第27話 天狗と九尾の過去の回帰③
「前から聞きたかったんだけど総一郎ってさ、なんで俺らを鍛えてくれてるんだ?」
天狗はあいつが作ったシチューを食べながら聞いた。
それに関しては僕も気になっていた。鍛えてもらえるようになってから約1年、いまだにこいつに勝てるとは思えないが、それなりに強くなっていた。
「理由かぁ…あんまこれ!ってのはないんだけどなぁ…」
あいつは食べる手を止めて、考えるような素振りを見せる。
「昔は俺も弱かったんだよ。それこそ妖術なんて使えないし、低級のあやかしは素手でなんとか勝てるけど、それ以上になると全然無理でさ?」
低級でも人間が素手で勝てる時点で既におかしいが、黙って聞いておくことにした。
「それが悔しくてしょうがなくて、くっそ修行して今の強さがあるんだけども、強くなると見えるものの価値観が変わるんだよ」
「弱い時はあやかしなんて全員悪いやつで、全員ぶっ殺してやるとか思ってたんだよ。だけど、強くなって余裕が出てくると、あやかしをひとつの括りで見るんじゃなくて、個々で見れるようになったわけよ。じゃあ意外と話のわかるやつとか、良い奴とかがいてさ〜」
「弱いままだときっと狭い世界の中でしか息が出来ない。けど、強くなればもっと自由に息ができるし、もっと他人に優しくなれる気がすんだ」
「だから、おまえらにもそうなって欲しいし、人間をもっとひとつの括りじゃなくて、個々の存在としてみてやって欲しいんだよ」
「んで、俺らみたいな奴らもいるんだぞ!って事がみんなに知られて認めて貰えれば、案外あやかしと俺たちって友達になれるとおもうんだよな〜」
「だから、俺はお前らと──」
「冗談じゃない!!!!」
僕は思わず大声を出してしまった。あいつと天狗は驚いたのか僕の顔を見る。
「人間と、あやかしが友達に…?そんなことできるわけが無い!僕達はずっと憎しみあって、いがみ合って生きていくしかないんだ!」
「僕が強くなるのは僕を虐げたヤツらへの復讐のためだ!!悪いが、僕はそんな風には…」
「んな事言ってるけどおまえが今一緒に座って飯食ってる相手は、お前が憎む人間とあやかしだぜ?」
あいつはこちらの話を遮るかのように、こちらを真っ直ぐみつめながら言った。
僕は返す言葉を無くしてしまって、その場から逃げるように走り出す。
「あ、おい待てよ!!」
天狗が僕の後を追うように走り出す。
「やっぱまだまだガキだなぁ…」
あいつは後ろでぽつりと独り言をこぼしていた。
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「お前どこまで走って行くんだよ……」
天狗が膝に手を置き息を切らしながら僕の横に立つ。
「うるさい、僕は着いてきて欲しいなんて言ってない!」
「はぁ…お前はほんとに……」
天狗は呆れた声を出しながら横に座った。そしてうずくまって顔を隠す僕を横目で見ながら話し出す。
「俺もさ〜最初は人間全員殺してやるって思ってたんだよ」
「え…?」
「俺の母さんと父さんはさ、人間の事が大好きで友達みたいに接してたんだよ。だけど、ある日その人間たちに殺された」
「俺は殺される寸前に総一郎に助けられたけど、父さんたちは間に合わなかった」
「めちゃくちゃ憎かった。けど、あの時助けられるだけの俺自身に1番腹が立ったんだ」
「だから、あいつの修行の話に乗った」
僕は驚いて言葉も出なかった。自分とは違うが、この天狗にもまた辛い過去があったのことに。
「けど、強くなればなるほどにそれが楽しくてしょうがなくなってきた。いつしか復讐の事なんて忘れてさ」
「正直、今ぐらいの強さがあれば人間なんてすぐに倒せるだろ?けど、なんかそんな気にはならないんじゃん。多分それって総一郎っていう面白くていい人間を知っちゃったからだと思うんだよ」
「だから、お前もそんなに深く考えなくても──」
「僕は、僕以外のやつら全員に復讐するために強くなりたかったんだよ!!!それなのに、その目標を自分で捨ててしまったら、一体何を目標に強くなればいいんだ……!」
僕は天狗の話を遮るように声を荒らげる。頭ではこいつの言う事が正しいとわかっている。だけど、それを認めてしまっては自分が生きる意味すらも失ってしまう気がした。
「僕は生まれた時からずっと独りだ。それが九尾というあやかしの特性なんだ。僕は、なりたくてあやかしになったわけじゃない!!なのに、人間からは虐げられてあやかしには嘲笑われて…そんなヤツらを僕は許せない…!」
僕は感情を押し殺すように、握りこぶしを握って気持ちを零した。
そんな僕に天狗は軽い口調で、頭の後ろに手を組みながら寝そべる。
「なら、その人間とあやかしの中に俺と総一郎は入んねぇよ。俺もあいつもお前と仲良くなりたいだから」
「ぶっちゃけさ、俺らがあいつより強くなったとして、あいつのこと殺せる?」
「それは……!」
僕は天狗の質問に言葉を詰まらせた。
「俺は無理。だって、今の俺があるのはあいつのおかげだし」
「ま、今のところ勝てる気が全くしないってのもあるけどな〜」
「だいたい、殺したら修行終わりとか最初の俺たちにやる気出させる為の嘘みたいなもんだろ絶対」
天狗軽く笑いながら答える。
こいつの言い分が全て正しい。僕だって、同じ気持ちを持っている。だけど、これを口にしてしまったら僕の中に何も残らないような気がしていた。
「僕には…何も無い。復讐を僕から取ってしまったら、僕には何も残らないんだ。僕は、空っぽになってしまうことが…怖いんだ…」
「そんなもん今から探せよ。俺たちはあやかしだぜ?死ぬまであとどんだけ時間あると思ってんだよ」
「強くなる理由なんて、俺みたいに強くなる事が楽しいってだけでいいじゃん」
「何も残らないとか悲しいこと言うなって。俺と総一郎がいるんだからさ」
そう言って僕を見てにこやかに笑う。 そして僕の前に立ち手を出す。
「俺と友達になろうぜ?九尾…いや、コン!!」
僕は苦笑しながらその手を取った。
僕はもう独りじゃない。そう思うだけで胸の中の穴がじんわりと暖かくなる感覚があった。
「コンと呼ぶな。僕は最上位になったらもっとかっこいい名前をつけるつもりだからな、フウ」
「は?!俺もつけるし!けど、とりあえずはこれでいいじゃん!信頼の証ってやつよ!!」
「僕は別に信頼はしてないぞ。ただ、少し良い奴だと思っただけだ」
「おまえ…まだそんなこと言う?さすがの俺も泣いちゃいそうなんだけど…??」
そんな事を言いながら、元いた道を戻っていく。
─────────────────────
一部始終を見ていた総一郎は嬉しそうな顔をしてその光景を眺める。
「いい笑顔じゃねぇか。あんな風に笑えるようになりやがって…」
総一郎は初めて2人を見た時の事を思い出す。家族を人間に殺され、感情を失ったかのように乾いた笑いしか浮かべる事かできなくなってしまった天狗の子供、目の光を失い、自分以外全てを恨むような目をしていた九尾の子供、その2人をまるで自分の子供を見るかのような優しい目線を向ける。
「さて、そろそろ俺も準備を始めるかね」
「アイツらの未来の為に、できるだけの事をやってやるのが師匠の務めってもんよ」
そう言って、総一郎は見ていたことがバレないように先回りして元いた場所へ戻った。
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「くっそ近づけねぇ…!」
森を駆け抜けるフウを追尾するように、無数の火の槍が飛ぶ。
「警戒はそれだけか??」
「《火よ》」
「《鬼火 弍の業 紫炎》」
僕は身体に紫の炎を纏わせ、フウへと突っ込む。
「おいおい、俺の得意範囲で勝負かけてくるとは舐められたもんだな!!」
フウは飛んでくる槍を避けながら、風の刀を作り出し、身体にも風を纏わせ始める。
「《天狗流剣術 飛翔一閃》」
翼を生やし、一気に加速し僕へと接近する。
だが、僕と交わる寸前でなにかにぶつかり失速する。
「いって!なんだ?!透明の壁みたいなんが…」
その一瞬の隙をついて、ぼくは纏わせていた羽衣を刀へと形を変えてフウへと切りかかる。フウはさすがの反射速度で上半身を後ろへと思い切り逸らして斬撃を避けるが、
「太刀筋が見え見えだぜコン!」
「わざとに決まってるだろ??」
僕は紫の炎を持った刀に付与していた妖術を展開する。
「《爆ぜろ》」
その言葉と同時にその刀を手から外し、大きな爆発を起こす。僕は妖力で自分の身を守るように纏わせて防ぐが、フウにそんなことは出来ないので、モロにくらいそうになる。
「ちっ、《風よ》!!《天空暴風波》!!」
フウは小規模の竜巻を発生させて、爆風を飲み込んで空へと飛ばす。
僕はその隙に操作していた火の槍束ねて自分たちの背丈ほどはある槍へと形を変え、フウへととばす。
「貫け!!!!」
だが、槍がフウへ届くよりも先にフウは居合の構えを取っていた。
「しまっ…!」
「《天狗流抜刀術 鴉の鉤爪》」
フウは目では負えないスピードで、僕へと突っ込んできて刀を抜いた。
だが、首を刈り取る寸前で刀を止める。
「……くっそ、また引き分けかよ〜」
「お前どうやってあんなに同時に妖術と妖力使い分けれるんだよバケモンか」
「お前に言われたくない。あの体勢からどうやったら一瞬で居合の構え取れるんだ?」
フウの横顔には火の槍が貫く寸前で止まっている。
僕らはほぼ同時にそれぞれの妖術を解いて、地上へと戻っていく。
「そもそもお前どうやって飛んでんだよ。俺みたいに羽があるわけじゃないのに」
「これは飛んでるんじゃない。妖力を蹴って浮いてるんだ」
「はぁ…?意味わかんね〜」
「火の槍操作しながら、妖力で壁作って、空浮いて、自分にも妖術纏わせながら、妖術自体にまた違う妖術付与してって……同時に何個やってんだよお前……」
フウが理解ができないみたいな顔をしてこちらを見る。だが、僕からすればこいつも大概だ。
「お前だって、百は超える火の槍を避けながら、僕の接近に気づいて太刀筋を読んでそれも避けて、そこからの追加攻撃も謎の察知で後ろに飛びながら、妖術の発動とほぼ同時に、居合の構えに体勢を整えるなんて、めちゃくちゃとしか言えないじゃないか。どんな体感してるんだお前は」
「大体あの戦法は今日初めて見せたやつだ。なんでわかった?」
「ん〜?勘??あの色の炎はやばそうな気がした!!」
僕はため息をこぼした。
勘なんかで避けられてたなんて、死ぬほど腹立つ。
そんなことを考えていると、フウが嬉しそうな顔をしてこちらを見る。
「なぁなぁ、今なら総一郎にも俺ら2人なら勝てんじゃね??」
「確かに…近接戦闘をフウに任せて、僕は後ろから妖術で戦いつつ、たまに接近戦を混ぜつつ戦っていく……」
「めちゃくちゃ良くね!ワンチャンあるって!」
「早く帰ってこねぇかなぁ……一体どこいったんだよ〜」
フウは少し寂しげな声を出した。
総一郎がいなくなって、既に2年が経過していた。その間僕達は2人で修行を続けながら帰りを待ってきた。
『お前ら割と強くなったし、俺は俺のやるべき事やってくるわ〜大人しく待ってろよクソガキども』
そう言ってどこかへと行ってしまったが、正直それほど僕達2人は気にもしてなかったし、心配も特にしてなかった。
あいつの事だ、寄り道でもしてるのかそれともまた新しい子供のあやかしを旅先で拾ったのかもしれない。
あんなに強い奴だ。まさか死んでいたりなどと微塵も思ってなかった。
「まぁ、あいつの事だ、道にでも迷ってるのかもしれないが、どうせ帰ってくるさ」
「あいつが帰ってきたら、今までやられてたのをやり返すためにももっと強くなってやろう」
「はは、さんせ〜い」
そんなに会話していると、あたりに地響きが響き渡る。
「なんだ?!地震か?」
「いや、妖力の反応がある。下からなにか来るぞ!!」
僕ら2人は臨戦態勢を取り、恐らく出てくるであろう位置の地面に視線を向ける。
そこの地面が盛り上がり、中から土の塊のようなあやかしが出てくる。
そのあやかしは僕らを見つけると、こちらを真っ直ぐと見つめる。
「君たちがコンとフウかい?」
「そ、そうだけどお前一体誰──」
フウはそのあやかしが手に抱えているものを見て絶句した。僕にはよく見えずにフウの横へと駆け寄っていく。
「おい、一体何を見て……」
その土のあやかしが抱えていたのは、下半身と片腕を失った人であった。
そのあやかしは申し訳なさそうに、そしてとても悔しそうな顔をした。
「すまない、護りきれなかった……」
「嘘だろ…おいなんだよこれ…なんで、なんで!!」
フウが声を荒らげて駆け寄っていく。
僕は信じたくなかった。今見えてる光景が受け入れられない。見間違いだと思いたかった。
「どうして…総一郎が…」
それは変わり果てた総一郎の姿だった。
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