第17話 例え過ぎゆく幸せでも


「もうすぐ着くぞ!!」


コン達はトップスピードで帰路に着いていた。


「あそこだ!!!」


フウが凛たちがいるであろう方向をゆびさす。


「微かだが、翔の妖力も感じる!あの感じ結構まずいぞ…急がねぇと……」


「……………」


コンは無言のままさらに速度を加速させる。


「おい!お前どっからそんなスピードを──」


もはや、フウが追いつけないほどに加速し、凛達がいる方へととんでいった。

フウはその後ろ姿を目にしながら、呆れた声を出した。


「たくっ……そんなに大事ならもっと早く気づいとけよ…」


─────────────────────


「コン……」


翔は安堵の声を出して、コンを見つめていた。

少し遅れてフウが到着し、そのまま翔の方へと駆け寄った。


「お前…無茶しやがって!!でもよくやった、もう大丈夫だ。」


フウはそう言って、翔を担ぎそのままその場を後にしようとする。


「おい、待ってくれ!!」


「あ?凛ちゃんはコンが来たからもう大丈夫──」


「違う、見てみたいんだよ!コンの本気を!」


「はぁ??」


翔もわかっていた。コンが今までになく激怒しているのを。だからこそ、見たかったのだ。

自分が超えると、言ったものの強さをその目で。


「クソキツネ野郎……」


ヴォルグは警戒を怠ることなく、臨戦態勢を取った。

だが、コンはと言うと背を向け凛をその手に抱いたまま動こうともせずに、凛に呼びかける。


「凛…凛!大丈夫か?すまなかった、本当に…」


「おきつね…様…。来てくれ…たんです…ね…」

「よかっ…た…」


凛は安心したのかそのまま目を閉じてしまった。

そんな凜を木の下にそっと置こうとした時、後ろからヴォルグが襲いかかる。


「死ね!クソキツネ!!!」


だが、襲いかかった体勢のまま空中で静止した。まるで身体が縫い付けられたかのように、指先1本も動かない。


「なんっだよこれ……動け、動けよ!!!」


コンは凛を下ろして、そのままヴォルグの方に向き直り、その腹に思い切り拳をめり込ませる。


「ぐはっ……」


その瞬間に身体が動くようになったがそのまま吹き飛ばされる。

ヴォルグは即座に体勢を立て直し、身体に影を纏わせた。


「《影よ》!!!」

「《影武装 牙狼》!!!!!!」


ヴォルグは叫び、もう一度コンに向かって突進したが、今度は地面に叩きつけられ身動きが取れなくなる。


「ぐはっ…なんだよこれお前一体何を…」


コンは腕を組み、ヴォルグの頭を踏みつけながら答える。


「ただの、妖力だ。僕の妖力の圧が貴様を押さえつけている。ただそれだけだ。」

「この程度の雑魚が…貴様のような程度の低い小物が…僕のいない間に何をでかい顔している?」

「分を弁えろ、犬風情が。」


「《火よ》」


コンはそう言って周りに燃え盛っていた火を上空に作った錬成陣に吸い込ませていく。


「おい、やめろ…何する気だ。やめろ、俺はまだこんなところで死ぬようなやつじゃ──」


その言葉を遮るかのように、コンはより一層強く頭を踏む。地面は割れ、頭は地面にめり込んでいく。


「誰が喋っていいと言った?」

「貴様が誰に噛み付いたのか、その命を持って思い知れ。」


「《鬼火 陸の業 閻魔》」

「《断罪の焔》」


その言葉と共に、コンは後ろを向き歩き始める。

ヴォルグがいる場所へは上空から紅く燃える大きな手が伸び、ヴォルグを握り潰す。

ヴォルグは声にもならない悲痛な叫びを一瞬だけ上げたが、そのまますぐに灰となり消えた。

その手はそのまま上空の錬成陣に戻っていき、跡形もなく消え去った。


「これが…コンの妖術…」

『まるで魔王ね……』


翔達は息を飲んだ。まるで最初から何も無かったかのように燃え盛っていた炎も、戦いで起きた割れた地面も、倒れた木々も、ヴォルグという存在そのものがコンの妖術によって全て焼き尽くされた。

月が照らすその姿は、この場での本当の王が誰なのかを示しているようだった。


─────────────────────


少し朝日がのぼり始め、朝焼けが神社を照らす。

翔と凛はまだ目覚めない。その間にシュビィはコン達共にいた。


『私がいながらごめんなさい。』


シュビィは頭を下げた。だが、僕とフウは怒ることも無く、逆に頭を下げた。


「吸血鬼、いやシュビィよ。お前は悪くは無い。この山で《主》が生まれた事を察せなかった僕の落ち度だ。こちらこそすまなかった。お前はよくやってくれた。」

「お前がいなければ、きっと翔も凛も喰われてしまっていただろう。」


「そうだぜシュビィちゃん。あそこまで翔を強くしといてくれてありがとな!戦いの跡的にも大量の人狼を1人で倒しながら、《主》と互角に戦ってたんだろ?すごい成長だ。」

「本来なら俺たちどちらかが残るべきだったんだろうが、俺の選択ミスだ。すまねぇな……」


そう言って頭を下げる。


『そうね…でも…』


「わかっている、翔の妖力が明らかに変わっている。微かだがお前と同じものにな。」


僕は眠る翔を見た。今は人間の姿をしているが、中身は別物だ。


「まぁ、あいつが望んで選んだのなら俺たちは止めねぇよ。」

「強くなる為なら、凛ちゃんを守る為なら、人すらも辞めれるほどに好きなんだろ?」


フウはそう言いながら笑っていた。


「おきつね様……?」


その声に僕は反応し、凛の方を見た。僕はすぐに駆け寄りその手を取った。


「凛…!起きたのか。」


「おきつね様…翔くんは…?」


「大丈夫だ、治療も済んで今は寝ている。」


そう言うと、凛は安心したかのように優しく微笑んだ。


「よかった…。というかおきつね様、やっぱり

私の名前を呼んで…」


「………?!」


僕はその言葉に自分でびっくりした。そう言えば僕は無意識に名前に呼んでいた。


「あいつ自分で気づいてなかったのかよ……」


『強くてもそういう所は驚く程にお子ちゃまなのねぇ……』


後ろで2人が呆れた声を出す。

僕は少し顔が熱くなったような気がして、思わずそっぽ向いてしまった。


「いや、まぁ…そうだな…あぁ、呼んでいた。」

「お前が死んでしまうかと思うと、いても立ってもいられなかったからな。」

「そんな事を思えてしまう奴を、いつまでも名前で呼ばない訳にはいかないだろう…?」


自分でも何を言ってるのかわからないものの、自分の顔がとても赤いような気がして口元を隠しながら言った。

その言葉に凛はとても嬉しそうに笑う。


「そっかぁ…。私ちゃんと、おきつね様の輪の中に入れていたんですね…良かったぁ…」

「その、えっと、すごくおこがましい望みかもしれないですけど……その……」

「私も…名前で呼んで…いいですか…?」


そう言って恥ずかしいのか顔を布団で半分隠した。

僕はその言葉にさらに顔が熱くなってしまって、顔を隠す事では飽き足らず背を向けてしまった。


「あ、あぁそうだな…僕だけ呼ぶのもおかしいな話だからな…好きに呼べばいい。」


その言葉に恥ずかしそうにも、でもとても嬉しそうに笑った。


「やったぁ…これからもよろしくお願いしますね?。」


そう言って布団から顔を出し、満面の笑みを浮かべたのち、まだ疲れているのか目を閉じた。

その笑った顔が間に合ってよかったと心底思わせる。


朝日がのぼりあたりはすっかり朝になっていた。


─────────────────────


あれから月日が経ち、凛が神社にやってきて3度目の夏が来ようとしていた。



「《血統 鎌》!!」


「はいダメ〜遅すぎる。」


翔は血で作った鎌でフウに切り掛るが、そこから1歩も動くことなく、フウは全て捌き切る。

そのまま鎌を弾き、足をかけて翔をこかせて、その上に座る。


「くっそ!ぜんっぜん当たんねぇ!!」


「闇雲に振っても、当たんねぇぞ〜」

「だいたい基本的に世界で1番強い戦法は初見殺しだと俺は思う。」

「そんなぽんぽん技を使い分けてたら、相手にすぐに見切られちまうぞ?」

「ここぞ!という時に奥の手は絶対隠しとけよ?ほら言うだろ?能ある鷹は爪を隠すって。」


そう言いながら、フウは翔の上から降りて手を引き立たせる。


「ま、最初の方に比べらた早くもなったし、何しろ俺に避けるじゃなくて捌かせてるから、腕は上がってるよ。今ならあの《主》にも充分勝てる。」


「ほんとか!!」


翔は少し赤みがかった目を光らせて喜んだ。


「そろそろご飯にしますよ〜。」


凛のその声に2人はそそくさとやめ、居間へ向かう前に汗を流しに川へと向かった。


「全く、毎日毎日飽きずに修行とはあいつらはすごいな。」


「努力家な天才翔ちゃん♡さすがね♡」


「あ、おはようございます!コン様、シュビィちゃん!」


匂いに釣られて、起きてきた2人が居間へと姿を現す。


「おはよう、凛。」


「おはよう小娘。」


シュビィはと言うと、翔の妖術の練度が上がり、こちらの世界へ実体を持って現れることが可能にはなったが、相変わらず見た目は幼いままだ。翔とリンクしてない時でも、翔自身の妖力の変化の影響である程度の能力はシュビィと分離していてもつかえるようになったのだ。


「いい加減小娘って呼ぶのやめませんか?」


凛は相変わらずシュビィの小娘呼ばわりが気に食わないらしい。


「ホントのこと言って何が悪いのよ。」


2人はまた言い合いを始めた。

こいつらは相変わらず仲が悪い。もはやほぼずっと一緒に住んでいるほどに毎日来るので、僕としては仲良くして欲しいものだか……


「はぁ…意味のわからない言い合いしてないで、ご飯の用意してくれ…腹が減った。」


僕がそう言うと、凛は「はーい」と気のいい返事をして準備を始める。

ちょうど、その時に翔とフウも戻ってきてようやくご飯が食べられると思った矢先──


「…?誰か来たな。人間か?」


神社に来客の気配を感じた、そして外の方見てみると、1人の成人した男が立っていた。

その男は神社に着くなり、大声で叫んだ。


「翔!!!ここにいるのはわかっているんだ!!出てきなさい!!」


その男は翔を大声で呼んだ。


「この声は…親父?!」



第2部 【完】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る