フウ…お前は誰であろうと態度を変えずに話せる良い奴だ…けど、コンは優しいやつだが、話すのは上手くねぇ…だから、お前が助けてやってくれ…お前ならきっと人間とだって上手くやっていける……」


「…うん、わかった…!」


フウは泣きながら返事をする。

総一郎は次に僕を真っ直ぐ見つめる。


「コン…お前は…間違いなく最強になれる。きっと俺よりもな…けどな、あやかしだろうと孤独には勝てねぇ…だから、誰よりも優しく、そして強くなれ…守るものを作れ…守るものがある奴が一番強ぇ…」


そう言って僕の頭を撫でる。僕はまだ声を出せない。僕には無理だ、僕は強くなんてない。言いたいことは沢山出てくるのに、何も言えない。なにか言葉を出そうと必死になった。


「なんで……なんで…」

「……死なないで…師匠…」


やっと声を出せたと思ったら涙が止まらない。言いたい事がまるで纏まってないのに言葉が溢れて止まらない。


「僕は…貴方のおかげで…それなのに…いなくなるなんて…嫌だ…嫌だ!!もっと僕は師匠と……!」


そんな僕を慰めるように総一郎は片手で抱き寄せて、フウの事も抱きしめる。


「やっと師匠って呼んでくれたなぁ…コン…」

「大丈夫だ。俺はずっとお前らを見てるからよ…」

「そろそろ妖力も切れる…限界だな…」


僕らを抱き寄せる腕により一層力が入る。


「誰よりも優しく…誰よりも強く…そして誰よりも自由に生きろ…」

「あぁ…くっそ…死にたくねぇなぁ…」


鼓動が徐々に小さくなる。体の温度も徐々に冷たくなっていく。それでも僕らを抱きしめる力だけは強まる。


「コン、フウ…」

「愛してるぜ…」


その言葉と共に腕の力が一気に抜け、鼓動の音が消える。

僕らは顔をあげて総一郎の方を見た。


その顔はまるで寝ているかのように安らかで、幸せそうに微笑んでいた。


「師匠……!師匠!師匠!!!!う、あっ…っあああ!!!!」


「総一郎……!」


僕達はこの日初めて大声で泣いた。

声が枯れるまで叫んだ。


─────────────────────


ダイダラボッチの手伝いもありながら、総一郎の亡骸を僕らが出会った木の下に埋めた。

僕とフウはその前に座り込み泣き腫らした目と叫び疲れて少し枯れた声で話す。


「コン、これからどうする?」


「…まずは強くなろう。そして最上位あやかしになるんだ」

「そして僕はどこかの人間の集落を守ってみようと思う」


「なんで?」


「師匠が言ったように守るものを作る」

「僕にはまだその意味がわからない。だけど、あいつがそういったならそうするべきだ。」

「僕に最強になれと、守るものを作れと言ったんだ。僕は師匠の最後の言葉を守って生きていく」

「お前はどうするんだ?」


フウは少し考える素振りを見せた。


「そうだなぁ…とりあえず最上位のあやかしになるのは絶対として……」

「俺は旅をしようかなって。そして、色んなやつを見て、色んなやつと出会って、今よりもずっと自由に生きて、色んなやつと友達になる」

「そんで…総一郎を殺したあやかしを探す」


フウは意を決したような声で言った。


「お前…それは…」


「バーカ、復讐の為じゃねぇよ。言ってたろ?いつか必ずぶつかるって。相手がどんな奴なのかぐらいは知っとかないと勝てねぇかもしれねし、もしかしたら死んでるかもしれない」

「いつか来る仇討ちの為にさ?」


僕は疑念の目を向けると、フウは笑った。


「そんな顔すんなって、仇討ちするなら一緒にだ。どの道まだ俺達には勝てねぇだろうしな」

「でも…一つ気になったんだけどさ。どうやって最上位のあやかしになるんだ??」


…そういえばどうなったらなれるのかは知らなかった。

僕達が考えていると、後ろで成り行きを見守っていたダイダラボッチが答える。


「最上位のあやかしは名前を持つ。君たちは個々の名前を持ってるじゃないか。それも、あの強者から名付けられた名だ」

「名は言霊となって、その者魂に刻まれていく。最上位になり得る程の妖力を持ったものが名付けたり、自分自身で名乗れば最上位になる為の道が開ける」

「あとは名に恥じぬ強さを手に入れるための、鍛錬を怠らなければ大丈夫さ」


「まぁ君たちなら大丈夫だろうが…」そう言って、僕らを見る。

だが、僕達はそんな事よりも大事な事に気づいた。


「ん?てこと、俺たちの名前って後から変えたりとかは……」


「まぁ、普通は無理だな。名付けた者よりも遥かに強くなれば上書きできるかもしれないが…」


「じゃあ、俺たちあいつが付けた安易な名前のままって事かよ!!!!」

「コンとフウって……最上位のあやかしの名前にしては格好がつかなくないか??」


フウは少し不満げな声で悶える。

僕はなんだか面白く感じてしまって笑ってしまった。


「いいじゃないか。師匠が僕たちに残してくれた名前だ」

「僕たちに残してくれた大事な物だと僕は思う」


フウはそれを聞いてまだ若干の不満がありそうだが、「それもそうか」と納得したようだった。


「じゃあ最上位のあやかしになれたし、こっからは別行動って感じか?」


「そうなるな」


僕がそう言うと、フウは立ち上がって僕の方に拳を突き出す。


「じゃあ一旦お別れだな!お互い強くなってやろうぜ。俺がいなくても泣くなよ?」


「誰が泣くか!お前も旅をするのはいいが、鍛錬を怠っていたら、すぐに差が出るからな?なんぜ僕は師匠に最強になれると言われたんだからな!!」


僕はフウが突き出した拳に拳を合わせる。


「うるせぇ!お前との勝負はいっつも五分だったんぞ!お前がなれるなら俺もなれるわ!!」


そう言って2人で笑いあった。


「たまには顔出しに行くからよ。じゃあな、


「お前が来るとうるさいからたまにでいいぞ。元気でな


そうして、後に最強の一角と呼ばれる2人のあやかしはそれぞれの道を歩んだ。


─────────────────────


〜現在〜


「とまぁ、こんな感じで僕達は…って、なんでそんなに泣いているんだ?」


僕が話終えると、2人は顔がぐしゃぐしゃになるほどに泣いていた。


「いや、だってお前よぉ…そんな話が出てくるなんて思ってなくて……」


「とてもいい話だけど、悲しい話でもありすぎて……涙が……」


そう言って、鼻水も出てきたのか鼻をすする。

そんな中、シュビイは少し疑問があったのか、鼻声のまま僕に聞いてくる。


「少し質問なんだけど、その総一郎さんと戦ったあやかしってもしかして……」


僕は首を横に振った。


「おそらく違うと思っている。クラマに関しては僕は出会ったことがないので分からないが、ハクは絶対にありえない」


「なぜ言い切れるの?」


「単純に弱すぎるからだ。あんな奴に師匠が負けるはずがない」


そう言うと、シュビィが何がおかしいのか笑いだした。


「…何がおかしい」


「いやぁ、その人の事とても好きなんだなぁって思ってね?」


僕はなんだが恥ずかしくなって、顔を背けてしまった。


「か、彼は僕ら2人の恩人でもある人だ。嫌いなわけが無いだろう」


「ふーん?」といって、シュビィは翔の方を見る。


「でも、翔ちゃん以外にも妖術を使える人を前から見ていたからこそ、あまり驚かなかったのね……」


「まぁあいつの方が遥かに強いがな」

「だが、自然系であの強さだ。同じだけ鍛錬を積んだ言霊系の翔の強さはどこまでのものになるのか想像がつかない」

「だからこそ、僕は強くなって欲しいと思っている」

「今の僕でも師匠に勝てる気はしない。だが、そんな前例があるからこそ翔も確実に強くなれる」


僕がそう言うと翔は目を輝かせた。


「てことはコンより強くなれるかもしれないって事だろ…?うおおお!!やる気しか出てこねぇ!!!」


「あくまで可能性だ。お前になんて僕は絶対に負けない」


「可能性があるだけでもやる気出んだよ!!」


翔はそう言って立ち上がる。


「休憩終わり!!さっさと次の修行やろうぜ!!!」


そう言って早く来いと僕を急かす。


「やれやれ、仕方ないな…」


僕はそう言って立ち上がり翔の後を歩く。

僕は歩きながら空を見上げて1人呟いた。


「見ているだろうか…」

「あなたが望んだ世界が、きっと、そう遠くないうちに実現しますよ」


そして、翔との修行が始まって1ヶ月が経過した。

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