第22話 交わる手、蠢く舌

〜同時刻 コンside〜


「しっかし、凛ちゃんが半妖ねぇ……」

「まぁあの妖力量なら仕方ない部分もあるが…」


フウが頭を掻きながら、少し困ったような口調で言った。


「見ていてとてもいい気分ではなかったな。」


僕は少し煩わしそうに言った。フウはそれを隣見ながら神社までの道のりを歩いていたが、コチラを横目で見ながら口を開く。


「けど、良かったのか?凛ちゃんたちおいてきてさ。」


フウはそう言いながら頭の上で手を組む。


「あの場で僕たちが何をしてもきっと結果は変わらないさ。」

「庇おうが、そのまま無視しようが、きっと彼らが僕らを受け入れる事は無い。」


「でも、凛ちゃんの親父さん達は俺達のこと信じてくれてたじゃん。」


「まぁ、理解してくれる物を拒むことは無いが、一々理解しようとしないものに歩み寄ってやる義理はこちらにはない。」


「相変わらず冷たいヤツだねぇ……」


フウはため息をつきながら、やれやれと言った感じで頭を振る。

あの場を収める為にはきっと僕らがいてはいけなかったと、僕は思ったからあの場から去った。

力無き者の集団に、力がある少数の者が受け入れられることが無いのは、随分前から知っている。


「……?!」


そんな事を考えていると、突如としてかなりの数の気配を感じ取った。


「おいこれ…」


「あぁ、村からだ。しかも、この数はマズイ。」


僕らは踵を返し村へと戻ろうとしたが、自分たち自身を囲まれていることに気づく。

多種多様な妖力を感じ取ったので、様々な種族のあやかしに囲まれていることがわかる。

だが、その一つ一つの妖力に同じ妖力が覆われている。


「雪女、鬼、鵺に後は…猫又か?」

「こいつらに因縁付けられる覚えがない以前に、こいつらが徒党組んで俺らに挑んでくる事自体異常だな……」


フウは臨戦態勢を取る。

ここまでの上級のあやかしたちに恨みを買った覚えは僕にも無いが、この覆われている妖力には覚えがある。


「蛇め…なめた真似をしてくれる。」


「おいおい、これやっぱあいつの仕業なのか?確かに妖力はあいつのだけどよ……」

「そもそも、俺たち一切気付かれずにこの距離まで近づけるのおかしくねぇか?」


フウの言う通りこいつらは全て、ダイダラボッチと同じ上級のあやかし、この距離まで接近するのに僕らが気配を察知できないわけが無い。

まるで、気配を消していると言っても……


「まさか、人狼の妖術を…?」


僕がそう呟くと、フウは驚いたようにこちらを見る。


「おいおい、なんでもありか?あいつの妖術はよ。」


「だが、もし可能だとしたら前のダイダラボッチの一件にも説明がつく。」

「だが、今は考えても仕方がない。とりあえずこの場を収めて、早急に村へと向かうぞ。」


そう言って僕は手に炎を発生させて、臨戦態勢をとった。


─────────────────────


「やはり、2つの妖術を持っていたか……」


僕は、既に息を引き取った人狼を見ながら吐き捨てるように言った。


「妖術が2つってことは悪神ということですか?」


「……お前はなぜ僕の腕をずっと抱いているんだ?」


凛は僕の腕を抱きながら、横から話しかけてくる。こいつは何故か一向に僕から離れようとしない。動きづらいと言うよりも、少し恥ずかしいので離れて欲しいのだが……


「もう私を置いて村から出ていこうとしないようにしてるんです。」


「そ、そうか…」


少し怒った口調で言い返されたので、これ以上は何も言わないようにした方がいいかもしれない。そう思ったので、早々に話題を変えた。


「さっきの質問だが、これは悪神ではない。どういう訳か2つ妖術を使うがな。」

「まだ憶測でしがないが、これの主犯はとあるあやかしだ。まぁ、その辺は後でゆっくり説明しよう。まずは……」


僕はそう言って後ろを向いた。後ろの方ではほかの村人たちがこちらを怪訝そうな顔で見ている。


「コン〜!とりあえず襲ってきた人狼をひとまとめにしてきたぞ!フウの風の妖術相変わらずすげぇな!」


「いやいや、お前のも大概おかしいぞ?いつの間に影をあんなふうに使えるようになったんだ?」


そう言いながら、翔とフウがまだ息がある人狼達を僕が作った結界内に運び終えて戻ってくる。


「あやかしとあんなにも仲良く……」


「やっぱり翔くんとあの子はもう人じゃないんじゃないのか…?」


「で、でもあのあやかしたちは俺たちを守ってくれたぞ?」


「それが、自作自演かもしれないじゃないか!」


村人は口々に言い合いを始める。

さて、どうしようかと考えていると凛の親たちがこちらへと駆け寄ってくる。


「うちの娘を助けて頂きありがとうございます…本当に…本当に…」


「私たちは他の村の者がなんと言おうとも、あなた達を信じると誓います。」


そう言って頭を下げてくる。


「頭を上げて欲しい。僕らはただ友人を守っただけだ。」


「そうそう、大体のことは俺らじゃなくて翔がやったみたいだしな〜!」


「一応、私もいるんだけど??」


シュビィが翔の影から顔を出して不服そうな声を出す。


「しょ、翔くんの影の中から女の子が…?!」


優夏が驚いて思わず声を出す。


「あ、おいシュビィ!出てくんなって!」


「でも翔ちゃん?私だって頑張ったんだから褒められたいわ?」


「後で、俺が褒めてやっから!」


「うふふ♡楽しみにしてるわね?」


そんな会話をしてると、1人の村人がこちらへと大きな声を出す。


「お、俺は信じないぞ!大体おかしいんだよ!今まで無かった襲撃がこのタイミングで起きて、人間だったはずの奴があやかしと同じような力を使って!」

「そっち側にいる人間は全員人間が怪しいじゃないか!!半妖に半妖の娘の親に、あやかしと同じ力を使う奴そんな奴らが言う言葉を誰が──」


そこまで言った所で、その村人は思い切り殴られた。


「俺の息子とその友人を化け物扱いするな。」


「親父…」


「隼人さん…」


翔の父はこちらへと向かって歩いてきて、僕の前で立ち止まった。


「キツネよ、聞きたいことがある。」


「…なんだ。」


「翔が使っていたあれはお前たちと同じ力なのか?」


「そうだ。」


それを聞いて、後ろの村の人間はざわめいた。翔の父は少しため息をついたが、こちらを真っ直ぐと見つめ直した。


「お前たちはうちの息子をあやかしにしたのか?」


「それは違う。これは翔が元々持っていたものを覚醒させただけだ。」


そこまで聞いて、少し安堵した顔をした翔の父は僕から目を離さないまま質問を続けた。


「俺にも使えるのか…?翔と同じような力が。」


「同じは無理だが、妖術自体は努力次第だが使えるぞ。」


その言葉に村人は驚いたのか、口々に騒ぎ始める。


「そんな…人間も妖術って使えるのか?」


「嫌でもそんなやつ見たことないぞ?」


「いや、今の翔くんは妖術を使う人間って事になるんじゃないのか…?」


そんな村人達を横目に翔の父はこちらへと握手を求めるように手を出した。


「これは交渉だ、俺はお前たちを信用する。」

「その代わり俺やこの村の才能のあるやつに妖術を教えてくれ。もし今後このようなことが合った時に村全体で自分たちを守れるように。」


「それとすまなかった。」

「俺も父親だ。息子の表情を見れば嘘を言っていないことはわかっていたはずなのに……」


僕は翔の父の手を握り少し笑った。


「謝る必要は無い、父親として当然の反応だ。」

「全員が使えるとは限らないが、できる限りやってみよう。」

「それと、僕の名前はコンだ。キツネじゃない。よろしく頼むぞ隼人。」


「あぁ、よろしく頼む。」


そう言って再度固く握手を交わした。


「だが、お前が信用しても他の村人をあんまり信用してないっぽいぞ?」


そもそも村長だと名乗った老人が信用してないとあんまり意味が無いんじゃないのか?そう思っていたら、隼人は笑って答えた。


「自分で言うが、俺はこの村で1番力が強いし、村の奴らからの人望も結構あるんだよ。これ以上文句を言うやつがもしいるなら俺が話つけてやるよ。」


「村長には俺から話しとく。」そう言って、未だにざわついている村人の方へと振り返り、声を張り上げる。


「聞け!ここにいるあやかし達いわく、人間も妖術は使えるかもしれない!」

「もし、それが本当ならあやかしに為す術なく喰われる事が無くなり、身を守る事が出来る!」

「このあやかしを信用して妖術を教わり、襲ってくるあやかしへと対抗策を手にするのか、信用せずに、あやかしからただ怯える日々を過ごし続けるのかは自分で決めろ!!」


その言葉を聞いた村人は困惑していたが、1人の男が前へ出た。


「俺は、隼人さんを信じるぞ。もしあやかしと戦えるなら……」


「俺も!」


「わ、私も!」


その言葉を皮切りにほぼ全ての村人が僕らを信じると言った。


「親父…親父ィ!!!」


翔はそう言いながら、隼人へと抱きつく。


「うお、なんだどうした。」


そう言って抱きついてきた翔を優しく抱きとめながら、頭を撫でる。


「ありがとなぁ…ありがとなぁ…あと殴ってごめんなぁ…」


翔は泣きながら言った。そんな翔を抱きとめながら、隼人は優しく笑う。


「俺の方こそ悪かったな。お前の友達を悪く言って。」

「お前はまだ何も考えれない子供だと思っていた。騙されているのだと。」

「あやかしへと立ち向かうお前を見て、気付かされたよ。お前はあの人達の元で、あんなにも漢の顔ができる奴になっていたんだなぁ……」


そう言いながらしみじみとしたように微笑んだ。


─────────────────────


「なるほど、やはり幼体のままでは負荷に耐えきれないか……」

「あの数を操るとなると、簡単な命令しか下せない割に綻びが出てていては捨て駒程度でしか使えないかな?」


村の外から白衣のような服装と少し気だるげな黄色い目を光らせた女性がこの一部始終を見ていた。まるで、実験経過を見ているかのような口調で話している。


「だが、キツネに送ったあの上級達はよく働いてくれた。まさか、あの二人相手にあそこまで足止めできるとは……」

「やはり、階級の差によって負荷が変わるのか、あまり操作に支障も出なかった。」

「余程の妖術じゃない限り、後付けは可能のようだね。」

「ダイダラボッチは失敗だったが、これは成功かな?」


その女は不敵に笑った。黄色く鋭い眼光を光らせながら。


「ここでの実験はこれでよろしいので?」


全身が骨で形成されたあやかしが、女へと話しかける。


「あぁ、充分なデータは取れたさ。後は私自身がどれほどまでの負荷に耐えれるかぐらいかな?あとは君もね〜。」


「では、帰りましょう。今とはいえ、見つかれば面倒です。」


「はは、そうだねぇ…さすがにまだ見つかりたくはないかな?」


その女は、勾玉のような形をした石を懐にしまった。


「君が仲良しごっこをしている間に、私を君を殺す準備は着々と進めているよキツネくん。」


「次は必ず恐怖させてやる。」


その女は舌をチロチロと動かしながら、骸骨のあやかしと共に闇へと消えていった。

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