第43話 彼女に見合う男になるために
次の日、俺は
今日は休日だがどちらも部活終わりなため、時間はかなり遅い。
だがどうしても今日、明沙陽に享受してほしいことがあったのだ。
「……なるほどな。
「ああ、明沙陽頼む! お前だけが頼りなんだ!」
「別にいいけどさ、一応俺だって実莉のこと好きなんだぜ? もし仮にお前がすげぇイケメンになって、実莉がもっとお前に惚れちゃったら俺勝ち目ないじゃん」
明沙陽は険しい顔を見せる。
でも俺は諦めない。どうしても周りの奴らが何も言えなくなるような、実莉に見合う男になりたい。これはただの自己満足だ。
別に実莉がそれを求めていなかったとしても、この気持ちは変わらない。少しでも変わりたいんだ。
「……ごめん。だけど、実莉は顔で人を選ぶようなやつじゃないと俺は思う」
それは今まさに証明されていること。
実莉は明沙陽という超イケメンな幼馴染がいたにもかかわらず、ずっと今まで俺のことを好きだったと言ってくれたから。間違いないと断言できる。
「……確かにそうだな。あいつはそんなやつじゃないか。で、俺は何をすればいいんだ?」
「え、いいのか?」
「? そりゃ親友の頼みなんだし、当たり前だろ。まあ、その代わり晩飯奢りな」
「ありがとう、明沙陽」
「おう」
それから俺はさまざまなことを教えてもらった。今まで気にしてこなかった髪や顔のケアだったり、高校生男子に流行っているファッションなど。
すべてはネットで検索してもできることだが、実際に気を使っている明沙陽に聞いた方が早かった。
「今日はありがとう」
「おう。じゃあ楽しみにしてるぞ、明後日」
「わかってる。クラスのヤツら全員びっくりさせて腰抜かしてやるからな」
「ふっ、あまり期待はしないでおくよ」
「期待しろよ!?」
「ははっ、じゃあな」
俺たちは外で晩飯を食べた後、それぞれ帰路に就いた。
「彼女ができると、こんなにも変わるのか」
今まで気にすることのなかった髪や服。いつも髪はお任せだったし、服は母さんに選んでもらっていた。
今日はとりあえず明沙陽と一緒に服を買いに行き、明日は初めて美容院に行って髪を切る予定だ。
「なんか不思議な感じだ」
なぜかは分からないが、この時間を楽しく思っている。明沙陽と流行の勉強をしていた時、服を選んでいた時。どれもすごく楽しかった。
「……変われるといいな」
石の上にも三年、ということわざがある。
努力をすれば必ず報われる。そう信じながら、未来に向かって歩を進めたのだった。
二日後、俺はいつもより早く起きることになった。そして学校に向かう準備をし、家を出る。
いつも学校に向かう準備は三十分あれば十分だったが、今日は一時間もかかった。恐らくこれから先、毎日早起きしなければならないだろう。
学校に着き、俺は颯爽と教室へ向かった。
校内を歩いていると、こちらに視線を向けてくる人が多かったからだ。前は男子からだけだったのに対して、今日は男子からだけでなく女子からも向けられている。そしてひそひそ話をされるという始末だ。
「え……もしかして俺の髪、変かな……」
昨日ちゃんと何度も練習したはずなのだが。それでもやはり変なのだろうかと心配になる。
今日は昨日行った美容院で教えてもらったセットをしてきた。ちゃんとワックスを付け、家を出る前にも変ではないか確認したんだが……。
「んー……自分ではよくわかんねぇ」
スマホのカメラ機能を使って確認してみるが、家から出る前と大して変わった様子はない。
トイレでワックスを落とすか迷ったが、遅刻ギリギリであったことからそれは諦めた。
「まあ、いいか。失敗だったなら明沙陽に付け方教えてもらえばいいし」
結局何もかも諦め、早足で教室に入る。
すると、俺が入ってきたことに気付いた実莉と明沙陽が声を上げた。
「……え、
「お、おい!?
「そうだけど、この髪型変かな? 登校中とかめっちゃ見られたんだけど」
「いやいやいやいや、変じゃないだろ!」
「……京くん、かっこいい」
「そうかな? ならなんで俺、めっちゃ見られてたんだろうな……」
俺は今日、ナチュラルセンターパートと呼ばれる髪型にしてきた。昨日美容師さんにセットしてもらってすごく気に入ったため、二人に褒められてすごく嬉しい。
だがなぜこちらに視線を向けてくる人が多かったのか、という疑問が残る。
「お前、本当にわからないのか……? どう考えても俺と同じ感じだろ」
明沙陽と同じ感じ? それってどういう……。
言われたことが分からなかったため首を傾げたところで、俺の存在に気付いたクラスメイトの一人が話しかけてきた。
「…………え、ちょっと待って。本当に
「? うん、そうだけど」
「「「「!?!?!?」」」」
普通に答えると、こちらを注視していたクラスのみんなは驚きの顔を見せる。
(……え、なんでそんな驚いてるんだよ?)
そんな疑問が浮かんでくるが、この日から男子たちがこちらに殺意を向けてくることはなくなった。
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